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至上の印象派展 ビュールレ・コレクション (感想前編)【国立新美術館】

2週間ほど前の土曜日に乃木坂の国立新美術館で「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」を観てきました。豪華なコレクションで見どころも多かったので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC01503.jpg

【展覧名】
 至上の印象派展 ビュールレ・コレクション 

【公式サイト】
 http://www.buehrle2018.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/buehrle2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2018年2月14日(水)~5月7日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
既に結構混んでいて、中々自分のペースで観ることができない感じでした。私は観るのが長いのでちょっと後ろからゆっくり観てきました。

さて、この展示はスイスの実業家エミール・ゲオルク・ビュールレが集めた印象派を中心としたコレクションを一挙に64点も紹介する内容となっています。これらのコレクションは防犯上の理由からチューリッヒ美術館へと移管される予定となっていて、日本でこれだけまとまって観られるのは最後の機会と言えるようです。

まずコレクターのエミール・ゲオルク・ビュールレについてですが、若い頃に大学で美術史のゴシック彫刻の講義を受けていたなど元々美術に関心が深かったようです。そして1913年にドイツ ベルリンのナショナル・ギャラリーで印象派の作品に出会い、印象派の虜となりました。その翌年には第一次世界大戦が始まった訳ですが、戦後にビュールレは治安維持で派遣された地で銀行家に知遇を得てその娘と結婚しました。そしてその銀行家が株主だった工作機械の会社の一員となると、20mm機関砲の特許の譲渡を受けて後の連合国側に大口の受注を得るようになり財を築いていきました。
コレクターとしては1936年にドガの踊り子やルノワールの素描など4点を買って最初のコレクションとしたのを皮切りに、1939年にはナチスドイツの退廃美術オークションにも参加するなど着々と集め、第二次世界大戦の間にも76点も買っていたようです。その中にはレンブラントの贋作や略奪品も掴まされたようですが、略奪品については改めて正当な持ち主から買い直しをして手に入れたりしていたようです。また、2008年にはセザンヌ、ドガ、ゴッホ、モネの4作品を強盗される事件もあったそうで、2015年に警備の問題から当初の美術館を閉鎖してチューリッヒ美術館へという流れのようです。

そうした経緯で集められたコレクションが題材や画家ごとに10章構成で並んでいましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 肖像画>
まず最初は肖像画のコーナーです。ここは印象派より前のフランス・ハルス(フランドルの画家)や、ドミニク・アングル(新古典主義の画家)などの作品もあり、印象派へと繋がるルーツも含めた内容となっています。アングルはルノワールに大きな影響を与えているので、ここでよく観ておくとそれが分かるかもしれません。
 参考記事:ルノワール-伝統と革新 感想前編(国立新美術館)

3 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「イポリット=フランソワ。ドゥヴィレの肖像」
こちらはアングルらしい艷やかな筆致の男性像で、写真のような写実性があります。その黒の使い方や細かい刺繍の表現なども見事ですが、やはりアングル独特の気品が何よりも素晴らしい作品でした。アングル好きとしては嬉しい計算外のコレクションです。

4 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「アングル夫人の肖像」
こちらを見て微笑む夫人を描いた作品で、アングルにしてはやや粗い筆致で描かれています。これはプライベートな目的で描いている為と考えられるようで、夫人も優しそうな雰囲気です。ラファエロの聖母像に似せているのではないかとの指摘もあるようですが、親密な空気がある作品に思いました。
 参考リンク:公式サイトの「作品紹介」

この近くにはルノワールが描いた印象派仲間のシスレーの肖像もありました。ルノワールにしては輪郭がくっきりしてる時期のものですw また、ドガの肖像画も1点あったかな。他にはクールベやラトゥールといった印象派の時期に近い画家などもありました。


