プーシキン美術館展──旅するフランス風景画 (感想前編)【東京都美術館】
連休谷間の平日に休みを取って、上野の東京都美術館で「プーシキン美術館展──旅するフランス風景画」を観てきました。非常に見どころが多く充実した内容でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

【展覧名】
プーシキン美術館展──旅するフランス風景画
【公式サイト】
http://pushkin2018.jp/
http://www.tobikan.jp/exhibition/2018_pushkin.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年4月14日(土)~7月8日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
ゴールデンウィークの合間の平日でしたが、結構混んでいて列を組んで観るような感じでした。まだ始まってそれほど経ってないうちにこれだけ混んでいるので会期末は相当な混雑になるんじゃないかな。
さて、今回の展示はロシアの首都モスクワにあるプーシキン美術館のコレクション展で、その中からフランスの風景画を特に集めた内容となっています。5年くらい前にもプーシキン美術館展がありましたが、この美術館はフランス絵画が特に充実していて、今回は古典主義辺りから近代絵画までの名作が並んでいました。時代や主題によって6つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、プーシキン美術館の成り立ち等は以前ご紹介しておりますので、詳細は以下の記事をご参照ください。
参考記事:
プーシキン美術館展 フランス絵画300年 感想前編(横浜美術館)
プーシキン美術館展 フランス絵画300年 感想後編(横浜美術館)
<第1章 近代風景画の源流>
まずは17世紀後半から19世紀前半頃の作品が並ぶコーナーです。それまで絵画の中で風景画というのはオランダ絵画などの例外を除くと一般的には立場が低く、宗教画や歴史画が主流の中でその背景程度に思われていました。しかし18世紀後半になると、ようやく1つの画題として定着していきます。ここではその黎明期の作品が並んでいました。
1 クロード・ロラン(クロード・ジュレ、通称ル・ロラン) 「エウロペの掠奪」 ★公式サイトで観られます
白い雄牛に乗るフェニキアの王女エウロペを描いた作品で、背景には海とそこに浮かぶ船などが描かれています。陸では牛が沢山休んでいたり人々が集っていて神話の理想的な風景のようにも思えますが、海には帆船や砦などがあって現実的な雰囲気もあるかな。しかしこの絵は神話画で、エウロペが乗っている雄牛は彼女を拐おうとしているゼウスが変身した姿です。この時代は風景はおまけみたいなポジションであるのも分かる1枚です。
5 ジャン= バティスト・マルタン 「ナミュール包囲戦、1692年」 ★公式サイトで観られます
こちらはナポレオンの妻ジョゼフィーヌが所有していた作品で、ルイ14世の頃の戦いを描いたものです。丘から鳥瞰する構図で、川の対岸の丘にある砦を攻めている様子が描かれていて、煙が立ち上っているのが分かります。手前には兵士たちの姿もあり、恐らくもう勝った後なんじゃないかな。解説によると、この作者は「戦いのマルタン」と呼ばれたそうで、こうした戦争物を得意としたようです。主題としては歴史画ですが、遠近感がしっかりした風景画としても見事な作品でした。
7 ニコラ・ランクレ 「森のはずれの集い」 ★公式サイトで観られます
こちらはルイ15世の元で活躍した画家による雅宴画(フォト・ギャラント)と呼ばれるジャンルの作品です。ギターを持って横たわる赤い服の男と、帽子の女に抱きつこうとして拒否されている青い服の男、さらにそれを観ている数人の人物の姿が描かれています。滑稽な場面が面白いのでそこに目を奪われますが、背景に注目すると野山が広がっていて雲に霞む様子や廃墟など巧みな表現で雄大な景色となっていました。これもまだまだ風景は脇役といった感じです。風景抜きでも面白いしw
9 フランソワ・ブーシェ 「農場」
こちらは水車のある農家と橋が描かれ、円筒形の建物や周囲の木々が生い茂る様子なども描かれています。農民たちの日常といった光景で、牧歌的な雰囲気です。緻密で明るい画風も相まって楽しげに思えました。こうした主題はこの頃には珍しいんじゃないかな。
11 クロード=ジョゼフ・ヴェルネ 「日没」 ★公式サイトで観られます
