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古伊万里にみるうわぐすり展 【戸栗美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に渋谷の戸栗美術館で「古伊万里にみるうわぐすり展」を観てきました。

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【展覧名】
 古伊万里にみるうわぐすり展 

【公式サイト】
 http://www.toguri-museum.or.jp/tenrankai/index.php

【会場】戸栗美術館
【最寄】渋谷駅・神泉駅

【会期】2018年1月7日(日)~3月21日(水・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
金曜日の夕方だったこともあり、空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はこの美術館が得意とする伊万里や鍋島の「釉薬」に注目して紹介する内容となっています。大半は伊万里と鍋島が中心で、たまに景徳鎮や高麗の器もある感じかな。4つの部屋に分かれて展示されていましたので、各部屋ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。


<第1展示室>
まずは釉薬の種類について紹介されていました。江戸時代の肥前で使われていたのは透明釉(白磁)、青磁釉、瑠璃釉、銹釉の4つらしく、ここにはその4種が並んでいました。

1 伊万里「青磁瑠璃銹釉 鶴亀松竹梅文 三足皿」
こちらは縁の部分に透かしの入っている皿で、中央に鶴が2羽と松・竹・梅、亀らしきもの等が描かれています。青海波紋(波模様)が彫られて立体的な感じです。裏には3本足があって割と高いのも特徴かな。おめでたいモチーフが詰め込まれた作品でした。

7 伊万里「白磁 唐花文 輪花鉢」
こちらは透明釉の白磁で陽刻という浮き上がる文様が施された作品です。凹凸で釉薬の濃淡が生まれ、文様の表現となっているのが面白いです。割と素朴な作りですが凝った文様となっていました。

この辺はこうした真っ白な地が美しい白磁が並んでいました。揃いものなんかもあります。

20 伊万里「青磁 瓶」
この作品の隣には中国・龍泉窯の見事な青磁瓶があったのですが、それと似た形をした伊万里の作品です。中国のと比べるとやや色ムラがあって茶色い箇所もあるかな。この茶色は酸素濃度の加減で酸化焼成 気味になっているそうです。中国のに比べると失敗しているようにも思いますが、釉薬は酸化で色が変わってしまう繊細なものだというのがよく分かりました。

この辺には薄い緑色をした青磁が並んでいました。

30 伊万里「青磁染付 樹鳥文 葉形三足皿」
こちらは表面に尾長鶏と松が描かれた薄い緑の青磁皿で、葉っぱのような形をしています。縁の部分を細工していたり、マスキングして絵の部分には青磁の釉薬をかけずに染め付けして模様を出すなど、様々な工夫が観られました。

37 伊万里「瑠璃釉 捻文 瓶」
こちらは深いコバルトブルーの瓶で、口が細く優美な印象を受ける形をしています。側面には縦に波打つ曲線があり、色も形も気品のある作品です。瑠璃釉は吸い込まれそうな色あいがとても好みです。

銹絵は数点だったので割愛。第1展示室と第2展示室の間には釉薬の作り方や各釉薬を試した小さな皿などもあって、釉薬について詳しくなれそうな展示もありました。


<第2展示室>
続いては似た形で釉薬の違うものを比較しながら観るコーナーです。1つの作品に複数の釉薬を使ったものや、肥前の青磁、有田では例の少ない釉薬の作品なども並んでいました。

50 伊万里「白磁 瓶」「青磁瑠璃釉 瓶」「瑠璃銹釉 瓶」
こちらは3点とも形は似ているものの、白磁・青磁・瑠璃/銹と釉薬が違うものが並んで展示されていました。それぞれ全く雰囲気が違っていて、材質すら違って見えます。これは実際に見比べてみると、釉薬が磁器の出来栄えを大きく左右するのがよく分かると思います。今回のテーマによく合った展示方法で面白いです。

61 伊万里「青磁瑠璃銹釉 葡萄文 葉形皿」
こちらは全体的には赤褐色の銹釉がかかっていますが、葡萄が描かれていて その粒ごとに青磁釉や瑠璃釉が使われています。皿自体が葉っぱの形になっているのも洒落ていて、非常に凝った作品でした。

