関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

長谷川利行展 七色の東京 【府中市美術館】

2週間ほど前の日曜日に府中の府中市美術館で「長谷川利行展 七色の東京」を観てきました。この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは後期の内容でした。

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【展覧名】
 長谷川利行展 七色の東京

【公式サイト】
 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/hasekawatoshiyuki.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王府中駅

【会期】2018年5月19日(土)~7月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は放浪の画家と呼ばれ1920年代前半から1940年頃まで活動した長谷川利行についての18年ぶりの大規模な回顧展となっています。油彩・水彩・素描・ガラス絵など前期後期合わせて140点という決定版と言える内容で、非常に見応えがありました。
まず、長谷川利行についてですが、1891年に京都に生まれ青春時代は文学に傾倒し自ら歌集を出版するほどだったそうです。その後、30歳頃に上京し本格的に絵画を志して作画活動に没頭するようになり、36歳で二科展の樗牛賞、翌年には1930年協会展で奨励賞を受賞するなど才能を開花させました。しかし生活面では定居を持たず日銭で日々の暮らしを送るようになり、病を得て路上に倒れ東京市養育院で誰にも見送られず49歳で亡くなってしまいました。そんな放浪っぷりをしてた為か、作風は独自路線で他に無い個性を持った人で面白い作品が並んでいました。3章構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村 (板橋区立美術館)
  昭和の洋画を切り拓いた若き情熱1930年協会から独立へ (八王子市夢美術館)


<1章 上京-1929 日暮里・震災復興の中を歩く>
まずは活躍し始めた頃のコーナーです。長谷川利行は30歳ころまで京都や関西で過ごし、短歌を作る一方で大下藤次郎が主催した水彩画講習会に通っていたようです。その後上京し1923年の32歳の時に新光洋画会展で「田端変電所」が入選し、画家となる転機となったようです。しかしその年の9月1日に関東大震災に被災し、一旦京都へ戻りました。しばらくして再上京し、1926年に日暮里の日蓮宗の修練場に下宿するようになり、その年の二科展では初めて入選を果たしています。さらに翌年には「酒売場」を出品し樗牛賞を受賞、1928年には1930年協会展で「地下鉄道」「カフェ・パウリスタ」などを出して協会賞を受賞するなど順調に受賞を重ねていきました。その画風はフォーヴィスム風とも言えますが、初期の頃から既に長谷川利行らしい独自路線となっていて、その個性に驚かされます。ここにはそうした活動当初の作品などが並んでいました。

1 長谷川利行 「田端変電所」
こちらは白壁の変電所が描かれた作品で、手前に鉄の柵が並んでいます。粗めのタッチでマチエールも大胆なので力強い一方、格子がリズミカルで幾何学的な要素も多いかな。確かに初期から長谷川利行の作品と分かる画風で既に完成度が高いように思えました。

この隣には自画像などもありました。面長でやや神経質そうな顔つきです。

4 長谷川利行 「酒売場」
これは樗牛賞を取った作品で、浅草の神谷バーの店内の様子が描かれています。天井の高い西洋風の建物で、沢山の人たちがテーブルに向かっている様子で、細部はかなり省略されて色も強めです。素早い筆致と構成も面白い作品でした。ちなみに長谷川利行はこの店によく通って電気ブランを飲んでいたのだとか。

この隣にには「カフェ・パウリスタ」もありました。最近テレビの鑑定番組(何でも鑑定団?)で発見されて話題になった作品です。東近美でよく観る作品ですが、出てきてよかったw
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2014年01月)

13 長谷川利行 「靉光像」
こちらは画家の靉光を描いた肖像です。長谷川利行は靉光の他に井上長三郎や寺田政明など年下の世代の画家と親しかったようで、これは靉光の家に泊まりに行った時に靉光のパレットと古カンヴァスを使って30分くらいで描いたそうです。背景も顔も薄い青色で、唇の赤が目を引きます。厚く大胆なタッチでこれを30分で描いたというのは驚きでした。この後も色々と豪快なエピソードが出てきますw

