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ミケランジェロと理想の身体 (感想前編)【国立西洋美術館】

先週の土曜日に上野の国立西洋美術館でミケランジェロと理想の身体を観てきました。非常に見応えのある内容となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC08547.jpg

【展覧名】
 ミケランジェロと理想の身体 

【公式サイト】
 http://michelangelo2018.jp/index.html
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018michelangelo.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年6月19日(火)~2018年9月24日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは多かったですが意外と混んでいるというほどでもなく、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示はルネサンス期の巨匠ミケランジェロ・ブオナローティに関する内容で、特に彫刻について取り上げています。とは言ってもミケランジェロの作品は2点で後半にあるのですが、ミケランジェロに影響を与えたギリシャ彫刻などが並びルネサンスの表現の源泉を知ることができるようになっていました。詳しくは各章ごとに気になった作品と共にご紹介していこうと思います。なお、ミケランジェロ自身については以前の展示の際にも記載していますので参考記事をご参照ください。

 参考記事:
  レオナルド×ミケランジェロ展 (三菱一号館美術館)
  ミケランジェロ展―天才の軌跡 感想前編(国立西洋美術館)
  ミケランジェロ展―天才の軌跡 感想後編(国立西洋美術館)


<I 人間の時代-美の規範、古代からルネサンスへ>
まずは古代からルネサンスへの影響に関するコーナーです。古代ギリシャでは美の価値が重視され、外見の美と内面の全は深く結びついていると考えられていたそうです。紀元前5世紀のギリシャの彫刻家ポリュクレイトスは、人間の体の部位を測定した値を元に基準値を設定し それを体全体としての調和を考えながら再統合して理論書「カノン」(規範)に結実させたようです。そしてこの男性美の理想として体現したのが神々や英雄、競技者といった裸体象でした。ギリシャ的な美の理想はその後の古代ローマに受け継がれていきましたが、キリスト教が広まるとその価値観の元で身体は隠されるようになってしまいます。それがルネサンス期に人文主義の元に回帰され、この時代にはギリシャ彫刻を範にした作品が作られたようです。この章ではその様子を観ることができるようになっていました。なお、この章では「コントラポスト」という言葉がよく出てきます。これは片足に重心をかけて立ち、体全体に動きを出すポーズのことです。ギリシャ彫刻やルネサンスの彫刻でよく観られる表現でこの章でもその様子が伺えました。

[I-1 子どもと青年の美]
この項では古代ギリシャの子供と青年の像を取り上げていました。古代ギリシャの体への関心はまず青年と大人に始まり、次に少年、その後に幼児へと向かっていきました。幼児は理想的なプロポーションとはかけ離れていて、コントラポストがもたらす美しい調和も生まれませんが むしろそれが楽しみとなっていたようです。一方、ルネサンス期の幼児表現は古代の石棺彫刻が着想になったそうで、古代より逞しい姿で表されました。また、古代の少年の表現はしなやかさを際立たせるためわざとバランスを崩す姿勢を追求したようで、そうした作品も並んでいました。

4 「プットーとガチョウ」 1世紀半ば ★こちらで観られます
こちらは右手を上に伸ばして、左手は傍らのガチョウを押さえつけている赤ちゃんの大理石像です。当時ガチョウはペットとして飼われていたらしく子供とセットで表されることも多かったようです。滑らかな表面で、関節の辺りに輪ゴムで留めたような線が出ているのがリアルな赤ちゃんっぽさを感じるかな。動きのあるポーズで表情も親に何かを訴えるように観えました。

この近くにはプットーのリリーフやヘラクレスの赤ん坊の頃をモチーフにした作品などもありました。

6 スケッジャ(ジョヴァンニ・ディ・セル・ジョヴァンニ・グイーディ) 「遊ぶ幼児たち」 1450-70年 ★こちらで観られます
こちらは円形の盆に描かれた絵画で、2人の裸の子供が布?のようなものを持って向き合っている様子となっています。これは1人を裏表で描いたらしく振りかぶるようなポーズと筋肉が躍動的な印象です。いくらなんでもこんな筋肉質な子供はいないだろ…とつっこみたくなるくらいムキムキでちょっとアンバランスに思えます。古代の大人と子供が混じり合ったようなルネサンス期独特の作風と言えるようでした。

この近くには17世紀の「6人の奏楽天使の群像」という6体の彫像もありました。こちらは割と子供っぽさを感じたかな。

10 「弓を引くクピド」 2世紀末
こちらは真上に向かって弓を引くポーズをした裸のキューピッドの像です。弓自体はないのですが、かなり劇的なポーズとなっていて子供にしては等身が長いようにも観えました。昔は弓を持ってたんでしょうか。子供でもリアルさがありつつ理想的な美しさが感じられます。

