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ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 (感想前編)【東京都美術館】

この間の土曜日に上野の東京都美術館で「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」を観てきました。充実の内容で情報量も多い展示でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC00156_201802070023076c4.jpg

【展覧名】
 ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜

【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/brueghel/
 http://www.tobikan.jp/exhibition/2017_bruegel.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年1月23日(火)~4月1日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
沢山のお客さんがいましたが、土曜日でもそれほど混んでる感じでもなく たまに人だかりができても少し待つ程度でほぼ自分のペースで観ることができました。とは言え、そんなのはまだ始まったばかりの頃に観たからだと思います。この内容だと会期末は混むのが必至なので、気になる方はお早めにどうぞ。

さて、今回の展示はブリューゲルという16~17世紀のフランドル地方に花開いた画家一族を取り上げた内容となっています。つい昨年にピーテル・ブリューゲル1世の代表作「バベルの塔」を東京都美術館で展示していたので記憶に新しい方も多いと思いますが(※当ブログは休止中だったので記事はありません)、ブリューゲルは写実あり 奇想あり 寓意あり と様々な作品を手がけ、それは子孫にも受け継がれていきました。この展示では何とピーテル・ブリューゲル1世から曾孫の代まで9人による約100点のブリューゲル一族の作品が並んでいて、まさに一族の展覧会といった感じです。しかもその作品の大半はプライベートコレクションという貴重なものです。
展覧会冒頭に一族各自の説明があります。以前はピーテル・ブリューゲル(父)とか(子)という表記が多かったですが、この展覧会では1世2世という表記になっていましたのでそれに合わせて記載しておきます。ざっくり特に有名な一族を挙げると

ピーテル・ブリューゲル1世
ヒエロニムス・ボスに影響を受けてボス2世と呼ばれた画家。ブリューゲルの繁栄の始まり。

ピーテル・ブリューゲル2世
ピーテル1世の息子。地獄のブリューゲルと呼ばれ、父の模作を多く制作。中産階級向けに薄利多売したので貧しかった。

ヤン・ブリューゲル1世
ピーテル1世の息子。花のブリューゲルと呼ばれ、風景・寓意・神話・花などを得意とした。聖職者や貴族を客にしたので裕福。

ヤン・ブリューゲル2世
ヤン1世の息子。父の模作をよく作った。風景や花などが多い。値段を欠かさず記録していた。次世代を育成した。

他にも5人ほど作品リストに名を連ねていますが、概ねこの4人を知っていれば大体OKだと思います。構成は主に主題ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに振り返ってみようと思います。


<第1章 宗教と道徳>
1章は宗教と道徳についての画題のコーナーです。まずブリューゲル一家の始まりであるピーテル・ブリューゲル1世についての説明があり、ピーテル・ブリューゲル1世は1545年頃にアントウェルペン(現在のベルギー)のピーテル・クック・ファン・アールストに弟子入りし、その娘と結婚したそうです。しかしその影響はみられないようで、むしろヒエロニムス・ボスに影響を受けていると考えられています。ボスと比較すると、ピーテル1世は当時の世相への批判や非難を目的とせず、多少の皮肉はあるものの より親しみをもって人々の営みを観察して忠実に描いたようで、この観察は後の一族・子孫へと受け継がれていきました。

まずはピーテル1世と工房による油彩画「キリストの復活」がありました。復活したキリストとその下でマリアたちにそれを告げる天使、周りには眠りこける墓守などこのテーマの定番の人物たちとなっています。光が強く明暗がくっきりしていて色鮮やかに感じるかな。解説によるとこれは素描とは左右逆転して描かれているのだとか。最初から見応えのある作品です。

その後も同時代の宗教画が並びます。ピーテル・ブリューゲル1世の師匠であるピーテル・クック・ファン・アールストと工房による「三連祭壇画 東方三博士の礼拝(中央)受胎告知(左翼)とキリストの降誕(右翼)」は観音開きになる窓型の作品で、キリストの誕生に関する3つの場面が描かれています。落ち着いた色彩で写実性もあって良い作品だけどブリューゲルの作風とは確かに違って見えるかな。

その先にはピーテル・ブリューゲル1世の版画「7つの美徳」から希望と節制の2点の出展がありました。この辺は結構よく観る作品だと思います。他にもボス風の作品(ヤン・マンデイン「キリストの冥府への降下」)やピーテル・ブリューゲル1世のバベルの塔を彷彿とさせる「バベルの塔」、 ボスの版画などもありました。

この章でもう1つ見どころは、ピーテル・ブリューゲル1世[下絵]/ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]による「最後の審判」です。これも割と観る機会が多い作品ですが独特の怖さがあって、中央を境に左の天国と右の地獄(化物の口)へと進む大勢の人が描かれています。手前には奇妙は魚人間がいたりしてボスからの影響がよく分かる作風でした。


<第2章 自然へのまなざし>
続いては自然を描いた作品のコーナーです。ピーテル・ブリューゲル1世は1552年に2年ほどイタリア旅行に行ったそうで、当時のイタリアでは神話を元に理想的な人体を描くのが主流だったようです。しかしピーテル1世はそうした作品よりも帰り道のアルプスの景観を気に入ったようで、帰ってすぐに雄大な風景の版画下絵を制作しました。この頃の風景画は山や森・川に加えて砦や都市といった人工のものを配置した「世界風景」と呼ばれる形式が主流だったようです。

