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ガレも愛した-清朝皇帝のガラス (感想前編)【サントリー美術館】

10日ほど前の土曜日に六本木のサントリー美術館で「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」を観てきました。情報量の多い充実した内容となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC06890.jpg

【展覧名】
 ガレも愛した-清朝皇帝のガラス

【公式サイト】
 https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2018_2/

【会場】サントリー美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2018年4月25日(水)~7月1日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構多くの人で賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は中国の清朝時代のガラス器とフランスのアール・ヌーヴォーの代表的な工芸作家であるエミール・ガレを合わせて紹介するもので、前半は中国のガラスの歴史、後半はその中国ガラスから如何にガレが影響を受けているかを検証するような内容となっていました。今日はそのうちの前半部分についてです。

中国のガラスの始原は春秋戦国時代末期の頃で、当初は主に儀式に使う装飾品として貴石や玉(ぎょく)の代わりとして用いられていたようです。ガラス工芸が飛躍的に発展したのが今回のテーマである清王朝時代で、1696年に第4代皇帝 康熙帝(こうきてい)が紫禁城内にガラス工房を設置して 皇帝のためのガラス作りを始めたのがきっかけとなりました。その次の第5代皇帝 雍正帝(ようせいてい)もそれを引き継ぎ、さらに第6代皇帝 乾隆帝(けんりゅうてい)の時代になると栄華を極めました。清朝のガラスは透明と不透明の間で、重厚かつ卓越した彫琢が特徴となっているそうで、今回の展示ではその歴史と共に特徴的な作品が多く並んでいました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<プロローグ-中国ガラスの始原>
まず最初はプロローグとして今回の目玉作品と、中国ガラスの始まりについてのコーナーとなっていました。

22 「青色文字入双耳瓶」
こちらは最盛期の乾隆帝の品で、ハイライト的に冒頭に展示されていました。紫色のガラスの器で、側面に4段になった亀甲の文様が25個ずつあって均整の取れた印象を受けます。こうした亀甲模様は古代ササン朝ペルシアの品にもあるそうで、そこから影響を受けているようです。幾何学的な美しさがあり色と共に気品が感じられました。
 参考記事:雲母 Kira 平山郁夫とシルクロードのガラス (平山郁夫シルクロード美術館)山梨 北杜編

この後は春秋戦国時代末期~戦国時代(BC5~3世紀)頃に誕生した中国ガラスの初期の作品が並んでいました。

8 「玉琉璃象嵌帯鉤」 ★公式サイトで観られます
こちらは金メッキされた男性用のベルトの留め金です。両脇には龍の頭がついていて、片方はフックがあり そこにも龍が象られています。龍と言っても つぶらな瞳をしていて何だか犬みたいに見えるかなw 表面には3つの「璧」というガラスが埋め込まれていて、七星文も細工されているようでした。恐ろしく手の込んだ品なので恐らく権力者のものじゃないかな。 ちなみにこの作品の他にも七星文の飾りがいくつかありました。七星文はドラゴンボールの七星球の中の星の配置を思い出すとわかりやすいかなw 六角形の各頂点と中央に模様がついた文様です。(星ではなく丸ですがw)

この辺にはずらりとトンボ玉が並んでいました。円や格子を使ったデザインの品があって、ガラスというよりは陶器みたいな感じに見えます。邪気を払う副葬品として使われていたのだとか。


<Ⅰ.皇帝のガラスの萌芽―康熙帝・雍正帝の時代(1696~1735)>
続いては清朝のガラスの始まりのコーナーです。前述の通り康熙帝がガラス工房を作ったことによって200年に及ぶ清朝のガラスの歴史が幕開ける訳ですが、ここには3点しかありませんでした。この時代、ガラスの技術指導にはヨーロッパの宣教師が当たったそうで、かねてからガラス製造が行われていた山東省博山や広州から職人が集められました。特に博山の果たした役割は大きく、ガラスの原料の重要な供給地ともなったそうです。 雍正帝の時代になると窯が増設されて貴石の代わりにガラスが使われるようになったそうですが、今はその頃の品はあまり残っていないようです。その理由も含めてこの章で紹介されていました。

20 「藍色鉢」 ★公式サイトで観られます
こちらは恐らく雍正帝の時代に作られたコバルトブルーの鉢です。ちょっとくすんだ感じがあって側面には白い斑点があり、これは「クリズリング」というガラスの劣化現象のようです。ガラスの中の成分が長年の間に変化するとこうなるようで、この時代の現存作品が少ないのは成分的にこの劣化現象が起こりやすい為のようです。この隣にあった作品は全体的に茶色くなっていて、さらに劣化が進行すると崩壊してしまうのだとか。ちょっと残念ですが昔のガラスの問題点も分かって興味深い品でした。