これは夕日を背景に入港してくる船を描いたもので、離れて観た時にクロード・ロランの作品かと思いました。全体的にオレンジがかった叙情的な光景で、風景そのものが主題となった感じです。この隣には対になる日の出の港を描いた作品もありました。解説によると、この作者はイタリアに20年滞在したそうで、その影響がこの作品に出ているそうです。
13 ユベール・ロベール 「水に囲まれた神殿」 ★公式サイトで観られます
こちらは廃墟画を得意としたユベール・ロベールによるもので、イタリアの遺跡で観たことをベースにして描いた作品です。海に囲まれた神殿が描かれ、あちこち壊れていて廃墟っぽいのですが、周りには沢山の人が遊んでいて平和な雰囲気があります。その人たちとの比較で神殿の大きさも分かり、古代への憧れと共に悠久の歴史や神秘性も感じました。 解説によると、実際にはこんなに壊れていない様子を描いたスケッチも残っているようで、想像で描いた部分もあるようです。
17 フェリックス・フランソワ・ジョルジュ・フィリベール・ジエム 「ボスポラス海峡」
こちらはトルコの海峡を描いた作品で、背景にはイスタンブールの町並みが霞んで観えています。海峡は狭くてむしろ川みたいに見えるかな。大きな帆船が目を引きます。全体的にオレンジがかっていて、遠くには大きなドームのモスク、手前にはターバンの男たちがいるなど異国情緒を感じさせました。
<第2章 自然への賛美>
続いては自然の風景を描いたコーナーです。19世紀は市民の時代となり、彼らは神話などではなく何気ない日常や現実と結びついた光景を志向したようです。ここには19世紀前半から後半にかけての作品が並んでいました。
19 ジュール・コワニエ/ジャック・レイモン・ブラスカサ 「牛のいる風景」
こちらは2人の画家による合作で、風景をコワニエ、動物をブラスカサが手がけています。木の倒れた野原で牛や羊が寝そべっている光景が描かれ、嵐の後なのかな? 動物はくっきりとした描写で毛並みや筋肉のつきかたなんかも見事です。一方の背景は理想的な光景となっていて古典絵画からの影響を感じさせました。お互い得意ジャンルを描いているだけあって、完成度の高い作品です。
21 ジャン=バティスト=カミーユ・コロー 「夕暮れ」
こちらは夕焼けを背景に立つ背の高い木々と、その下で2人の人物が空を眺めている様子を描いた作品です。明暗が強く、暗い森のおかげで夕日が輝いて見えます。細部はそれほど細かく描かれておらず、ぼんやりと柔らかい雰囲気となっていました。コローらしい叙情的な作品です。
23 ギュスターヴ・クールベ 「水車小屋」
大きな水車のある川の流れが描かれ、そこにいる手を繋いでいる母子と、その後ろの人物も描かれた作品です。荒々しい描写で細部はハッキリしないのですが陰影や川の飛沫などその場の様子がよく伝わってきます。この辺は現実をつぶさに描いたクールベならではの観察眼でしょうか。
この隣にもクールベの「山の小屋」(★公式サイトで観られます)というスイス亡命中に描いた作品があり、粗目の筆致が活かされた素晴らしい出来となっていました。
26 レオン=オーギュスタン・レルミット 「刈り入れをする人」 ★公式サイトで観られます
こちらはミレーから影響を受けた画家による、農村での麦の刈り入れ風景を描いた作品です。2人の女性が後ろ姿で描かれ、1人は藁束を持ち、もう1人は屈んでいます。割と大胆な筆致で描いているのですが、不思議と藁の質感が出ているのが面白いです。労働なので大変な光景だとは思いますが、色合いの軽さが明るく感じ、背景が広めなため開放的な印象も受けました。この画家はゴッホにも影響を与えたのだとか。
<第3章 大都市パリの風景画>
続いてはパリを描いた作品です。ナポレオン3世の時代にオスマン男爵によってパリは大改造されたわけですが、それ以外にもパリ・コミューンや普仏戦争からの復興によって街は大きく変わった時代だったようです。ここにはそうした19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリの街を描いた作品が並んでいました。
27 ピエール = オーギュスト・ルノワール 「庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰」 ★公式サイトで観られます
ピンクと青も縞模様のドレスの女性が、木陰のテーブルの男女に話しかける様子が描かれた作品です。みんな親しげに話している感じが出ていて楽しそうです。ルノワールにしては陰影が濃く感じられて、日差しの強さまで伝わってくるようでした。ここで座っている中にはモネの姿もあるのだとか。幸福が滲み出るような光景です。
