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東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村 【板橋区立美術館】

2週間ほど前に板橋区立美術館で「20世紀検証シリーズ No.6 東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村」を観てきました。

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【展覧名】
 20世紀検証シリーズ No.6
 東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村

【公式サイト】
 http://www.itabashiartmuseum.jp/exhibition/2017-exhibition/ex180224.html

【会場】板橋区立美術館
【最寄】西高島平駅

【会期】2018年2月24日(土)~4月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はかつて1930年代に池袋に画家たちが集ったアトリエ村「池袋モンパルナス」と、そこにいた画家が中心となって沖縄に作った「ニシムイ美術村」をテーマにした内容となっています。日本の洋画家の展示を観ているとちょくちょく名前を観る池袋モンパルナスですが、こうしてまとまって紹介される機会はあまりなかったのでこの展示は楽しみにしていました。
簡単に概要を書くと、1930年代の池袋にはアトリエ付き住宅が立ち並び、北海道から沖縄まで各地の画家が集まったそうです。そこはエコール・ド・パリの時代に異邦人の芸術家たちが集まったモンパルナスになぞらえて池袋モンパルナスと呼ばれ、画家だけではなく文学者や音楽家などもいたようです。1941年からの太平洋戦争の頃には自由に発表できる場は失われましたが、戦後に池袋モンパルナスは再建され、シュルレアリスムを始めとした自由な活動が再開されました。一方、沖縄でも池袋や落合で過ごした名渡山愛順らを中心に1948年にニシムイ美術村が設立され、数多くの画家が集ったようです。
今回はそうした2つの芸術村の画家たちの作品を5つの章に渡って紹介していて、前半の3つの章は池袋モンパルナス、後半の2つの章はニシムイ美術村となっていました。詳しくは各章ごとにご紹介していこうと思います。


<第1章 落合に暮らす画家たち>
まずは池袋モンパルナスの前の時代についてです。1920年代の目白・落合一体は東京郊外として整備が進められモダンな邸宅の並ぶ目白文化村やアビラ村と名付けられた住宅街がありました。この辺には満谷国四郎、金山平三、佐伯祐三といったヨーロッパ帰りの画家や音楽家も集まっていたそうで、この章にはそうした画家の作品が並んでいました。

佐伯祐三 「下落合風景(テニス)」
土のコートにネットを張ってテニスをしている様子を描いた作品です。赤土なのが武蔵野の面影があって面白く、背景には立派な日本家屋があって長閑な雰囲気となっています。空は晴れ渡り、佐伯らしい濃厚な色彩と相まって爽やかな印象の作品となっていました。下落合ってこんな感じだったのかというのもよく伝わりました。

近くには林武や中村彝などの作品もありました。

金山平三 「風雨の翌日」
曇った空の下に広がる緑がかった海を描いた風景画で、左側は堤防とそこで作業している人などが描かれています。ぺったりとした滑らかな筆致で、どことなくマルケを思い起こすかな。風雨が過ぎ去ってもまだ晴れ間が出ない海の雰囲気がよく出た作品でした。

満谷国四郎 「裸婦」
渓流を背景に後ろ向きに立つ裸婦を描いた作品です。顔だけやや振り返っている姿で、強めの輪郭を使って表現しています。ちょっとセザンヌ的な表現にも思えますが、流れるようなプロポーションが美しい裸婦像でした。

松本竣介 「郊外」
全体的に濃い緑の中、白い建物と人の姿が描かれた作品です。これも落合あたりの風景なのかは分かりませんが、色合いが深くて叙情性のある画面となっています。松本竣介らしい落ち着いた雰囲気で好みでした。


<第2章 「池袋モンパルナス」と戦時下の画家たち>
続いては池袋モンパルナスの初期から戦時までのコーナーです。池袋はアトリエ付き住宅の長屋が建設され、安い家賃で入居することができた為に画家や画学生たちに人気を博したそうで、主にフォーヴィスムやシュルレアリスムに関心を持つ画家が集まりました。全盛期には日本全国のみならず海外や海外帰りの画家なども集っていたようです。
しかし第二次世界大戦が始まると警察も出入りするようになり、共産主義と結びついて考えられていたシュルレアリスムは弾圧の対象にもなったようです。そんな戦時下の1943年でも「新人画会」という靉光や麻生三郎らが参加した展覧会が行われ、直接 戦争とは関係のない作品を発表し信念を貫いていたようです。また、この頃は古典絵画に関心を示していたようです
ここにはそうした時代のフォーヴやシュルレアリスムの作品が並んでいました。

