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新海誠展「ほしのこえ」から「君の名は。」まで 【国立新美術館】

2週間ほど前の金曜の仕事帰りに乃木坂の国立新美術館で 新海誠展「ほしのこえ」から「君の名は。」まで を観てきました。

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【展覧名】
 国立新美術館開館10周年
 新海誠展「ほしのこえ」から「君の名は。」まで

【公式サイト】
 http://shinkaimakoto-ten.com/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2017年11月11日(土)~12月18日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度(普通に見たら2時間程度だと思います)

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
混雑を予想して金曜の18:30頃に行ったらそれほどでもなく、割と自分のペースで観ることが出来ました。しかし点数が多くて閉館までの1時間半で観るのは中々忙しいという諸刃の剣でしたw 金曜夕方は狙い目だけど鑑賞時間との勝負って感じです。

さて、この展覧会は2016年夏に公開され大ヒットした映画「君の名は。」で一躍有名となった新海誠 氏のこれまでの軌跡を追う内容となっています。この手のアニメ展と言えばジブリ関連の展示を毎年のようにやっていた東京都現代美術館の十八番のように思っていましたが、国立新美術館は「君の名は。」で出て来る縁もあっての開催なのだろうと思います。 その展示品は今まで手掛けた全作品の原画や映像制作の舞台裏の紹介となっていて、ファンには嬉しい神木隆之介 氏の音声ガイダンス(別途有料)も用意されていました。逆に言うとそれ位しかなく、過去のジブリ関連の展示や少年漫画関連の展示のように世界観を展示会場に再現するような凝り方はしていないので、熱心なファン向けと言えるかもしれません。 構成は作品ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとにご紹介しようと思います。
なお、私も「君の名は。」を劇場で観たのですが、こんなに世間でヒットするとは予想外で、むしろいまだに「秒速5センチメートル」の方が良い作品だと思っていますw 6作品中2作品は観てないのですが、そこも含めてご紹介していきます。(各映画のネタバレはあまり書かないようにします)


<第1章 ほしのこえ>
最初に全作品の各場面を集めたオープニングムービーのようなものがありました。それを観た後はデビュー作についてです。私は数年前にCSかHuluかで観て、割と内容も覚えていました。このデビュー作はほとんど新海誠 氏が1人で創り上げた25分程度の作品で、下北沢のミニシアター トリウッドで上映されました。トリウッドは45席程度の小さなシアターなのですが、この映画の評判を聞きつけた人がどんどん集まり、1ヶ月で3500人の人が訪れ追加上映を繰り返すほどの盛況ぶりだったようです。25分といっても1人で作るのは非常に大変なのは想像に難くないですが、新海誠 氏はアナログ作業は線画のみで背景は全てデジタルという手法を使ったそうです。目や影などだけを動かすことで少ない作画でも心情表現や動いて見えるようになっているようで、会場でもその映像の一部を観ることもできます。

この作品はSFを下敷きにしつつも離れ離れになった男女のメールでの交流を描く内容となっていて、新海誠 氏のその後の作品を観てもこのテーマは原点と言えるように思います。ここにはポスターや予告映像、作画資料などがあり、既に最初から緻密な描写をしていたのが分かります。また、当時のPC環境の再現もあり、PowerMac G4が展示されていました。今のPCと比較するとえらくショボい性能でこれだけの作品が出来たのは本当に凄いことです。


<第2章 雲のむこう、約束の場所>
続いて2作目です。これは1作目のヒットを受けて91分の長編に初挑戦した作品で、集団での制作もこの作品が初めてでもあり、この作品を通じて後の作品を支える出会いなんかもあったそうです。内容はSF的なものですがやはり核となるのは男女の関係で、その点は1作目と共通してるかな。第59回 毎日映画コンクールアニメーション映画賞なども受賞していて、この作品も高い評価を受けていたようです。(とは言え私はこれも数年前にCSか動画配信サービスで観たものの、何となく設定は覚えていたけどストーリーはほとんど忘れていましたw)