28 ルイジ・ロワール 「パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)」
こちらはかなり大型の作品で、がらんとした十字路の上に白いモヤが漂っている様子が描かれています。これはパリの環状線の機関車の煙だそうで、機関車自体の姿は見えませんがその余韻が感じられます。モヤは雲や空と一体化していくような感じで、風景というよりはモヤが主役かな。大型作品なので、まるでその場にいるような臨場感もありました。
30 ジャン=フランソワ・ラファエリ 「サン=ミシェル大通り」 ★公式サイトで観られます
ドーム状の屋根のパンテオンを背景に多くの人や馬車が行き交う街の様子を描いた作品です。街頭や建物内に灯りがともって夕方の様子かな。さっきまで雨が降っていたのか路面が湿っていて光が反射するような感じです。建物や人は割と細かく描いてるのですが、地面はかなり大胆な筆致となっていて、軽やかな印象を受けました。当時の賑わいがそのまま現れたようなパリっぽさを感じる1枚でした。
32 エドゥアール =レオン・コルテス 「夜のパリ」
パリの大通りと歩道に行き交う人々を描いた作品で、道の両側にオレンジの電灯がともって夕暮れの光景となっています。多くの人や馬車が描かれているので雑踏の雰囲気と、灯りによる幻想的な雰囲気があってパリの町並みの美しさが詰まったような作品でした。
この章にはサン=ミシェル橋を描いたマルケの作品が2点ありました。これも好みだったので絵葉書を買いました。
ということで、前半から名品の数々が並んでいて、風景画の歴史も合わせて知ることができます。分かりやすい画題だけに美術初心者でも楽しめる内容じゃないかな。有名画家だけでなく割と知られていない画家の作品も多いので、美術ファンにも目新しいと思います。後半は印象派以降の画家達の名品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。
→ 後編はこちら


【展覧名】
プーシキン美術館展──旅するフランス風景画
【公式サイト】
http://pushkin2018.jp/
http://www.tobikan.jp/exhibition/2018_pushkin.html
【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年4月14日(土)~7月8日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_②_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4_⑤_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_4_⑤_満足
【感想】
ゴールデンウィークの合間の平日でしたが、結構混んでいて列を組んで観るような感じでした。まだ始まってそれほど経ってないうちにこれだけ混んでいるので会期末は相当な混雑になるんじゃないかな。
さて、今回の展示はロシアの首都モスクワにあるプーシキン美術館のコレクション展で、その中からフランスの風景画を特に集めた内容となっています。5年くらい前にもプーシキン美術館展がありましたが、この美術館はフランス絵画が特に充実していて、今回は古典主義辺りから近代絵画までの名作が並んでいました。時代や主題によって6つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、プーシキン美術館の成り立ち等は以前ご紹介しておりますので、詳細は以下の記事をご参照ください。
参考記事:
プーシキン美術館展 フランス絵画300年 感想前編(横浜美術館)
プーシキン美術館展 フランス絵画300年 感想後編(横浜美術館)
<第1章 近代風景画の源流>
まずは17世紀後半から19世紀前半頃の作品が並ぶコーナーです。それまで絵画の中で風景画というのはオランダ絵画などの例外を除くと一般的には立場が低く、宗教画や歴史画が主流の中でその背景程度に思われていました。しかし18世紀後半になると、ようやく1つの画題として定着していきます。ここではその黎明期の作品が並んでいました。
1 クロード・ロラン(クロード・ジュレ、通称ル・ロラン) 「エウロペの掠奪」 ★公式サイトで観られます
