関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち 【世田谷美術館】

前々回・前回とご紹介した静嘉堂文庫美術館の展示を観た後、バスで世田谷美術館に移動して「ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち」を観てきました。

DSC01038.jpg

【展覧名】
 ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち

【公式サイト】
 http://paris2017-18.jp/
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00187

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2018年01月13日~04月01日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
土曜日に行ったこともあって割とお客さんが多かったですが、混んでいるというほどでもなく概ね自分のペースで見ることができました。


さて、この展示は今も昔もファッションや文化をリードしてきた パリに住む女性たち「パリジェンヌ」をテーマにした内容となっています。特定の画家や時代をテーマにしている訳ではない珍しい展示で、18世紀以降の各時代のパリジェンヌをとりまく環境や、その役割、芸術との関わりなどで章分けされていました。ごく簡単にメモしてきましたので、構成に沿って振り返ってみようと思います。


<第1章 パリという舞台 ~邸宅と劇場にみる18世紀のエレガンス>
まずはパリがフランスの中心となっていった頃のコーナーです。ルイ14世の時代の後、フランスの文化の中心はヴェルサイユからパリへと変わったそうで、文化の場として女主人が個人の邸宅を「サロン」として文化人を集めた交流を行っていたようです。このサロンによって新しい考えや芸術が広がっていったので、歴史的にもその役割は大きいものだったと思われます。また、舞踊の中心地もパリに移動したそうで、舞台のドレスや工夫をこらした髪型が刊行物によって流行していったようです。

ここにはサロンの邸宅の室内を描いた絵があり、割とこじんまりした空間で芸術論議をしていた様子が伺えます。また、日本の柿右衛門様式のティーセットやロココ時代のドレスなどがあり、様々な様式を取り入れた文化的に豊かな集いであったのも分かります。ドレスはこの先にも多く展示されているので、各時代の特徴を比べて観られるのもこの展示の見どころと言えそうです。

その先には当時の髪型と帽子の様子が分かる作品もありました。逆立った髪型や巨大な帽子を被った女性像の中には、船の形(当時のフリゲート艦)の形の帽子なんかも描いてあります。こうした帽子は他の展示でも観たことがありますが、なんど見ても奇抜で驚かされます。帽子の高さは1.2mもあるらしいので背が高い女性だと背丈と合わせて高さは3m近くあったんじゃないかなw
 参考記事:マリー・アントワネット物語展 (そごう美術館)

その先にはバレエの踊り子について取り上げていて、マリー・サレという踊り子についてやバレエの衣装なんかが紹介されていました。当時のバレエの衣装は結構重そうなドレスなのが意外でした。


<第2章 日々の生活 ~家族と仕事、女性の役割>
フランス革命を経てナポレオンの時代になると社会は大きく変化していき、フェミニズム運動なども起こりました。そして小説家や批評家として活躍する女性も現れたようですが、女性は結婚して母となり家庭を護るという価値観は依然根強く、女性は辛抱していたようです。ちなみにこの頃のフランスでは子供を育てるのは乳母が一般的だったようですが、ジャン=ジャック・ルソーによって母親が直接育てるべきという教育論が唱えられたそうです。その為か絵画でも母子を描く作品が強調されるようになったようで、ここにはそうした労働や日常での女性を描いた作品などが並んでいました。

ここには「良き母親」という作品があり、三人の子供と穏やかに過ごす女性が描かれていました。恐らくこれが当時 女性に求められた理想像で、現在でも少なからずこうした姿が求められている部分があると思います。また、アンリ・ファンタン=ラトゥールによる「窓辺で刺繍をする人」では2人の姉妹が刺繍をしていて、明暗の強さも相まって静けさと親密な空気が感じられました。これも女性像として象徴的かもしれません。
さらに隣の「アイロンをかける若い女性」という作品はこちらをふと観た女性が描かれているのですが、女性の目が強くて、目が合うような感じが面白かったです。17世紀オランダ絵画からの影響があるようで、強い明暗で写実的 かつ くっきり描かれているのも好みでした。

