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人間・髙山辰雄展――森羅万象への道 【世田谷美術館】

前々回ご紹介した静嘉堂文庫の展示を観た後、世田谷美術館に移動して「人間・髙山辰雄展――森羅万象への道」を観てきました。この展示は前期・後期で大幅な展示替えがあるようで、私が観たのは前期の内容でした(既に後期の内容となっています)

DSC05119_20180522004947247.jpg

【展覧名】
 人間・髙山辰雄展――森羅万象への道 

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00188

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】
 前期:2018年4月14日(土)~5月13日(日)
 後期:2018年5月15日(火)~6月17日(日)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて今回の展示は髙山辰雄(1912~2007年)という つい最近まで活躍されていた画家の個展となっています。髙山辰雄は戦後画壇の最高峰として杉山寧、東山魁夷ともに「日展三山」と称された画家で、静かで深い精神性を感じさせる作風となっています。この美術館のある世田谷で人生の後半を過ごして創作の拠点としていたようで、今回は生まれ故郷の大分県立美術館の所蔵品と共に70年に渡る画業を一気に回顧する内容となっていました。

まず簡単に略歴があり、それによると髙山辰雄は大分県大分市に生まれ、1931年に東京美術学校の日本画科に入学し、在学中の1934年に帝展に初入選しました。松岡映丘に師事し、山本丘人らと共に研鑽を積んだそうです。 戦後間もない頃にはゴーギャンの伝記に感銘を受けたそうで、1950年代は鮮やかな色彩の時代と呼べる作品が残されています。その後は点描による静謐で幻想的な画風となっていき、生と死や人間の存在などを描くようになっていったそうです。

展覧会構成は概ね時代ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。なお、私が観たのは前期の内容(既に後期)で、この記事で挙げる作品は既に展示していないものも含まれておりますのでご了承ください。(展示リストで会期を確認することができます)
 参考リンク:展示リスト(pdf)


<冒頭>
まず最初に大きな屏風が展示されていました。こちらは会期によって変わるようです。

34 髙山辰雄 「朝」
こちらはダイジェスト的に冒頭にあった屏風で、大きな丸い朝日と その前に広がる野山が描かれています。空や川は金色で表されていて、川辺には髪を整えるような仕草の裸婦が立っています。近くにはうずくまったり寝ている裸婦もいるので、まだ朝早い時間なのかな? 全体的にゴーギャンのタヒチの絵のような原始の世界を思わせる雰囲気があり、影響が見て取れます。しかし静かで内省的な印象を受けるのが独特で、大画面なのに迫力よりも精神性が感じられました。(1973年の作なので、ずっと後の画風です)


<1章 若き研鑽の日々>
ここから時代を追っていく感じになります。若い頃は松岡映丘の弟子らしい作品なんかもありました。

1 髙山辰雄 「温泉」 ★公式サイトで観られます
これは帝展に初出品で初入選した作品で、大分の柴石温泉に入る裸婦が描かれています。渓流のような温泉となっていて、川の流れの途中のくぼみのような所で2人の裸婦がくつろいでいるようです。髪を結んで切れ長の目をした女性たちは どこか仙女のような雰囲気があるかな。 流れを細い線で描いたり写生的な画風で、草花や岩などからは日本画というよりは洋画のような色彩すら感じられました。

11 髙山辰雄 「浴室」
こちらも裸婦を描いた作品で、髪を結わえる女性と、たらいで髪を洗う女性が描かれています。水面の透明で透ける表現などは細やかで、写実的な感じです。一方、女性たちは細い輪郭で体を柔らかく描いていて色気があると共に、どこか原始的な力強さのようなものも感じられました。


<2章 ゴーギャンとの出会い>
続いては1945~60年代のコーナーです。この時期、ゴーギャンの伝記を読んで感銘を受けたそうで、確かにゴーギャン風の作品が並んでいます。

16 髙山辰雄 「沼」
緑の山を背に、オレンジの空と湖が描かれ、手前には2人の褐色の肌の裸婦が描かれた作品です。顔はモディリアーニみたいな感じですが、色合いの強さや原始を感じる雰囲気なんかはまさにゴーギャン的な作風に思えます。1人はこちらを向き、もう1人は後ろ向きで肩を寄せるポーズとなっているのも観念的で面白い構図となっていました。

この隣にも色彩豊かな人物像があり、それも顔はモディリアーニ風に思いました。

25 髙山辰雄 「穹」
深い青の夜空に、大きな白い月が左上に浮かんでいる様子が描かれた作品です。よく観ると下の方には森や岩のようなものもあり、明るい月光が照らしています。月は表面の陰影までしっかり描かれていて、ここだけリアルで立体的な感じです。神秘的な光景の中に月が浮かび上がってくるように見えました。


<3章 人間精神の探求>
続いては1970~90年代の作品のコーナーです。この時代は人間をテーマに、点描で描いた静謐な作風となっているようで、大型の見事な作品がずらりと並んでいました。

37 髙山辰雄 「食べる」 ★公式サイトで観られます
赤黒い背景に、茶色っぽい子供が茶碗に向かって黙々と食べている様子が描かれた作品です。テーブルには水しかなく、どこか寂しく不安になるような光景です。子供が小さめに描かれていることもあってポツンとした印象がするのですが、一心不乱で食べている姿は生きる力強さを感じさせるようにも思いました。これは以前に見た時もインパクトがあったのでよく覚えていました。
 参考記事:日本の美術館名品展 感想後編(東京都美術館)

