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名作誕生-つながる日本美術 (感想後編)【東京国立博物館 平成館】

前回に引き続き東京国立博物館の 創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年 特別展「名作誕生-つながる日本美術」 についてです。前半は第一会場についてご紹介しましたが、今日は残りの第二会場についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。
 前編はこちら

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【展覧名】
 創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年
 特別展「名作誕生-つながる日本美術」

【公式サイト】
 http://meisaku2018.jp/
 http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1889

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅

【会期】2018年4月13日(金) ~ 5月27日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半は絵画作品が多めの内容となっていました。


<第2章 巨匠のつながり>
第二会場は2章からの続きとなります。俵屋宗達と伊藤若冲について展示されていました。

[宗達と古典]
俵屋宗達は人気の扇屋だった絵師で、古画の人物や場面をトリミングして再配置(コラージュ的な)するなど図様の転用が見られるようです。ここにはそうした様子が分かる作品が並んでいました。

52 俵屋宗達 「扇面散屛風」
こちらは8曲1双の屏風に48枚の扇が画中画のように描かれた作品です。それぞれの扇には「平治物語絵巻」からの引用が見られるようで、近くにある「平治物語絵巻」や写真と共に比較しながら観ることができます。図様はそのまんまですが、扇の向きを変えたりして自由自在にコラージュしている感じが面白く、軽やかなリズム感も生まれています。色彩鮮やかで たらしこみ等、琳派に受け継がれていく技法も確認できました。

[若冲と模倣]
{鶴の変容}
続いては最近では大人気の絵師となった伊藤若冲のコーナーです。伊藤若冲は独自の画風に思えますが、文正や沈南蘋に学んだことが知られています。ここでは若冲と同じく文正から学んだ狩野探幽の作品も含めて3者を比較するように並んでいました。

文正「鳴鶴図」 伊藤若冲「白鶴図」
海を背景に松の下で上を向く鶴と、羽を広げて舞い降りてくる鶴が描かれた作品で、全く同じ構図の2幅対の掛け軸が3セット展示されていました。文正の作品は松ではなかったり、若冲は海の文様が大胆だったりしますが、鶴自体は一見すると見分けがつかないほどです。どちらもかなり細かいですが、若冲のほうが透ける羽が細部まで丹念に描いているように見えるかな。この隣にはさらに同じ図様の狩野探幽「波濤飛鶴図」もあって、まるで間違い探しみたいな感じでしたw いかに若冲と探幽が文正の作品から学んでいたがよく分かる作品です。

{若冲の鶏}
こちらは若冲の代名詞とも言える鶏のコーナーです。

65 伊藤若冲 「仙人掌群鶏図襖」
こちらは金地の襖絵で、6枚の襖に多くの鶏が描かれています。また、左右の1枚ずつにはサボテンが描かれていて、日本画としては珍しいモチーフです。これは薬問屋の注文で作られたので、それを踏まえて描かれていると考えられるようです。 鶏については極彩色で細密に描かれ、尾などは躍動感のある表現となっています。たまにヒヨコなんかもいて可愛いw 解説によると、この作品は70代の頃の作のようですが、若い頃に描いた鶏を自己模倣して描いているのだとか。若冲の魅力が凝縮された作品でした。


<第3章 古典文学につながる>
続いては古典文学を題材にした作品のコーナーです。特に伊勢物語の八橋・宇津山・竜田川と、源氏物語の夕顔・初音の帖をテーマにした作品が並んでいました。

[伊勢物語]
72 尾形光琳 「八橋蒔絵螺鈿硯箱」
DSC_18222.jpg
※写真はかなり前に常設展示されていた時に撮影したものです。(今回の展示は撮影不可です)
蒔絵、金、螺鈿を使って作られた硯箱で、燕子花の花が螺鈿で輝くようになっています。これは在原業平が東下りの際に三河の八橋で見た燕子花をモチーフにしたもので、蓋の表面から側面をぐるっと周る感じで橋が並んでいます。橋の部分は鉛で出来ているようで素材の使い分けも見事です。遊び心とデザインの面白さを感じられる超名品です。