そしてここにはオノレ・ドーミエによる「青鞜派」という版画作品が2点あります。これは小説家を目指す女性を風刺したもので、背後で子供がたらいに頭を突っ込んでいるのに気付かずに小説に夢中になっている様子や、旦那のズボンのボタン付けを拒否する様子などが描かれていて、女性の社会進出に対して批判的な感じです。ドーミエ自身は権力に対して批判的な革新派なのですが、女性に対しては古風な価値観を持っていたという意外な側面が伺える作品でした。


<第3章 「パリジェンヌ」の確立 ~憧れのスタイル>
続いてはパリジェンヌというスタイルが確立されていく時代のコーナーです。この時代の展覧会を観ているとよく出てくる話ですが、昔のパリは不衛生でゴミゴミした街だったのをナポレオン3世が1853年にジョルジュ=ウジェーヌ・オスマン男爵に命じて大改造を行い、一気に近代都市へと変貌を遂げました。そうした状況を背景にファッション業界は重要な位置を占め、その働き手としても女性が活躍していくようになります。そしてパリジェンヌのスタイルは憧れの対象となり、やがて海を渡りアメリカなどにも広がっていきました。

ここには印象派の先駆けであるブーダンによる「海岸の着飾った人々」という作品があり、ドレスを着た女性たちが海岸に集まっている風景が描かれています。海岸は社交の場の雰囲気そのものといった感じですが、少しだけ海で海水浴している人の姿もあります。背景には着替え用の小さいテントがあるのですが、この頃は水着ではなく上着にズボンの姿で海に入ったらしく、それでも人目につくのを嫌がってテントごと海に入ることがあったと紹介されていました。
この辺にはコルセットしてフリフリした感じのドレスを着た女性を描いた作品も多く、まだまだ女性たちもあまり弾けてないというか、貞淑な感じもするかな。コルセットは気絶するほど締め付けるらしいので相当大変だったようです。

そしてその後にイギリス人のファッションデザイナー シャルル・フレデリック・ウォルトによって生み出されたオートクチュールについてのコーナーがあります。現在のファッションショーやモデルの活用を思いついたのもウォルトで、ウォルトによってデザイナー主導のモードが始まったと言えるくらい革新的なファッション界の巨人です。ここには手袋やサテンの靴、コルセットなどがあり 特に靴とコルセットは当時オシャレな人達がこだわったアイテムだったようです。また、着飾った人達を描いたコスチュームプリントもあり、髪型などもカタログのように描かれていました。(恐らくこうしたもので流行が広まったんでしょうね)

このコーナーには今回のポスターにもなっているジョン・シンガー・サージェントの「チャールズ・E. インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)」があり、ウォルトのデザインに着想を得た赤いイブニングドレスを着た女性が描かれています。キリッとした表情と深い赤がエレガントな雰囲気を醸しているのですが、これはフランスではなくアメリカの女性をフランスの流行に合わせているようでした。まさに海を超えてもパリジェンヌが手本となっていたことが伺えます また、フランスからアメリカに帰ったウィリアム・モリス・ハントによる「マルグリット」という作品でも当時のフランス風のお下げ髪の女の子を描いていて、やや暗い象徴的な雰囲気がありつつもフランスからファッションに至るまで影響を受けている様子がよく分かりました。


<第4章 芸術をとりまく環境 ~製作者、モデル、ミューズ>
4章からは2階です。ここは女性がモデルを務めたり自身が芸術家である女性画家を取り上げたコーナーとなっていました。当時、絵画を学ぶアカデミーには女性は入ることができませんでしたが、印象派など新しい勢力に参加していたようです。

