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皇室の彩 百年前の文化プロジェクト 【東京藝術大学大学美術館】

先週の土曜日に上野の東京藝術大学大学美術館で「皇室の彩 百年前の文化プロジェクト」を観てきました。

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【展覧名】
 東京藝術大学創立130周年記念特別展
「皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト」 

【公式サイト】
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2017/koshitsu/koshitsu_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅

【会期】2017年10月28日(土)~11月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
かなり盛況で列を組んで観る感じでした。場所によってはしばらく待たないと作品を観られないくらいの混みようです。既に会期末となってしまいましたので、更に混んでいる可能性はあります。

さて、この展示はおよそ100年前の大正から昭和最初期の頃に 御成婚や御即位のお祝いとして皇室に献上された品々が並ぶ内容となっています。当時の選りすぐりの作家たちが勢揃いして総力を上げて作られたものばかりですが、今まであまり一般の目に触れられる機会がなかったようで今回は貴重な機会と言えそうです。展示構成は2章から成っていましたので、それぞれについてその様子をご紹介していこうと思います。


<第一章 皇室をめぐる文化政策と東京美術学校>
まずは献上品の歴史と東京藝術大学の前身である東京美術学校との関わりについての章です。今回並んでいるような献上品は、1894年の明治天皇の大婚25年の時から作られるようになったそうで、昭和の大礼(即位の礼)まで続いたそうです。慶事の際に技術の粋を集めて作られていたので文化の向上に一役買ってたとも言えるようで、驚くべき品が並びます。

最初に驚いたのが「綵観」(さいかん)という作品。これは18人による合作となっていて、作者は橋本雅邦、高村光雲、川端玉章、濤川惣助あたりは特に有名かな。非常に豪華なメンバーです。小さな衝立のように展示されていて1面ごとに各作者の個性が観られるのですが、素材も技法も異なり、絵だったり陶器だったり彫刻だったりします。これだけでも眼福なのですが、この作品すらまだ序章に過ぎませんw この後も怒涛のごとく合作ラッシュが続きます。
 参考リンク:芸大の収蔵品データベース

次に驚くのがやはり巨匠たちの合作の「東京名勝図・萬歳楽図衝立」です。これは衝立に描かれた当時の東京市の地図の周りに扇面散らしのように名勝を表した扇が並んでいるのですが、やはり絵だけではなく陶板だったり彫漆だったり彫金だったりします。まさに明治時代の日本美術の結晶! それぞれの作品も半端ないクオリティで何じゃこりゃ!??と目を丸くしながら観てきましたw 割と美術品は見慣れていますが、これだけの合作は滅多に観られないと思います。(しかしまだこれもこの展示の前座です) なお、裏面は舞いを踊る人が描かれているのでそちらも見どころです。
近くには扇面の図案なんかもありました。叙情的な風景が好みです。

他に序盤で気に入ったのは「軍鶏置物」で、これは脚でトカゲを踏んでいる鶏を表した置物。緊張感が漲っていて凛々しさを感じます。また、「萬歳楽置物」という動きのある舞楽の姿の彫刻も目を引きました。これは高村光雲によるもので、衣が特に軽やかで躍動感があります。そしてその台座も半端じゃないほどの螺鈿細工で埋め尽くされていて、非常に絢爛豪華な雰囲気でした。

そしてまた合作の作品「景雲餘彩」が目を引きます。日本美術院のメンバーらが描いたもので、横山大観が富士、前田青邨が鱒、近藤浩一路が松島、小林古径がリス、木村武山が養老(人物)、安田靫彦が良寛、中村岳陵がナマズ、下村観山が山を描いています。皆30代の頃の作品ということですが、既に完成度の高い作品ばかりでこれだけでも日本画好きには驚きの豪華共演と言えそうです。

部屋の奥には壁画のように大きな横山大観の「日出処日本」がありました。富士と真っ赤な朝日が描かれ雄大で日本の象徴のような光景です。また、絵画では次の部屋の辺りにあった松岡映丘の「住吉詣」という二曲一双の屏風も見事でした。源氏物語の澪標を題材に、鮮やかな色彩で伝統的な大和絵に遠近感のような新しい技法を取り入れていて、新しい時代を感じさせます。