<Ⅱ.清王朝の栄華―乾隆帝の偉業(1736~95>
続いては最盛期の乾隆帝の時代のコーナーです。清王朝時代の文化関連は必ずと言って良いほど乾隆帝の名前が出てきますが、60年間に及ぶ治世の間にガラス製造も栄華を極めたました。1740年に中国に来た2人に宣教師ガブリエル=レオナール・ド・ブロサールとピエール・ダンカーヴィルの助言もあり、生産性の高い窯を設け、技術も発展していったようです。この章はかなり充実した内容で、この時代の特徴的な品々が並んでいました。

29 「紫色龍文鉢」
こちらは厚手の赤紫のガラス器でそこに2匹の龍が彫刻されています。かなり細かい加工がされていますが、繊細というよりは重厚で力強い印象を受けるかな。彫刻は元々「玉」を加工する技術を使っているようで、ガラスも玉のような感じに仕上げているように思います。また、この辺にはこうしたカラフルなガラスが並んでいて、レモンイエローや水色など割とポップな感じが面白く、こんな色を出せる技術に驚きました。ちなみに黄色は皇帝専用の特別な色のようです。

51 「白地紅被楼閣瑞祥文蓋付壺 1対」
こちらは2つセットの壺で、乳白色のガラスに深い紅色のガラスを被せて(上から重ねる技法)そこに模様を彫刻したものです。楼閣、龍、コウモリ、鳳凰、麒麟など吉祥の文様が表されていて、非常に凝った作りです。ちょっと色彩感覚がキツめで好みとは言えませんが、こちらも重厚な印象を受けました。

この辺にはこうした被せガラスの作品が並んでいました。この技法もこの時代に発展したようです。黄色と黒とか、色の取り合わせがちょっと微妙な感じがしますがw

45 「多色燭台 1対」
こちらは蝋燭を刺す心棒にいくつものガラスのパーツを重ねて作った燭台で、黄色、赤、藍、水色、オレンジなど非常にカラフルなガラスが使われ目に鮮やかです。さらに台の黄色いガラスには金と漆で唐草文の装飾も施されていたようですが、現在は金は消えて漆だけが残っています。その色合いは現代アートもびっくりなポップさで、事前知識が無かったら昔のものとは思えないかもw 私の好みには合わない色彩感覚ですが目を引く派手さで驚きでした。

47 「雪片地紅被唐子文蓋付壺」
こちらは細かい白の斑点のある「スノーフレークガラス」を地に紅色の被せガラスで唐子たちが遊ぶ様子を浮き彫りにしたものです。数え切れないくらいの子どもたちが雪に はしゃいでいるようにも見えるかな。こうしたスノーフレークガラスは偶然に技法が見つかったそうですが、その素材感に合った題材となっているのが面白かったです。

この先には色ガラスに彫刻した作品が並んでいました。本当に玉の代わりみたいな使い方です。

79 「金星ガラス瓶」
深いコバルトブルーを地に、側面に「金星」と呼ばれる やや赤みがかった砂状痕の金の斑文がある瓶です。これはヴェネツィアのアヴェンチュリングラスを手本にしたものですが、安定して作ることができなかったようです。その為か整った形を好む中国の品とは思えないくらい歪な感じもしますが、それがどこか日本人の感性に近いような印象を受けました。

この近くにはマーブル文のガラスや、鼈甲のようなガラスなどもありました。
 参考記事:あこがれのヴェネチアン・グラス ― 時を超え、海を越えて (サントリー美術館)

76 「白地多色貼蝙蝠果実文壺」
こちらは白い壺に部分的に溶着させて仏手柑や桃、柘榴、コウモリなどが表された品です。花は赤や黄色、葉っぱは薄い水色といった感じで絵画的な色彩感覚が美しく感じられます。解説によると、この3つの果実は三多果と呼ばれる繁栄の象徴だそうで、割と中国美術全般で目にするように思います。こちらはスッキリした雰囲気でガラスらしい華麗な作品でした。


ということでこの辺までが上階の前半展示となっていました。清朝の最盛期の品が中心となっていて豪華絢爛です(ド派手で好みには合いませんがw) 後半はこれらの作品を踏まえた上でガレがどのような作品を作ったのかという内容となっていましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。下階はいくつか撮影スポットがあったので写真も使っていく予定です。

 →  後編はこちら

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