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近代洋画の先駆者浅井忠7-浅井忠のドローイング- 【千葉県立美術館】

ここ1週間ほど千葉の展示をご紹介してきましたが今回で最終回です。前々回・前回の千葉県立美術館の展示とセットになっていた「近代洋画の先駆者浅井忠7-浅井忠のドローイング-」という展示を観てきました。

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【展覧名】
 明治150年記念 近代洋画の先駆者浅井忠7-浅井忠のドローイング- 

【公式サイト】
 http://www2.chiba-muse.or.jp/www/ART/contents/1523866842940/index.html

【会場】千葉県立美術館 第3展示室
【最寄】千葉みなと駅

【会期】2018年4月21日(土)~7月8日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。この展示も既に終わっていますが、今後の参考になると思いますので記事にしておこうと思います。

さて、この展示は明治時代に洋画の先駆者として活躍した浅井忠についてで、下絵やドローイングを集めた内容となっています。浅井忠はバルビゾン派に影響を受けたアントニオ・フォンタネージに本格的な西洋画を学び、同級生の仲間を中心に日本最初の本格的な美術団体「明治美術会」を設立し、後に東京美術学校の教授にもなっています。教授就任の後にはパリやバルビゾンにほど近いフォンテーヌブローやグレーを訪れ、明るい色彩で季節感豊かな作品を残しました。パリではアール・ヌーヴォーにも触れ、自らも装飾活動に取り込むようになったそうです。この展示はそうした洋画と共に、日本画や工芸図案、挿絵、大津絵など様々な作品のドローイングが並んでいました。6つの章に分かれていましたので、簡単に各章ごとにご紹介していこうと思います。


<1 最初のドローイング>
確認されている浅井忠の最初のドローイングは10歳前後の頃に日本画の指導を受けて描いた作品で、当時は「槐庭(かいてい)」という号だったようです。ここはその時代のコピーが展示されていました。

1 浅井忠 「槐庭時代画帳」 ★こちらで観られます
こちらは佐倉藩の御用絵師 黒沼槐山の指導の一環として描かれた作品です。と言ってもコピーで、絵葉書サイズの18枚ありました。松竹梅や小動物など簡潔に描かれていて、大人なら上手いというほどでもないとは思いますが、10歳の作品とは思えない程の完成度です。既に情趣ある表現となっているのは高い才能を感じさせました。ちなみに浅井忠は子供の頃から温厚で高い人格を持っていたようで、絵の才能も抜群だったそうです。黒沼槐山も敬慕の念を持って接し、もはや教えることは無いと人格も才能も評価していたのだとか。


<2 西洋画家としてのドローイング>
続いては上京してから本格的に西洋絵画を学び、活躍していった時期のドローイングのコーナーです。

3 浅井忠 「曳舟通り」 ★こちらで観られます
こちらは冒頭のポスターにもなっている作品です。かなり緻密に描かれたデッサンで、用水路のような細い川沿いの家と そこを行く舟や馬が描かれています。長閑な光景を線と濃淡で表現していて、写実的でありながらも情感溢れる作品となっていました。ペンなのでやり直しがきかない中でこれだけの作品が描けるのは高いデッサン力があった為だと思います。

6 浅井忠 「スケッチブック(7)」
こちらは従軍した際に描いた「金州城南門外」の下絵となったスケッチで、堅牢な城壁と橋を渡って入城する軍隊らしき人々が描かれています。これも簡潔な描写ですが、かなりその場の様子が伝わってきて、少ない線で表現する力量が伺えます。ドローイングだからこそ作者の実力がよく分かるように思えました。

この他にも同様に従軍画家として朝鮮半島に訪れた時のスケッチがありました。 また、在学中の作品や、房総半島へ写生旅行に行った際の作品、フランス留学中のスケッチなどもあり、結構幅広い時期のコーナーでした。


<3 墨と筆によるドローイング>
続いては墨によるドローイングのコーナーです。洋画家のイメージがある浅井忠ですが、幼少期に日本画の指導も受けていたので、墨によるドローイングも身近な技法だったようです。ここには意外な作品が並んでいました。

9 浅井忠 「田植之図」
こちらは「明治美術会」を立ち上げた年に描いたものですが、洋画家としてのスタートと相反して日本画風の掛け軸となっています。笠を被って田植えをしている人々が簡略化して描かれ、雨が降っているようで上から薄っすらと黒い線が刷毛で塗られています。人がジグザグに連なっていて、農夫の1人は立ち止まってじっと田んぼを観ているような仕草が目を引くかな。奥に行くほど うっすらと霞むようで奥行きも感じさせました。湿気が感じられるような叙情的な作品です。