ここにはまず絵コンテや設定がありました。 かなり作り込まれていて入念な準備の様子が伺えます。この作品では作劇や画作りに時間がかかったそうで、1人でやっていた時とは違う苦労もあったようです。また、ここで面白いエピソードがあり、新海誠 氏の作品には鉄道がよく出てくるのですが、この作品は津軽線沿線を1人で旅していた時にインスピレーションを得たようで、自分の思い出も重ねて設定や絵が作り込まれていったようです。郷愁を誘う雰囲気の場面が多いのはそういった実体験が投影されているからかもしれません。

この章の最後には「ヴェラシーラ」という作中に出てくる飛行機の1/4の模型もありました。これが結構小さいので驚きですw


<第3章 秒速5センチメートル>
続いて私が最も好きな3作目。これは群を抜いて傑作だと思っています。(当時ネットでもかなり話題になってたので、私はこれを最初に観て、面白かったので他の作品も遡って観た感じです。)
新海誠 氏自身も「自分の絵とはどんな絵か?と訊かれたらこの作品だと思う」と言っているほどこだわり抜いた作品らしく、自分がコントロールできる範囲できちんと作ろうと考えていたそうです。これは前の2作と異なりSFではなく現実世界をベースにした話で、各場面もロケハンの写真と美術背景の作画を見比べながら鑑賞することもできました。比べて観ると絵面は同じでも輝くような濃厚な色彩で描かれ、これぞ新海誠 氏の魅力だ!と言えると思います。ここには背景の制作工程の様子も紹介されていて、どんどん色を重ねて作っていく様子は昔の浮世絵などと似ているかもしれません。他にもキャラクターと色彩工程の展示もあり、フォトショップで40層くらい重ねていくと説明さえていました。作画資料などにも細かいニュアンスが描き込まれていて、これまでの作品以上に全力投球しているのが見て取れます。

この章には映像でテーマ曲である山崎まさよし氏の「One more time,One more chance」が流れるシーンを放映していました。内容によく合ったこの曲で2割増しくらいになっている気がしますw ちなみに、この作品には小説版があるらしく、映画を補完する内容となっているようです。私は読んだことはありませんが、あの内容で十分だと思うけどなあ…。
なお、神木隆之介 氏は自身の演技もこの作品に影響を受けていると音声ガイダンスで言っていました。


この辺の休憩室にはメッセージがあったり、音声ガイダンスでは新海誠氏の猫好きエピソードなどもありました。


<第4章 星を追う子ども>
続いては4作目で、これは観たことが無いのですが、ジブリっぽい作品だったというのは覚えていました。秒速5センチメートルのヒットの後、中東でのワークショップやイギリス留学などを経て、初のジュブナイル作品として挑みました。ここまでいずれも私小説的な作品でしたが、これはそこから脱却した2時間を超えるファンタジーもので、文化を超えて観た人に単純に楽しかったという作品にしたいという思いが込められたようです。その為、作り方もガラリと変えて、日本のアニメの伝統的な作り方をして世界名作劇場のような絵柄を採用したようです。その結果、それまでのファンは賛否両論となり、親しみが持てるけれど特徴の無いという評価になったようで、新海誠 氏は観客の観たいものと自分の作りたいものをどうマッチングするかというのを課題に感じたようです。(ジブリっぽいものを求められたのではないかと邪推してしまいますw)

ここにも映像があり、初めて観ましたがかなり動きが多くなっている点は以前にない長所だと思いますが、新海誠 氏ならではの光が感じられないかな。ほんとジブリっぽいw なお、新海誠 氏は地元の長野県小海にロケハンに行ったそうです。地元の小海線のスケッチなども描いていて、新海作品に列車がよく出てくるのはそうした昔の体験に基いているようです。子供の頃は雲の形や空を何時間も眺めていたのだとか。


