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西洋古版画にみる「複製」と「創作」 【町田市立国際版画美術館】

前々回・前回とご紹介した町田市立国際版画美術館の特別展示を観た後、常設室で 西洋古版画にみる「複製」と「創作」 というミニ企画展も観てきました。こちらは撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介しようと思います。

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【展覧名】
 西洋古版画にみる「複製」と「創作」

【公式サイト】
 http://hanga-museum.jp/exhibition/index/2018-388

【会場】町田市立国際版画美術館
【最寄】町田駅

【会期】2018年4月11日(水)~6月17日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて今回の展示は常設室の無料で観られるもので、原作がある作品を版画にした「複製版画」などが並んでいました。対になるのは「創作版画」で、レンブラントやデューラーのように自分で絵も版も作ったものですが、「複製版画」は原作の画家(過去の名品含む)・版画家・版元といった共同作業で作られたようです。複製とは言え独自の解釈もされることがあり、今回はそうした様子も垣間見られるような内容となっていました。先述の通り撮影可能となっていましたので、詳しくは写真と共にご紹介していこうと思います。

版刻:マルカントニオ・ライモンディ 原画:ラファエロ・サンティ? 「『美徳』より 賢明」
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理想的な均整の取れた裸婦像。腕の辺りに若干の硬さがあるようにも思えますが、優美な肉体をしています。ラファエロはいち早く版画の潜在能力に気づいて、自らの作品を版画にして弟子の育成にも活用したのだとか。

当時は何枚も作り出せる版画によって素描を普及させる役割が重視されたようです。版画によって他の作品に転用されたりアイディアが伝えられたり、手本になっていきました。

版刻:マルコ・デンテ 原画:バッチオ・バンディネッリ 「嬰児虐殺」
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かなり多くの人達が色々なポーズで描かれています。当時のイタリアでは人物表現の多様さや人数の豊富さも評価されたらしいので、この絵は素描の宝庫とも言えそう。あちこちで子供が死んでるのはキリストの身代わりになった子どもたちでしょうね。

模刻:ニコラ・ベアトリゼ 版元:アントニオ・ラフレリ 「嬰児虐殺」
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さっきのと同じやんけ!と思った方は私と同じ反応ですw それもそのはず、こちらは先程の模刻となっていて高度な間違い探しみたいになってます。しかしよく観るとこちらの方が陰影が強めになっているようでした。版画家が変わると同じ絵でも解釈が違うんですね。

版刻:ウーゴ・ダ・カルピ 原画:ラファエロ・サンティ 「ダヴィデとゴリアテ」
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こちらは元々はラファエロの版画を作っていたライモンディが線刻した複製版画があったようで、それを「キアロスクーロ(明暗)」という技法で翻案したものです。「キアロスクーロ」は16世紀初めにドイツで生まれた技法で、線を表す板(ラインブロック)と色面を表す板(トーンブロック)を使って刷られているようです。その名の通り明暗が強めで遠近感や立体感がよく表れているように思えます。 こうした「キアロスクーロ」は複数の版を高度が必要なので高価であると共に、美しさ・希少さからコレクターズアイテムにもなったのだとか。

版刻:ジョルジョ・ギージ 壁画:ミケランジェロ・ブオナロティ「『システィーナ礼拝堂天井画の預言者と巫女』より  預言者エゼキエル」
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エゼキエルはバビロン捕囚の頃の預言者で、これはシスティーナ礼拝堂の天井に描かれたものを版画化したものです。ここにはこうしたミケランジェロのシスティーナ礼拝堂の天井壁画の部分画が並んでいて、版画だけで天井画を観て回れる感じ。現地に行けない人や、下から観るだけでは見えづらい場所も手軽に観ることができるので重宝されたようです。ちょうど現在のインターネット上で写真を共有するような感じだったんでしょうな。

版刻:不明(コルネリス・コルト?) 原画:ピーテル・ブリューゲル(父) 版元;ヒエロニムス・コック「『軍艦』より 二隻のガレー船と軍艦」
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ブリューゲル一家が得意とした船の絵を版画化したもの。ここで版元の名前もわざわざ入っていますが、このコックは当時の流行やピーテル・ブリューゲル(父)の才能を見抜いて版画を大ヒットさせた人です。今でこそブリューゲル一家の名前は西洋絵画史に燦然と輝いていますが、それを見出したコックは名プロデューサーと言ったところでしょうか。割と版画の歴史では蔦屋重三郎とか渡邊庄三郎のように時代を作るプロデューサー的な版元がいるものですね。
 参考記事:ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 感想前編(東京都美術館)

版元:フィリップス・ハレ 原画:ヤン・ファン・デル・ストラート「『使徒行伝』より 天使によって牢から救い出される聖ペテロ」
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こちらは先程のコックの元で活動していた版画家のハレが自ら版元になって刊行して作った連作の1枚。画中に版元の名前のみならず版画家の銘まで入っているそうです。私が観てもどこに銘があるのか分かりませんでしたが、出来が良いだけに名前を残したかったのかも。

版刻:ヤン・サーンレダム 原画:ヘンドリク・ホルツィウス 「ホロフェルネスの首をもつユディット」
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敵将のホロフェルネスに酒を勧めて寝首をかいたユディットを描いた作品。下の方にサインみたいなのがあるのは神聖ローマ帝国の中でこの作品の版権が守られていることを示すそうで、さらなる複製を禁止しているようです。今で言う所の著作権みたいなものですね。かなり緻密な作品なので真似るのも容易じゃないと思いますがw

版刻:パウルス・ポンティウス 原画:ペーテル・パウル・ルーベンス 「十字架を担うキリスト」
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ルーベンスは自分が監督した版画を多く作っていますが、版画に力を入れた要因の1つに勝手に他人に粗雑な版画が作られたことがあった為のようです。こちらは本人監修だけあって肉体表現の見事さはまさにルーベンス作品そのものと言った感じです。 こうした版画家は1人ではなく何人かいるようでした。

今回の内容はこれくらいで、他に中央のガラスケース(撮影不可)で畦地梅太郎の作品が展示されていました。

こちらは浮世絵玉手箱というコーナーで、普段はカーテンで覆われていて観るときだけ開けて観る感じになっています。
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三代歌川豊国の古今名婦伝で、左から須磨松風、小野小町、清少納言です。それぞれ故事にちなんでいるようで、小野小町は草子を洗って自らの嫌疑を晴らす様子が描かれています。御簾を上げてドヤ顔の清少納言は「香炉峰の雪」からでしょうねw

最後に版画の技法を紹介するコーナーがありました。
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余談ですが、同時期に上野の森美術館で開催されているエッシャー展では様々な版画技法が使われている様子が紹介されているのですが、技法の詳細は解説が無いので何だか分からないと言っているお客さんが多くいました。これは分かりやすいのでこれを観ると一発で分かるはずw


というわけで、点数はそれほどない小展示ではありますが、版画の歴史や技法について様々な知識を得ることが出来る内容となっていました。これを無料で観られるのは中々凄いことだと思います。この企画展はもうすぐ終わってしまいますが、この美術館は名前の通り古今東西の版画に精通しているので、訪れると今後の美術鑑賞の参考になることが多いと思います。

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