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くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 (感想後編)【東京ステーションギャラリー】

今回も写真多めで、前回に引き続き東京ステーションギャラリーの「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」についてです。前回は上階の展示をご紹介しましたが、今回は下階について写真を使ってご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらい
 前編はこちら

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【展覧名】
 くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201803_kengo.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2018年3月3日(土)~5月6日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
上階に比べると下階のほうが鑑賞スペースが広めなので、若干混雑が緩和した感じがしました。後半はちょっと章立てが入り組んでいたので、実際の展示順ではなく素材別にご紹介していこうと思います。


<土>
下階の最初にあったのは土をテーマにしたコーナーです。土は固体・液体・気体(ほこりのような状態)の3つの間を漂っている素材と言えるそうで、日本では昔から土を建築に持ち込もうとしていました。そんな親しみある土ですが、ここでは新たな使い方をした作品が並んでいました。

隈研吾 「虫塚」
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こちらは虫を供養する為のモニュメントで発案者は脳科学者で虫好きでもある養老孟司 氏だそうです。虫かごの迷路のように見えますが…w

こちらは実際の虫塚の写真。鎌倉の建長寺にあるのだとか。
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ステンレスメッシュにガラス繊維と現地の土を接着剤をまぶして吹き付けているそうで、このような素材感になっているようです。この斬新な構造も驚きですが、土を使っていることも意外です。

他にも日干し煉瓦や苔の生えた建築など、土を大胆に使った作品が並んでいました。


<石>
続いては石のコーナーです。隈研吾 氏はガウディの建築を観て石が好きになったそうで、石を塊として使おうと心がけるようになったようです。そうすることで石には内部構造があり、方向性のある繊維も見えてきたようで、それに気づいて生物と生物以外との境界線も消滅するように感じたようです。ここにはそうした石の素材を使った建物の模型などが並んでいました。

隈研吾 「石の美術館」
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こちらは大正時代の石蔵を増改築した「石の美術館」で使った芦野石の石組み。石だけあって堅牢な印象を受けます。

実際の建物はこんな感じで、栃木県にあるようです。
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ここでは光を透かす大理石を厚さ6mmにして組み込んだりしているようです。同じ石でも特性によって使い分けるとは流石です。

隈研吾 「ストーンカードキャッスル」
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トランプのカードキャッスルから着想を得た作品。10mmの砂岩の薄い板が使われているようで、軽やかな印象すら受けます。

こちらはヨーロッパでの展示の様子。
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これを観る限り石には見えませんw しかしこの砂岩はミケランジェロも好んだフィレンツェの砂岩なのだとか。割と軽いのかな?

隈研吾 「ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ」
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こちらは部屋の真ん中にあった巨大な模型。イギリスのスコットランドの建物で、横に無数にギザギザして見える部分は地層から着想を得たようです。

こちらが実際の写真。
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水辺で形が逆の台形になっているので石舟のようにも見えるかな。陰影が見事なアクセントになっています。

隈研吾 「LVMH Osaka」
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こちらはホワイトオニキスをガラスでサンドイッチにした素材。これを使って発光するファサードを作ったそうで、オニクスはわずか4mmしかないそうです
横から見るとガラスに挟まれているのがよく分かります。模様も独特で、面白い素材でした。


<瓦>
続いては瓦やタイルのコーナーです。アジアでもヨーロッパでも家は木と瓦(タイル)との組み合わせで作られたとも言え、その土地の瓦はその家の建つ環境によって焼成温度や釉薬が決められるそうです。その為、瓦はその場所を構成する環境が可視化されているとも考えられるようで、ここにはそうした瓦(タイル)を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「セラミッククラウド」
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こちらはセラミックタイルでガラス繊維メッシュをサンドイッチして作った素材を使っているそうです。非常に先進的な印象を受けますが、何の建物かは分からずw イタリアの草原の中に建っているそうです。

隈研吾 「新津 知・芸術館」
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こちらは中国の道教の聖地に建つミュージアム。地元の野焼きで作られる粗くランダムな表情を持つ瓦をワイヤーに固定して使っています。瓦と言うと屋根のイメージですが、まさか側面に使うとはw


<金属>
続いては金属のコーナー。隈研吾 氏は自由に形が変わる形状記憶合金と出会うことで金属を友人や生き物のように感じて金属の実験を始めたそうです。形状記憶合金を用いる際には建築を強すぎず弱すぎず造るそうで、それによって形が変えられるようです。ここにはそうした金属を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「ポリゴニウム」
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こちらは先程の「ストーンカードキャッスル」で追求した形をアルミに応用した作品。ボルトやビスを使わずにピンを打ち込むだけで繋がっているようで、短時間で分解・増設が可能なのだとか。繋ぎの部分を作りやすいのも金属ならではなのかも。よーく観ると、板と板の間に6方向に繋がっている継ぎ目があるのが分かります。

