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ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか (感想後編)【国立新美術館】

前回に引き続き国立新美術館の「ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか」 についてです。前半は2章の途中まででしたが、今日は2章の残りと3章についてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

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【展覧名】
 ルーヴル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか

【公式サイト】
 http://www.ntv.co.jp/louvre2018/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/louvre2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2018年5月30日(水)~2018年9月3日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半は「幕間劇」というコーナーが狭くて作品が小さめなので結構混雑していましたが、それ以外の場所は快適に鑑賞することができました。

 参考記事:
  【番外編 フランス旅行】 ルーヴル美術館
  ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり- 感想前編(東京都美術館)
  ルーヴル美術館展-地中海 四千年のものがたり- 感想後編(東京都美術館)


<第2章 権力の顔>
前編に引き続き、この章は権力の顕示の為に作られた作品のコーナーです。

[幕間劇1 持ち運ばれ、拡散する肖像-古代の硬化から17世紀ムガル朝インドのミニアチュールまで]
ここにはコインやカメオなどが展示されていました。こうした品には権力者の顔が表され、裏面にはモットーや信念などが刻まれたようです。カメオは親しい人への贈り物にもなったのだとか。他には指輪があり、これらはお守りとしての役割もあったようです。いずれの品も大体は横顔で、プロフィールと呼ばれる構図となっていました。

少し先にはちょっと珍しいインドのムガル帝国の「肖像画と絵画のアルバム(画貼)」という品もありました。こちらはタイトル通りアルバムのように様々な肖像が写実的に描かれていて、インドらしい生っぽさも感じられました。2枚対で横顔が描かれているものもあり、表現方法にはヨーロッパからの影響もあるようでした。

66 エジプト・前2世紀後半 「クレオパトラ2世、またはクレオパトラ3世の肖像」
こちらはよく知られるクレオパトラ7世の先祖であるクレオパトラ2世か、その娘の3世を描いた作品です。非常に厳しい表情で口を結んでいるのが印象的で、ちょっと気難しい人のように見えます。解説によると、この頃の宮廷は陰謀が渦巻いていたそうで、その中を逞しく生き抜いたのが表されているようです。また、この頃の肖像は一族の表情を強調しているそうで、母も娘も似た姿で描かれたので見分けがつかないとのことでした。美人で名高いクレオパトラの先祖がこうした顔で描かれているというのは意外で面白かったです。

この辺は女性の権力者の作品が並び、近くにはマリー・アントワネットの胸像をセーヴルのピスキュイ彫刻で作った作品もありました。また、マリー・アントワネットの娘のマリー=テレーズ=シャルロット・ド・フランスの肖像(ジャン・グロの作品)もあり、ブルボン朝時代の王妃として威厳ある姿となっていました。

72 イタリア・1世紀 「ホメロスの架空の肖像」
こちらはトロイア戦争について書いたイリアスとオデッセイアの作者であるホメロスの胸像です。ホメロスの顔なんて分かるの?と驚いたのですが、ホメロスは実在したかも定かでない人物なので、これは想像で作られたもののようです。もじゃもじゃの髭で盲目だったという伝承になぞらえて目は独特な表現となっています。想像とは言え 作家然とした雰囲気が伝わってくるのですが、それはこの作品が作家や哲学者はこう表すべきというコードに従って作った為のようでした。作家はこういう姿、皇帝はこういう姿というコードがそのまま現代人が持つイメージにも繋がっているのかもしれませんね。

[幕間劇2 持ち運ばれ、拡散する肖像-フランス国王ルイ18世のミニアチュール・コレクション]
こちらはカメオのような小さな肖像が並ぶコーナーです。ここも小部屋で作品が小さいので若干混んでいました。

79-81 「国王の嗅ぎタバコ入れの小箱」「国王の嗅ぎタバコ入れのためのミニアチュール48点」「ルイ18世の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは楕円形のカメオのようなものに描かれたフランスの君主や王族、聖職者などの肖像が48枚並んでいました。豪華な嗅ぎタバコ入れに入っていて、ちょっとメンコみたいなw 理想化されたような姿で描かれていて、優美な姿の人が多かったように思います。


<第3章 コードとモード>
3章は前章にもあったコード(伝統的な型)と共にモード(流行)を取り入れた肖像のコーナーです。ルネサンス以降、肖像を所有する人とモデルの裾野がブルジョア階級からさらに下の階層へと広がり、個人的な記念や贈り物など私的な用途の為に制作されたようです。それらは上流階級の肖像表現の伝統的な「コード」を踏襲しつつ、一方で各時代の地域・社会に特有の「モード」が反映されたようです。ここにはそうしたルネサンスから19世紀の作品が並んでいました。

82 サンドロ・ボッティチェッリと工房 「赤い縁なし帽をかぶった若い男性の肖像」 ★こちらで観られます
こちらは赤い帽子の男性がやや斜めを向いた姿で描かれた作品です。ちょっと平面的な感じもしますが、陰影もあって写実的に描かれていて 目の辺りにボッティチェリらしい特徴を感じます。昔は肖像と言えば横向きの「プロフィール」が一般的な構図だったのですが、次第にこうした正面を向くようになっていったようです(ルネサンス期でも横向きの肖像はよく観ます) 赤毛の青年の凛々しい姿で、富裕層らしい気品が感じられる人物像でした。

86 ニコラ・ド・ラルジリエール 「パリ市参事会員ユーグ・デスノの肖像」
こちらは巻髪のカツラを付けた赤い衣の男性で、この衣は司法官であることを示しているそうです。肖像ではこうした服装や装飾品で身分を表すのはよくあることで、手には紙を持って職業をアピールするかのように描かれています。さらに背景の小物などはその人の教養を示したりするようで、肖像1枚からでも色々とその人について洞察することができるようでした。(とは言え、パっとみたらカツラを付けたオッサンにしか観えないですがw)コードに従っていると分かることもあるんですね。

