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ルドン―秘密の花園 (感想後編)【三菱一号館美術館】

今回は前回に引き続き、三菱一号館美術館の「ルドン―秘密の花園」の後編です。前半は4章までご紹介しましたが、今日は残りの5~8章をご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。
 前編はこちら

DSC00972_20180227015551fec.jpg

【展覧名】
 ルドン―秘密の花園 

【公式サイト】
 http://mimt.jp/redon/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2018年2月8日(木)~5月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時00間分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
閉館ギリギリまで粘って観ていたこともあって、後半は特に空いていましたw 閉館との時間の勝負という諸刃の剣ですが、金曜の夜は静かに観られるチャンスだと思います。

さて、前半ではルドンの初期作品や今回の目玉であるドムシー男爵装飾壁画などをご紹介しましたが、後半にもグラン・ブーケを始めとして多数の見どころがありました。後半もルドンの人生などについて紹介しているところもありましたが、以前の記事に詳細に書いていますのでそちらもご参照ください。
 参考記事:
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想前編(三菱一号館美術館)
  ルドンとその周辺-夢見る世紀末展 感想後編(三菱一号館美術館)
  オディロン・ルドン ―夢の起源― 感想前編(損保ジャパン東郷青児美術館)
  オディロン・ルドン ―夢の起源― 感想後編(損保ジャパン東郷青児美術館)
  19世紀フランス版画の闇と光 ― メリヨン、ブレダン、ブラックモン、ルドン (国立西洋美術館)


<5 「黒」に棲まう動植物>
この章は版画のコーナーでです。前回ご紹介したクラヴォーからの影響もありルドンは絵画、文学、ダーウィンの進化論、民間伝承、夢理論、催眠術など様々なものに興味を持ち吸収していった訳ですが、それは作品に活かされて奇想の動植物として表現されていきました。ここにはモノクロのそういった作品が並んでいました。

オディロン・ルドン 「預言者」
こちらは木炭で描かれた作品。木を背景に男か女か分からないフードを被った人が描かれていて、これはドルイドの巫女ではないかという説もあるようです。その曖昧とした感じが独特で 力ない亡霊のようにも観えるのですが、その割には目が大きいのが余計怖いw ルドンの不可思議な世界観がよく出ていると思います。なお、この作品でも木が出て来るためか作品リスト上では2章の扱いになっています。木とルドンという今まであまり気付かなかった関係性がここでも再確認できました。

オディロン・ルドン 「『起源』II. おそらく花の中に最初の視覚が試みられた」
こちらは山菜のゼンマイのような渦を巻く植物に目がついているような姿を描いた版画で、割とルドンの作品の中でも有名かな。それだけでもシュールで不気味なのですが、どういう訳か恨めしそうな上目遣いが印象的ですw 植物学者クラヴォーからの植物学的知識がこういう形で表現されるというのがルドンならではの魅力ではないかと思います。
 参考リンク:ルドンの「黒」

オディロン・ルドン 「『 起源 』 III. 不恰好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた」
こちらは目が1つしかない類人猿みたいなのがニヤニヤしている姿を描いたものです。ルドンの作品にはこうした目が1つしかないモチーフがよく出てきますが、こいつはどういう訳か歯を見せて笑っていて怖いというよりはキモかわいいw このタイトルからも察することができるように、ルドンは進化論にも興味があったのですが、猿が人間に進化したという話をルドンの解釈でこうした姿に反映したのかもしれませんね。

この辺にはゴヤ頌や悪の華といったシリーズの一部も展示されていました。ちなみに、ゴヤはルドンの生まれたボルドーで亡くなった画家ですが、陰鬱な版画を多く残していてどこかルドンと共通するものを感じます。勿論、ルドンはそれを知っていたので、ある意味ゴヤの生まれ変わりと言えるのかもしれません。
 参考記事:
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館)


<6 蝶の夢、草花の無意識、水の眠り>
こちらは色彩のある作品のコーナー。タイトル通り蝶や無意識などをモチーフにした作品がありました。また、この章に残りのドムシー男爵家の壁画装飾とグラン・ブーケも展示されています(構成上は4章)

オディロン・ルドン 「花と蝶」
こちらは4匹の蝶が花の周りを飛ぶ様子が描かれた作品です。4羽とも羽根が広がった姿で描かれ、舞い降りてくるというよりは標本が浮いているようにも見えるかな。赤い蝶などもいて色鮮やかですが、ややくすんだ感じがある為、幻想的な雰囲気となっていました。
 参考リンク:色彩への移行

なお、日本の洋画家の藤島武二がルドンの蝶の作品を模写したものがあるそうです。藤島の作風は色々変わっていますが、ルドンも研究していたとは意外でした。
 参考記事:藤島武二展 (練馬区立美術館)

