関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

灰野文一郎展 【宇都宮美術館】

3週間ほど前の日曜日に宇都宮に遠征して宇都宮美術館で「灰野文一郎展」を観てきました。

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【展覧名】
 灰野文一郎展 

【公式サイト】
 http://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

【会場】宇都宮美術館
【最寄】宇都宮駅

【会期】2018年1月28日(日)~4月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は栃木県を中心に活動していた宇都宮ゆかりの灰野文一郎という洋画家の回顧展となっています。私はこの画家を知らなかったのですが、展覧会の情報を観て気になっていたので、他の観光と合わせて観に行った感じです。
簡単に概要を説明すると、灰野文一郎は1901年に新潟県で生まれ、学生の頃は小樽で育ったようで、高校在学中には後のプロレタリア作家の小林多喜二などと共に絵画サークルで制作や展覧会を開いていたそうです。その後は教師になったようで、1926年から宇都宮商業学校で教鞭をとり、戦後は作新学院(甲子園でもよく名前が出る宇都宮の学校)でも教えていました。
画家としては1936年に文展鑑査展に初入選したそうですが、翌年の1937~38年に中国に出征することとなり胸に弾丸を受けて入院を余儀なくされたそうです。そして戦後になると日光や高原山などをよく描くようになり、その雲は「灰野の雲」と呼ばれるようになったそうです。この展覧会ではそうした灰野文一郎の作品を初期作品から75歳で亡くなる晩年まで4章構成で展示していましたので、各章ごとに簡単に気に入った作品をご紹介していこうと思います。(同じ名前の絵が複数あるので作品番号も併記しておきます)

<第1章 初期から終戦まで>
まずは初期から終戦までのコーナーです。この時期には1932年に下野美術展で第一席を取るなど、一定の評価を得ていたようです。

1 灰野文一郎 「海の見える丘(快晴の日)」
画面中を茶色の丘と緑の草が覆っていて、遠くには海とそこに浮かぶ船が描かれた風景画です。丘は うねるような地層のような感じで、ざらついたマチエールと濃い色彩で描かれ、輪郭線もあることから力強い印象を受けました。若い頃から独特な画風を持っていたように思える作品でした。

この辺には履歴書とか教員の免状なんかもありましたw 学校の先生をしながら画家もやっていたんですね。

16 灰野文一郎 「静物(卓上静物)」
こちらは下野美術展で第一席を取った作品で、卓上にある品々を描いた静物となっています。皿に乗った魚、ポット、野菜、ローソク、バイオリンなど様々なものがあり、赤いテーブルクロスに色が映えています。平坦で若干バランスが非現実的な感じが セザンヌを思わせますが、力強い色彩がフォーヴのようなものも感じさせるかな。多様な近代絵画からの影響を自身で再構成している様子が伺えて面白い作品となっていました。

この辺には同様の静物や、肖像画、道を描いた作品などもありました。

20 灰野文一郎 「高原に炭を焼く」 ★こちらで観られます
こちらは文展鑑査展で入選した作品で、横2mくらいある大作です。2人の炭焼き作業者が沢山の木片の間で炭を焼いている様子が描かれ、ほっかむりをして厳しい表情を浮かべています。背景は高原の夕暮れといった感じで、やや荒涼とした雰囲気が漂います。作業も自然も厳しそうな感じですが、どこか労働者の讃歌のような威厳を感じました。

この辺は宇都宮の大谷石の採掘場辺りの風景画もありました。


<第2章 戦後1960年代まで>
続いては戦後から1960年代頃までのコーナーです。灰野文一郎は出征した際に負傷して帰国しましたが、その後しばらく新潟にいた時期があったようです。そして終戦前後に新潟から宇都宮へと戻り、1947年には作新学院の講師になっています。また、1947年の第一回栃木県芸術祭では企画委員を手がけるなど活躍したそうで、1960年には栃木県の文化功労者にもなっています。戦後以降は那須や日光、塩原、高原山などを描いて周ったようで、この章には山を描いた作品が結構あります。一方で1940~50年代には菊やヒマワリ、紫陽花などを描いた作品もあるようで、白日会や日展に出品していたようです。ここにはそうした作品も含めて展示されていました。

36 灰野文一郎 「あじさい」
真っ赤な背景に紫陽花の花が描かれた作品です。かなり簡略化されていて、やや抽象がかって見えるかな。赤地に緑の葉などが強烈な対比に見えてこれまでの画風とは異なる趣きのように思えました。隣にも同様の紫陽花を描いた作品がありましたが、こちらは少し色が抑え気味で落ち着いた雰囲気だったかな。

