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浮世絵モダーン 深水の美人! 巴水の風景! そして ・・・(感想前編)【町田市立国際版画美術館】

日付が変わって昨日となりましたが、土曜日に町田の町田市立国際版画美術館で「浮世絵モダーン 深水の美人! 巴水の風景! そして ・・・」を観てきました。こちらは非常に点数が多く充実した内容となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、各章で撮影可能な作品もありましたので、写真も使って参ります。(色々ネタが溜まっていますが、会期末が迫っているので先に記事にしておきます)

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【展覧名】
 開館30周年記念
 浮世絵モダーン 深水の美人! 巴水の風景! そして ・・・

【公式サイト】
 http://hanga-museum.jp/exhibition/index/2018-380

【会場】町田市立国際版画美術館
【最寄】町田駅

【会期】2018年4月21日(土)~ 6月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
結構多くのお客さんで賑わっていましたが、自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は「浮世絵モダーン」というタイトルで、浮世絵版画の復興を目指して作られた「新版画」の名品が集まる内容となっています。新版画は大正初期から昭和10年代まで制作・出版された版画で、今回の展示でも「新版画運動」を提唱した渡邊庄三郎(版元)に関係する画家の作品などが多めだったかな。220点近くもあり 題材ごとに章分けされていますので、各章ごとに気に入った作品と共に振り返っていこうと思います。
 参考記事:
  馬込時代の川瀬巴水 (大田区立郷土博物館)
  伊東深水-時代の目撃者 (平塚市美術館)
  生誕140年 吉田博展 山と水の風景 (東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館) 


<第Ⅰ章 女性 ―近代美人画の諸相>
まず最初は女性を描いた版画が並ぶコーナーです。近代の美人画だけあって、洋画からの影響も感じさせる作品もありました。なお、撮影可能だった作品は写真を使っております。

5 フリッツ・カペラリ 「黒猫を抱く女」
こちらは無地の屏風の前で黒猫を抱いてしゃがんでいる女性が描かれています。上半身は裸で、下半身には赤い着物?を履いているようです。後ろの屏風は左端辺りはさらに後ろの部屋が見えていて、女性位置も合わせて不思議な空間構成となっています。何故 裸で黒猫を抱いているのかも不明で、描写も含めてミステリアスな雰囲気がありました。日本風のような西洋風のような独特の画風です。なお、この作者はオーストリア生まれの版画家で、1911年に来日して1915年に渡邊庄三郎と出会い木版画制作に取り組むようになったそうです。最低でも15点は制作されたことが分かっているのだとか。

8 橋口五葉 「浴場の女」
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『吾輩は猫である』の装丁も手がけた橋口五葉の裸婦像で、渡邊庄三郎の元で作った新版画での第1作目です。しかし橋口五葉は出来に満足しなかったそうで、貰った50部を焼いてしまい渡邊庄三郎との仕事もこれ1作で終わったのだとか。ちょっと体の線が硬いようにも思えますが良い出来だと思うんですけどねえ。

12 橋口五葉 「髪梳ける女」
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こちらは橋口五葉の版画の代表作。雲母引を背景に、清らかな女性が髪を整える姿が何度も可憐です。

16 伊東深水 「対鏡」
DSC08015.jpg
こちらは撮影不可でしたが、代わりにポスターの写真です。試筆として作られた作品で、赤い長襦袢と白い肌・黒い髪の対比的な色合いが艶っぽい印象です。この長襦袢は3~4回も摺りを重ねているようです。また、この写真では分かりませんが、背景はバレンの丸い摺り目をつけて渦巻くような模様のようなものもあって、斬新さも感じました。

この背景の渦巻くような技法は近くにあった「浴後」や「春」などでも使われていました。

21 伊東深水 「伊達巻の女」
こちらは鏡の前で後ろ髪を整えて座っているピンク色の着物の女性で、うつむいた後ろ姿で顔は見えませんが、優美な雰囲気が漂います。着物のひだ等を細い輪郭線で表現したり、うなじ辺りは細い線で緻密に表現するなど、細部まで清廉な感じがしました。

25 伊東深水 「新美人十二姿 涼み」
こちらは橋の欄干に肘をついて川を観ている黒い浴衣の女性の後ろ姿を描いた作品です。帯は白地に青の輪郭で籠のような縞模様となっていて爽やかな雰囲気があります。顔は見えませんが、白い肌と佇む様子は絶対に美人だと予感させますw 夏の風情もあって素晴らしい作品でした。

この辺には同じく「新美人十二姿」が5点くらい並んでいました。1922年に予約会員200名に向けて頒布されたシリーズで、毎月1枚制作されたのだとか。

38 伊東深水 「現代美人集第二輯 吹雪」
こちらは吹雪の中を傘をさして歩く着物の女性を描いたもので、雪は着物にまで付いていて結構な勢いの吹雪ようです。ポーズも動きを感じさせるような感じが面白く、寒そうな雰囲気も出ていますがそれでも優美さが目を引きました。着物の色の取り合わせなども鮮やかでした。

この近くには画壇の悪魔派と呼ばれた北野恒富による妖艶な美女の作品などもありました。

39 山川秀峰 「婦女四題 秋」
こちらはショートカットのような髪型(耳の所で髪を束ねた変わった髪型)をした着物の女性を描いた作品で、着物の1枚にはハートやダイヤ、クラブといった模様があってモダンな印象を受けます。紅色の衣も非常にエレガントで、昭和初期の華麗なファッションと共に楽しめる1枚でした。

49 小早川清 「近代時世粧ノ内 六 口紅」
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鏑木清方 門下の日本画家による作品。ちょっと気の強そうな強い目をした女性の化粧の様子が艶やかです。特に指先に色気を感じました。

