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琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ― 【山種美術館】

前回ご紹介したブルーノートに行く前に山種美術館で「琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは前期の内容でした。

DSC07905_20180604014254614.jpg

【展覧名】
 【特別展】琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/2018/rimpa.html

【会場】山種美術館
【最寄】恵比寿駅

【会期】2018年5月12日(土)~7月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構混んでいましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は琳派ということで、尾形光琳が私淑した俵屋宗達から、現代のデザイナー田中一光までを紹介する内容となっていました。琳派展は数多く観てきましたが、大体は俵屋宗達から始まり、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一あたりの流れが中心で、あとは雨華庵などの継承者という感じですが、今回はさらに明治以降の琳派ブームや現代の加山又造や田中一光まで繋がる斬新な内容となっていました。特に田中一光に1つの章を設けているのは異例だと思われます。3章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。なお、琳派とは?については参考記事などをご参照ください)
 参考記事:
  琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第1部 煌めく金の世界 (出光美術館)
  琳派芸術 ―光悦・宗達から江戸琳派― 第2部 転生する美の世界(出光美術館)


<第1章 琳派の流れ>
まずは琳派と呼ばれる流れの根幹となる絵師達のコーナーです。とは言え、その名の中心になった尾形光琳は1点のみで酒井抱一以降の作品が多めとなっていました。

50 田中一光 「JAPAN」
こちらはポスターに載っている作品で3章の内容ですが、ハイライト的に冒頭に展示されていました。琳派の展示に来たのにいきなり現代のポスターで驚くかもしれませんが、こちらはオレンジ地に単純化された鹿が描かれていて、俵屋宗達の図案を流用したものとなります。俵屋宗達よりもさらにデザイン的に単純化が進み、流麗な印象を受けます。この隣には田中親美による「平家納経 願文(模本)」が展示されていて、これはこの鹿の元となった俵屋宗達の鹿(江戸時代の修復の際に願文の見返しに描いたもの)を精巧に模写したものです。両者を比較しながら観ることが出来る趣向で、面白い展示方法となっていました。
 参考記事:田中一光とデザインの前後左右 (21_21 DESIGN SIGHT)

1 俵屋宗達・本阿弥光悦 「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」 ★公式サイトで観られます
こちらは俵屋宗達が絵を描き、本阿弥光悦が新古今和歌集の歌を書いた作品です。ここでは簡略化された鹿が金泥で軽やかに描かれ、地面は墨、空は金泥で描かれています。本阿弥光悦も舞うような感じで、非常に雅な印象を受けます。この断簡は元々は22mもあったものの、分割に分割を重ねて今の形となっています。 ほんの一部分でも何度観ても素晴らしい作品です。

2 俵屋宗達・本阿弥光悦 「四季草花下絵和歌短冊帖」
こちらは新古今和歌集の和歌を書いた短冊で、その下には金泥・銀泥・砂子などを使って植物などが描かれています。ススキ、桔梗、ツツジ、藤、夕顔、卯の花、桜、枝垂れ柳、梅など季節感ある草花が並び、綺羅びやかな雰囲気と落ち着きが同居している感じです。絵と書が呼応するかのようで、非常に豪華な共演となっています。よく観ると波の紋様など細かく描かれていて、この紋様化は後のフォロワー達にも受け継がれていく様子が伺えます。

12 酒井抱一 「菊小禽図」
赤、黄色、白の満開の菊が描かれ、その枝に小鳥が止まっている様子も描かれた掛け軸です。花は輪郭線を使ってデザイン的に描かれている一方、葉っぱはにじみを活かした「たらしこみ」という琳派に受け継がれていった技法が使われています。色が非常に鮮やかで、全体的にスッキリと色分けされた感じかな。こちらは隣に展示されていた「飛雪白鷺図」と共に12ヶ月セットの掛け軸だったそうで、酒井抱一はそうしたセットものを結構作っています。
 参考記事:
  酒井抱一と江戸琳派の全貌 感想前編(千葉市美術館)
  酒井抱一と江戸琳派の全貌 感想後編(千葉市美術館)

