先週の日曜日に上野にある上野の森美術館で「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵」を観てきました。非常に点数が多い展示となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

【展覧名】
生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵
【公式サイト】
http://www.escher.jp/【会場】上野の森美術館
【最寄】上野駅
【会期】2018年6月6日(水)~7月29日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
3時間45分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_①_2_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
非常に混んでいて、チケット待ちで10分・入場待ちで10分くらい並びました。しかしそれ以上に大変だったのが会場内で、どこも2重3重に列ができている感じです。作品が細かい版画なので後ろから観ることも難しく、延々と並んでいたら4時間近くかかりました。普段に比べて鑑賞マナーを知らない人も多いので満員電車に4時間いるのと大差ないくらい疲れました。今回の展示では特に時系列になっている訳ではないので、先に2階から観て特に混み合う1~3章あたりは閉館時間が近づいた頃に行くほうが効率的かもしれません。しかしそれでも時間がかかって観きれない可能性もあるのでなるべく鑑賞時間に余裕を持ったほうが良さそうです。
さて、この展示は騙し絵的な奇想の版画作品で知られるマウリッツ・コルネリス・エッシャーの大規模な個展となっています。エッシャー展は過去に何回か観ていますが、今回は世界最大のエッシャーコレクションを誇るイスラエル博物館の所蔵品が150点程度(大半は版画)並んでいました。エッシャーは生涯で450点程度の作品を残しているらしいので今回の展示で1/3も観られてしまうことになります。エッシャーの来歴等については以前の記事にも書いていますのでそちらを参考にして頂ければと思いますが、簡単に説明すると、父はお雇い外国人として日本にも来た水力工学の土木技師で、エッシャー自身も建築や装飾美術を学んでいました。その後、サミュエル・イエッスルン・ド・メスキータに才能を見出され版画の基本を学び、様々な題材の版画を制作していくことになります。今回の展示では主題ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、先に言っておくと騙し絵的な作品の割合はそれほど多くはありません。今回はエッシャーの作品全体を観ながら、どうして奇想の作品を作ることができたかを紐解くような感じの内容となっています。
参考記事:
迷宮への招待 エッシャー展 (そごう美術館)<1章 科学>まずは科学的な志向の作品のコーナーです。エッシャーは2次元平面はどのようにタイル状にすることができるかや、三次元の格子構造に興味を持っていたようで、幾何学的なモチーフがよく使われる作風となっています。ここにもそうした表現の作品が並んでいました。
1
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「貝殻」こちらは巻き貝の貝殻を描いた作品で、緻密で市松模様のように白黒が交互になって渦巻く様子となっています。これは1919年にハールレムの建築装飾美術学校に入学した頃の作品で、レンブラントのエッチングに着想を得て描いているようです。割と写実的な感じがしますが早くも市松模様が使われている所に驚きます。 ちなみにこの学校で建築を学び始めたエッシャーですが、そこで版画家サミュエル・イエッスルン・ド・メスキータと出会い版画の道に本格的に転じていくことになります。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「蝶」こちらは蝶が無数に描かれた作品で、上の方はかなり単純化されていますが 下の方に行くほど大きくて緻密な描写となっています。お互いが組み合って模様となるような表現や徐々にリアルになるのはエッシャーが得意としたもので、この作品でもそれを観ることができました。割と蝶への博物的な関心も伺えるように思います。
3
