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光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識 【根津美術館】

前回ご紹介した根津美術館の庭園を観た後、特別展の「光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識」も観てきました。

DSC04903.jpg

【展覧名】
 特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識 

【公式サイト】
 http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

【会場】根津美術館
【最寄】表参道駅

【会期】2018年4月14日(土)~5月13日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいて、場所によっては列を組んで観るような感じでした。ゴールデンウィークの谷間の平日とは言えちょうど燕子花が満開の日だったというのもあるかな。

さて、この展示は毎年ゴールデンウィークにこの美術館で行われる琳派がテーマとなったもので、今年も「燕子花図屏風」を含む尾形光琳の作品が並んでいます。また、今回は弟の尾形乾山の作品もあり、兄弟の関わりについても取り上げていました。さらに今回は渡辺始興まで加わっていて、どういうこっちゃ?と思ったのですが、その辺も含めて各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 光琳の絵画 -水墨と色彩の相克と調和->
まずは尾形光琳の絵画作品が並ぶコーナーです。尾形光琳は俵屋宗達に私淑(自主的に研究して学ぶこと)したことで有名ですが、それだけでなく狩野派や雪舟、松花堂昭乗などもルーツとなっていると考えられるようです。ここではその様子も含めて紹介されていました。

1 伝 尾形光琳 「秋草図屏風」
こちらは恐らく光琳の作品と思われる2曲1双の屏風で、様々な秋草が咲いている様子が描かれています。菊?の花弁が厚く盛り上がっているのが立体的で、全体的に意匠化が進んだ感じの画風です。特にススキの葉などはリズミカルに描かれ、色合いも相まって軽やかな印象を受けました。菊の葉っぱなどには滲みを活かした「たらし込み」の技法も確認でき、俵屋宗達の伝統を受けているようです。解説によると、どちらかと言うと宗達から3代目の喜多川相説からの影響ではないかとのことでした。

2 尾形光琳 「燕子花図屏風」
こちらがこの美術館が誇る国宝の6曲1双の屏風です。過去に何度もご紹介したので詳細は下記をご参照して頂ければと思いますが、やはりこの作品は格別で、特にフォロワー達との違いは燕子花の配置にあるのではないかと思います。同じ図様を巧みに配する辺りには生家の雁金屋(呉服商)で磨かれたセンスが活かされているのかもしれません。しかし今回じっくり観てみると割とあちこち痛んで観えたので、そろそろ修復したほうが良いのでは?と余計な心配をしてみたり。
 参考記事:
  国宝燕子花図屏風〈琳派〉の競演 (根津美術館)
  KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」  (根津美術館)
  国宝 燕子花図屏風 2011 (根津美術館)
  国宝燕子花図屏風 琳派コレクション一挙公開 (根津美術館)

3 尾形光琳 「夏草図屏風」
こちらは2曲1双の屏風で、晩春から夏にかけて30種類近い草花が描かれています。対角線上に連なるように配置され、大胆かつ密度の高い構図となっています。こちらも意匠化されてはいますが、先程の燕子花図屏風に比べると写生的で、この絵の中の燕子花はスラリとした印象となっていました。花が川の流れのように描かれた面白い作品です。

4 尾形光琳 「太公望図屏風」
川の畔の岩山の下で 頬杖をついて寝ているような人物を描いた作品です。これは文王に仕えた太公望(呂尚)のようで、穏やかな顔をしています。一方、背景は大和絵っぽい濃厚な画面で、金・群青・緑などの鮮やかな色彩と柔らかい曲線が多用されるなど、面白いデフォルメ具合となっていました。

この隣には6曲1双の「白楽天図屏風」もあり、豪華な展示空間となっています。その後は掛け軸のコーナーです。

6 尾形光琳 「鵜舟図」
鵜飼の様子を描いた掛け軸で、薄っすらとした色彩と簡潔な筆致で描かれています。舟の先に篝火があり、鵜は魚を捕らえているようです。また、波は大きく描かれ全体的に動きを感じる作品に思えました。解説によると、こちらは宮廷の趣味を反映し、謡曲「鵜飼」に取材したとのことでした。

この近くにあった「李白観瀑図」は尾形光琳が狩野派にも学んでいたというのがよく分かる作品となっていました。

10 尾形光琳 「寿老人図」
こちらは今回の展示にあたり新たに発見された作品で、頭の長い寿老人が描かれています。衣は太い墨で描かれている一方、顔はやや細めに描かれていて、表現に強弱を感じるかな。特に頭は一筆描きのようにさらっと描いたような感じで、簡潔な表現が逆に光琳の技量の高さを伺えます。解説によると、これは即興的に描いたものらしいので、さらに感心しました。

12 尾形乾山作・尾形光琳画 「銹絵寒山拾得図角皿」
こちらは正方形の皿(角皿)で、2枚で対になって展示されていました。片方は巻物を持つ寒山、もう一方は箒を持つ拾得で、いずれも禅宗で取り上げることの多い、世俗を気にしない生き方をした修行僧です。それぞれの絵の脇には詩のようなものがあり、中身は読めませんが2人について書いているのかな? どちらも ゆるキャラみたいに簡素な描写で、伸びやかな印象を受けました。

この辺には同様の兄弟の合作が並んでいました。合作はこうした角皿の銹絵が多いように思います。竹や梅、牡丹を描いているのですが、いずれもゆる~い雰囲気ですw

17 尾形光琳 「深省茶碗絵手本」
こちらは乾山のために描いた茶碗の絵付けの絵手本です。松竹梅、布袋、馬、鹿などが描かれていて、右の方の手本には茶碗の輪郭の上に絵が描かれているのですが、3つめくらいから枠が無くなり、段々と茶碗にこんなの描けるの?ってくらい横長の自由な描写へとなっていきますw 馬や鹿はむしろ俵屋宗達と本阿弥光悦の合作を彷彿とさせる描写のようにも思えました。合作の制作の様子を示す面白い作品です。