<第2章 ヨーロッパの都市>
続いてはヨーロッパの都市景観を描いた作品が並ぶコーナーです。ここにもカナレットなど印象派の100年以上前の画家の作品もありました。


9 アントーニオ・カナール(カナレット) 「サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア」
こちらは緻密かつ大画面の風景画で、ヴェネツィアのカナル・グランデ沿いの街並みや聖堂が描かれています。陰影がハッキリしていて遠近感もリアルに描かれているなどかなり写実的で当時の様子が伺えます。運河を行く船や聖堂の前の人々など穏やかな風景で、理想的な光景のように思えました。
 参考リンク:公式サイトの「作品紹介」

8 フランチェスコ・グァルディ 「サン・マルコ沖、ヴェネツィア」
こちらも18世紀イタリアの画家の作品で、多分今回の展覧会で一番知られていない画家じゃないかなw 画風は前述のカナレットに似ていて、題材もヴェネツィアの海の上の船を描いていています。水平線が低く設けられている為か、明るく広々した雰囲気が感じられるかな。サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会が見えているなど、こちらも旅情を掻き立てる作品となっていました。

この近くにはシニャックが同じヴェネツィアのジュデッカ運河を描いた作品などもありました。点描なので前述の2人とは全く異なる画風ですが、その違いを楽しむことができます。また、モネの「陽を浴びるウォータールー橋、ロンドン」というロンドンでの連作のうちの1枚も並んでいました。この辺は初めて観るけど似た作品はよく観るので割と見慣れた感じかな。

13 アンリ・マティス 「雪のサン=ミシェル橋 パリ」
こちらは高い位置から川と橋を見下ろすように描いた作品です。煙や蒸気を捉えた感じがして、あまりマティスっぽく見えず印象派の作品のように見えるのですが、これはまだマティスがフォーヴと呼ばれる前の頃のもので色も控えめとなっています。ちょっと珍しい作風を見られてこれはこれで面白かったです。


<第3章 19世紀のフランス絵画>
続いてはバルビゾン派やロマン派、写実主義といった印象派の先駆けとなった画家たちのコーナーです。

19 カミーユ・コロー 「読書する少女」
赤い服の女性が熱心に本を読んでいる様子が描かれた作品です。静かな雰囲気がありコローらしい感じですが、印象派に繋がる大胆さもあると思います。この辺は印象派を知る上でも重要な画家ですので、是非ゆっくり観ておきたい1枚です。

この近くにはクールベ(写実主義)やドラクロワ(ロマン派)、シャバンヌ(象徴主義寄り)などもありました。特にドラクロワの「モロッコのスルタン」などはドラクロワの異国趣味を感じる見事な作品です。

19 エドゥアール・マネ 「オリエンタル風の衣装をまとった若い女」
シースルーの薄い布をまとった中東風の女性を描いた作品で、肌が透けて裸婦のようでもあります。やや 力無い表情を浮かべていますが官能的な雰囲気もあり、マネの東洋趣味もよく分かる作品でした。
 参考リンク:公式サイトの「作品紹介」

20 エドゥアール・マネ 「燕」
野原の上で黒衣の女性と日傘を持つ白い服の女性が横たわっている様子が描かれ、その周りには燕の姿もあります。背景には農村があり牛もいるなど当時の田舎を描いた作品のようにも思えますが、何処と無く「草上の昼食」を想起させました。また、タッチは大胆で特に黒い服が目を引きます。この辺は黒を得意としたマネらしさを感じました。

21 エドゥアール・マネ 「ワシミミズク」
マネばかり取り上げていますが、これも気に入った作品ですw 木の板とミミズクが描かれた作品で、遠くから観ると木目がリアルに思えてきます。この作品はマネのものとは気づけませんでしたが、騙し絵的な面白さがありました。


<第4章 印象派の風景 ―マネ、モネ、ピサロ、シスレー>
続いてはビュールレ・コレクションの真骨頂とも言える印象派のコーナーです(印象派風のマネの作品もあります) 正直、印象派はかなり見慣れているのでそれほど新しい発見はないのではないかと思っていましたが、モネの傑作などに出会うことが出来ました。 