この辺は東京ステーションギャラリー所蔵の「汽罐車庫」もありました。長谷川利行はカフェや鉄道といった人が集まる場所をよく描いたようです。
 参考記事:鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます (東京ステーションギャラリー)

7 長谷川利行 「夏の遊園地」
こちらも大型の作品で、荒川遊園が描かれています。幟が立っていたり赤い屋根の建物があるのは分かるのですが、半ば抽象画のような勢いを感じさせる筆致となっていて、赤・青・緑の線が多く使われていました。かなり独特の色彩感覚で線が飛び交うような表現も長谷川利行の特徴と言えるかも。


<2章 1930-1935 山谷・浅草:街がアトリエになる>
続いては1930年代前半のコーナーです。長谷川利行は1929年に日暮里から山谷の簡易宿泊所に移ったそうで、当時は経済恐慌で失業者が溢れている状況だったようです。たまに知人のところに滞在することもあったようですが、転々として街をアトリエのようにして現場で描くことが多かったそうです。二科展では会友にも会員にも推されることがなかったようですが、二科展にこだわって出品し続けたらしく、1931年の二科展では「岸田国士像」を出して好評を得ました。しかし、長谷川利行はむしろ1回限りしか会わない無名の人々をよく描いていたようで、今回の展示でもそうした作品を観ることができます。ここには東京の有名な建物と共に当時の風俗が伺える作品などが並んでいました。

57 長谷川利行 「上野駅前 車坂風景」
こちらは広い道と線路らしきものがひかれた上野駅前の風景を描いた作品です。水彩画なのですが、長い筆致を使った表現は油彩と似た雰囲気があるかな。大胆な画面ですが離れて観ると情感が伝わってくるのが面白かったです。

18 長谷川利行 「童女」
こちらは真っ赤な背景と服が一体化したような感じで丸い顔の女の子が描かれた作品です。目が長い切れ長の目で、ちょっと悪そうな感じに見えるかなw 唇も赤くインパクトがありました。岸田劉生がよく描いた題材にも思えますが、長谷川利行も個性的な肖像を描くようです。

この辺には映画のセリフを話す活弁士や、芸人、カフェの人、浅草の人たちなどを描いた作品が並んでいました。人物像は結構色々な表現となっています。確かにどこの誰か分からない市井の人を描いた作品が多いかも

20 長谷川利行 「岸田国士像」
こちらが二科展で好評だった肖像で、やや茶色がかった背景にスーツを着てメガネを掛けた男性が手を組んで座っています。怪訝そうな感じの表情がちょっと変わっていますが聡明そうな印象を受けるかな。解説によると、この人は新進の劇作家で、長谷川利行の友人の矢野文夫を介して肖像を描かせて欲しいと頼んで4~5日で描いたそうです。その結果、好評だったのは良かったのですが、その後も毎日のように岸田家を訪ねては小遣いをせびり、辟易とされたそうですw 何だか長谷川利行の駄目人間っぷりが分かるエピソードで面白かったですw

この少し先には「矢野文夫氏肖像」という作品がありました。上京後に知り合い、誰よりも長谷川利行と共に過ごしたそうで、死後に評伝をまとめて顕彰に努めたそうです。この人のお陰で長谷川利行が今日でも評価されているのかもしれませんね。

37 長谷川利行 「水泳場」
こちらは隅田公園内の屋外プールを描いた作品で、大勢の人がプールで楽しんでいます。右上にはかなり高い所から飛び込んでくる人の姿もあって、動きも感じられます。空は青く爽やかで、夏のプールの楽しさや賑わいが伝わってくるようでした。人の描写が半ば抽象化しているのにそう感じるのが不思議な表現力です。


