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ヌード NUDE -英国テート・コレクションより (感想後編)【横浜美術館】

前回に引き続き横浜美術館の「ヌード NUDE -英国テート・コレクションより」 についてです。前半は1~3章についてご紹介しましたが、今日は残りの4~8章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。
 前編はこちら

DSC04487.jpg

【展覧名】
 ヌード NUDE -英国テート・コレクションより

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/nude2018/

【会場】横浜美術館
【最寄】JR桜木町駅/みなとみらい線みなとみらい駅

【会期】2018年3月24日(土)~6月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半は神話に描かれたヌードから始まりヌード自体がテーマになっていく様子となっていましたが、後半は性との関わりや政治的な意味合いが込められた現代のヌード作品となっていました。

<4 エロティック・ヌード>
こちらは愛の行為に関するコーナーです。一気に性愛的な内容の作品が並んでいました。
 
50 オーギュスト・ロダン 「接吻」
こちらの作品だけは撮影可能となっていました。

結構な大きさの彫像で、等身大より大きめに男女が抱き合ってキスする様子が表されています。
DSC04504.jpg
男女共に肉感的で男性の手が結構大きく見えるかな。

横から見ると熱いキスをする様子がよく分かります。
DSC04507.jpg DSC04509.jpg
これはダンテの神曲に登場するフランチェスカと、夫の弟パオロとの悲恋が主題だそうで、当初は地獄の門の一部と構想されたようです。しかし真実の愛の悦びの作品なので地獄の門にはそぐわないと考えて独立した像となったようです。
それにしても大理石とは思えないほどに生き生きとした肉体です。理想的な美しさの男女となっていました。
 参考記事:《地獄の門》への道―ロダン素描集『アルバム・フナイユ』 (国立西洋美術館 版画素描展示室)

この辺にはターナーの作品やピカソのエッチング、同性愛をテーマにしたデイヴィッド・ホックニーの作品などもありました。特に接吻の後ろにあったホックニーの作品は男性同士の性愛描写が中々に強烈ですw


<5 レアリスムとシュルレアリスム>
続いては現実と超現実の2つの潮流とヌードについてのコーナーです。1920~40年代にはレアリスム(現実)とシュルレアリスム(超現実)という2つの動向がヌードを主導したようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

83 バルテュス(バルタザール・クロソウスキー・ド・ローラ)  「長椅子の上の裸婦」
椅子の上で手を広げて上を向いて寝そべる少女を描いた作品です。もちろん裸ですが、靴下と赤い靴だけ履いていてちょっと変態チックw 琴切れた人形のようなポーズと力無い表情がちょっと不気味かな。そう言えば最近、バルテュスの絵が猥褻だとかロリコンだと話題になりましたが、バルテュスがロリコンなのは間違いないw 本人は至って真剣だと思いますが、ある意味ヌードが芸術か猥褻かという永遠の課題を考えさせてくれますw

81 ポール・デルヴォー 「眠るヴィーナス」
こちらはシュルレアリスムの画家のデルヴォーの作品。ローマ神殿のような建物の前でベッドに横たわる裸婦が描かれ、その周りには天を仰ぐ他の裸婦たちの姿もあります。中には骸骨と対話するような貴婦人の姿もあって、奇妙な光景です。空の月が明るい月光を照らし、不穏な雰囲気すらあるかな。解説によるとこちらは博物館の人体模型などの展示物に触発されて描いたそうで、これを描いたのは戦争の爆撃被害に遭うような時だったそうです。だから死と親しげな感じの絵になったのかな? 割とデルヴォーの典型作品のように思えますが、興味深いエピソードでした。
 参考記事:ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅 (府中市美術館)

この辺にはデ・キリコの形而上絵画やマン・レイの写真と絵画も並んでいました。マン・レイはソラリゼーションという技法を使って写真なのに絵画のようにも思える作品が並んでいます。
 参考記事:マン・レイ展 知られざる創作の秘密 (国立新美術館)