26 アルフレッド・シスレー 「ブージヴァルの夏」
こちらはブージヴァル辺りのセーヌ川の川岸を描いた作品で、鉄道橋や蒸気船なども描かれ、蒸気がモクモクとあがっています。道には人の姿もありますが、雲や蒸気、光などの方が目を引いて印象派らしい題材に思えました。
 参考記事:シスレー展 (コーモン芸術センター)南仏編 エクス

この辺にはピサロの印象派然とした頃の作品などもありました。

28 クロード・モネ 「ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑」
一面に真っ赤なヒナゲシが咲いて、子供や女性が花を摘んでいる様子が描かれた作品です。背景には教会や村が描かれ空は曇天なのですが、ヒナゲシの赤が強くて華やかな印象を受けました。これは今回の展示の中でも特に気に入った作品でした。

29 クロード・モネ 「ジヴェルニーのモネの庭」
沢山の花や木に囲まれた庭の中で、女性が花に触れて様子を観ている姿を描いた作品です。この女性は義理の娘のシュザンヌで、帽子を被って可憐な印象を受けます。画面は緑を多く使っている為か、赤やピンク、黄色、青といった花の色彩が響き合うようでした。
 参考記事:番外編 フランス旅行 ジヴェルニー モネの家
 参考リンク:公式サイトの「作品紹介」


<第5章 印象派の人物 ―ドガとルノワール>
続いては印象派の中でもドガとルノワールについてのコーナーで、今回の目玉である可愛いイレーヌもこの章となっています。

31 エドガー・ドガ 「出走前」
ドガがよく描いた競馬を題材にした作品で、出走直前のゲート入りを待っている馬と騎手達が描かれています。ちょっと立ち上がっている馬がいるなど、臨場感があって、やや緊張した雰囲気まで伝わってくるようでした。
 参考記事:ドガ展 (横浜美術館)

32 エドガー・ドガ 「控え室の踊り子たち」
ドガの代名詞とも言えるバレエの踊り子を描いた作品で、靴を直したりしている様子が描かれています。全体的に茶色っぽい輪郭線を使って描かれていて、軽やかな雰囲気がありました。舞台裏の空気感もドガならではの魅力がよく出ていると思います。

33 エドガー・ドガ 「14歳の小さな踊り子」
こちらはブロンズ像で、手を後ろで組んで右足をちょっと横に出す少女が表されています。これは印象派展に出したときには服と靴を着せて頭には人毛も植え付けていたというエピソードのある像で、ドガの徹底ぶりが伺えました。

ドガは他にも「リュドヴィック・ルピック伯爵とその娘たち」という素晴らしい肖像がありました。

36 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「泉」
豊満な裸体の女性がこちらを観て微笑みながら髪を触る仕草をしている様子が描かれている作品です。割とこの作品も輪郭が分かりやすいかな。健康的な美しさを感じさせ、これぞルノワールの裸婦といった感じの典型的な作品に思えました。
 参考リンク:公式サイトの「作品紹介」

34 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」
こちらは今回の一番の目玉作品で、ビュールレは1949年にモデル本人から購入したそうです。横向きに座る8歳の少女を描いたもので、赤っぽい髪が広がり子供とは思えない気品ある表情を浮かべています。やや古典主義的な雰囲気もある素晴らしい肖像なのに、描いた当時はあまり理解されずに注文主は不満だったというのがちょっと意外。ちなみにこのイレーヌは90歳くらいまで生きたのですが、この後 激動の人生が待っていたようです。そうした事を考えながら観ると、より思い入れが増す作品かもしれません。間違いなく傑作です。
 参考リンク:公式サイトの「見どころ」

ということで、今回の展示は有名画家の作品が目白押しとなっています。何度か観たことがある作品もちらほらあって、各画家の代表作とも言える作品も含まれているので、美術初心者にもお勧めです。後半は印象派以降のゴッホを始めとするポスト印象派の作品が並んでいましたので、次回は残りの6~10章についてご紹介しようと思います。

 → 後編はこちら
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