白い雄牛に乗るフェニキアの王女エウロペを描いた作品で、背景には海とそこに浮かぶ船などが描かれています。陸では牛が沢山休んでいたり人々が集っていて神話の理想的な風景のようにも思えますが、海には帆船や砦などがあって現実的な雰囲気もあるかな。しかしこの絵は神話画で、エウロペが乗っている雄牛は彼女を拐おうとしているゼウスが変身した姿です。この時代は風景はおまけみたいなポジションであるのも分かる1枚です。
5 ジャン= バティスト・マルタン 「ナミュール包囲戦、1692年」 ★公式サイトで観られます
こちらはナポレオンの妻ジョゼフィーヌが所有していた作品で、ルイ14世の頃の戦いを描いたものです。丘から鳥瞰する構図で、川の対岸の丘にある砦を攻めている様子が描かれていて、煙が立ち上っているのが分かります。手前には兵士たちの姿もあり、恐らくもう勝った後なんじゃないかな。解説によると、この作者は「戦いのマルタン」と呼ばれたそうで、こうした戦争物を得意としたようです。主題としては歴史画ですが、遠近感がしっかりした風景画としても見事な作品でした。
7 ニコラ・ランクレ 「森のはずれの集い」 ★公式サイトで観られます
こちらはルイ15世の元で活躍した画家による雅宴画(フォト・ギャラント)と呼ばれるジャンルの作品です。ギターを持って横たわる赤い服の男と、帽子の女に抱きつこうとして拒否されている青い服の男、さらにそれを観ている数人の人物の姿が描かれています。滑稽な場面が面白いのでそこに目を奪われますが、背景に注目すると野山が広がっていて雲に霞む様子や廃墟など巧みな表現で雄大な景色となっていました。これもまだまだ風景は脇役といった感じです。風景抜きでも面白いしw
9 フランソワ・ブーシェ 「農場」
こちらは水車のある農家と橋が描かれ、円筒形の建物や周囲の木々が生い茂る様子なども描かれています。農民たちの日常といった光景で、牧歌的な雰囲気です。緻密で明るい画風も相まって楽しげに思えました。こうした主題はこの頃には珍しいんじゃないかな。
11 クロード=ジョゼフ・ヴェルネ 「日没」 ★公式サイトで観られます
これは夕日を背景に入港してくる船を描いたもので、離れて観た時にクロード・ロランの作品かと思いました。全体的にオレンジがかった叙情的な光景で、風景そのものが主題となった感じです。この隣には対になる日の出の港を描いた作品もありました。解説によると、この作者はイタリアに20年滞在したそうで、その影響がこの作品に出ているそうです。
13 ユベール・ロベール 「水に囲まれた神殿」 ★公式サイトで観られます
こちらは廃墟画を得意としたユベール・ロベールによるもので、イタリアの遺跡で観たことをベースにして描いた作品です。海に囲まれた神殿が描かれ、あちこち壊れていて廃墟っぽいのですが、周りには沢山の人が遊んでいて平和な雰囲気があります。その人たちとの比較で神殿の大きさも分かり、古代への憧れと共に悠久の歴史や神秘性も感じました。 解説によると、実際にはこんなに壊れていない様子を描いたスケッチも残っているようで、想像で描いた部分もあるようです。
17 フェリックス・フランソワ・ジョルジュ・フィリベール・ジエム 「ボスポラス海峡」
こちらはトルコの海峡を描いた作品で、背景にはイスタンブールの町並みが霞んで観えています。海峡は狭くてむしろ川みたいに見えるかな。大きな帆船が目を引きます。全体的にオレンジがかっていて、遠くには大きなドームのモスク、手前にはターバンの男たちがいるなど異国情緒を感じさせました。
<第2章 自然への賛美>
続いては自然の風景を描いたコーナーです。19世紀は市民の時代となり、彼らは神話などではなく何気ない日常や現実と結びついた光景を志向したようです。ここには19世紀前半から後半にかけての作品が並んでいました。
19 ジュール・コワニエ/ジャック・レイモン・ブラスカサ 「牛のいる風景」
こちらは2人の画家による合作で、風景をコワニエ、動物をブラスカサが手がけています。木の倒れた野原で牛や羊が寝そべっている光景が描かれ、嵐の後なのかな? 動物はくっきりとした描写で毛並みや筋肉のつきかたなんかも見事です。一方の背景は理想的な光景となっていて古典絵画からの影響を感じさせました。お互い得意ジャンルを描いているだけあって、完成度の高い作品です。
21 ジャン=バティスト=カミーユ・コロー 「夕暮れ」
こちらは夕焼けを背景に立つ背の高い木々と、その下で2人の人物が空を眺めている様子を描いた作品です。明暗が強く、暗い森のおかげで夕日が輝いて見えます。細部はそれほど細かく描かれておらず、ぼんやりと柔らかい雰囲気となっていました。コローらしい叙情的な作品です。
23 ギュスターヴ・クールベ 「水車小屋」