この辺には人と花を描いた作品が並んでいました。国内の有名なコレクションなんかも並んでいるので見応えがあります。

オディロン・ルドン 「ステンドグラス」
巨大なアーチ状の窓を背景に、果物や花が宙に浮かんでいるように描かれた作品です。両脇には光背のある人物が2人描かれているので、その窓の大きさがよく分かります。こちらも色彩豊かですが、くすんだ感じでシュールな夢の中にいるような雰囲気が出ていました。花のモチーフや色の取り合わせだけなら華やかになりそうなのに、そうはならないのがルドンらしいところかなw

オディロン・ルドン 「オルフェウスの死」
こちらは岐阜県美術館の名コレクションで、川の畔に竪琴の上にオルフェウスの頭部が乗っかって流れ着いた様子が描かれています。これはオルフェウスがディオニュソスの巫女たちの相手をしなかった為に八つ裂きにされたという神話に基いた作品で、象徴主義の画家ギュスターヴ・モローなんかもこのテーマを描いていました。(多分それも知ってたんじゃないかと) オルフェウスの顔は眠っているようで、周りは明るいこともあって死んでいるのに穏やかな光景に見えるのが面白かったです。

この辺には同じく岐阜県美術館の「眼をとじて」もありました。今回のポスターにもなっている作品です。

そして階下に進むとここに残りの壁画装飾とグラン・ブーケがあります。
こちらは前回同様に休憩室にあったレプリカの写真。
20180209 202308
グラン・ブーケはやや暗めの部屋に展示してあるのが絶妙で、静かに浮かび上がってくるような感覚になれるので是非間近で観て頂きたい作品です(グラン・ブーケだけはこの展示以外でも常設されて観ることができます)


<7 再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな>
続いてこちらは花瓶に入った花束などのコーナーです。ルドンの奥さんは1909年にパリ郊外のビエーブルの土地と家を相続したそうで、そこがルドンの晩年の拠り所となりました。アトリエを設けて制作に励みここにあった作品なども制作していたようです。

オディロン・ルドン 「花:ひなげしとマーガレット」
こちらは一見するとルドンの作品とは思えませんでした。1867年の作品なので、版画でのデビュー前の作品かな? その名の通り小さな花瓶に入ったひなげしとマーガレットが描かれているのですが、かなりくっきりと対象が表されています。また、背景も暗いのですが幻想性は無く明暗が対比的に思えました。

オディロン・ルドン 「日本風の花瓶 」
こちらは日本のポーラ美術館の所蔵で、能の衣装を着た人物が描かれた花瓶に花が入っている様子が描かれた作品です。背景は薄い黄色~ピンク色で全体的に明るく、軽やかな色彩となっています。ルドンの作品の中でこれだけ生き生きと感じるのは多くはないかも。日本的なモチーフと相まって馴染みやすい作品だと思います。

オディロン・ルドン 「青い花瓶の花」「首の長い花瓶にいけられた野の花」
こちらは両方とも同じ花瓶に入った花を角度違いで描いたものです。花瓶はルドンと親しかったロシアの女性陶芸家マリー・ボトキンが作ったもので、場所によって色が変わるような豊かな色彩となっています。2点を比べるといずれもルドンらしい幻想的な画風ですが、入っている花も違うしパステルと油彩の違いもあったりして、表現の違いが感じられます。この2点は是非比較しながら観てみることをお勧め。


<8 装飾プロジェクト>
最後はルドンがキャンバス以外に絵を描いた作品が並ぶコーナーです。1900~1911年頃に個人の収集家から装飾の依頼を受けることがあったようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

オディロン・ルドン 「オリヴィエ・サンセールの屏風」
こちらは日本の屏風の形式で描かれた作品。4曲1隻で、一応画面が繋がっているように見るかな。テンペラや油彩で花などが描かれていて、何の花かは分かりませんが、全体的に薄い黄色っぽい色彩と相まって心休まるような印象を受けました。先程の日本の花瓶も含めて日本趣味の隆盛の影響が感じられます。

オディロン・ルドン 「タピスリー用下絵」
これは国から注文を受けて作った椅子のための装飾下絵です。様々な花が宙を舞うような模様で、座面・背もたれ・肘掛け部分の各パーツの下絵を施しています。よく観ると椅子の背もたれの形に輪郭があって芸が細かいです。近くにはロラン・ルスタンが作った「ルドンの下絵に基づく《ひじ掛け椅子》」もあって、実際の椅子を観るとこんなところまで下絵を描いていたのかと驚くと思います。


ということで、国内の作品はほぼ観たことがあるものでしたが、今回のルドン展はドムシー男爵の食堂装飾があったのが大きいと思います。また、ちょっと変わった切り口で観られたのも面白かったので図録も購入しました。ルドンはその不思議さと不気味さで好奇心を駆り立てる作品が多いので、美術初心者でも楽しめる内容だと思います。洋画好きにお勧めの展示です。

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