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古代アンデス文明展 (前編)【国立科学博物館】

今回は写真多めです。去年の年末に上野の国立科学博物館で特別展「古代アンデス文明展」を観てきました。この展示は撮影可能で沢山の展示物があったので、前編・後編に分けてご紹介しようと思います。(※掲載していけないものがある場合はコメントやメール等でお知らせください)

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【展覧名】
 特別展「古代アンデス文明展」 

【公式サイト】
 http://andes2017-2019.main.jp/andes_web/
 https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2017/andes/
 
【会場】国立科学博物館
【最寄】上野駅

【会期】2017年10月21日(土)~2018年2月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
去年の最終営業日だったこともあり平日でも割と多くのお客さんがいましたが、普段の土日に比べれば快適に鑑賞できたと思います。

さて、この展示はその名の通り南アメリカのアンデス文明についての展示です。国立科学博物館ではアンデス文明に関する展示を今までも何回も開催していて毎回人気を博しているのですが、今回はちょっと範囲が今までと違います。アンデス文明と一口に言ってもその歴史は長く地域も広いので、過去の展示ではそれぞれの文化について細分化して紹介されていましたが、今回は15000年のアンデス文明全体の流れをダイジェスト的に紹介しています。出品されているのも各文化ごとに合わせて200点にも及び、非常に見応えのある内容となっています。展覧会は6章構成となっていましたので、今日は前半部分の1~3章についてご紹介しようと思います。

こちらが会場風景。
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時代順に章が進んでいくので、文明の進歩についても知ることができます。

こちらは冒頭にあった映像。
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時系列で観ると、B.C.3000年頃からカラル文化、B.C.1000年前後にチャビン文化、紀元頃からナスカが始まり、その後にモチェ、ティワナク、ワリ、シカン、チムーと続き、スペインに滅ぼされたインカまでとなっています。


<1 アンデスの神殿と宗教の始まり>
まず最初の章は人類がアンデスに到達した頃から始まります。南北アメリカにはおよそ15000年前に人類が入ったようで、23000年前に東アジアやヨーロッパ人を祖先とする人達が当時陸地だったベーリング海峡を渡ってアラスカ辺りで8000年ほど暮らし、その後新大陸に入って13000年ほど前に南北アメリカ大陸を分布する集団と北アメリカに住む集団の2つに分かれたようです。その後、5000年前頃から先土器時代が始まり、3500年頃前の先土器時代後期には農業に基づく定住生活となり社会と政治が複雑になっていったようです。5000年前の紀元前3000年~2500年にはカラル遺跡など大規模な神殿も現れ、その後も各地に祭祀センターが発達していき、それは何千年もの間も保たれたようです。4000年前の起源2000年頃には身分の差が生まれたようで、副葬品にその違いが現れているらしく、ここにはそうした先土器時代の品々が並んでいました。

先土器時代後期 「未焼成の小型男性人像(レプリカ)」
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こちらは紀元前3000年~前1500年頃のカラル文化の土偶。手が欠けているのは埋葬の儀式で壊されたのではないかと考えられているようで、この隣にあった同様の土偶も手が欠けていました。(レプリカですが) ニット帽を被った子供にしか観えなくてちょっと親近感がw

先土器時代後期 「線刻装飾のある骨製の笛2本(レプリカ)」
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これはレプリカですが、ペリカンの骨でできた笛。側面には猿や鳥、ネコ科の動物などが表されています。穴の塞ぎ方で音色を調整するようですが、割と本格的な装飾付きの笛が早くも作られていたことに驚きます。

この他にも北部高地にあったコトシュ遺跡(紀元前2500~1800年頃)のコーナーもありました。交差した手の浮き彫り2点と神殿の模型くらいなので点数は少なめです。


<2 複雑な社会の始まり チャビン文明>
続いては紀元前1300年~500年頃にアンデスを文化的に統一したと考えられるチャビン文化(現在のペルーのリマの北辺り)についてのコーナーです。アンデスは文化の統一と各地に個別の文化が育つ時代が交互に現れたと考えられているようで、このチャビンが初めての文化的統一となったようです。チャビンの美術や宗教はそれまでのアンデスのいくつもの宗教伝統を統合し、多様な祭祀センターとの交流によってできあがったようですが、贅をこらした遺物からは権力への関心も伺えるようです。

チャビン文化 形成期後期 「テノンヘッド」
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これは神殿の壁面に置かれた頭像。人間離れした異形をしていますが、神殿での儀式で幻覚剤を摂取した人がネコ科の動物に変容する感覚を体験したものを表していると考えられているようです。日本の鬼瓦みたいに見えますが、ちょっと意味合いは違いそう。

この辺には自分の首を切った人の像などもありました。不自然な方向に首が曲がっていて怖い像ですw

クピスニケ文化 形成期中期(前1200年~前800年) 「刺青またはフェイスペイントをした小像」
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何かのマスコットみたいな顔をした人物像。目や鼻、お腹に穴が開いているのは焼いた時に破裂しないようにするためのようですが、何とその穴を使ってオカリナとして吹くこともできるのだとか。私にはマワシを付けたお相撲さんの像に見えましたが意外な用途w

形成期後期(前800年~前500年) 「十四人面金冠(レプリカ)」
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こちらはチャビン文化と同時期のクントゥル・ワシ遺跡(チャビンより北。紀元前800~前550年頃)からの出土品のレプリカ。六角形の中に14の頭部が表されています。切断された首が多数詰められた籠を表現しているとのことで、その意味を知ると怖い文化があったのかも。アンデスは割とその手の話題が多い気がします。


