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建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの 【森美術館】

1ヶ月ほど前の金曜日の会社帰りに六本木の森美術館で「六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」を観てきました。一部で撮影可能となっていましたので、写真を交えながらご紹介していこうと思います。

DSC06979.jpg

【展覧名】
 六本木ヒルズ・森美術館15周年記念展
 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの

【公式サイト】
 http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/japaninarchitecture/index.html

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2018年4月25日(水)~ 9月17日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はタイトルの通り、古今の日本の住宅を取り上げたもので時系列ではなく9つの視点に沿って紹介する内容となっています。森美術館では過去にル・コルビュジエ展や、丹下健三らのメタボリズムを取り上げた展示などスタイル別の建築展を開催してきましたが、今回はそういった展示とは違い広範囲に様々な建物を取り上げていました(今回はメタボリズム展で観られた品もあります) 展覧会の様子については各章ごとに簡単なメモと写真を使って振り返ってみようと思います。なお、撮影可能な場所は5箇所です。


<1.可能性としての木造>
まずは木造のコーナーです。初っ端から凄い木組みがお迎えしてくれました。

北川原温《ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ》
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。(以下同文)
DSC06984.jpg cc.png
高さ5.3mもある巨大な木組みです。近くで観ると中々圧倒される迫力がありました。

この章には他に さざえ堂や平等院鳳凰堂、隈研吾 氏の「梼原木橋ミュージアム」、東大寺南大門、古代の出雲大社、メタボリズムに影響を受けた磯崎新の「空中都市渋谷計画」、スカイツリー、東照宮五重塔などの模型などもあります。特に出雲大社の1/50サイズの模型は見どころで、実物は高さ48mもあったと考えられるので模型でも1mくらいの高さがありました。こんなものが古代にあったかと思うと驚きです。(以前1/10のサイズを観た時は本気で驚きました) こうした木造建築には釘を使わない技法で作られているものもあり、その組み方なども紹介されていました。
 参考記事:
  くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 感想前編(東京ステーションギャラリー)
  天上の舞 飛天の美 感想前編(サントリー美術館)
  東大寺の写真 (奈良編)
  メタボリズムの未来都市展 (森美術館)
  古事記1300年・出雲大社大遷宮 特別展「出雲―聖地の至宝―」 (東京国立博物館)
  日光東照宮 (日光編)
  東京スカイツリーの写真(工事中の頃)


<2.超越する美学>
続いては異なる時代の建築を比べて共通項を探すという趣旨のコーナーです。ここでは伊勢神宮と谷口吉生 氏による鈴木大拙館(★こちらで観られます)を比較したりしていました。一見するとそれほど似ていませんが、日本の建築は直線や直角の多い簡潔な形をしているのが共通なのかもしれません。すっきりとして無駄な装飾が無い点に共通項があるように思えました。

他にも佐川美術館、小堀遠州の茶室などもあったかな。佐川美術館の屋根なんかは古代の日本の社殿を彷彿とさせるかも。


<3.安らかなる屋根>
続いては屋根に特徴のある建物のコーナーです。ここにはまず二川幸夫の「日本の民家」の写真集があり、各地の風土に合わせて作られた屋根の様子を観ることができました。この写真集、非常に素晴らしいのでいつか欲しいと思っていますw
また、ここには丹下健三の「国立代々木競技場」や山田守の「日本武道館」などに関する品もありました。武道館の屋根は山田守が富士こそ自然な美しさと考えて富士に見立てて作ったことなんかも紹介されています。そう言われてみると富士山っぽい末広がりになっていますね。
他には妹島和世の「京都の集合住宅」の巨大な模型が目をひきました。複数の家が入り組んでいて屋根が繋がっているような面白い構造です。
 参考記事:二川幸夫・建築写真の原点 日本の民家一九五五年 (パナソニック 汐留ミュージアム)


<4.建築としての工芸>
続いては建築としての工芸ということで、工芸的な側面のある建物のコーナーです。まずは黒川紀章による「日本万国博覧会 東芝IHI館」に関する品があり、テトラポッドみたいな形の逆三角形を組み合わせて作った様子が紹介されています。これは最初から解体することを想定していたようで、分解しやすさと移動しやすさが設計に考慮されているようです。全体の見た目も斬新だし、万博で実際に観た人も驚いたのでは?

その先にはブルーノ・タウトが作った工芸品が展示されていました。行灯みたいな竹製のライトスタンドがあって、日本らしいシンプルさとモダンさが融合したような品です。

そしてここには京都の妙喜庵にある「待庵(たいあん)」のレプリカが展示されていました。ここは撮影可能です。
DSC06992.jpg cc.png
千利休が建てたとされる最古の茶室で、直線の多いシンプルさが美しい建物です。交代制で中に入ることもできました。

こちらは待庵の中の様子
DSC06996.jpg cc.png
茶室なので結構暗くて狭いですw 2畳くらいですが利休の美学が詰まったような空間です。

こちらも待庵の内部
DSC06998.jpg cc.png
1組あたり1分くらいなので慌てて変な構図になってますが、次の間も入れました。詫た壁の質感とかもよく再現されています。

