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マーグ画廊と20世紀の画家たち―美術雑誌『デリエール・ル・ミロワール』を中心に 【国立西洋美術館】

今日は写真多めです。前回ご紹介したベラスケスの展示を観た後、国立西洋美術館の常設にある版画素描展示室で「マーグ画廊と20世紀の画家たち―美術雑誌『デリエール・ル・ミロワール』を中心に」を観てきました。この展示は撮影可能でしたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 マーグ画廊と20世紀の画家たち―美術雑誌『デリエール・ル・ミロワール』を中心に 

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018marg.html

【会場】国立西洋美術館 版画素描展示室
【最寄】上野駅

【会期】2018年2月24日(土)~2018年5月27日
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間40分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は第二次世界大戦の直後にパリで設立された「マーグ画廊」に関連する版画展です。マーグ画廊はエメ・マーグと妻のマルグリットによって設立され、20世紀を代表する画家たちと親交を結ぶと共に若手に発表の機会を提供するなど 戦後フランスの美術界を牽引した画廊だそうで、大画廊へと発展していったそうです。エメ・マーグは元々小さな版画工房を営んでいたそうで、出版事業に情熱を注ぎ1946年に「デリエール・ル・ルミロワール(鏡の裏)」を創刊し、1982年の終刊まで253号が刊行されたそうです。「デリエール・ル・ルミロワール」は画廊での展覧会のカタログでもあり、精巧な複製の作成や同時代の文筆家の詩や論評を組合せたり、本誌のためにオリジナルリトグラフが作成されるなど 様々な試みがあったようで、この展示では「デリエール・ル・ルミロワール」と共にマーグ画廊とゆかりの深い6人の版画作品を展示していました。詳しくは気に入った作品の写真を使ってご紹介していこうと思います。

ゲール・ヴァン・ヴェルデ 「デリエール・ル・ミロワール 第1号(1946年12月刊)表紙」
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こちらは記念すべき創刊号。マティスの提案によって行われた「黒はひとつの色彩である展」のカタログとして発刊されたようで、モノクロの先進的な表紙となっています。

まずはボナールから紹介されていました。エメ・マーグとマルグリットは南仏のカンヌでアルテという版画工房を営んでいたそうで、カンヌの近くのル・カネに住んでいたボナールと出会う機会があり、それによってマーグに転機が訪れたようです。

ピエール・ボナール 「『インゼル・ポートフォリオ』:大通り」
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簡素化された描写が軽やかで、通りの喧騒が伝わってきそうな感じがします。ボナールらしさが版画でも活きた感じ。

ピエール・ボナール 「デリエール・ル・ミロワール 第158-159号(1966年4月刊)《『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター》(表紙)」
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こちらは1894年の作品ですが、ボナールの死後に回顧展を行った際に表紙に採用したそうです。ボナールもエメ・マーグの版画技術を高く評価していたそうです。

続いてマティスもありました。マティスも南仏のヴァンスに住んでいた時にボナールの紹介で知り合ったそうです。マーグ画廊の最初の個展がマティスだったというのだから物凄いスタートダッシュですw

アンリ・マティス 「版画を彫るアンリ・マティス」
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版画を一心不乱に掘る自画像。ちょっと目が怖いくらい真剣ですw

アンリ・マティス 「木かげの長椅子の若い女」
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こちらは着色されていませんが、マティスっぽさがよく伝わる作品。マティスは数点しか展示されていませんでしたが、いずれも簡素な線描で優美に表現されていて、流石としか言いようがありません。私の最も好きな画家の筆頭候補です。

続いてはキュビスムの創始者の1人ブラックの作品が並んでいました。ブラックはマティスの娘の紹介で出会ったそうで、専属契約も結んでいたようです。

ジョルジュ・ブラック 「フォックス」
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右のあたりにFOXという文字の入った作品。ブラックならではの画風ですが、まだ若い頃の雰囲気があります。(これは1911年に描かれたものを復活させたものです。) 幾何学の組み合わせがリズミカルで好みでした。

ジョルジュ・ブラック 「デリエール・ル・ミロワール 第138号(1963年5月刊)《たばこの箱》」
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こちらもブラック。非常に洒落た雰囲気で、ピカソとは違った落ち着きと調和を感じさせます。