<別章>
ここは新海誠 氏の生い立ちやアニメに携わる前の仕事、映画以外のアニメなどに関するコーナーです。(経歴はwikiなどで分かるので割愛します)
最初に、初めて触ったパソコン「Mz-2000」があり、これはファミコン並のスペックしかないものでしたが新海誠 氏はこれで「すてきな三にんぐみ」のデジタル紙芝居を作ったそうです。って、もうこの時点で凄い才能の片鱗があったエピソードに思えますw また、影響を受けた本が14冊程並び、宮崎駿や村上春樹、アーサー・クラークなどもありました。確かに影響が伺えるラインナップかも。他には先述の秒速5センチメートルの小説版や、信濃毎日新聞や大成建設のアニメCMなども紹介されていました。


<第5章 言の葉の庭>
続いて5作目のコーナー。こちらも私はまだ観ていない作品です。これは万葉集の古典をモチーフに現代の若者の等身大の姿を描く作品で、方向性は秒速5センチメートルに近いのかも。46分しか無いようですが、非常に新海誠らしさが戻ってきた感じで、反射の色を取り込んだ光の表現などに実験的なものを感じます。ちょっと背景が凄すぎて逆に人物に立体感が無いようにも見えるかなw この話は雨の日が話のキーとなるので8割方は雨のシーンらしく、色々な雨の表現にもこだわっているようです。雨の表現は男女の心情とリンクしてるようで、これは非常に観たいと思いました。(というか観ようと思って放置したままにしていたのを思い出しましたw)
ちょっとこのコーナーは閉館時間が迫ってきたので、あまりじっくり観られませんでした…。


<第6章 君の名は>
そして大ヒットした6作目のコーナーです。この作品はこれまで観てきた、男女の交流、SF要素、万人向け、古典モチーフ、鉄道などの新海誠 氏の原風景 といった要素が全て組み込まれていて、デジタルな手法も使われています。
このコーナーにはまずキャラ設定があり、これはもののけ姫や千と千尋の神隠しを手掛けた安藤氏が携わっているようです。また、音楽面ではラッドウィンプスが製作段階から深く関わっているなど、多くの人と共同で作業するという点においてもかなり綿密で格段の進歩があるように思えます。
ここは流石に他のコーナーより気合が入っていて、3D構造のモデルなどもありました。これはセル画を重ねるような感じのもので、横から見ると立体感まで感じられます。また、作画以外にも絵に関しての工夫があったようで、この作品では同じ場所を何度も時間を変えて描くタイムラプスの表現を用いていて、鑑賞者に時間の経過が感じられるようになっているようです。 勿論、取材に関しても綿密に行われていたようで、ここには組紐の組台や、神楽舞の指導を受けた様子なども展示されていました。

ここは一部だけ写真撮影が可能です
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糸守の背景風景がずらっと並んでいます。記念撮影をするポイントなんかもあります。

鉄道の駅。
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これも実際の場所をしっかりロケしていて、実景そのものといった感じ。

ヒロインの家。
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どこかノスタルジックな感じ。光の表現が独特です。

こちらも線路。
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こうした風景は新海誠氏の原体験に基づくものかな。


この章には本編の一部を流す大画面プロジェクターもあり、「君の名は!?」と叫ぶシーンの辺りを放映していました。また、章の最後あたりにはこの作品を作った当時のPC環境なども展示されています。

そして最後に再度、全作品を繋いだようなクロージング映像がありました。


ということで、非常にボリューム感のある原画や資料の数々を観ることができました。何だかんだで「君の名は。」は新海誠 氏の集大成だったことが分かります。まあ私はそれほど熱心なファンではないので、エンタメ系の展示らしくもっと凝った展示でも良かったような気はします。(逆にファンだったらエンタメ要素少なめでひたすら原画が並ぶこの内容が良いかもしれません) なお、新海誠 氏は新作の制作を勧めているようなので、今後の活躍も期待できそうです。


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