長谷川利行 「新宿風景」
放浪の画家と呼ばれた長谷川利行も池袋モンパルナスに出入りしていたようです。これは新宿の大通りと街並みを粗く厚塗りした筆致で描いた作品で、かなり簡略化されていますがリズミカルに表現していました。人間とか最早 記号のように見えますが、素早い感じが面白い作品です。

この辺には長谷川利行による靉光の肖像や、当時の池袋の写真などもありました。

難波田龍起 「ヴィナスと少年」
こちらはミロのヴィーナスと、その前で座り込んで片手を挙げ仰ぎ見ている少年?を描いた作品です。背景には浮かぶように描かれた神殿があり、シュールな空間となっています。淡い色彩やくすんだマチエールがますます超現実的な雰囲気を強めつつ、静かな印象となっていました。心象風景のような作品です。

靉光 「鳥」
目の黒い鳥の頭部らしきものが描かれ作品です。手前には葉っぱや花が非常に暗めの色彩で描かれていて、全体的に死を感じさせる雰囲気が漂っています。シュールさも相まって観ていて不安を覚えるような画面ですが、1点だけ赤の花も目を引きました。不思議な魅力の作品です。

麻生三郎 「形態 A」「形態 B」
赤い不定形の内蔵のようなものが描かれた作品が2点並んでいました。どちらも小作品でくすんだ色で表現されています。これも不気味さがありましたが独特の色合いが面白く感じられました。
麻生三郎は古典的な画風の自画像もありました。

この辺はシュルレアリスム的な作品が多かったかな。重い色調で暗い感じがするのが流行っていたのかも。

野見山暁治 「マドの肖像」
全体的に焦げた茶がかった横向きの女性が描かれた作品です。赤い服を着て虚ろな表情を浮かべていますが、重めの色彩でどっしりとした感じが出ていました。野見山暁治は抽象的な表現のイメージがありますが、この頃はまだまだ具象的な表現のようでした。


<第3章 戦後の「池袋モンパルナス」>
続いては戦後についてのコーナーです。戦時中にアトリエが焼けたり画家たちが戦地で亡くなるなど、池袋モンパルナスにも戦争のダメージがあったようですが、戦後に再建され労働争議や基地闘争など社会の歪みを描く画家が集まっていたそうです。また、戦時中に描くことが許されなかったシュルレアリスムも改めて試みたようで、ここにはそうした作品も並んでいました。

古沢岩美 「飛べない天使(おうむ)」
真っ赤な胴体の鸚鵡らしき生き物を描いた作品で、羽は緑や黄色などカラフルな色となっています。顔は濃い化粧のスカーフをした女性となっていて、背景は砂漠に工場のようなシュールな光景になっています。ハンドバッグを肩掛けして強い目でこちらをチラッと観る様子が印象的で、パン助かなと思いましたが詳細は不明です。タイトルも意味深な感じとなっていました。

この辺には世相を皮肉ったような感じの作品が並んでいました。

桂川寛 「おんどりと鉄骨」
建設中の鉄骨ビルと、鳥かごに入った雄鶏が描かれた作品です。2つは左右に並んでいて雄鶏は身を屈めて窮屈そうに観えます。まるでビルが鳥かごを比喩しているように見えて、皮肉めいたものを感じました。

作者不詳 「きぬこすり」
こちらは占領下の頃に米兵向けのお土産として描かれた「きぬこすり」と呼ばれる作品です。米兵の写真をアトリエ村の画家が受け取り、絹布に油彩で描いてお金に変えていたようで、ここには数点の米兵の家族らしき肖像が並んでいました。普通のアメリカ人女性や子供、軍人などが写実的に描かれていて、芸術品というよりは似顔絵みたいな感じでした。当時の画家がこうして生計を建てていたのが伺える資料でした。


<第4章 描かれた沖縄>
続いては沖縄についてのコーナーです。1930年代以降、沖縄と東京の画壇は東京で学んだ沖縄出身の画家を通じて関係を深めたそうで、沖縄行きの航路の時間が短縮されることによって観光地としても注目され、藤田嗣治や北川民次なども訪れたそうです。藤田の滞在は沖縄でも大々的に伝えられ、講演会や展覧会も行われたそうで藤田自身は沖縄の風物や女性に関心を持ちました。他の沖縄を訪れた画家たちも同様に沖縄の自然や伝統的な街並み、琉装の女性たちなど沖縄特有の画題を描いたそうで、それが東京の展覧会で話題となると、沖縄出身の画家たちも沖縄をテーマとした作品を描くようになったようです。ここにはそうした沖縄らしい作品が並んでいました。