大きな水車のある川の流れが描かれ、そこにいる手を繋いでいる母子と、その後ろの人物も描かれた作品です。荒々しい描写で細部はハッキリしないのですが陰影や川の飛沫などその場の様子がよく伝わってきます。この辺は現実をつぶさに描いたクールベならではの観察眼でしょうか。
この隣にもクールベの「山の小屋」(★公式サイトで観られます)というスイス亡命中に描いた作品があり、粗目の筆致が活かされた素晴らしい出来となっていました。
26 レオン=オーギュスタン・レルミット 「刈り入れをする人」 ★公式サイトで観られます
こちらはミレーから影響を受けた画家による、農村での麦の刈り入れ風景を描いた作品です。2人の女性が後ろ姿で描かれ、1人は藁束を持ち、もう1人は屈んでいます。割と大胆な筆致で描いているのですが、不思議と藁の質感が出ているのが面白いです。労働なので大変な光景だとは思いますが、色合いの軽さが明るく感じ、背景が広めなため開放的な印象も受けました。この画家はゴッホにも影響を与えたのだとか。
<第3章 大都市パリの風景画>
続いてはパリを描いた作品です。ナポレオン3世の時代にオスマン男爵によってパリは大改造されたわけですが、それ以外にもパリ・コミューンや普仏戦争からの復興によって街は大きく変わった時代だったようです。ここにはそうした19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリの街を描いた作品が並んでいました。
27 ピエール = オーギュスト・ルノワール 「庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰」 ★公式サイトで観られます
ピンクと青も縞模様のドレスの女性が、木陰のテーブルの男女に話しかける様子が描かれた作品です。みんな親しげに話している感じが出ていて楽しそうです。ルノワールにしては陰影が濃く感じられて、日差しの強さまで伝わってくるようでした。ここで座っている中にはモネの姿もあるのだとか。幸福が滲み出るような光景です。
28 ルイジ・ロワール 「パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)」
こちらはかなり大型の作品で、がらんとした十字路の上に白いモヤが漂っている様子が描かれています。これはパリの環状線の機関車の煙だそうで、機関車自体の姿は見えませんがその余韻が感じられます。モヤは雲や空と一体化していくような感じで、風景というよりはモヤが主役かな。大型作品なので、まるでその場にいるような臨場感もありました。
30 ジャン=フランソワ・ラファエリ 「サン=ミシェル大通り」 ★公式サイトで観られます
ドーム状の屋根のパンテオンを背景に多くの人や馬車が行き交う街の様子を描いた作品です。街頭や建物内に灯りがともって夕方の様子かな。さっきまで雨が降っていたのか路面が湿っていて光が反射するような感じです。建物や人は割と細かく描いてるのですが、地面はかなり大胆な筆致となっていて、軽やかな印象を受けました。当時の賑わいがそのまま現れたようなパリっぽさを感じる1枚でした。
32 エドゥアール =レオン・コルテス 「夜のパリ」
パリの大通りと歩道に行き交う人々を描いた作品で、道の両側にオレンジの電灯がともって夕暮れの光景となっています。多くの人や馬車が描かれているので雑踏の雰囲気と、灯りによる幻想的な雰囲気があってパリの町並みの美しさが詰まったような作品でした。
この章にはサン=ミシェル橋を描いたマルケの作品が2点ありました。これも好みだったので絵葉書を買いました。
ということで、前半から名品の数々が並んでいて、風景画の歴史も合わせて知ることができます。分かりやすい画題だけに美術初心者でも楽しめる内容じゃないかな。有名画家だけでなく割と知られていない画家の作品も多いので、美術ファンにも目新しいと思います。後半は印象派以降の画家達の名品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。
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多分、年に70~100回くらい美術館に行ってると思うのでブログにしました。写真も趣味なのでアップしていきます。
関東の方には休日のガイドやデートスポット探し、関東以外の方には東京観光のサイトとしてご覧頂ければと思います。
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