ジョルジュ・ブラック 「デリエール・ル・ミロワール 第138号(1963年5月刊)《パピエ・コレ》」
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ブラックは良い作品が多く、これも先程と同じ号のようです。コラージュや多面的な捉え方など、版画においてもブラックらしさがよく出ています。

ジョルジュ・ブラック 「葉、色、光」
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こちらはちょっと驚いた作品。色は独創的ですが、あまりキュビスムっぽくなくてこういう作風もあったんですね。

続いてはシャガールのコーナー。大戦中はアメリカに亡命していたシャガールですが、1948年にフランスに帰国していて、マーグはシャガールの娘に連れられてアトリエを訪れて専属契約を結んだそうです。

こんな感じでシャガールの作品がずらりと並んでいました。デリエール・ル・ミロワールに最も多くオリジナル版画を残したのはシャガールだったそうです。
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リトグラフに熱中したシャガールだけあって、リトグラフでもその色合いは油彩に近いものを感じます。

マルク・シャガール 「デリエール・ル・ミロワール 第66-67-68号(1954年6月刊)《花咲く河岸》」
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この深い色彩が油彩にも負けない情感を生み出していました。モチーフもお馴染みのものが多かったかな。

マルク・シャガール 「赤い鶏」
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鶏もシャガールの得意の画題です。こちらは元々はデリエール・ル・ミロワールのために制作されたものが、後に単独作品として発行されたのだとか。

続いては今回のポスターにもなっているミロの作品が並んでいました。ミロは1947年にマーグ画廊で開催された「シュルレアリスム国際展」に参加したそうで、この展示を企画したブルトンやデュシャンの紹介で出会ったようです。

ジョアン・ミロ 「デリエール・ル・ミロワール 第14-15 号(1948年11月刊)表紙
・裏表紙」

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この明るく伸びやかな色合いが版画でもしっかり表現されています。裏表紙がすごく自由な感じw

ジョアン・ミロ 「デリエール・ル・ミロワール」 (発行年を失念…)
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恐らく星や月などミロの絵でよく出てくるモチーフを描いたものだと思います。軽やかな色彩が非常に洒落ています。

ジョアン・ミロ 「デリエール・ル・ミロワール 第87-88-89号(1956年6月刊)表紙」
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こちらは今回のポスターにもなっている作品。文字の部分はミロ-アルティガスと書かれているそうで、アルティガスとはミロの同郷の友人で陶芸家らしく、アルティガスとその息子が作った陶芸作品をマーグ画廊で発表していたようです。それにしてもこの独特の色の組み合わせが天才的です。

最後はカンディンスキーのコーナーです。カンディンスキーは特にマーグ画廊と知り合いという訳ではなく、1944年には亡くなっています。しかしカンディンスキーの妻のニーナがマーグ画廊を信頼して亡き夫の作品の販売・管理を委託したという経緯で個展が開催されるようになったようです。当時は今ほど他の画家に比べて知名度が無かったらしいのでマーグ画廊が果たした役割は大きかったのかも。

ワシリー・カンディンスキー 左:「『小さな世界』: IV」 右:「『小さな世界』: VI」
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ここには「小さな世界」という作品が12点ほど並んでいます。3つの異なる版画技法を使い分けていたようで、それぞれ雰囲気が違いつつも一目でカンディンスキーだとわかる個性がありました。何とも躍動感ある抽象画です。

ワシリー・カンディンスキー 「デリエール・ル・ミロワール 第60-61号(1953年10月刊)《「白の上に II」のための習作》」
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こちらも意味は分かりませんが、抽象とも具象とも言えないものが踊るように響きあっているのが非常に心地良かったです。


今回の展示にはありませんでしたが、マーグ画廊は他にもレジェやジャコメッティ、コールダーなどとも懇意にしていたようです。


ということで、それほど規模は大きくないものの、巨匠の版画がぎゅっと詰まった展示となっていました。マーグ画廊という存在を知ることができたのも参考になり、これまでになかった切り口だったように思います。この展示は常設扱いなので無料観覧日に観ることができたり、ベラスケスの展示の半券で入ることもできますので、期間内に国立西洋美術館に行く機会があったら覗いてみると楽しめるのではないかと思います。予想以上に面白い展示でした。

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