隈研吾 「北京 前門」
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こちらは古い建物を保存しながらアルミのスクリーンを付けたプロジェクト。「透明なレンガ」を目指したデザインだそうですが、日中は庇にもなるそうです。中国風の文様のようにも見えるので古い建物にもマッチして見えました。これも細かく分解できるようで、将来的な増設にも対応可能なんだとか。


<樹脂>
続いては樹脂のコーナー。樹脂は工業的なイメージがありますが、隈研吾 氏はその自由さを突き詰めれば木にも匹敵する優しさや暖かさを示すことができると考えたようです。ここにはそうした樹脂の可能性を感じさせる作品が並んでいました。

隈研吾 「Water Branch House」
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こちらは自由に触って体験できる作品でした。変わった形のポリタンクみたいな素材で、ブロックのようにお互いを組合すことで自在に広がっていきます。組み合わせるのも簡単なので、実際にやってみると面白いと思います。中に冷水や温水を入れて一種の環境装置としても機能するのだとか。

隈研吾 「織部の茶室」
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カットしたプラスティックダンボールを結束バンドで固定して作った茶室。歪んだ形が古田織部の茶碗に似ていることから敬意を表してこの名前にしたそうです。何かの繭のような温かみと近未来的なデザインが融合しているようにも思えます。現地で手に入る材料(ポリカーボネート樹脂)に変えて世界各国で再現されたようで、応用力や汎用性にも優れていそうでした。


<ガラス>
続いてはガラスのコーナーです。隈研吾 氏は、ガラスは透明でも無でもなく物質として様々に振る舞うことに着目して、それを引き出そうと試みているそうです。また、ガラスは厚み(端部)が特に大事だと考えているようで、そこに重さや硬さがストレートに出てくるようです。ここにはそうしたガラスの特性を活かした作品が並んでいました。

隈研吾 「マルセイユ現代美術センター」
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こちらは障子のような半透過の効果をもつ外壁ユニットを使った建物。これで南仏の強い日差しをコントロールすると共に、内部・外部の視線もコントロールしているようです。実際の建物は1枚1枚ちょっとずつ角度が違っているようで、可変性に富んだファサードになっているようでした。

この近くではティファニー銀座も紹介されていました。あれも隈研吾 氏のデザインだったんですね。


<膜・繊維>
最後は膜や繊維のコーナーです。建築を柔らかくしたいと考えると、最も面白くて可能性のある素材は繊維だそうです。隈研吾 氏は布のように柔らかくてふわふわした建築に今一番興味があるそうで、ここにはそうした膜や繊維を使った作品が並んでいました。

隈研吾 「浮庵」
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こちらは石のコーナー辺りにありました。塩ビ製の風船にヘリウムガスを入れて浮かせて、スーパーオーガンザという世界最軽量のポリエステル繊維の布をかけて茶室としています。絶妙なバランスで浮いているようで、これには非常に驚かされました。これより軽い建築は無いのでは??w

隈研吾 「てっちゃん」
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こちらは廃材となったLANケーブルを再利用して、家具や照明、壁、天井を柔らかくふわふわした印象にしたもののようです。離れてみると毛糸の束のようにも見えるw 単なるリサイクルを越えた発想が面白かったです。

隈研吾 「Tee Haus」
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こちらも茶室。空気を入れて膨らますそうで、昔デパートの屋上にあったビニールのテントを思い起こしましたw ピーナッツみたいな丸みのある形もなんだか柔らかそうに見えます。

隈研吾 「New Shinagawa Station 品川新駅(仮称)」
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こちらは現在 計画が進んでいる田町駅と品川駅の間にできる新駅のデザイン。屋根が半透明の膜材となるそうで、障子のような効果が得られるようです。駅の中でも天気が感じられるそうなので、天気がいい日は明るいのかも。

隈研吾 「New Shinagawa Station 品川新駅(仮称)」
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品川新駅はもう1つ模型がありました。側面もガラス張りになっていて外光が入ってきそうです。中々開放感がありそうで完成が待ち遠しいです。


ということで、隈研吾 氏が伝統から着想を得たり様々な素材を研究して、それを活かす挑戦をしている様子がよく分かる展示となっていました。中には実験的なものもありますが、しっかりと実際の建物に機能的に応用されている点が面白かったです。最近は建築展が盛り上がりを見せていますが、建物好きはこの展示は特に見逃せないと思います。非常に満足度の高い内容でした。
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