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「バルコニー」こちらはバルコニーの一部がレンズで観たような球体状に膨らんでいるような感じの作品です。これも騙し絵と言うよりかはレンズの歪みをよく研究しているように思えるかな。それを絵に活かそうとする発想も面白いです。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「同心円状の球面片」こちらは線で出来た球体の中にさらに球があるような構造を描いた作品です。反復・変容・反射のイメージに強い関心があったエッシャーですが、それだけではなく結晶体にも関心を持っていたようで、この作品ではそれが活かされているように思われます。こうした結晶体への関心はライデン大学で講師をしながら結晶学を研究していた異母兄からの影響のようです。エッシャーの不思議な世界を形作るパーツを観られたような感じの作品でした。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「立方体とマジックリボン」こちらは格子の中に入っている球状のリボンを描いた作品です。穴があって立体感がつけられているのですが、見ようによってはその部分が凸型のようにも凹型にも見えるのが不思議です。絵の上の方を観ていると凸型のはずですが、メビウスの輪のようになって何時の間にか凹型になっている…という何とも面白い趣向となっていました。
エッシャーはメビウスの輪もよく描いているようで、他にも∞状の裏と表が何時の間にか逆転するモチーフの作品がありました。
<2章 聖書>続いては聖書からの主題のコーナーです。エッシャーは敬虔なカトリック教徒だったそうで、創世記や聖人の生涯をアール・ヌーボー様式のような作風で残しています。しかし1935年にヒエロニムス・ボスの「地上の楽園」の地獄の場面を模写して以降は伝説や宗教主題への関心が弱まっていったそうで、その頃の背景にはイタリアのファシズムに対する抗議があったようです。(その後イタリアを離れて二度と戻ることはなかった) ここには聖書を題材とする作品が並んでいました。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「小鳥に説教する聖フランチェスコ」こちらはアッシジの聖フランチェスコを描いた作品で、この聖人は自然や動物を愛し、動物に説教したことでも知られています。ここでは身振りをしながら様々な鳥に説教をしていて、聖フランチェスコとモア?には後光が差しているような感じで描かれています。騙し絵的な要素は全くなく、様式化された花などは確かにアール・ヌーボー的な雰囲気もあるかな。エッシャーのちょっと意外な側面が観られる作品だと思います。
23-27
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「天地創造」こちらは旧約聖書の天地創造を主題にしたもので、4日目を除く1~6日目の場面が展示されていました。1日目は太陽のようなものの上を飛ぶ鳥、2日目は大雨と海の潮、3日目は沢山の植物、5日目は魚や鳥たち、6日目は椰子の木の下で肩を組む裸の男女(アダムとエバ)が描かれています。こちらも装飾的な感じで、制作年も1920年代なので学校の装飾美術からの影響なのかも?と思ったのですが、解説では特に触れていなかったので詳細は不明です。
この近くには失楽園やバベルの塔を主題にした作品なんかもありました。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「地獄(ヒエロニムス・ボスの絵画に基づく)」こちらはボスの作品の模写で、巨大な樹木人間の周りを沢山の人や悪魔が群がる様子が描かれています。一見するとボスの作品そのもののように観えますが、中にはエッシャーが作ったモチーフなどもあるそうです。奇想の画家で有名なボスにエッシャーも心惹かれたのかな。こちらもルーツの一端が垣間見える作品でした。
参考記事:
ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで (Bunkamura ザ・ミュージアム)<3章 風景>続いては風景画のコーナーです。エッシャーは1920年代にイタリア旅行に行き、そこでスケッチを描いて、ローマの夜景などを劇的な明暗で描いた版画を作ったようです。後にイタリアを離れてからは自然描写の関心を失ったようですが、初期には後のモザイクパターンや錯視を招く画風に繋がるモチーフも観られるようで、ここにはそうした作品も並んでいます。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「サンジミニャーノ」こちらはイタリアの町並みを仰ぎ見るような感じで描いた作品で、中央にオリーブの木があります。真っ暗な空に白い建物が映え、単純化された丘が波打つような表現となっていました。かなり明暗が強くてちょっとシュールな雰囲気の作品です。
この辺の作品は版画として面白い表現の作品が多かったです。
34
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「ローマ、ボルゲーゼの聖獣」こちらは手前に大きな龍のような像(聖獣らしい)を描き、背景にイタリアの背景が描かれた作品です。水平・垂直の直線を多用したストライプの建物が建ち並んでいて、建築を学んだだけに単純化されても特徴的な感じがします。リズミカルな画面で、パターン化されたような感じも出ていて後の作風を予感させました。
やはり建築に興味があったようで、この辺は建物を描いた作品が多かったです。(イタリアの切り立った崖にも興味があったのか、崖の絵も多い)
