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プーシキン美術館展──旅するフランス風景画 (感想後編)【東京都美術館】

前回に引き続き上野の東京都美術館の「プーシキン美術館展──旅するフランス風景画」 についてです。前半は1~3章についてご紹介しましたが、今日は残りの4~6章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC05096.jpg

【展覧名】
 プーシキン美術館展──旅するフランス風景画

【公式サイト】
 http://pushkin2018.jp/
 http://www.tobikan.jp/exhibition/2018_pushkin.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年4月14日(土)~7月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前編では風景画の黎明期、自然、パリなどをテーマに印象派前後辺りの時代までご紹介しましたが、後半は印象派以降の作品が中心となっています。


<第4章 パリ近郊―身近な自然へのまなざし>
この章はパリ近郊の風景を描いた作品が並ぶコーナーです。ここには印象派やフォーヴィスムの作品などが並んでいました。

36 クロード・モネ 「草上の昼食」 ★公式サイトで観られます
絵画の世界に衝撃を与えたマネの同名の作品に刺激を受けて描いた今回のポスターの作品です。木々の下でドレスやスーツを着た男女がピクニックのように昼食を並べている様子が描かれ、後の妻となるカミーユや友人のバジールなどがモデルとして描かれているようです。これは20代後半の作品で結構な大きさなのですが、これでも下絵らしく完成作は6mを越えるサロンへの出品作だそうです。離れてみるとしっかりとした描写に観えますが、近づいてみるとかなり大きな筆跡となっているのが印象派らしい特徴かな。木漏れ日は白く描かれていたり、明暗が濃かったりと強い色彩を感じます。よく観ると木にはハートに矢が刺さった落書きがあって、幸せな雰囲気に包まれた作品でした。

モネは他にもジヴェルニーに住んだ頃に描いた「睡蓮」(自宅の庭の睡蓮と太鼓橋を描いた作品)や「ジヴェルニーの積みわら」などモネの定番の作品もありました。この辺は連作なので見慣れた感じですが良い出来栄えの作品です。
 参考記事:番外編 フランス旅行 ジヴェルニー モネの家

41 アルフレッド・シスレー 「オシュデの庭、モンジュロン」
こちらは郊外にある緑鮮やかな庭園と館を描いた作品です。この館は印象派をいち早く集めたオシュデの館なのですが、これを描いた時点で既に破産してこの館は人手に渡っていたようです。しかしここでは明るく爽やかな色使いで描かれ、春の気配が漂っていました。木々に光が当たり明暗が強く光を感じさせる作品です。

シスレーも3点ありました。3つの季節を感じさせる構成となっていて、最も印象派らしいと呼ばれた画風を楽しむことができます。
 参考記事:シスレー展 (コーモン芸術センター)南仏編 エクス

47 モーリス・ド・ヴラマンク 「小川」
こちらは小川とその畔の緑、遠くに赤い屋根の家々が見える光景を描いた作品です。川は緑を反射しているようで畔と一体化するような感じに見えます。細長い筆跡が無数に連なっていて、強い風で木々が揺らめいて見えるなど、画面に動きも感じられます。長閑な風景なのにダイナミックな雰囲気がヴラマンクらしい作品でした。

この近くにはマティスの作品もありました。ちょっと普段のマティスのイメージと異なる落ち着いた色彩の作品だったかな。

49 パブロ・ピカソ 「庭の家(小屋と木々)」
こちらは木、箱のような形の家、塀などを描いた作品です。恐らくピカソがキュビスムを描き始めた頃のもので、うねうねした感じと単純化された平面を使って多面的に描いています。色合いがくすんでいて落ち着いた雰囲気もあるかな。中々この時期の作品は見る機会が少ないのでじっくりと観てきました。

この辺で中階は終わりで、プーシキンのコレクションの礎となったコレクターたちの紹介もありました。ちなみに音声解説ではロシア好きな声優の上坂すみれさんがナビゲートしてくれます。私は何のアニメをやってる声優さんなのか知りませんが最近ロシア関連の番組でよく観る方ですね。


<第5章 南へ―新たな光と風景>
続いてはフランス中部から南部にかけての風景を集めたコーナーです。

51 ジャン・ピュイ 「サン= モーリスにある古代ローマの橋」
こちらはロワール川にかかる古代ローマの橋(橋脚のみ)と、その周りの光景を描いた作品です。水辺で裸の男女が水浴びをしていたり、釣りをしていたり、手前の道では犬を連れた女性が腰掛けていたり、ヤギたちの姿もあります。それぞれがバラバラな感じもしますが、のんびりした雰囲気です。全体的に強い光を感じるかな。この作者はフォーヴの画家ですが、穏やかな表現が独特で、どこかナビ派のような感じも受けました。