<6 肉体を捉える筆触>
続いては戦後から2000年代くらいのコーナーで、絵の具の質感を活かした作品が並びます。

91 フランシス・ベーコン 「横たわる人物」
これはちょっと抽象的な感じもあるので対象がハッキリしない所もありますが、おそらくテーブル?の上の男性の裸体と鏡写しになった様子が描かれていると思います。解説によるとこれは友人の文筆家ミシェル・レリスがモデルだそうですが、人体は胸と足の部分がくっついて肉塊のように表現されているのが不気味です。青みを帯びた体の色合いもちょっと痛々しくて、ベーコン独特の画風となっていました。

この辺にはベーコンのスケッチなどもありました。
 参考リンク:
  フランシス・ベーコン展 感想前編(東京国立近代美術館)
  フランシス・ベーコン展 感想後編(東京国立近代美術館)

93 ルシアン・フロイド 「布切れの側に佇む」
こちらはグチャグチャの布を背景に、立っているのか寝ているのか分からない構図で裸婦が描かれた作品です。手を横にして力ないポーズなので寝ているのかな? ざらついたマチエールで布の立体感が強く感じられます。それにしても裸婦の儚そうな雰囲気のせいか何処と無く寂しげな絵に見えました。ちなみにこの画家は精神科医で有名なジークムント・フロイトの孫です。


<7 身体の政治性>
続いては政治的な意味を持つヌードのコーナーです。フェミニズムの画家たちによる男女の関係性を問いただすような作品が並んでいました。

105 バークレー・L・ヘンドリックス 「ファミリー・ジュールス:NNN (No Naked Niggahs[裸の黒人は存在しない])」
これは白いソファに腰掛けてこちらを見下ろすように観る黒人男性のヌードを描いた作品です。パイプを吸って尊大な印象を受けると共に、性器も大胆に露出させていてちょっとキツいw 白いソファなので体がより目立つ感じで、かなり細長の体型をしているかな。解説によるとソファに架けられたタオルには白人女性が描かれていて、その視線が男性に向かっているようです。また、作者はそれまで黒人の裸体が絵画に描かれてこなかったことに対して黒人の体に対する白人の恐怖感や性的固定観念に向き合ってこの作品を描いたようです。 …いや、気持ちは分かるんですけどね。露骨過ぎてw

この辺にはオダリスク(ハーレムの女性)を男に置き換えたような作品もありました。ロックスターをモデルにした男性裸体で、毛むくじゃらでこれもキツいw これも言いたいことは分かるんですけどね…。オッサンの毛むくじゃらとか正直観たくないw


<8 儚き身体>
最後は1980年代以降に制作された 儚く移ろいいくものとしてのヌードのコーナーです。大判の写真作品などが並んでいました。

126-128シンディ・シャーマン 「無題#97」「無題#98」「無題#99」
こちらは女性作家のセルフポートレートで、グラビアモデルが撮影を終えた直後という設定で演じています。歯向かうような眼差しをして疲れているようにも見えるかな。性的な目で観られることを拒否しているようにも感じられました。

132リネケ・ダイクストラ 「サスキア、ハルデルウェイク、オランダ、1994年3月16日」
こちらは出産して1時間後、1日後、1週間後の様子を撮った写真です。母子の裸をそれぞれ3組撮っているのですが、赤ちゃんはその名の通り真っ赤で生まれたての様子がよく表されています。泣いて抱きついている写真もあり儚くか弱い存在であることを認識させると共に、母親はしっかりした表情で強さを感じさせました。


ということで、後半はちょっと刺激の強い内容でした。現代になるほどアートに政治的な意味を持たせて来るのは時代の流れだと思いますが、そういうのは私の好みではありませんw (私は唯美的な方が好みです) とは言え、後半もヌードとは何かを問う意義深い内容で、単に名品を並べるだけの展示ではなく企画として面白かったと思います。ヌードは芸術か猥褻か、その線引を自分なりに考えてみる良い機会なのではないかと思います。

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