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日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ― 【パナソニック 汐留ミュージアム】

前回ご紹介した展示を観る前に汐留(新橋)のパナソニック 汐留ミュージアムで「パナソニック創業100周年特別記念展 日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ―」を観てきました。この展示は2週間しか会期がないので、優先してご紹介しておこうと思います。

DSC03292.jpg

【展覧名】
 パナソニック創業100周年特別記念展 日本の四季 ― 近代絵画の巨匠たち ―

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/18/180402/

【会場】パナソニック 汐留ミュージアム
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2018年4月2日(月) ~4月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいて、会場が狭めなこともあって所によっては列を組んで観るような感じでした。

さて、この展示は松下電気器具製作所(現パナソニック)の創設100年を記念したもので、パナソニックが所蔵する近代日本画家による日本画・洋画を春夏秋冬の季節ごとに章分けして展示するものです。画家同士や作品同士の繋がりは特にないのですが、著名な画家の作品が並び季節感に溢れた画題ばかりでした。詳しくは展示構成に従って各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<春>
まずは春の画題のコーナーです。日本画と洋画が順不同に並んでいました。

伊藤小坡 「醍醐の花」
こちらは満開の桜の下、扇子を持って薄布を被った着物の女性と、その後ろで赤い傘を持つ男の子が描かれています。花見をしている女性は気品ある雰囲気で、伊藤小坡らしい理想的な美人像です。、解説によると、これは豊臣秀吉の開いた醍醐の花見から取材したのではないかと考えられるとのことでした。この季節にぴったりな華やかな作品です。

林武 「椿」
こちらは真っ赤な椿と緑の葉っぱが描かれた洋画で、物凄い厚塗りとなっています。色も重厚で、ステンドグラスのような印象すら受けるかな。緑と赤がお互いを強調して力強い雰囲気となっていました。

前田青邨 「双鯉」
こちらは水の中を2匹の鯉が泳ぐ様子を描いた日本画です。青が鮮やかで爽やかな雰囲気があるのですが、ムラのある独特のマチエールが水の中にいる様子を表現しているようでした。解説によると、これはミョウバン液を下地に施した後に顔料を塗り重ねているようで、表現の工夫が見て取れて面白かったです。


<夏>
続いて夏のコーナー。こちらも日本画と洋画が入り混じった内容となっていました。

小野竹喬 「厳島」
青や緑の山を背景に、海の中に立つ鳥居を描いた日本画です。タイトルからも広島の厳島神社と推測されるかな。鳥居が小さく描かれているので自然の雄大さを感じます。軽やかな線描と柔らかい色彩で描かれていて、竹喬らしい優しい雰囲気と夏の明るさが感じられる作品でした。

横山操 「暁富士」
画面一杯にオレンジ色の富士山が描かれ、手前には松の木々が描かれた日本画です。重厚な色彩で一見すると洋画のようにすらみえました。作品自体も大きくて見栄えのする富士図です。

梅原龍三郎 「牡丹図」
こちらは花瓶に入った牡丹がかなり簡略されて描かれている洋画です、背景は黄土色で牡丹の色が映えます。筆跡が強く残っていて大胆な表現ですが、華やかな印象を受けるのが流石と言った感じでした。

中川一政 「ばら」
濃い茶色を背景に花瓶に入った赤やピンクの薔薇と、ミカンのような3つの果実を描いた洋画です。花瓶には横向きの人の顔も描かれていますが、この作品もかなり簡略化されていて辛うじて分かる程度です。太い輪郭線も使われていて、力強い印象を受けると共に生命感が画面にあふれているようでした。

中川一政のばらはこの他にも2点ありました。割とそれぞれ違った画風に見えたかな。

中村岳陵 「燕子花」
こちらは燕子花(かきつばた)の花と葉っぱを軽やかな色彩で描いた日本画です。燕子花はデザイン的な簡略化や平面的な表現となっていて、題材と共に琳派的な雰囲気が感じられます。しかし、少ない色数でこれだけ可憐に見せてくれるのも面白く、静かな画面となっているのも不思議な感じで好みでした。

小倉遊亀 「メロン」
こちらは古九谷と思われる鉢に入ったメロンと、その脇に置かれた徳利を描いた日本画の静物です。その下には銀のお盆があり、それぞれの質感が異なって表現されているのが見事ですが、それ以上に楕円、円、球といった丸い品々がそれぞれ響き合うような構図となっているのが面白かったです。色合いも爽やかで好みの作品でした。