<3章 1936-死 新宿・三河島:美はどん底から生じる>
最後は晩年のコーナーです。1936年に友人の天城俊彦が天城画廊を開くと、2年間で14回も長谷川利行展を行ったそうで、1937年には長谷川利行を新宿旭町に引っ越しさせて絵を描かせたようです。この頃は2人でノア・ノア、モナミといった喫茶店に出入りし、女給さんたちを描いた作品も残しています。しかし新宿に移った頃から胃を病んで苦しむようになったそうです。やがて天城画廊が閉じると また山谷に戻っていきましたが、生活も体もどん詰まりの状況に追い込まれていきました。当時は日中戦争も泥沼化していて物資は不足し困難な状況で描く絵も減ってしまいましたが、どういうわけか絵は冴えたようです。それでも病には勝てず、1940年5月17日に三河島の駅の道端で行き倒れ、板橋の東京市養育院へと送られましたが10月12日に胃癌で亡くなりました。亡くなった時は友人もおらず見送る人はいなかったようです。このコーナーにはそうした苦難の時代の作品が並んでいました。

121 長谷川利行 「湯浴する女」
淡い青・白・黄色が混じり合うような背景に、赤い輪郭で描いた裸婦像です。これはガラス絵というガラスの板に描いた作品で、ガラスを手で持って裏面に筆を回して描いていたようです。正面を向けたままひょいひょいと僅かなうちに描いたいうのだからかなりの器用さです。(塗る順も逆にしないといけないだろうに簡単にこなすのは凄いと思います) 簡潔ながら瑞々しい印象の作品となっていました。

この近くには裸婦や女性像の他、相撲取りや猫を描いたガラス画なんかもありました。

111 長谷川利行 「青布の裸婦」
青・緑・赤の敷物の上に、頭の後ろに手を組んで目をつぶって仰向けで寝ている裸婦を描いた作品です。裸婦と壁?は黄色っぽく、髪は赤いなど 色彩が豊かで軽やかな印象を受けました。穏やかな表情も魅力的で、中々の傑作だと思います。解説によると、恐らくこれは天城画廊でモデルを呼んで描いたものではないかと考えられるそうです。

この辺は小さめの作品(特に女性像)が多いかな。ノアノアやモナミといった喫茶店の女給さんを描いた可愛らしい作品もありました。この辺の絵には画廊用に描いたのもあるのかも。

138 長谷川利行 「双葉山土俵入」
こちらは戦前戦中の頃の有名な横綱 双葉山が土俵入りする様子を描いた作品です。体は赤っぽく左手を伸ばした力強い表現となっていて、動きも感じられます。さらに背景のマチエールが飛び散るようで、オーラが勢いよく出ているかのように思えました。長谷川利行は相撲が好きだったそうで、1938年の初場所初日を観戦らしく その直後には「長谷川利行 春場所相撲絵展」なんて展覧会も開催されたのだとか。

この近くには大島に旅行した時の作品も並んでいました。

102 長谷川利行 「白い背景の人物」
これは今回の展示直前に発見された大型の作品です(二科展の為に描いたものか?) 白っぽい画面に5人の顔の輪郭が横並びに浮かんでいるような感じですが、それ以外はまるで抽象画みたい(ジャクソン・ポロック辺りみたい)に見えます。どこの誰を描いたかも分からないようですが、自由闊達な作風の極地みたいな作品で、ここまで観てきた長谷川利行の人柄も感じられるようでした。

最後に長谷川利行の個展の記録や日記のようなもの、ゆかりの地の地図なども展示されていて、ぶらりカードを作ろうというコーナーもありました。

ぶらりカードはこんな感じ
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いくつかの中から好きな絵柄を選んで、シルエットを重ねて作るワークショップです。

ということで作品も生涯も非常に個性的な長谷川利行の全容を知ることが出来る展覧会で大変満足できました。前期の作品は観られなかったので、図録も買いました。万人受けする画家ではないと思いますが、絵画ファンなら刺さるものがあるのではないかと思います。この記事を書いている時点で残り1週間しかありませんが、素晴らしい展覧会でした。

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