4 伝 俵屋宗達 「槙楓図」
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こちらの作品だけ撮影可能でした。元は1双だったようで、こちらは左隻と考えられているようです。幹の曲線が美しいですが、呼応する木が欲しいところかなw 尾形光琳もこちらの作品を写しているようです。

この先には尾形光琳の「白楽天図」がありました。今回の尾形光琳はこれのみとなっていました。 ★公式サイトで観られます
 参考記事:
  光琳と乾山 芸術家兄弟・響き合う美意識 (根津美術館)
  KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」  (根津美術館)

6 酒井抱一 「秋草鶉図」 ★公式サイトで観られます
こちらは金地の屏風で、ススキの下で休む4羽の鶉と、飛んでいる1羽の鶉が描かれています。赤い花や楓が色鮮やかな一方、空にはアーモンド型の月が黒っぽく浮かんでいます。この月は銀が黒っぽく変色したのかと思ってしまいますが、そうではなく元々こういう色で描いていたようです。非常に目を引きますが、それが返って秋の情趣漂う雰囲気を出しているように思いました。
 参考記事:琳派から日本画へ ―和歌のこころ・絵のこころ― (山種美術館)

この先には鈴木其一や酒井鶯蒲の作品もありました。其一は琳派でも中国風でそれほど好みではないので割愛。

22 神坂雪佳 「蓬莱山・竹梅図」 ★公式サイトで観られます
こちらは3幅対の掛け軸で、中央には海に囲まれた岩山の上の寺院が描かれ、松も所々に生えています。右幅には金色の竹と黒く細い竹が垂直に描かれ、左幅では金色の幹の梅が黒っぽい花を咲かせています。つまり3つ揃って松竹梅となっているわけですが、いずれも琳派の特徴をよく引き継いでいて 特に中央の岩のたらし込みや波の紋様化などは分かりやすい特徴となっています。構図も凝っていて、3幅が対角線上に配置されているのが面白かったです。 神坂雪佳は大正~昭和頃に活躍した画家で、当時の琳派研究の様子がよくわかります。近くに展示されていた『百々世草』なども良かったです。


<第2章 琳派へのまなざし>
続いては明治以降の琳派ブームについてのコーナーです。幕末から明治にかけて琳派も外国に紹介されて高い人気を得たのですが、それによって国内でも一大ブームが起きたようです。大正時代には尾形光琳に先立つ俵屋宗達も見直されて高く評価されていきました(この経緯は意外ですが、琳派って言葉も割と最近広まった言葉で、この頃の認識は光琳派とか宗達光琳派だったりします) 日本画壇でも西洋絵画に対抗しうる日本画を模索する中で、琳派は装飾性や平面性といった日本絵画の特質を端的に表した先例として強く意識されたそうで、明治40年代から昭和にかけて文展・院展を中心に琳派に刺激を受けた作品が次々と発表されていきました。ここにはそうした時期の琳派的要素を持つ作品が並んでいました。なお、この章はいくつかの節に分かれていて、「モチーフと図様の継承」「トリミング」「構図の継承」「装飾性とデザイン性」などとなっています(どの作品がどの節か忘れましたがw)

30 菱田春草 「月四題」
こちらは4幅対の掛け軸で、いずれも淡い色彩で満月が描かれています。それぞれ 桜散る様子、枝垂れた柳、実のなった葡萄、雪の積もった梅といった春夏秋冬の木々が描かれていて、ぼんやりと月が浮かぶ様子は幻想的です。(外隈?) この構図は酒井抱一の作品とかを思い起こすかな。情趣溢れる作品でした。

この近くには速水御舟の「翠苔緑芝」もありました。
 参考記事:速水御舟展 -日本画への挑戦- (山種美術館)

46 松尾敏男 「彩苑」
こちらは青と白の燕子花が並ぶ様子を描いた作品です。真横から観たような構図で、花は大ぶりに描かれていて、モチーフが琳派的と言えそうです。しかし、マチエールがざらついた感じなのが独特だったかな。大型で見栄えのする作品でした。