<秋>
続いては秋のコーナーです。

堂本印象 「朝陽」
こちらは2幅対の掛け軸で、左幅は針?に糸を通す坊さんが描かれ、右幅は三毛の母猫と白猫・黒猫・三毛猫・灰虎の4匹の子猫が描かれています。一見するとお互い無関係な題材で、猫が可愛いという感想に終始してしまいそうな感じかなw しかしこれは禅の古典から着想を得ているそうで、猫を描いた方は通常は月に読経する様子が描かれるのですが、ここでは身近で分かりやすい存在として猫にしているようでした。この辺は古典を知らないと理解できないですが、中々変わった表現で興味を引きました。

橋本明治 「舞妓」
こちらは展覧会の最後に記念撮影のスポットに複製がありましたので、それを使ってご紹介。
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紅葉の着物を着ているのが秋っぽいところかな。輪郭線が軽やかで、姿勢と相まって流れるような描写が優美に見えます。顔はちょっと好みじゃないけど、微笑んで愛らしい雰囲気をたたえていました。

竹内栖鳳 「錦秋」
こちらは曲がりくねった柿の木の枝を描いた日本画です。勢い良く描かれていて生命感を感じると共に、木の葉などは滲みを使って秋の風情を感じさせます。右上には鳥の姿もあり、厳しい冬への備えをする様子も表われていました。

熊谷守一 「紅葉」
こちらはかなり単純化が進んだ洋画で、山の紅葉を描いているはずですが、点々と赤くなっている程度ですw 輪郭線はなく全て色面で表現されていて、手前は緑、中景は茶色、後ろの山は青というように色で距離感を出しているようでした。
 参考記事:没後40年 熊谷守一 生きるよろこび (東京国立近代美術館)

東山魁夷 「山峡朝霧」
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、六曲一隻の屏風です。立派な木々が並ぶ山の斜面に霧が立ち込める様子が描かれ、墨の濃淡でその空気感が緻密に表現されています。右下には滝が流れ落ちる様子も描かれていて、深山の趣きと湿気が感じられるような幽玄の世界となっていました。長谷川等伯の作品を想起するような素晴らしい作品です。


<冬>
最後は冬のコーナーです。やはり雪景色が多かったように思います。

石本正 「雪景図」
冬の雪山を描いた日本画で、枯れ木が無数に並び寂しい雰囲気が漂います。何処と無く西洋のフランドル絵画を思わせるような光景となっていて、自然の厳しさと静けさを感じさせました。

川合玉堂 「雪景の図」
こちらは展覧会の最後に記念撮影のスポットに複製がありましたので、それを使ってご紹介。
DSC03297.jpg
掛け軸で、水辺の村に雪が積もった家々や農作業する人の姿が見受けられます。伝統的な漢画風にも思えますが、この雪の部分は白く塗っているわけではなく元々の余白の白さを活かす外隈のような表現となっていて、これは円山応挙が「雪松図」でも用いた技法です。川合玉堂も勿論そのことを知っていたはずなので円山四条派を意識して描いたのではないかとのことでした。寒さの中でも人々の営みが感じられ、何処か郷愁を誘う作品です。
ちなみに、この作品の複製ではスマフォのアプリを使うとARで雪が降って見えるという仕掛けが用意されていました。今回はこのアプリで解説も読めるみたいなので、DLしてみても良いかもしれません。
 参考記事:国宝 雪松図と花鳥 -美術館でバードウォッチング-(三井記念美術館)

速水御舟 「橙の図」
こちらは金地に枝付きの黄色い橙を2つ描いた日本画です。表面には赤い点々があったり、枝の切り口がリアルに表現されているなど全体的に写実的な感じがするかな。その観察眼に感心する一方で、気品ある雰囲気に仕上げているのが見事でした。小さい絵ですが、好みの作品でした。

竹内栖鳳 「兎」
こちらは草むらで伏せている兎を描いた日本画です。ちょっと眠そうな顔をしているのが可愛らしく、ヒゲや体毛は勢いのある細い線で描かれていて毛の柔らかさまで感じられました。それにしても兎って題材的に冬なのかな?w

最後辺りには見ごたえのある杉山寧の作品なんかもありました。


ということで、日本の近代の有名画家がずらりと名を連ねる豪華な内容となっていました。これだけ見ごたえがあるのに会期がたった2週間というのは何とも勿体無い気がします。この記事を書いている時点で会期は残り1週間となっていますので、気になる方はお早めにどうぞ。
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