57 高橋松亭(弘明) 「裸婦と黒猫」
膝を崩して座る裸婦が手ぬぐいを持っていて、それを黒猫がじっと見ている様子が描かれています。背景は真っ赤で、白い肌と黒い猫が引き立って見えるかな。顔は浮世絵風なのですが、西洋画のような雰囲気があり、主題と相まって妖艶な女性像となっていました。

65 吉田博 「鏡之前」
こちらは裸で鏡に向かい合って化粧をしている女性が描かれています。吉田博にしては珍しい人物画じゃないかな。輪郭と明暗を上手く使って立体感を出しているので、洋画的な雰囲気がよく出ています。まあ、それが魅力的かどうかは別の問題ではありますがw ムラのある背景にも奥行きを感じさせました。

71 梅原龍三郎 「裸婦十題 座裸婦」
こちらは真っ赤を背景に緑の椅子に座る裸婦を描いた作品です。右後ろには花束も置かれていて、梅原っぽいモチーフが揃っている感じかな。黒く太い輪郭線が使われて力強い生命感のようなものが感じられました。先生のルノワールよりはマティス的な作風にも思えます。

この隣には安井曾太郎の版画作品もありました。


<第Ⅱ章 風景 ―名所絵を超えて>
続いては風景画のコーナーで、こちらは川瀬巴水が特に良かったです。戦時中に作られた戦争画とも呼べる外地の風景画なんかもありました。

78 坂本繁二郎 「日本風景版画 第六集 筑紫之部 神の湊 玄界灘を遠望」
こちらは 」の字のような形の砂浜と海を描いた作品で、遠くには岩も見えています。非常に単純化されてすっきりした画面構成になっているのが面白いです。坂本繁二郎がこんなに爽やかな作品を出していたのかとちょっと意外でした。

この近くにはつい先日観たばかりの伊東深水の「夜の池之端」もありました。
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2018年05月)

94 伊東深水 「近江八景 堅田浮御堂」
こちらは水辺に建っている小さなお堂に雪が降り積もっている様子が描かれています。木々や渡り廊下の欄干なども真っ白で、雪の日の静けさまで感じられそうです。空はやや暗く、しんみりと寂しさを感じました。

108 川瀬巴水 「東京十二題 大根がし」
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青物問屋の活気と川沿いの生活感が出ていて非常に風情があります。昔の東京の趣は情緒豊かで それだけ好みですw

109 川瀬巴水 「東京十二題 深川上の橋」
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川瀬巴水の魅力の1つにグラデーションの美しさがあるのではないかと思います。橋の下に舟が収まる構図も遊び心があって面白い。

126 吉田博 「牧場の午後」
こちらは4頭の牛が牧場を歩いている様子が描かれたもので、それぞれ色も模様も異なる牛です。空には輝くような雲があり、午後ののんびりした風景となっています。結構写実的にも思えますが、しっかり叙情性もあるのが吉田博の魅力じゃないかな。解説によると、1921年の「板画展」で伊東深水や川瀬巴水の作品は3~5円程度売られたようですが、吉田博は20円もしたのだとか。洋画家のほうが格上扱いだったのかもしれませんね。

150~152 吉田博 「瀬戸内海集 帆船 朝・午後・夕」
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こちらは以前の吉田博 展でも観られた色を変えて異なる時間を表したもの。透明感があり、特に夕方の色使いが好みです。並べて観られるので色による印象の違いもよく分かりました。

160 吉田博 「インドと東南アジア フワテプールシクリ」
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こちらはインド外遊中に観た光景を版画にしたもの。異国情緒溢れる1枚です。

168 土屋光逸 「東京風景 四ツ谷荒木横町」
こちらは建物の玄関に2人の芸姑が立っている様子を描いたもので置屋の様子かな。夜の光景となっていて、周りは暗いのですが建物から漏れる明かりが非常に強く感じられます。2階の障子には女性の人影もあって風情があり、どことなく川瀬巴水と似た作風に思いました。しかし巴水に比べると明暗がくっきりしているのが特徴と言えるかも。

この近くにあった石渡江逸(東江、庄一郎)の「夜の浅草」も幻想的で好みの作品でした。

179 伊東深水 「ジャワ ジャカルタ郊外」
こちらはジャカルタの街を描いた作品で、手前にスカーフを被った2人の女性がいます。奥には沢山の人たちがいて活気があり、明るい色彩からは強い光も感じられます。伊東深水は海軍報道班員としてこの地に派遣されたことがあったようで、その時の写生を元に版画にしたようです。よく観る伊東深水の作風よりもデフォルメされた感じにも思いますが、中々興味深い作品でした。

183 川瀬巴水 「かちどき」
こちらは廃墟のような城壁の上で日の丸の旗を降って両手を挙げる日本兵たちを描いた作品です。日本兵の手には銃剣があって、今しがた戦いに勝利したような光景ですが、実際に巴水はこの光景を観たわけではなく写真を元に描いたようです。巴水も戦争画を描いていたのは結構意外ですが、まあ夕暮れの色合いだけは巴水っぽさがあるかな。評論家も「これは芸術的とは言えない、巴水と戦争はあまりにも違った世界」と評しているようで、確かにその通りに思いました。逆に巴水を知る上で貴重な作品とも言えそうです。


ということで、前半からかなり濃密な内容となっていました。本当に新版画の美味しい所を詰め合わせにしたような感じで、大正の頃のモダンな雰囲気と相まって非常に満足度の高い版画ばかりです。後半もまだまだ見どころがありましたので、次回は残りの3~5章をご紹介の予定です。

→ 後半はこちら

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