12 「アキレウスとケイロン」 65-79年
これは見覚えがあった作品で、ポンペイ近くのエルコラーノで発見されたフレスコ画です。上半身が人間、腰から下は馬のケンタウロスであるケイロン(キローン)がアキレウス(アキレス)に竪琴を教えている様子が描かれ、アキレウスは片方の足に重心をかけたコントラポストの表現となっています。ケイロンは思慮深い顔をしていて、それを振り返って見上げるアキレウスの表情には敬意が感じられるかな。陰影がついて立体的な表現となっていて、ケイロンの腕がちょっと細い気がしましたが理想的な美しさの身体表現となっていました。
 参考記事:ポンペイ展 世界遺産古代ローマ文明の奇跡 感想前編(横浜美術館)


[I-2 顔の完成]
続いては顔の表現についてです。ギリシャ古典期の人々は肖像に興味を示さなかったようで、理想的な顔を求めたようです。その結果、男女の区別がつかないことも多くあり、年齢に応じている以外に差異の少ない顔となっているようです。一方、ルネサンス期も顔の表現の理想化が試みられたようですが、この頃には肖像にも知見があったため理想化されても個別的な特徴が残っているようです。ここには4点だけですが、その様子が伺える作品が並んでいました。

18 バッチョ・バンディネッリ 「バッカスの頭部」 1515年頃 ★こちらで観られます
こちらは頭部のみの青年像で、酒の神バッカスを表しているようです。眉から鼻筋がすらっと繋がるような彫りの深い顔だちで、頭に蔦の冠を被っているのでバッカスと分かります。やや巻き髪で少し口を開いて親しげに話しかけてくるようなイケメンとなっていました。

この近くには古代の神の像などが並んでいました。顔だけでは誰か分からないようで、持ち物などで判断するのかな。カロス・カイ・アガトスという外見の美=徳の高さ を求めたルネサンス期も同様で、理想化された人物像が中心と言えそうでした。


[I-3 アスリートと戦士]
続いてはアスリートと戦士の肉体表現のコーナーで、ギリシャ古典期の人体表現の規範はアスリートの体を通して確立されたそうです。同様に戦士もギリシャ美術の発展に不可欠で、ギリシャ民族の優位性を暗示していたようです。また、古代アスリートの裸体はルネサンス期の最良の教科書として複製・翻案されたようで、ここにはその範となったアスリート達の像が並んでいました。

24 「レスラー」 紀元前2世紀―紀元前1世紀
こちらは肘を上げて前傾姿勢になった裸体の男性像です。これはレスラーらしく肘に相手の手の一部がくっついているのですが、相手の像は失われています。元は2人で組み合っていたらしく、右の脇腹には相手の蹴りが入った跡と思われる所もあり、戦いを生々しく表現しています。筋肉隆々で動きがあり、これぞ古代彫刻といった理想化された躍動感がありました。

19 「アメルングの運動選手」 紀元前1世紀 ★こちらで観られます
これは頭と腕の無い男性像ですが、無駄のない筋肉質な体つきをしています。コントラポストのような姿勢で、腕は無いけど肩の様子から動きのあるポーズだったのではないかと思われます。割れた腹筋に浮き上がる肋骨はまさに理想の肉体像で、ちょっとダビデ像に似てるかも。 解説によるとこの人物は恐らくボクサーかパンクラティオンの競技者だったようで、オリジナルが別にあってこれはローマ時代にコピーされた品のようでしたが、十分に見事な作品となっていました。


[I-4 神々と英雄]
続いては神や英雄をテーマにした作品のコーナーです。古代ギリシャ人は神を最も美しい人間の姿で表し、完璧な肉体を誇っていました。特にヘラクレスが人気だったようで、欠かせないテーマだったようです。ルネサンス期も古代神話は格好の題材で、男性裸体表現の技を磨く重要な素材だったようです。ここにはそうした神の像が並んでいました。

32 「子どもたちを解放するテセウス」「ヘラクレスとテレフォス」 65-79年
これもエルコラーノで見つかった壁画で、テセウスがミノタウロスを倒した後のシーンが描かれているようで、足元にミノタウロスが倒れています。テセウスは均整の取れた姿でコントラポストの姿勢でS字を描くような感じで、意外とすらっとして優美な印象を受けました。
この隣には同様の壁画でヘラクレスを描いていたのですが、こちらはかなり筋骨隆々の姿となっていて、英雄によって異なる人体表現となっているようでした。

この近くにはヘラクレス像などもあって、確かにヘラクレス多めです。

37 クレオフラデスの画家  「アッティカ赤像式カルピス、ヘラクレスとネメアのライオン」 紀元前490年頃
こちらは黒地にオレンジで絵付けされた壺で、ヘラクレス12の功業の最初のエピソードであるネメアのライオン退治の様子が描かれています。ライオンを押さえつけて口を開けている様子で、人体表現は若干硬い感じに見えるかな。デフォルメされて平面的に表されているのが独特です。彫刻だけでなく装飾や絵画においても理想の肉体が表されていたのが伺えました。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺にしておこうと思います。前半からギリシャ・ローマ時代の価値観や表現がよく分かる内容で、これがルネサンスにも影響を与えていた様子が伺えました。後半には今回のメインであるミケランジェロの作品がありましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。

 → 後編はこちら 

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