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墨と金 狩野派の絵画 【根津美術館】

先週の土曜日に根津美術館で「企画展 墨と金 狩野派の絵画」を観てきました。この展示には前期後期の会期があり、私が観てきたのは前期の内容となっていました。

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【展覧名】
 企画展 墨と金 狩野派の絵画

【公式サイト】
 http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/

【会場】根津美術館
【最寄】表参道駅

【会期】2018年1月10日(水)~2月12日(月・祝)
     前期:1月 10日(水)~ 1月 28日(日)
     後期:1月 30日(火)~ 2月 12日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、今回の展示は主に狩野派についての展示で、前期後期合わせて25点程度の屏風や掛け軸が並んでいます。点数は少ないもののタイトルの通り水墨もあれば金をふんだんに使った屏風もあるといった感じで、狩野派の魅力をダイジェスト的に紹介していました。簡単にメモしてきましたので、会場の様子をさらっとご紹介しようと思います。


<企画展>
まずは狩野派以前のコーナーです。ここには唐物と呼ばれる中国から伝わった作品に基いて「筆様」としてスタイルを模倣した作品が並びます。ここでの見どころは拙宗(雪舟等楊と名乗る前の名前としての説が有力)の「潑墨山水図」で、南宋時代の玉澗に倣った水墨画です。木々と舟が描かれているのは分かるけどやや抽象画のような大胆な筆使いとなっていて、濃淡で空気感や遠近感まで表現しているかのようでした。 この作品以外にも南宋の夏珪に倣った芸阿弥の「観瀑図」もあり、日本画は南宋から大きな影響を受けているのが伺えます。

その先は狩野元信と「画体」についてのコーナーです。画体については昨年の狩野元信展の際に書いたので詳しくは下記記事を参照頂ければと思いますが、簡単に言うとそれまでの「筆様」と異なる真・行・草の3つの「画体」を設け、注文に応じた格式を提供できるようにした制度です。この画体によって狩野派は天下の絵師となったとも言えそうです。ここには最も格式が高く緻密な真体の「養蚕機織図屏風」を始め5点程度の作品がありました。全て「伝 狩野元信」や「元信 印」となっているのはそれだけ工房と一体になって制作していた為かと思います。
 参考記事:天下を治めた絵師 狩野元信 (サントリー美術館)
伝狩野元信の「養蚕機織図屏風」には養蚕と機織の様子が描かれ、理想郷のような光景を緻密に漢画風で描かれています。中央に川を挟み、所々雲がなびいているなど叙情的な印象を受けました。解説によるとこうした庶民の暮らしを描いた作品は為政者がその苦労を知り労るという目的もあったそうで、そうした点でも天下の絵師として相応しい画題となっています。

その先には室町時代の狩野派の諸派と思われる作品があり、その後に狩野探幽を始めとする江戸狩野派の作品が並びます。戦国時代の狩野派は豪華絢爛な狩野永徳などが有名ですが、江戸時代に幕府の御用絵師となった狩野探幽は余白をたっぷり取った情趣溢れる画面を得意とし瀟洒な雰囲気の作品を作りました。
ここでの見どころは「両帝図屏風」と「山水花鳥図屏風」かな。いずれも6曲1双の屏風で目を引きます。まず「両帝図屏風」は左隻に琴を弾く舜帝(琴を弾いて天下を治めたことに由来)と、右隻に舟と車と共に黄帝(舟や車で難所を克服したことに由来)が描かれています。背景は柔らかい金色の雲に覆われていて、豪華絢爛というよりは優美な印象が漂います。皇帝達も気品があり、こうした帝王の画題は為政者にも好まれたようです。この辺が戦国時代の永徳の豪放さとは大きく異なる特徴と言えそうです。
もう1つの「山水花鳥図屏風」は狩野探幽の弟の狩野尚信によるもので、こちらは水墨画です。山を背景に鳥が描かれているのですが、大半は余白となっている大胆さで、まさに空を舞っているように見えます。こちらは筆致も流麗で兄とはまた違った魅力を発揮していました。正直、私は尚信の方が好みですw
また、その先にあった狩野宗信の「桜下麝香猫図屏風」もまた違う雰囲気で、余白が多いのは江戸狩野っぽいですが色合いなどは大和絵風の金屏風となっています。左右に2匹づつ描かれたジャコウネコが桜を振り返って見上げているような姿をしていたり、生き生きとした姿で描かれていました。
ちなみに、狩野派が金屏風を初めて作ったのは中国の明の皇帝に献上するときだったそうで、当時は金が日本的と見なされていたということが暗示されると共に、漢画を得意とする狩野派が本場の中国と対峙したのを契機に日本化を進めたとも取れるそうです。確かに本場のモノマネよりもオリジナリティがあったほうが珍重されるでしょうね。

そしてもう1つの部屋は京狩野のコーナーとなっていました。京狩野は狩野永徳の流れを強く受け継ぎ、濃厚な画風が特徴です。
ここには幾何学的なモチーフをよく取り込んだ狩野山雪の「藤原惺窩閑居図」などがありました。これは松林に囲まれた家を描いたもので、塀や家に水平・垂直の線が多用されています。周りの松も真っ直ぐで、こうした幾何学性が画面の静けさだけでなくリズミカルな雰囲気を出していました。
もう1つこの部屋で気に入ったのが狩野山雪の2幅対の「梟鶏図」で、右幅にフクロウ、左幅に鶏が描かれています。このフクロウがとぼけた顔をしていて、ゆるキャラみたいな可愛さですw また鶏もジロっとした目をしているのが面白くて、両幅とも愛嬌がありました。輪郭をあまり使わずに水墨の濃淡で描いている手法も見事です。

と、今回の展示はここまでですが、点数が少なかったので今回の常設も簡単にご紹介しておこうと思います。

<常設>
1階の仏教美術や2階の古代中国の青銅器はいつも通りですが、今回面白かったのは展示室5の「百椿図」と展示室6の茶道具のコーナーでした。

まず「百椿図」ですがこれは何度か観たことがあるのでこの季節に合わせて出てきたのかな? この百椿図も狩野山雪によるものと伝わっていて、濃厚な色彩で様々な種類の椿や、それを入れる花器や蒔絵を描かれている巻物です。絵には詩も添えられていて優美な逸品なのですが、これが部屋を囲うようにズラッと広げて展示されているのは圧巻で非常に華やいだ雰囲気がありました。今回の狩野派展や季節にもマッチしたナイスチョイス。

そして茶道具のコーナーでは長沢芦雪の「竹狗児図」が展示されていました。これは丸っこい2匹のワンちゃんを描いたもので、円山応挙の弟子だけあって応挙の描いた子犬とよく作風が似ています。1匹は背中を向けているのも可愛らしく、戌年のはじめにピッタリな作品でした。これを観るだけでも癒やされます^^


ということで、狩野派の展示と常設を楽しんできました。この前のサントリー美術館と内容が重なる部分もあったので、狩野元信展を楽しめた人には特にお勧めです。点数は少ないものの狩野派の中でも個性が異なるのがよく分かるので、今後の美術鑑賞にも役立ちそうな展示でした。


おまけ:
勿論、この美術館の見どころの1つである庭も観てきました。
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紅葉や燕子花の頃には何度も足を運んでいますが、こんなに何にも無い季節に行ったのは久々でしたw 今週だったら雪が積もってレアな光景だったのかなあ
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