39 奥村土牛 「南瓜」
こちらは黄色く丸いカボチャと、その葉っぱが描かれた作品です。葉っぱと茎の部分は墨の滲みがあってたらし込み風に見えます。この作品のキャプションには酒井抱一の「芭蕉図」の写真があって、この作品はそれを見習っているのが分かります。奥村土牛らしい温かみもあって単なる真似ではないのも良かったです。

48 加山又造 「濤と鶴 (小下絵)」
こちらは山種美術館のロビーにある陶板壁画の小下絵です。無数の金の鶴が舞い飛び、黒と金のうねる波がリズミカルです。せっかくなので、実物の写真はこちら
DSC07910.jpg
まさに琳派を受け継いでいる様子が伺えます。さらにデザイン的な要素を強めているかな。素晴らしい傑作です。
 参考記事:Re 又造 MATAZO KAYAMA|加山又造アート展 (EBiS303 イベントホール)

29 西郷孤月 「台湾風景」
こちらは台湾の山と、その麓の近代的な建物が描かれた作品です。手前には細長く縦一直線の椰子の木が無数に生えていて、南国の雰囲気があります。モチーフも含めて一見すると琳派的な感じはないのですが、横長の画面に椰子の木は幹だけしか描かれていないなどトリミングされたような感じがあり、これは俵屋宗達の用いた技法からの展開と言えるようです。全く人もいない 霞むような風景が物悲しく、新天地を求めつつ病に倒れた作者の境遇に重なるように思えました。

47 加山又造 「華扇屏風」
銀地に様々な花鳥が描かれた扇面が散らされた6曲1双屏風で、俵屋宗達が得意とし琳派に受け継がれたモチーフが使われています。波がうずまき絢爛かつ流麗な雰囲気がある一方、ざらついた感じのマチエールもあって表現方法も様々です。こちらも何度観ても素晴らしい作品で、琳派の大先輩達の作品に引けを取らず目を引きました。


<第3章 20世紀の琳派・田中一光>
最後は昭和を代表するグラフィックデザイナーの田中一光に関するコーナーです。田中一光は浮世絵を始め日本の伝統文化をよく研究していて、確かに琳派風のポスターなんかも観たことはありますが、こうして琳派の展示で紹介されるのは初めて見ました。ここには琳派作品をアレンジしたようなデザインが並んでいました。

52 田中一光 「人間と文字:日本 1」
こちらは俵屋宗達と本阿弥光悦による「光悦色紙貼交屏風」の一部をトリミングしたポスターです。一部が抜き出されているのでデザイン的な雰囲気が強まっていて、モダンな感性も見て取れます。琳派の魅力を再解釈しているのが面白い作品でした。

ここからは2室です。(2室にも2章の内容があったりします)

54 田中一光 「Concert, Projection de Films-Toru Takemitsu: Vers La Mer des Sonorites(武満徹―響きの海へ)」
こちらは金の波型と青い円があり、その上に月らしきものが浮かんでいる様子が描かれたポスターです。これも俵屋宗達の「波に麒麟図」の波を流用しているのですが、割と抽象画のようにアレンジしていて現代的な印象を受けます。金のかすれ具合なんかは琳派的な感じで、これも伝統を活かしつつ独自性も加味しているように思いました。

この近くにあった「Toru Takemitsu: Music Today 1973-92」も尾形光琳の作品から着想を得つつ、抽象的な記号を散らした作品となっていて面白かったです。

51 田中一光 「田中一光グラフィックアート植物園」
こちらは色面で表されて燕子花で、折り紙で作ったような感じの単純化となっています。こんなに単純化しても琳派的に思えるのはモチーフが琳派の象徴ということもありますが、琳派の本質を捉えているからではないかと思いました。


ということで、山種美術館の定番の琳派の作品と共に これまでとはちょっと違った趣向も楽しめる内容となっていました。マンネリ化せずにこうした新しい試みがあるのは琳派好きとしても嬉しいです。既に人気の展示となっていますので、気になる方はお早めにどうぞ。

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