11 浅井忠 「虎図」
こちらは7幅セットで並んでいました。所々破れたりしていて、描きかけのものも多々あります。描かれているのはいずれも虎なのですが、中にはヒョウみたいに見えるのもいましたw いくつも虎のスケッチを描いていて、仙人みたいな人(豊干禅師?)の顔の下書きもいくつも描かれています。(生首みたいに首だけいくつも並んでいますw) 何度も構想を練りながら描いている推敲の様子が伺えるかな。ドローイングはインスピレーションを直に観ることができるという楽しみ方があるのですが、これは制作過程がつぶさに観られた気がしました。

その先には小さめのスケッチが並んでいました。

15 浅井忠 「山賊(4人)」
こちらはタイトル通り4人の山賊が描かれた作品で、座って休んで話し込んでいる様子となっています。槍や剣を持っていて、出で立ちはステレオタイプなコテコテな山賊に見えますw 戯画的な感じもあり、やや漫画チックです。解説によると、これは実際にモデルを観ながら描いたのではなく、経験則で色々なポーズで描いているのだとか。何だか洋画の浅井忠のイメージとはだいぶかけ離れた雰囲気に思える作品でした。

この近くには「大津絵」というタイトルもあったので大津絵も研究していたのかも (大津絵とは、江戸時代にお土産として描かれたゆる~い戯画みたいな絵のことです)


<4 挿絵でのドローイング>
続いては挿絵に関するコーナーです。浅井忠は小説や旅行記の挿絵も手がけていたようで、特にフランス留学中に同宿だった国文学者 池辺義象とは度々共演していたようです。

22 浅井忠 「浅井忠 画 池辺義象 歌」
こちらが池辺義象と共演した作品で、4曲1双の屏風となっています。1曲ごとに絵と歌がセットになっていて、それぞれにウサギ・犬・馬・牛・人などが描かれ歌に合わせた内容となっているようです。こちらは簡潔かつ軽やかな表現となっていて、情趣ある作品となっていました。解説によると、人物や動物たちはほとんどが向こう側を向いていて、主題の歌よりも目を引かないように配慮されているとのことでした。そんなさりげない気遣いができるなんて、確かに人格者だったんでしょうね。


<5 装飾のためのドローイング>
こちらは1点だけでした。前述のようにフランス留学中に浅井忠は装飾美術にも興味を持ったようで、特に壁画に関心を持ったようです。ここには壁画装飾で最も注力した皇太子のためのタペストリーの下絵が展示されていました。

24 浅井忠 「武士山狩図下絵」
こちらが先述の作品の下絵で、下絵でも大型となっています。鷹狩のような格好で騎馬した3人と3頭の馬が描かれ、武士は弓を持って遠くを観ているようです。線で描かれたラフな下絵ですが、馬が連なっているためか動きが感じられます。解説によると、これは白描画とよばれる墨と筆だけで線を基調に描いたもので、油彩画を元にタペストリーとして織られる過程で、作品の主題が損なわれないように油彩とタペストリーの中間的なものとして調整のために用意したのではないかとのことでした。


<6 工芸品のためのドローイング>
最後は工芸品の為のドローイングのコーナーです。浅井忠は帰国後に京都に新設された京都高等工芸学校の教授となって、染色科でドローイングと、図案科で図画実習・図画描法を指導していたようです。陶芸図案では京都の陶芸家と交流し、自らも図案の研鑽もしていたらしく ここにもその交流を伺わせる作品が並んでいました。

25 浅井忠 「向付皿」
こちらは清水焼の清水六兵衛の原型に浅井忠が絵付けした作品です。長方形をズラして重ねたような形の5枚の器に、百合・鹿・鶏・アヒル・雁などが簡潔に描かれています。割とゆるい雰囲気があってどことなく尾形乾山を思い出すかな。墨一色ですが、黒を効果的に使って味わい深い作品となっていました。


ということで、浅井忠のドローイングを通じて様々な活動の様子を知ることができました。浅井忠は洋画のイメージが強かったので、結構意外な作品が多かったかも。もう終わってしまった展示ですが、今後の美術鑑賞に役立ちそうな内容でした。

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