最初の部屋の最後あたりには正木直彦(東京美術学校の校長を務めた人物)に関する資料が並びます。正木直彦は岡倉天心が辞職した際(日本美術院の連中も一気に辞めた事件)に就任し、その混乱を収めて長期に渡って安定した学校経営を実現しました。また、皇室と美術の繋がりを構築したり、官展の創設や古美術の保護、美術の国際交流など、様々な面で日本の美術界を支えてきたようです。ちなみに陳列館の裏の正木記念館には正木直彦の像があり、今でも芸大では正木直彦が敬われているのが分かります。


<第二章 大正十三年、皇太子御成婚奉祝>
続いては主に大正13年に後の昭和天皇のご成婚された際のお祝いの品々についてです。本当はその前年にご成婚のはずだったものの、関東大震災で1年延期を余儀なくされたようです。その際、献上品も自粛すべきではないかというムードが漂っていたようですが、正木直彦は献上品は国民の気持ちを表すものだとして強く主張し、それが通ったようです。 ここに展示された品々は制作年がご成婚の4年後の1928年(昭和3年)のものばかりですが、作るのに相当時間がかかったようです。その時間の分だけ驚異的なものを作っていた訳で、この章には前章を超えるラスボスが待っていますw 

この章の最初には「花電車」という市電を改造して山車みたいにした電車の 写真と図案が並んでいました。これは16日間走ったそうで、デザインは東京美術学校が担当したそうです。私は鉄オタでもあるのでこれは鉄道知識の方で知っていましたw 正直ちょっとダサいw(ちなみに現代でも花電車はたまに走ります。大体ダサいですw)

そして、今回の一番の見どころである「御飾棚 鳳凰菊文様蒔絵」という2つの棚が360度ぐるっと観られるように展示されています。これは鳳凰が表された天皇の棚と、鶴が表された皇后の棚となっていて、全面に蒔絵が施されています。これがまた超絶技巧で、かなり細かいところまできっちり表現されています。最近の研究で、鳳凰は彫りの段差が角い感じになっている一方、鶴の彫りの段差は柔らかく表現されているのが分かったそうで、天皇皇后のイメージに合わせた表現になっているそうです。そんな細かい所に気づく方が現れるまで100年かかりましたねw この棚の周りには棚を飾った品々があり、花瓶や壺、置物、香合などなど様々な品が並んでいます。勿論これらも当時最高の技術が使われているので、この棚のワンセットを揃えるのに4年かかったのも頷けます。本人たちも気に入っていたようで、皇后陛下が棚と一緒に写った写真なんかもありました。

この辺で他に目を引いたのは和田光石の「牙彫置物 唐子遊」です。これは象牙を彫って中国の子供を表したものなのですが、踊ったり楽器を演奏していて非常に生き生きして可愛らしい姿をしています。しかしそこに使われた技術はやはり超絶技巧で、指などはミリ以下の単位で表現しています。これは実物を観ると驚嘆する精密さだと思います。
また、73名が参加した「瑞彩」という画帳の一部もありました。73名って…w これも展示されてるのは日本美術院のメンバーなどが多かったかな。

そして最後にダメ押しで「二曲御屏風 腰彫菊花文様」と「二曲御屏風 腰彫桐文様」という2対の屏風が展示されています。これは黒漆の上に扇面や色紙を散りばめたもので、1面に6枚ず貼られています。これも様々な技法が使われているのですが、彫金、陶板、蒔絵などだけでなく、非常に贅沢な堆朱(赤い漆を層にして重ねてから彫ったもの)まで含まれていました。 最後まで驚かされっぱなしです。


ということで、まさに戦前の日本美術の総力戦と言った感じの品が並んでいました。現代では無理なレベルの品もあって、戦前の名工たちは限度を知りませんw 特に「御飾棚」と「二曲御屏風」は見どころで、非常に驚きでした。 もう会期末となってしまいましたが、工芸好きの方にお勧めの展示です。
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