藤田嗣治 「孫」
緑の茂る中に、老婆と2人の姉弟と思われる子供が地面に座っている様子を描いた作品です。3人共 濃いめの褐色の肌をしていて、紅型のような柄の服を着ています。背景の緑も色合いが濃い目で藤田嗣治にしては全体的に色が対比的に感じられます。一方で極細の線描は藤田らしさも感じるかな。日本でありながら異国情緒がある沖縄の力強い生命力を表しているように思いました。

北川民次 「沖縄風景」
こちらは石垣か家の壁がいくつも並んでいる様子が描かれたもので、中央付近にはやや黒めの植物が生い茂っています。うねるような表現が面白く、リズム感が感じられるかな。沖縄の強い日差しや石を使った建築など、本土とは違う風土を上手く表しているように思いました。

この近くには野見山暁治や鳥海青児などの作品もありました。いずれも沖縄の風景を描いたものでした。


<第5章 沖縄・ニシムイ美術村とその周辺>
最後はニシムイ美術村についてです。沖縄戦で大打撃を受けた沖縄ですが、戦後の米兵統治下で沖縄文化の保護育成に熱心な者がいたらしく、沖縄の芸術家たちに肖像画やクリスマスカードを制作させるなど支援をしていたようです。しかしそれが廃止されると画家たちは「沖縄美術家協会」を設立し、1948年にはニシムイ美術村を建設しました。その際、指導的な役割を担ったのが学生時代に東京のアトリエ村で過ごした名渡山愛順や山元恵一といった画家だったそうです。名渡山は沖縄の女性や舞踊を描き、山元はシュルレアリスムを描くなどニシムイの画家たちの方向性は様々だったようですが、沖縄の美術を造るという志は同じだったそうです。そんな高い志を持った画家たちでしたが、度重なる台風の被害や道路建設でニシムイ美術村は長続きしなかったそうです。それでも現在も続く沖展の審査に携わるなど、戦後の沖縄美術の流れを作ったようで、ここにはそうしたニシムイ美術村の画家たちの作品が並んでいました。

名渡山愛順 「沖縄の女」
こちらは沖縄らしい髪型の女性が、頭の後ろに右手を枕にして寝ている様子を描いた作品です。浴衣のような服も恐らく沖縄の衣装かな。周りには派手な色の敷物や静物もあって、それも洒落た雰囲気を出しているのですが、何と言ってもモデルのポーズと対角線上に配置された構図が素晴らしく、女性の顔も沖縄美人といった感じでした。これはこの展覧会でも特に見どころの作品だと思います。

この辺にあった南風原朝光という画家の作品も良かったです。まだまだ地方には知られざる良い画家がいますね。

山元恵一 「貴方を愛する時と憎む時」
こちらは砂漠のような所にレンガの壁やマネキン、卵型や様々な形の置物?などが描かれた作品です。一見してダリやデ・キリコ、イヴ・タンギーなどを彷彿とさせるシュルレアリスムらしい作品に思えます。割と色が濃いめなのがちょっと新鮮な感じがするかな。シュルレアリスムをよく研究していたのが伺える作品でした。

大城皓也 「戦場へ行く」
こちらは真っ赤な空を背景に、燃え盛る野を行進する3人のアメリカ兵を描いた作品です。1968年作なのでベトナム戦争へ向かう兵士たちの姿かな。荒涼とした野に炎、兵士の担ぐ袋にとまる鴉など死を感じさせる雰囲気があり不吉な予感がします。こうした沖縄の戦後史を感じさせる作品もあって驚きました。

この辺には戦車が丘を進む様子を描いた作品などもありました。やはり戦争と沖縄は深い因縁があった頃だけに題材にもなっているようです。

安次富長昭 「キビを喰う男」
これは真っ赤な肌の裸の男が白いサトウキビを噛み締めている様子を描いた作品です。目がギョロッとしていて、サトウキビというよりは鬼が骨を齧っているような鬼気迫るものを感じました。この展覧会の中でも特にインパクトの強い作品です。

最後には占領下の頃のクリスマスカードが並んでいました。どれもクリスマスとは思えない暖かい沖縄の風景や風物を描いたもので、当時の沖縄の様子が伝わってくるようでした。


ということで、様々な画風の画家の作品を楽しむと共に池袋モンパルナスとニシムイ美術村について知ることができました。予想以上に良かったので図録も購入しました。(1300円とお買い得) ちょっとマニア向けな内容にも思えますが、絵画ファンには嬉しい展示ではないかと思います。
なお、板橋区立美術館はこの展示の後、2019年6月頃まで改修工事のため休館となるようです。ちょっと行くのがしんどい所にありますが、これだけ良い展示なので休館前に足を運んでみるのもよろしいかと思います。
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