この隣には「肖像(通称:フュズリエ爺さん)」という軍服のような姿の男性像がありました。こちらは逆に広く使われていた制服で描かれているので、何の職業の人物か特定できないようでした。

91 ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ) 「女性の肖像(通称:美しきナーニ)」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている目玉作品で、胸に手を当てた青い服の金髪の女性が描かれています。身分の高そうな格好をしていて恐らくヴェネツィアの貴族の理想像と考えられているようですが、誰を描いたかは分かっていないようです。(元はナーニ家が所蔵していたのでナーニと呼ばれたのですが、後に無関係と判明したようです) 胸に手を当てるのは夫への忠誠を示し、金髪はこの時代の美人の条件だったようで、貞淑な印象を受けます。服装も当時の流行を反映しているようで、質感豊かに描かれているのも見どころです。また、この肖像は何処から観ても目線が合わないと言われていて、角度を変えながら観てみましたが確かにどこを観ているのか分からない不思議な目をしていました。赤みがかった頬、逆に影のついた体など緻密な表現も見事で、ルネサンスの傑作の1つであるのは間違いないと思います。

93 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 「ヴィーナスとキューピッド」 ★こちらで観られます
こちらは17世紀オランダの服を着た女性と、頬を寄せた子供を描いた作品です。子供には羽が生えていてキューピッドの姿のようになっているので、母親はヴィーナスとも解釈できそうです(キューピッドはヴィーナスの子供) しかしこの女性はレンブラントの内縁の妻として後半生を支えたヘンドリッキェをモデルにしているようで、子供は娘のコルネリアと考えられているそうです。(レンブラントは他にもこうした身近な人を使って神話を題材にした作品をいくつか残しています。) 暗い中に明るく浮き上がるような明暗表現は流石で、慈愛に満ちた表情や仲睦まじい様子が微笑ましい作品となっていました。

95 エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン 「エカチェリーナ・ヴァシリエヴナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像」 ★こちらで観られます
これは女性画家のル・ブランによる作品で、こちらを観て微笑む青い服の女性が描かれています。モデルは美貌で知られた女性らしく、巻き髪でやや首を傾げて魅力的な雰囲気があります。瑞々しい肌や緻密な表現で、モデルの美しさを存分にあらわしているようでした。この展覧会で一番美人かもw

この隣にはオーギュスタン・パジューによるル・ブランの肖像もありました。ル・ブラン自身も美人です。
 参考記事:
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想前編(三菱一号館美術館)
  マリー=アントワネットの画家ヴィジェ・ルブラン -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- 感想後編(三菱一号館美術館)

107 ジャン=フランソワ・ガルヌレ 「画家の息子アンブロワーズ・ルイ・ガルヌレ」
こちらは毛の長い猫を抱いて笑っている少年の肖像です。髪が長くて、一見すると女の子のように見えるイケメンかなw 赤い服を着ているせいか明るい色合いで、幸福そうな雰囲気が画面にあふれていました。猫もおとなしくしていて可愛い作品です。

106 フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 「第2代メングラーナ男爵、ルイス・マリア・デ・シストゥエ・イ・マルティネス」 ★こちらで観られます
こちらは犬を連れた男爵の姿を描いた作品ですが、男爵と言っても2歳8ヶ月の小さい男の子です。フリルのようなものをつけていて身分の高さを感じますが、あどけない雰囲気があるのは年相応かな。犬は猟の嗜みの為の存在のようですが、子供にとっては良い遊び相手のようで子犬のように小さく可愛らしく描かれていました。画面に背景の部分が多く、肖像が中央に寄っている為 ちょこんとした感じに見えるのも面白い構図でした。
 参考記事:
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想前編(国立西洋美術館)
  プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影 感想後編(国立西洋美術館)

108 フランツ・クサファー・メッサーシュミット 「性格表現の頭像」 ★こちらで観られます
こちらはめちゃくちゃ顔をしかめている禿げたオッサンの胸像ですw 梅干しを食べた時のような何とも個性的な表情ですが、よく観ると口をテープで止めているのが分かります。これは妄想の病と戦っているとのことで、思ったより深刻な理由でこうした顔をしているようです(失礼w) 作者は表情の研究をしていたようで、観相学からの影響もあるようでした。とにかくインパクトのある作品なので、記憶に残りそうな感じでした。


<エピローグ アルチンボルド―肖像の遊びと変容>
最後は16世紀後半に活躍した奇才の画家ジュゼッペ・アルチンボルドの「四季」から春と秋の2点が並んでいました。アルチンボルドについては昨年の西洋美術館の展示の記事を参照して頂ければと思いますが、寄せ絵のような肖像を描くことで皇帝の権威を示す狙いもあり、単なる奇想ではなく時代的な背景も面白い作品です。
 参考記事:アルチンボルド展 (国立西洋美術館)

ジュゼッペ・アルチンボルド「春」「秋」 ★こちらで観られます
いずれも左向きの肖像で、春は沢山の花々、秋はカボチャ・洋梨・葡萄など様々な秋の作物を組み合わせて人の顔のようにしています。世界各国の花が描かれているのは世界中の花を観られる機会があったことを示すので、当時の神聖ローマ帝国の強大な国力も伺えるようでした。何度観ても発想の面白い作品です。


ということで、様々な肖像を多面的に観ることができる展示となっていました。これだけの揃えは流石はルーヴル美術館と言った感じですが、ダイジェスト的な感じだと思います。この展示を観れば肖像の歴史や各時代の表現も分かると思いますので、幅広い人が楽しめそうです。会期が長めですが、会期末はいつも混雑するので気になる方はお早めにどうぞ。

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