<3 さまざまな地方文化の始まり>
続いてはチャビンの後の文化についてのコーナー。何故チャビンの宗教が権威を失ったか理由は分かりませんが、チャビンが力を失ってからその影響から離れた各地の伝統が復活していったようです。ペルー北部でペルー芸術の古典となったモチェや、南部でチャビンと隣接のパラカスから文化を取り入れたナスカなどもこの時代に栄えたようです。

[3-1 モチェ文明 紀元後200年~後750(800)年頃]
モチェは灌漑施設を発達させ、経済的発展によって文化も豊かだったようです。洗練された写実的な土器や黄金の装飾品など様々な出土品が並びます。

ガイソナ文化 「ガイソナの双胴壺」
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ちょっと間が抜けたゆるキャラみたいな顔を持つ壺ですが、手には棍棒と盾を持っています。これも笛のようになるそうですが、それも意図して作ったのかな?? この表情がアンデスらしさなのかも。

モチェ文化 「アシカをかたどった鐙型単注口土器」
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これとか完全にゆるキャラでしょw モチェの人は棍棒でアシカを狩って食料や物づくりの材料にしていたそうですが、宗教美術にも登場するので単なる食料以上の存在だったのかもとのことです。それにしてもこのデフォルメぶりは現代的なものを感じます。

モチェ文化 「チチャ造りをする男女を表した鐙型注口土器」
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チチャというのはトウモロコシ酒で、それを男女で作っている様子のようです。チチャは儀礼でも使われたそうで、広く愛飲された飲み物だったと考えられています。この像自体は何に使ったのか気になりますが、当時の様子がよく分かる品と言えそうです。

モチェ文化 「金地に象嵌だれた人形面の装飾品」
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こちらは胸飾りのパーツの1つだったと考えられている品。後ろからに紐を通す穴が2箇所あいているようです。目を見開いて歯が細かく表されていて中々迫力がある表情です。金地に象嵌する技術が見事。

後期モチェ文化 「ネコ科動物の毛皮を模した儀式用"ケープ"」
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この展示で多く観られたのがネコ科動物に関する品々です。ネコ科動物が具体的に何なのか分かりませんが、結構身近な存在だったのかもしれません。これは毛皮を模した儀式用の品なので、宗教的に意味のある動物だったんじゃないかな。金ピカで威圧感もありますが、抜けた顔と猫っぽい手が可愛いw

ちなみにモチェでは4つの世界を生きていたと考えられているようで、自然の世界、自然と隣合わせで生きる人間の世界、自然と人間に影響を与える神々の世界、そして死者や祖先の世界 の4つとなります。死者や自然を近くに感じてたのかもしれません。

モチェ文化 「ネコ科動物の足をかたどり めっきをほどこした爪を付けた土製品」
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こちらもネコ科動物を模した神殿から見つかった品。鋭い爪を持っているので危険な動物を模してると思いますが、かなり精密に作られていて肉球までわかりました。

前期モチェ文化(?) 「象嵌のマスク」
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こちらは何となく先程の装飾品と似た感性があるように思えました。現代のアート作品のようにも思えるw

モチェ文化 「人間型のシカの坐像をかたどった鐙型注口土器」
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シカ人間のような像。何だかヨガをしているみたいなポーズが面白かったですw

この辺には様々な神様を表した作品などもありました。

モチェ文化(古シパン王墓) 「擬人化したネコ科動物(レプリカ)」
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目のつり上がった鬼みたいな顔をしていますがネコ科動物を擬人化しているようです。頭の上の双頭の蛇はこの後のシカン時代にまで使われていくモチーフなのだとか。これも鋭い爪ですね。


[3-2 ナスカ文明 起源前200年頃~後650年頃]
こちらはモチェと同時期の地上絵で有名なナスカのコーナー。ナスカは北部に比べて農業には向かない干ばつの多い地域で、神へ願いを届けるために優れた芸術品を作ったそうです。しかし気候変動の影響で近くの高地に移住して文化は途絶えてしまったのだとか。

ナスカ文化 「4つの首が描かれた土製内弩鉢」
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これは首級(斬られた首)をモチーフにした鉢。目が上を向いているのは死んでるからのようです。ちょっと変顔したパフィみたいと思ったけど、そんな可愛いものじゃなかったw

なお、アンデスでは首級に力が宿っているという信仰がどの文化でも共通してあったようですが、ナスカは特に好んで土器などに表していたようです。

ナスカ文化 「クモが描かれた土器」
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これもさっきの顔に似ていますが、クモを表しています。クモは豊穣と関連すると信じられていたそうで、そう言えば地上絵にもクモが描かれていますね。

ちなみにナスカの地上絵は水を求めた儀式に関係があると考えられているようです。宇宙人へのメッセージではなく神へのメッセージでしょうねw

ナスカ文化 「11本の管を持つ大型の土製パンパイプ(アンタラ)」
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11本も管のある楽器。最初に観た笛に比べてかなり複雑な楽器が現れました。どういう音がするんだろうか。

ナスカ文化 「8つの顔で装飾された砂時計型土器」
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こういう顔のイラストって現代でも見かける気がしますw 上部はちょっとキュビスムを感じるし色使いもアーティスティック。

パラカス・ネクロポリス期、前300~後200年頃 「刺繍マント」
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こちらは高位者のミイラの包みの1枚。非常に緻密な模様となっています。

アップ
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このクオリティで沢山織り込まれているのが凄い技術です。身分と権力がよく伝わってきました。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺にしておこうと思います。前半から既に見どころが多いですが、後半にも多くの驚くべき品が並んでいましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。
 後編:古代アンデス文明展 後編(国立科学博物館)
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