55
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「ポジターノの古い家」こちらはイタリアの家を描いたもので、1軒だけ切り出したような感じで描かれています。画風は特に変わった所はないのですが、段差の多い家で階段がいくつもあるのが特徴的です。これはエッシャーの騙し絵に出てくる家の雰囲気に似ているような…。 こうした風景や建物が下地となっていったのが伺える作品でした。
56
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「アマルフィ海岸」海岸とそこに建つ城のような建物が描かれた作品で、複雑な階段と橋が組み合っている様子が写実的に表されています。ここでは細かい線や点を使った表現で明暗もくっきりだしていて、面白い手法となっています。また、複雑な構造からは後のパラドックスのある建物を生む下地になるようなものを感じました。
<4章 人物>続いては人物のコーナーです。エッシャーは当初は主に家族をモデルにリアルな人物像を描いていたのですが、世界大戦後は人間社会に対する見方が暗くなり 無個性で時にグロテスクな人物像を描くようになったようです。ここにはいずれの時期の作品もあって、その変遷の様子も観ることができました。
61
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「子供の頭部」こちらは18歳の頃の初期作品で、あどけない子供の頭部を描いています。版画家の道に進む前のものらしく、やや素朴な仕上がりにも思えますが目が生き生きしているように思いました。中々貴重なコレクションです。
この辺には19~21歳頃のリノカット(ゴム版みたいな凸版の版画)の作品も何点かありました。陰影が強くてちょっと不穏な感じも受けます。
70
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「父G.A.エッシャーの肖像」こちらは虫眼鏡で新聞のようなものを観ている帽子の老人を描いた作品です。かなり細かくて写真のようなリアルさがあり、毛の1本1本まで表現されていて版画とは思えないほどです。エッシャーの騙し絵的な作品ではこうしたリアルで個性まで伝わるような人物はあまり観ないので、戦前の頃の作風がよく分かる作品だと思います。
この近くには自画像や奥さんを描いた作品なんかもありました。作品ごとに割と表現が違うので、色々試していたのかな。自画像は12点ほど残しているそうです。
72
マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「婚姻の絆」りんごの皮のようになった2人の顔が隣り合っていて、お互いが帯状に繋がっている様子が描かれています。これは左が妻のイエッタ、右はエッシャー自身でお互いが結びついていることを表しているようです。結構不気味な感じはしますが、2人の絆の意味もあるようで奥さんとの関係性も伺えました。
この近くには何度か観たことがある「出会い」もありました。戦時中の作品で、人間を原人のように描いているのは皮肉でしょうか。
<5章 広告>続いては実用的な版画のコーナーで、エッシャーによる挨拶状や年賀状、広告、ロゴなどの仕事が並んでいました。
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「レストラン インシュリンデ(ハーグ)のためのエンブレム」こちらは円形を3つに分けたベンツのマークみたいな枠の中に、椰子の木などの南国の風景が描かれたエンブレムです。エンブレムの周りには漢字も使われていて、南洋酒櫻と書かれています。そのせいか勝手に中華料理の店かと思いましたが、そこは解説がないので定かではなかったですw こうした広告の仕事も手がけていた様子がよく分かります。
この隣にも漢字用便箋のデザインなんかもありました。父親は日本で働いていたし、中国や東洋に関心があったのかな?
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マウリッツ・コルネリス・エッシャー 「アッセルベルフのための年賀状(グリーティングカード)」こちらは白黒のパターンを組み合わせて魚と鳥が組み合うようになった作品です。鳥は上の方に行くと帆船に変わっていき、海に浮かんでいる様子となっていきます。年賀状の為に描いたようですが、この手法はエッシャーそのものといった感じの作品でした。
ということでこの辺までが1階の展示内容となっていました。割と騙し絵ではない作品が多いのですが、エッシャーの奇想な作品はいきなり作られた訳ではなく、科学や建物などへの関心から生まれているのがよく分かるのではないかと思います。後半には代名詞的な騙し絵のような作品もありましたので、次回は2階の内容をご紹介しようと思います。
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