21 渡辺始興 「寿老人図」
こちらは渡辺始興の作品。見た目は光琳の簡略化された水墨画のように見える作風で描かれてて、細部は狩野派を学んだのがベースになった描写となっています。渡辺始興は最近の研究で尾形乾山の焼き物に絵付けをしていたのが分かったようで、それを機に光琳風を学んでいたようです。これは意外というか、そんな繋がりがあったのかと驚かされる話でした。


<第3章 乾山の書画 -文人として、光琳風の継承者として->
続いては2章を飛ばして3章の内容となっていました(2章と混じってる) 乾山は70歳の頃に江戸に来て入谷に小さな窯を営んだそうですが、江戸での作陶の実態はあまり明らかになっていないようです。むしろこの時代の乾山は絵画が代表的な作品のようで、素人のような画趣と自賛の書が描かれた書画一致の作風が特徴のようです。光琳風の需要に応えて作った作品もあるのだとか。 ここにはそうした作品が並んでいました。

47 尾形乾山 「拾得図」
こちらは寒山拾得のうちの拾得(箒を持っている方)を描いた作品ですが、拾得は後ろ姿で描かれています。さらに体の右半分くらいは画面からはみ出ているのも特徴で、まるでこの画面から立ち去るような光景となっています。解説によると、乾山は兄をサポートする自らを拾得に なぞらえていたそうで、こうした作品を描いたようです。この辺はこの絵も含めて激ゆる というか子供の絵のような素朴な画風の作品が続きます。

53 尾形乾山 「武蔵野隅田川図乱箱」
こちらは正方形の箱で、中には墨で描かれた蛇籠や杭、白い波濤などが描かれ、空には5羽の金の千鳥の姿があります。簡略化が進み、波は猫の手のような形をしているのが何か可愛いw 側面にはカラフルな秋草が描かれ、軽やかな雰囲気があります。解説によると、これは江戸に来た自らの境遇を伊勢物語の東下りと重ねているようです。そんなセンチメンタルなエピソードとは裏腹にヒヨコみたいな鳥がゆるキャラみたいでしたw

この隣にも最晩年の波濤図があり、同様の猫の手みたいな波が描かれていました。

37 尾形乾山 「色絵竜田川文向付」
こちらは紅葉の葉っぱと川の流れが絵付けされ、周りが楓型のようになった皿です。10客セットで展示されていましたが全部異なる絵柄となっていて、赤・黄・緑の葉っぱと白い波濤といった感じで、色と形の取り合わせも映えています。流れるような印象を受けて、雅な雰囲気もありました。

この辺には藤原定家の歌を題材にした作品もありました。

62 63 尾形乾山 「桜に春草図」「紅葉に菊流水図」
こちらは対ではないのですが、セットで制作されたと考えられる2点の掛け軸です。春の方は桜や春の花々が咲く様子で、花弁が1枚1枚大きく素朴な描写となっています。秋の方は赤いモミジと、紅白の菊、群青の川などが描かれ、風流な雰囲気です。いずれも画中に詩が添えられていて、情趣溢れる作品となっていました。


<第2章 乾山のやきもの -絵のあるうつわ->
今回は上階の第5室にも特別展が続いていました。こちらには主に乾山の焼き物が並んでいました。

22 尾形乾山 「色絵定家詠十二カ月和歌花鳥図角皿」
こちらは狩野探幽の手本に基いて絵を描いた12枚セットの角皿です。裏には藤原定家の歌が描かれているようで、裏面は印刷でその様子が伺えるように展示していました。これも素朴な感じを受ける作品ですが、草花からは季節の趣が溢れ、静けさや空間の広がりのようなものも感じられました。

26 尾形乾山作・渡辺始興画賛 「銹絵蘭図角皿」
こちらは蘭が描かれた角皿で、渡辺始興が絵を担当しています。実際には「渡辺素心」に描いて貰ったと裏に書いてあるのですが、この渡辺素心は渡辺始興のことであるというのが最近判明したそうです。線の細い描写で描かれた蘭は可憐な印象でしたが、意外な組み合わせのほうが気になって仕方ありませんでしたw

42 尾形乾山 「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」
こちらは蓋のついた容器で、蓋の角は丸まった感じになっています。表面には金・銀・白・黒を使って幾重にも重なる松が表され、内側には白地に金などで波の様子が表されています。非常に卓越したデザイン性で、今回の乾山の焼き物でも特に素晴らしい逸品だと思います。

この近くには出光美術館の「色絵竜田川文透彫反鉢」もありました。これも見事な作品です。

43 尾形乾山 「銹絵染付金彩絵替土器皿」
こちらは今回のポスターにも載っている5枚セットの皿で、銹絵、染付、金彩といったそれぞれ異なる技法を組み合わせて作られています。ろくろを使わない手捏ねで成形しているので、やや歪んだ味わいがあって、技巧的なのか素朴なのか…w 海原に浮かぶ舟や流水など、デザイン的な絵も面白い作品でした。


ということで、割と観たことがある作品が多かったのですが、兄弟の傑作を楽しむと共に新しい説に驚く内容でもありました。会期が短くてもう残り1週間くらいしかありませんが、琳派が好きな方には満足度の高い内容ではないかと思います。気になる方はお早めにどうぞ。
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