ここにはピーテル・ブリューゲル1世の「種をまく人のたとえがある風景」という作品があります。これは種を巻いても石の上では根が生えず、茨の合間では芽が伸びないといった例え話を風景の中に小さく描いています。川に船が浮かぶ雄大な景色を見下ろす光景のほうに目が行くので一見するとのんびりした絵に見えますが、信仰心が無ければ(石の上では)神の教えも根が生えないといったことを暗示しているようでした。1枚に自然や建物、さらに寓意なども込めていて「世界風景」の典型的な光景だと思います。また、同様にヤン・ブリューゲルの「水浴をする人たちのいる川の光景」もやや高い位置から遠くを見渡すような構図で、背景は遠くなるほど青みかかっているのも特徴です。かなり緻密に描かれていて非常に細かいのですが、人物よりも風景が主役のように見えるのも共通していると思います。(でも実は聖書の場面だったりします)
近くにはそうした形式の同時代の画家の作品も並び、ヤン・ブリューゲル1世からの影響力の強さも感じられました。ちなみに、このコーナーの絵はかなり緻密なので、じっくり観ると何時間でも観られると思います。しかし細かすぎて年配の方が音を上げてるのも目撃したので、単眼鏡などを持って行くのもよろしいかとw

この章の最後のあたりには画家同士の共作作品も並んでいました。ヤン・ブリューゲル1世(?)とルカス・ファン・ファルケンボルフによる共作「アーチ状の橋のある海沿いの町」では人物をヤン・ブリューゲル1世が描いて、それ以外をファルケンボルフが描いているようです。この絵では素人目には中々判別がつきづらいのですが、同様の共作「聖ウベルトゥスの幻視」はヤン・ブリューゲル2世による写しで一目でルーベンスっぽさがあって面白かったです。これは写しでなくオリジナルが観てみたいなあw


<第3章 冬の景色と城砦>
続いては冬景色と城砦を題材にした作品のコーナーです。ピーテル・ブリューゲル1世が冬景色を描いた「鳥罠」はピーテル・ブリューゲル2世によって40点程度コピーされたそうで、その功績によって冬景色は絵画の一分野と言えるほど広まったそうです。一方、弟のヤン・ブリューゲル1世も父が繰り返し描いた城砦をモティーフとして受け継ぎ、旅先で実際の城を描いたりしていたようです。(他の章でもそういう城が描かれた作品もあります) ここにはそうした主題の作品が並んでいました。

まず早速ピーテル・ブリューゲル2世による「鳥罠」が展示されています。
ちなみに上野の国立西洋美術館でもそっくりの作品があります。こちらは以前、国立西洋美術館撮影した時のもの
DSC_0822.jpg
多分、並べて観てもそっくりなんじゃないかと思います。これは、凍った川でスケートをして牧歌的な光景に見えますが、右下にある鳥を捕まえる罠がかなり意味深です。というのも、川には穴が空いていて、ここに落ちれば死んでしまう可能性もあるわけですが、そんな状況が鳥罠と似たようなもので、危険は常に日常の隣り合わせであることを暗示しています。また、こんなに精巧な絵をよく何枚も描けるものだと思いますが、これには写しのテクニックがあるようです。まずは原画をトレースをして、その輪郭線に細かい穴を開け、写す側にトレースを乗せて墨の粉を落とすと、点線で輪郭が写せるようです。あとはその点線をなぞれば おおよそのコピーの完成ということで、やけに正確な写しになっているのはそういう仕掛けのようでした。まあ、そんな豆知識が無くてもこの作品は良い絵なので、見どころの1つと言えると思います。
この他にもヤン・ブリューゲル2世による冬景色の作品などもあったので、地獄のブリューゲルだけでなくヤンの一族にもこの主題は引き継がれていったようでした。

城の絵の方はヤン・ブリューゲル1世の城の素描がいくつかありました。これはルーベンスとの共作のオーストリア公爵夫妻の背景の為のものらしく、正確な描写となっていました。この辺は画力の高さが伝わりますが特に好みというほどでもないかな。


<第4章 旅の風景と物語>
続いては旅の風景や船をモチーフにした作品が並ぶコーナーです。ブリューゲル一族の活躍したアントウェルペンは商業や金融で繁栄し、多くの人やものが集まるヨーロッパの中心地となっていたそうで、その繁栄を担っていたのは中産階級だったようです。彼らにとって船は貿易や富、未知の品々、情報などをもたらす冒険の象徴だったようで、好まれた画題でした。また、旅や行商隊も新たな画題となっていったようで、ここにはそうした作品がいくつかありました。

まずここにはピーテル・ブリューゲル1世が下絵を描いた「イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船」という版画があります。一見すると帆船を描いた作品ですが、右上の空中に2人の姿(イカロスとダイダロス)があり、イカロスは真っ逆さまに落ちていっています。何で船の絵にイカロスを描いたのか分かりませんが、ちょっと船の先行きに不安を覚えるのは私だけでしょうかw なお、この船もかなり写実的で船の構造まで分かるようでした。

この辺にはヤン・ブリューゲル1世による父の船を描いた作品のコピーもありました。この辺は素人目でどちらの作者か判別するのは困難ですが、こうしたモチーフも受け継がれていったことはよく分かります。また、ヤン1世は城と船を描いた作品なんかもあって、得意のモチーフの組み合わせとなっているのが面白かったです。

その後も版画が続きます。ヤン親子による農民や旅人のいる作品で、市場の様子なんかも描かれています。こうした作品は先程の風景画同様に遠くまで見渡せる光景を描いた作品もありますが、農民と同じ目線で描いた作品もあって、当時のその場に立っているような感覚になれました。こうした作品はこの後出てくる農民を描いた作品と通じるものを感じるかな。風俗画のように世相を伝えているようにも思えます。

ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。前半から見どころが多く特に風景画なんかはブリューゲル一族の特徴が詰まった作品が多いように思いました。 後半には期間限定で撮影可能な場所もありましたので、次回はそれをご紹介しようと思います。

後編はこちら
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