まずは印象派に参加したベルト・モリゾの静物がありました。モリゾの静物は珍しく20点ほどしかないようですが、静物も大胆なタッチで如何にも印象派風に描かれています。青い背景に器の中の白い花という爽やかな色彩で、モリゾらしい安らぐ雰囲気があったように思います。また、ここにはアメリカの印象派画家メアリー・カサットの作品もあり、ソファで本を読む女性が描かれていました。こちらも印象派そのものといった感じですが、色彩が濃厚でサテンが輝くような質感の表現などは独自性があり見事でした。
その近くにはカサットと姉と共にルーヴル美術館で観ている様子が描かれた作品もあり、そうやって絵を学んで行った様子が伺えます。

このコーナーでちょっと驚いたのはサラ・ベルナールによる女性の横顔の肖像(ブロンズ肖像)です。ミュシャなどに描かれた大女優であるサラ・ベルナール自身もこうした作品を作っていたようで、自宅にアトリエを設けて制作し、官展にまで出品していたようです。その腕前も中々で、凹凸のせいでやや老けた貴婦人に見えますが、彫刻家の作品かと思いました。ちなみにこの女性はサラ・ベルナールの恋人だった人のようです。

その先にはルノワールやロートレック、ピカソなどによる女性像が並び、ミューズとしての女性たちが紹介されています。洗濯女よりはモデルのほうが高給取りだったようですが、不安定な職業だったようです(今もそうでしょうけど) そして、ここに今回の目玉となるマネの「街の歌い手」がありました。流しの歌手がぶどうを食べてギターを持っている様子が描かれ、彼女のイヤリングはぶどうっぽい形をしています。これは代表作「草上の昼食」と同じモデルのヴィクトリーヌ・ムーランを使って描いたものですが、マネが道端でこういう女性を見つけてモデルの誘いを断られたらしいので、実際にその時の印象を込めているのかもしれません。灰色のドレスに黒い帽子という派手さはない格好ですが、たくましく生きている強さが感じられます。 なお、モデルのムーランもその後に画家として活動していたというのが最近の調査で分かったそうです。この時代の女性も懸命に頑張っていたんですね。


<第5章 モダン・シーン ~舞台、街角、スタジオ>
最後は主に1900年頃からそれ以降についてのコーナーです。1900年にパリ万国博覧会が行われた頃はキャバレーが次々と開店し、歌手や踊り子が活躍したそうです。仕事やスポーツに勤しむ女性たちも増え、活動的になった様子も絵に描かれています。ここにはジュール・シェレによるポスターや絵葉書、写真などがあり、カンカン踊りや舞台の様子、新聞売りや花売りをする女性が表されていました。中年の女性なんかは堂々としていて中々たくましいです。当時の1/3くらいの労働人口は女性だったらしいので、結構進出していたようです。
しかし女性が完全に自由だったわけではなく、女性がズボンを履けるのは自転車に乗る時だけ、しかも公園とか限られた場所だったりしたようで、女性のあるべき姿みたいなのは依然として残っていたのかもしれません。

この先にはモンパルナスのキキの写真なんかもありました。エコール・ド・パリの時代の画家達の作品によく出てくるミューズなので、この顔は覚えておくと良いかもw

そしてこの部屋の真ん中にはアールデコ期のドレスや第二次大戦後のドレスなどもあります。1960年代の宇宙をイメージしたドレスなんかもあって面白いコーナーです。第一次世界大戦で男が戦場に行った後はますます女性が社会進出していったわけですが、段々と動きやすい格好になっていく様子が分かります。最後には戦後のファッション写真などもありました。



ということで多岐にわたる内容となっていました。パリジェンヌというか女性の社会進出みたいな内容にも思えましたが、パリジェンヌが単にオシャレなだけでなく逞しく生きてきたのもよく伝わりました。そのテーマが強いので好みの作品はそれほど多くなかったので満足度は普通ですが、こうした背景をご存知ない方はこの展示を見ることで近代芸術の背景も知ることができると思います。



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