64 伊万里「青磁瑠璃釉 輪花鉢」
こちらは内側は青磁、外側は瑠璃釉となっている鉢です。フチの部分は茶色になっていたりして、釉薬を自在に扱っている様子が伺えました。あまりこの手の釉薬が混合した器を観る機会はないので、ちょっと変わっていて面白い。

72 鍋島「青磁 皿」
こちらは青磁の無地の大皿です。単なる無地ですが、大きな皿にムラなく釉薬をかけるというのは難しい技術のようで、この作品では一切のムラが無いのが見どころです。色も深くて、中国の青磁にも引けを取らない完成度の高さでした。
ちなみにこの美術館の近くにはかつて鍋島藩の藩邸があったこともあり、この美術館には鍋島が充実しています。

この辺にあった伊万里の「青磁瑠璃銹釉 鷺龍文 三足皿」や鍋島の「瑠璃銹釉染付金銀彩 草子形皿 」なんかも完成度の高い作品でした。

74 鍋島「青磁染付 輪繋文 皿」
青磁に染め付けで鎖のような輪が連なるのを境に、細かい幾何学紋と無地のスペースが分かれている皿です。その意匠の斬新さが面白く、流石は藩窯だった鍋島だけあってクオリティの高さが伺えました。

この近くには青磁で作った大きな獅子の置物がずらりと並んでいました。どれも表情が違って中には愛嬌のある仕草の獅子もいましたw

89 中国・景徳鎮窯「桃花紅 団龍文 太白尊」
こちらはピンク色の桃花紅(辰砂釉の一種)を使った作品で、そこに濃淡で薄っすらと文様が見える驚きの技巧が施されていました。色も綺麗ですが、辰砂ってことは硫化水銀を使ってるのかな??と思って調べてみたら、色が似ているだけで銅を使っているようです。桃花紅の他に牛血紅や火焔青も同様の辰砂釉で作られるのだとか。調合次第でこんな色も出せることに驚かされます。


<第3展示室>
続いては伊万里が誕生してから100年間の歴史(元禄まで)を辿るコーナーです。

14 伊万里(柿右衛門様式)「色絵 人物船遊文 皿」
こちらは白地に赤を使って模様を描く典型的な柿右衛門様式の作品です。舟遊びする中国風の子供が可愛らしく、のんびりとした雰囲気がありました。

この作品より前の17世紀前期の頃の染め付けは色はくすんでいて形もちょっと歪んでいるなど完成度にやや難がありました。また、17世紀中期の古九谷は緑や青、赤を使って文様を埋め尽くすスタイルで、技術の進歩は見られますがデザイン的にはクドいかなw この頃は景徳鎮をお手本にしていたのがよく分かる作品もありました。

22 鍋島「染付 矢車花文 皿」
こちらは薄い水色の皿に単純化した花の模様が描かれています。斬新かつ軽やかな雰囲気があり、非常にモダンで気品も感じられました。やっぱり鍋島は日本最高の磁器だと思いますw

この作品の近くには金襴手様式や、西洋人を描いた西洋向けと思われる作品もありました。


この辺で今回の展示は終了ですが、合わせて特別展示室の作品もご紹介。

<特別展示室>
こちらは三川内の名品が並ぶ展示となっていました。

4 三川内「青磁瑠璃銹釉 竹林七賢人形筆筒」
木を模した円筒形の周りに竹林七賢人の人形が並んだ作品です。こちらは回転しながら展示されていて、360度ぐるりと観ることができました。色も塗られて凝った作りですが、竹林七賢人はゆるキャラみたいな脱力系の顔をしていましたw

6 三川内「青磁銹釉 栗置物」
こちらはイガのついた栗を表した置物です。栗が剥かれたようなリアルさで、特に色ツヤが本物そっくりの質感となっているのが面白いです。これは知らずに栗に混ぜてあったら本物と思いそうw


ということで、様々な釉薬の特徴とそれぞれの違いがよく分かる展示となっていました。割と地味なテーマですが、こういう専門性のある展示を観ておくと今後の美術鑑賞に非常に役に立つと思います。bunkamuraや松濤美術館にも近いので、その辺と一緒に訪れてみるのもよろしいかと思います。


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