54 ポール・セザンヌ 「サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め」 ★公式サイトで観られます
こちらはプロヴァンスにある雄大なサント=ヴィクトワール山を描いた最晩年の作品です。細かい色面を重ねたような粗目のタッチで描かれ、木々はもはや何だか分からない位に大胆です。後のキュビスムの画家達はセザンヌを高く評価しましたが、むしろこの作品そのものがキュビスム的な要素が多々含まれていました。

ここにはセザンヌが3点並び、サント・ヴィクトワール山の風景を比べて観ることが出来ました。去年エクスで実際の山を観てきたので、私としては非常に嬉しい趣向でした。
 参考記事:
  セザンヌゆかりの地めぐり (南仏編 エクス)
  映画「セザンヌと過ごした時間」 (軽いネタバレあり)

55 ピエール・ボナール 「夏、ダンス」
こちらは大型の作品で、テラスから見下ろすように庭で遊ぶ娘たちや犬を描いています。全体的にオレンジがかっていて、カラフルで明るめの色彩が暖かいを感じさせます。細部はあまり描き込まれていませんが、悦びが溢れたような光景で、遠くの山まで見える絶景となっていました。どこか神話的な雰囲気も感じるのが面白いです。

56 アンドレ・ドラン 「港に並ぶヨット」 ★公式サイトで観られます
こちらは水辺に並ぶ沢山のヨットを描いたもので、水面などは横に粗く引いた線で表現されています。色は原色が多く使われ強烈な印象です。解説によると、これは1905年のサロン・ドートンヌに出品したもので、この展示の評論から「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれるようになったので記念すべき作品の1つのようです。筆致は荒々しいですが、ヨットがリズミカルに並ぶ様子が軽やかに感じられました。


<第6章 海を渡って/想像の世界>
最後はフランス国外や異国に憧れて描いた作品のコーナーです。

61 ポール・ゴーガン 「マタモエ、孔雀のいる風景」 ★公式サイトで観られます
タヒチの野山とそこにテントのような家を建てて暮らす人々を描いた作品で、手前には孔雀の姿もあります。焚き火をして半裸で斧を振る人の様子が描かれるなど、野性的な雰囲気となっています。深い緑や赤や黄色の大地など、お互いに引き立て合う色が響き合うように使われていて目に鮮やかです。これはゴーギャンがタヒチに渡った(1回目)際に描いたもののようで、右下にはMATAMOEと記載されているのは現地の言葉で「死」を意味するようで、文明人としての自己が死に、野生の人へと生まれ変わったという心境を描いているのではないかとのことでした。
 参考記事:
  ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)
  映画「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」(ややネタバレあり)

62 モーリス・ドニ 「ポリュフェモス」
こちらはギリシャ神話の1つ目の巨人ポリュフェモスをタイトルにしたもので、ポリュフェモスの物語は美しい海のニンフに叶わぬ恋をした話となっています。海辺の岩の上で笛を吹いているオッサンが恐らくポリュフェモスで、周りには帽子の女性や子供、裸婦などが遊んでいて楽しげな感じを受けます。女性たちは20世紀の現実の人のようで、神話と現実が混ざったような独特の風景をタイル画のような表現で描いていました。

63 アンリ・ルソー 「馬を襲うジャガー」 ★公式サイトで観られます
こちらは今回のポスターにもなった作品で、ジャングルの中で白い馬がジャガーに襲われて喉笛を噛まれている様子が描かれています。しかし襲われている割にはのほほんとした顔をしていて、ジャガーも抱きついているような感じがw 周りの木々は何の木か分からないうねうねした葉っぱとなっているなど、ルソーならではの不思議な世界が広がっています。解説によると、これらの木々は実際に見た光景ではなくパリの植物園や図鑑などを元に想像したもののようで、熱帯への憧れが感じられます。素朴ながらも強い色彩が野性的で生命力溢れる画面となっていました。


ということで、後半は有名画家の典型的な作品もある充実した内容となっていました。普段はこういうアラカルト的な展示は概ね満足しても大満足という程でもないのですが、今回は有名でない画家の名品もあったので非常に楽しめました。今期の展示の中でも特にお勧めの展示です。

おまけ:
会場を出ると記念撮影のコーナーもありました。
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