この辺には縫箔や打掛など、伊勢物語を題材にした文様の着物も展示されていました。

[源氏物語]
80 「夕顔蒔絵手箱」
こちらは蒔絵の手箱で、蓋には牛車がぽつんと置かれていて牛も人もいない情景が表されています。背景の垣根には夕顔らしき花が表されていて、これで源氏物語の夕顔との出会いのシーンを想起させるようになっています。(昔の教養人はこれで十分分かったのです) 夕顔も源氏もいない「留守文様」のため、静けさと共に物語の予感を感じさせる作品となっていました。

この近くには同様の意匠の能装束などもありました。

85 幸阿弥長重「初音蒔絵硯箱(千代姫婚礼調度のうち)」
こちらは大きな庭のある屋敷と、根引きの松、うぐいすなどが表された硯箱です。このモチーフだけで「初音」の帖であると分かる人は昔の人に負けない源氏物語のファンかもw この作品でも人の気配はなく、軒先で口を開けて鳴く黄金のうぐいすが目を引きました。このうぐいすが非常に可愛らしいので注目ですw また2箇所に葵の紋があるのですが、これはこの作品が徳川家光の長女 千代姫の婚礼道具だったためのようでした。この作品も非常に貴重なものですね。


<第4章 つながるモチーフ/イメージ>
最後はモチーフごとに各時代の作品が並ぶコーナーです。山水、花鳥、人物、古今のテーマで節分けされていました。

[山水をつなぐ]
こちらはさらに3つの項に分かれていました。

{吉野山}
94 「豊公吉野花見図屛風」
こちらは六曲一双の屏風で、何処まで言っても桜が咲いている吉野の山を題材としています。沢山の武士たちが連なっていて、その列の中に輿に乗った秀吉らしき姿も描かれています。これは秀吉が開催した有名な花見の様子を題材にしたものですが、当時の華やかな様子がよく伝わってくる作品でした。

この近くにあったMOA美術館が所有する尾形乾山の「色絵吉野山図透彫反鉢」や仁阿弥道八の「色絵桜楓文鉢」なども見事でした。

{富士三保松原}
ここは後期からのコーナーじゃないかな。前期はありませんでした。

{松林}
こちらは前期だけのコーナーです。

90 長谷川等伯 「松林図屛風」
DSC_23959.jpg
※写真はかなり前に常設展示されていた時に撮影したものです。(今回の展示は撮影不可です)
この作品も今回展示されていました。技術的には牧谿からの影響を感じますが、細かいことは忘れてこの世界に没頭したい作品です。

この近くには長谷川等伯の「山水松林架橋図襖」もありました。名前を売るために大徳寺に入って勝手に描いちゃったけど、あまりに見事だったのでセーフだったいうやつ(のうちの4面)で、「松林図屛風」に先行して似た雰囲気があります。こちらも必見ですね。
 参考記事:没後400年 特別展「長谷川等伯」 感想前編(東京国立博物館 平成館)

[花鳥をつなぐ]
続いては花鳥画のコーナーです。

{蓮}
蓮は独特の形や宗教的な動機からアジアで古くから盛んに描かれたモチーフで、宋時代に蓮池水禽図の形式が生まれたそうです。

104 「蓮池図屛風」
こちらは2曲1隻の日本現存最古の蓮池水禽図屏風で、鎌倉時代の作品です。満開の蓮の花と葉が描かれていて、水面には水鳥の姿もあり飛び立つ鷺?なども描かれています。輪郭線を使わず大ぶりな花が描かれ躍動感もあって古い作品とは思えない面白さがありました。