46 髙山辰雄 「海」
暗い海と空を描いた作品で、中央辺りに水平線が白く輝いているように明るくなっています。全体的にざらついたマチエールで、よく観ると暗い所でも波や雲にムラがあってうねりを感じさせます。暗い色調の中ですがどこか希望を感じさせるような風景となっていました。

49 髙山辰雄 「少女」 ★公式サイトで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、砂漠のような背景の中に黄色い服の少女が描かれています。足元には寝ている猫もいて、全体的に静かな画面です。少女は無表情のようでちょっと微笑んでいるような表情にも見えるかな。シュルレアリスム的な寂寞とした雰囲気がある一方で、少女の瞑想的な表情が独特で見入ってしまう作品でした。

59 髙山辰雄 「青衣の少女」
こちらもポスターになっている作品で、冒頭の写真はこちらです。窓辺に横たわる緑がかった青い服の女性が描かれ、じっと指を見つめています。わきには赤い花がありますが決して派手さはなく落ち着いた色合いです。窓の外は暗く、夜の室内かな? 静かに物思いに耽るような表情が素晴らしく、精神性を感じさせる作品となっていました。

69 髙山辰雄 「一軒の家」
森の中に佇む1軒の家を描いた作品で、家の中からはかすかに光が漏れて見えます。森は周りは山なのか空なのか抽象的な感じで混ざり合っているのですが、左上の辺りに細い月が浮かんでいます。この月はよく観ると金属製のオブジェを貼り付けていて、銀色に鈍く光っていました。こうした手法の作品はこれだけだったので ちょっと驚きましたが、幻想的な雰囲気でどこか懐かしいような光景となっていました。

この近くにも暗闇の中の一軒家を描いた作品がありました。割と好みのモチーフなのかも

74 髙山辰雄 「牡丹(阿蘭陀壺に)」
帆船と風車が染め付けされた花瓶に入っている紫の牡丹を描いた作品です。背景はくすんだ壁で、全体的に沈んだ色合いとなっていて静かな印象を受けます。花もしっとりとした感じで、静物なのに深い精神性が感じられるようでした。

この近くに同様の花の静物がありました。

126 髙山辰雄 「山百合」
こちらは水彩のスケッチで、山百合を写実的に描いています。輪郭がしっかりしていて色合いは抑え気味ですが陰影もついていて花の細部まで観察している様子が伺えます。ここまで観てきた画風とはだいぶ異なりますが、高い描写力を持っているのがよく分かる作品でした。

この辺りは小下図のコーナーとなっていました。パステルや鉛筆で描かれた葉書と色紙の間くらいの大きさの作品で、ゴーギャンに傾倒した時代の作品や南画風の作品などもありました。

119 髙山辰雄 「作品-Ⅰ」
こちらは彫刻作品で、頬杖をついてしゃがんでいる人物が表されています。アフロのような髪型で全体的に量感のあるゴツゴツした彫りとなっていて、プリミティブな印象を受けます。これ以外にも彫刻作品がいくつかあったのですが、いずれも絵と同様にざらついた感じの彫跡となっていました。太めですがちょっとジャコメッティみたいな雰囲気もあって、これはこれでもっと観たかった。


<4章 森羅万象への道>
最後は1990~2000年代の晩年のコーナーです。色彩を抑えた画風で郷里の大分の自然を繰り返し描いていたそうです。

112 髙山辰雄 「雲煙に飛翔」
黄土色の地に墨のような色で、天と地の境目が曖昧になった抽象的な風景と鳳凰が描かれた屏風作品です。左の方に2羽の鳳凰が飛んでいるのですが、厳しい表情をしているように見えるかな。2羽の周りは黄土色がオーラのように包んでいて、光り輝いているようにも見えます。モノトーンで静かな画面ですが、雄大さと厳かな雰囲気がありました。

99 髙山辰雄 「夜の風景」
こちらは夜の街頭を背景に、白い道の真ん中に立つ灰色の犬を描いた作品です。ちょっと凛々しい顔をしてどこかをじっと見つめているように見えます。犬がポツンとしていて寂しい光景にも思えますが、何だか犬が賢人のような佇まいのように思えました。

105 髙山辰雄 「雪の宿」
山の麓に建ついくつかの雪の積もった宿を描いた作品です。画面の上部の中央には半月が浮かび、空には冬の澄んだ空気感があるように思えます。宿は中から黄色い光が漏れていて、寂しいような温かみがあるような、冬独特の風景となっていました。こういった夜の建物が好きだったのかな。

展覧会の最後には髙山辰雄が手がけた本の挿絵などが並んでいました。


ということで、瞑想的な深い精神性を湛えた作品ばかりで非常に満足できました。後期も観たいけど流石に行けなそうなので図録も購入しました。ちょっと万人受けはしなそうな感じですが、絵をよく観ている方には面白い展示ではないかと思います。今回は常設も素晴らしかったので、それも合わせて楽しめました。


おまけ;
今回の常設は時間がなくてメモを取れませんでしたが、小堀四郎と村井正誠という2人の画家を取り上げたミニ個展となっていました。こちらも良い展示なので本当ならもっとじっくり観るべきでした。

DSC05117.jpg

【展覧名】
 それぞれのふたり 小堀四郎と村井正誠

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00100

【会期】
 2018年4月14日(土)~7月8日(日)
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