この辺には同様に真っ赤や真っ黒を背景にした菊の絵などもありました。

41 灰野文一郎 「逆光のひまわり」
溢れんばかりのヒマワリが花瓶に入っている様子を描いた作品です。タイトル通り逆光となっていて、影でどす黒くなって枯れているようにすら見えます。日の当たった部分は生命感があって、その対比が面白い効果となっていました。

43 灰野文一郎 「八月の那須山」 ★こちらで観られます
雄大にそびえる山と、手前の緑の野や木々が描かれた作品です。空には灰色のダイナミックな雲があり、深い色合いと相まって 全体的にどっしりとした印象を受けます。一方で8月らしい生命感や明るさもあって、中々見事な山景となっていました。

この辺には山を描いた作品が多数並んでいました。季節感があって、雲も多様な形をしています。

51 灰野文一郎 「松が峰教会」 ★こちらで観られます
こちらは雪景色の教会を描いた作品です。手前には柵が水平に並び、リズミカルな感じもします。枯れ木が両脇に描かれているなど全体的に寂しい雰囲気で、建物が西洋風なこともあって日本ではないような光景となっていました。この画家は本当にこうした季節感や叙情性を表現するのが得意だったのではないかと思います。

52 灰野文一郎 「秋(日光)」
黄色や茶色に染まった山を描いた風景画です。山の斜面が暗く夕暮れの光景だと思うのですが、空には流れる雲があり寂しい秋の雰囲気が強く感じられます。本当に雲についてはどの作品も様々な色形となっていて、画家の観察眼と臨場感ある表現力に関心させられました。

58 灰野文一郎 「長崎県富津」
入り組んだ港湾を見下ろす感じで描いた風景画で、港には漁船らしき船がたくさん停泊し、岬には家や田畑が広がっています。画面が縦長で水平線をかなり高めに取っている構図が面白く、海は遠くまで見渡せるような絶景となっていました。やや魚眼レンズのように歪んで見えるのも面白い効果があって、この展覧会でも特に気に入った作品となりました。

この辺には同様の長崎の富津を描いた作品もありました。特に解説には無かったけど、この頃旅行にでも行ったのかな? 他にも男鹿半島の海岸の岩場を描いたと思われる作品なんかもありました。


<第3章 1970年代>
続いては晩年の1970年代の頃のコーナーです。この時代の山景画の山は以前よりやや小さく描かれるようになり、一方で空と高原が大きく描かれるようになったようで、これは戦争中に観た中国の雄大な景色が根底にあるとのことです。また、灰野文一郎は「栃木県の風景の中から那須を発見したことを画家として本当に幸せだと思っている」と語っていたそうで、ここには那須を始めとした山を描いた作品がずらりと並んでいました。

69 灰野文一郎 「冬の高原」
こちらは冬の山と高原を描いた風景画です。中央に山、その上に空、手前には高原という構図は今まで観た作品と共通ですが、確かに山がこれまでより小さめに描かれていて、その分だけ高原と空が大きく描かれています。特に雲は存在感が増していて、山の何倍もの大きさとなっていました。また、空の色も青から緑と叙情性があるのですが、それ以上に抽象画のような大胆な筆致になっていて驚きました。

この辺は似た感じの大型作品が並んでいて壮観な展示風景となっていました。

80 灰野文一郎 「冬の高原」
こちらも先程と同じような構図で描かれた風景画です。上から順に空、雲、夕焼け、山、草原、林、雪原となっているのですが、均等に画面が分割されているような構成が面白いです。筆致や雲の形もますます大胆で晩年でも画風が進化し続けていたことが伺えました。


<第4章 素描、スケッチなど>
最後は素描とスケッチのコーナーです。亡くなる前年の1976年11月に「裸婦素描画展」を開催したそうで、灰野文一郎にとって人物だけの展示も素描の発表も初めての機会だったそうです。ここには主にそうした晩年の作品が並んでいました。

90 灰野文一郎 「裸婦」 ★こちらで観られます
横になって身体をひねる裸婦を描いた作品です。結構、肉感的に描かれていますが肩のあたりのバランスが妙な感じに見えるかな。裸婦はそれほど得意ではなかったのか、割と普通な感じの作品が多かったように思います。

99 灰野文一郎 「富津」
こちらは1962年頃の作品。先程ご紹介した港を見下ろす風景画によく似た素描で、畑の所にだけ緑が塗られています。この作品は横長ですが、繰り返し似た構図で描いているのでよほど気に入った場所だったのかもしれません。前章の油彩と比較して観られるのも面白い趣向でした。


ということで、全然知らない画家でしたが面白い作品が多くて楽しめました。中々まとまって観られる機会も無さそうなので図録も購入しました。巨匠の展示ばかりではなく、こうした地元密着の良い画家の展示をやってくれるのが地方の美術館の素晴らしいところです。残りの会期も少ないですが、ご興味ある方は是非足を運んでみてください。
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