この近くにあった俵屋宗達・本阿弥光悦の「蓮下絵和歌巻断簡」や能阿弥の「蓮図」も非常に素晴らしい作品でした。

109 酒井抱一「白蓮図」
白い花に長い茎の蓮を描いた作品で、その後ろには大きな葉っぱが描かれています。下の方には つぼみもあって蓮の花の一生を1枚の中に表しているようです。色がモノクロにも感じられますが、かすかに緑や金も使われているのが分かります。簡潔な構図で静寂が漂い、儚さも感じられました。解説によると牧谿や宗達の水墨を念頭に仏画の手法も合わせているとのことでした。

{雀}
続いては雀のモチーフです。雀は北宋時代に描かれたものを範とした作品が並んでいました。(ここは3点のみ)

110 伝宋汝志 「雛雀図」
籠の中に入った5匹の雀の雛たちが描かれた作品で、籠のふちあたりには2羽が暴れて籠が倒れそうになっているようにも見えます。丸々として可愛らしい姿をしていて、かなり丹念な描写でリアルさもありました。

[人物をつなぐ]
続いては人物画の節です。

{戸をたたく男}
こちらは紫式部をからかった藤原道長が謝罪に訪れた際の逸話などをテーマにした作品が並んでいました。

113 「紫式部日記絵巻」
紫式部は浮気者だとからかう歌を詠んだ藤原道長が、謝罪に紫式部の部屋を訪れるシーンを描いた作品です。紫式部は畏れおののいて部屋の中で息を殺して伏せているようで、部屋の外に立つ藤原道長の呼びかけには応じていません。と言っても中は丸見えのような…w ちょっと変わった題材となっていました。

ここには岩佐又兵衛の「梓弓図」もありました。

{縁先の美人}
ここも後期からのコーナーじゃないかな。前期はありませんでした。

{交わされる視線、注がれる視線}
こちらは洛中洛外図や浮世絵の美人画が並ぶコーナーです。

124 菱川師宣 「見返り美人図」
こちらは教科書などにも載っていた有名作で、振り返る赤い着物の女性が描かれています。たまむすびという髪型で、帯は当時の流行のものとなっているなど、17世紀後半の最新のファッションに身を包んでいるようです。右に視線を向けていて何を観ているのかミステリアスな感じもあり、細い輪郭で描かれた流れるようなプロポーションが優美な印象となっていました。

[古今をつなぐ]
最後は江戸時代の浮世絵と岸田劉生を繋ぐモチーフのコーナーとなっていました。

{江戸の坂、東京の坂}
こちらは坂を描いた作品がありました。

128 岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」
DSC_7657.jpg
※写真はかなり前に東京近代美術館で常設展示されていた時に撮影したものです。(今回の展示は撮影不可です)
ここに来てまさかの近代絵画!w 古今東西の古画に学んだ岸田劉生の作品の中でもこちらは名作として名高い逸品です。坂の急な様子と強い日差しが感じられます。

この近くには北斎や広重が描いた坂の絵がありました。

{寒山としての麗子}
最後は寒山拾得図を元にした岸田劉生の作品が展示されていました。

130 岸田劉生 「野童女」
おかっぱで赤い着物を来た女の子を描いた作品です。これは岸田劉生が頻繁に描いた娘の麗子で、ニヤッとした顔をしていて妖怪みたいな顔つきとなっていますw この作品の隣にはこの作品を描く際に参考にした(写真を元に描いた)伝 顔輝の「寒山拾得図」もありました。見比べて観られるのは貴重な機会と言えるかも。確かに雰囲気が似ているのがよく分かりますが、濃厚な色彩で描いている点に岸田劉生らしさを感じました。
 参考記事:没後80年 岸田劉生 -肖像画をこえて (損保ジャパン東郷青児美術館)


ということで、まさに日本の華と呼ぶに相応しい超豪華な展覧会となっていました。私は結構観たことがある作品が多かったのですが、これだけ一気に有名作を観られる機会は中々無いと思います。日本美術の源流なども知ることができるので、美術初心者も楽しめるんじゃないかな。1ヶ月半と会期が短めで、入れ替えも細かくなっているので、お目当ての品がある方は事前にリストを観てお出かけすることをお勧めします。今季最も充実したラインナップの展示です

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