この先にあった石山修武の「幻庵からアンモナイト美術館へ」という作品は以前の展示で観た「開拓者の家」に似ているように思えました。また、岡啓輔が12年間自力で建設している自邸も同じ展示で観た気がします。この自邸は普通の今クロートの2/3の水分らしく、複数回の打設が必要とのことでかなり苦労している様子を映像で観ることもできます。
 参考記事:日本の家 1945年以降の建築と暮らし感想後編(東京国立近代美術館)


<5.連なる空間>
続いては撮影可能な場所が3箇所もあったコーナーです。20世紀のモダニズム建築の時代になり、重要なのは空間だという考えが強まったそうで、ここには空間の理想像を見出す様子などが展示されていました。

こちらはブックラウンジ。この本を実際に読むこともできます。
DSC07030.jpg cc.png
お客さんが多くて上手く写真が撮れませんでしたが、ここには丹下健三、長大作、剣持勇などがデザインした椅子もあって座ることもできます。むしろどこかで常設して欲しいくらい洒落たスペースです。

こちらは1/3サイズの丹下健三自邸の模型。結構大きく感じます。
DSC07045_20180624234438698.jpg cc.png
既に現存しないのでこれだけリアルなものを観られるのは貴重な機会かも。日本っぽさとモダニズムを感じさせます。

丹下健三は他にも香川県庁舎に関する品がありました。猪熊弦一郎の壁画なんかもあるらしいので いつか訪れてみたい県庁です。

こちらは齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャー「パワー・オブ・スケール」 1分以内なら動画も撮影可能でした。

まるでその場に建物があるような驚きの映像で、原寸大で様々な建物が映し出されました。同潤会アパートとか割と狭いのかも。

他にも寝殿造や桂離宮といった日本古来の空間の使い方に関する品や、東博の法隆寺宝物館、藤本壮介「House N」など見覚えのある作品などもありました。
 参考記事:
  日本の家 1945年以降の建築と暮らし 感想前編(東京国立近代美術館)
  東京国立博物館の案内 (法隆寺宝物館 2018年01月)


<6.開かれた折衷>
続いては洋風建築などと折衷された建物のコーナーです。ここは点数は多くないのですが、特に目を引いたのは現存しない「宮城県会議事堂」と前田健二郎の「大礼記念京都美術館(現在の京都市美術館)」の模型です。京都市美術館は私も訪れたことがある(ブログ休止中)のですが、レンガ風の古典主義だけど銅瓦葺に千鳥破風の屋根が日本っぽくて、遠くから観ても折衷されている様子がよく分かります。内部も折衷されてる感があるので、また訪れてじっくり観たい建物です。


<7.集まって生きる形>
続いては公共の空間に関するコーナーです。ここで目を引いたのは2019年竣工予定の山崎健太郎の「52間の縁側」で、長屋みたいな家が延々と続いている模型となっていました。途中に江戸時代の人の紙人形なんかおいてあるのも面白い演出かなw 完成すると94mにもなるそうで、デイサービスや子供食堂、宿泊施設なんかに使われる予定だそうです。 長屋を公共施設のようにするという発想にも驚かされましたが、考えてみれば確かに長屋は公共的な要素がありますね。

ここには他に日本初の庶民のための学校である旧閑谷学校に関する品や成瀬・猪熊建築設計事務所のLT城西なんかもありました。
 参考記事:en[縁]:アート・オブ・ネクサス――第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展 (TOTOギャラリー・間)


<8.発見された日本>
こちらは日本建築と外国人の関わりについてのコーナーです。岡倉天心の意向を受けて平等院鳳凰堂を参考に作った久留正道の「シカゴ万博博覧会日本館 鳳凰殿」や、フランク・ロイド・ライトの旧帝国ホテル、弟子のアントニン・レーモンドの「赤星四郎週末別荘」、MOMAの中庭に建てられた吉村順三の「日本家屋展 松風荘」、同じく吉村順三の「ロックフェラー邸」などに関する品が並んでいました。フランク・ロイド・ライトは日本の浮世絵の展覧会を開いたことがあるようで、浮世絵もあります。また、最近では伊東豊雄の「台中国家歌劇院」(2016年)があり、こちらは洞窟のような曲線と穴が近未来的な雰囲気でした。
 参考記事:
  アントニン・レーモンド 「旧イタリア大使館別荘」 (日光編)
  【番外編】博物館明治村の写真 後編(2013年12月)


<9.共生する自然>
最後は自然と共生する建築についてのコーナーです。ここには象設計集団+アトリエモビルによる「名護市庁舎」があり、沖縄らしさを感じさせます。私もこの建物の横の道を通り過ぎたことはあるのですが、遠くからでもその変わった造形の雰囲気が独特で、驚いたのをよく覚えています。沖縄の文化などを研究しつつ断熱性や風の道を作り、公共建築とは何か?を考え抜いた傑作と言えると思います。

ここには他に鍾乳洞の洞窟のような石上純也の「House&Restaurant」や厳島神社、屋根に草の生えた藤森照信「ラ コリーナ近江八幡 草屋根」に関する品などもあり、まさに自然と共生している様子が伺えました。


ということで、日本の建築に関するダイジェスト的な内容で今まで観た色々な建築展の記憶が蘇って来ましたが、流石にそれぞれを深掘りしている訳ではないので建築の歴史を知っていないと流れとかは分かりづらいかもしれません。しかし、日本の建築の美味しいところを集めた感じなので、建物にあまり詳しくない方もこれを機に建物の面白さを知ることもできそうな展示です。

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