この前の日曜日に恵比寿の東京都写真美術館で「内藤正敏 異界出現」を観てきました。

【展覧名】
内藤正敏 異界出現
【公式サイト】
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3052.html【会場】東京都写真美術館
【最寄】恵比寿駅
【会期】2018年5月12日(土)~7月16日(月・祝)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
1時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_3_④_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
お客さんは結構いましたが、快適に鑑賞することができました。
さて、この展示は異色の写真家とされる内藤正敏 氏の50年を振り返る個展となっています。初期は化学反応で生まれる現象を接写してSF的な作風となっていましたが、山形県の湯殿山麓で即身仏を観て以降、60年代後半から80年代にかけては主に東北地方で民間信仰をテーマにした作品を発表していきました。また、自らの写真に触発されて民俗学研究も手がけ、日本文化の思想体系を発見して研究論文を発表するなど写真に留まらない活躍をしています。さらに90年代以降はそうした研究と想像力を融合させて修験道の霊山を撮った「神々の異界」を手がけるなど、精力的に活動しているようです。展覧会は時期やテーマによって章分けされていて非常に点数が多かったので、章ごとに簡単にその様子をご紹介していこうと思います。
<初期作品>まずは初期作品のコーナーです。ここにはSF小説の表紙にも使われた未来的な雰囲気の作品が並んでいました。
ここにはまず「トキドロレン」という時間泥棒連合という意味の作家の造語の作品があり、絵の具が混じり合うような感じで人の形になった写真とは思えないようなものがありました。エイリアン的な感じでちょっと不気味です。この辺にはそうした作風の化学反応を接写したような技法の作品があり、コラージュしたのか他の物体と一緒になっているものもあります。「キメラ」という作品なんかは暗闇の中に目がある表現で、バックベアードかハガレンのお父様みたいな…w 中々シュールで先進的な印象を受けます。 こうした作風はSF小説の表紙にも使われたようで、少し進むとSF小説が並んでいました。有名所では小松左京やレイ・ブラッドベリ、アーサー・クラークなんかもあって、名作揃いです。
<北海道開拓写真の発掘>続いては北海道の開拓の様子を撮った写真のコーナーで、ここは4点のみです。これは内藤正敏 氏が撮ったものではなく武林盛一という写真家が1870~80年頃に撮ったもので、厳しそうな開拓風景が並びます。木材を運ぶ汽車など当時の様子がよく伝わるかな。内藤正敏 氏は写真の100年展の編集委員を務めた際にこの北海道開拓の写真について雑誌に載せたそうです。近未来的な作風の写真家だった人がこうした作品を研究するというのがちょっと意外に思えました。
<即身仏>続いては運命の出会いとも言える即身仏の写真のコーナーです。内藤正敏 氏はこの出会いでSF写真をやめて民俗写真に切り替えたので、よほど衝撃を受けたのだろうと思います。ここにはミイラの顔のアップの白黒写真が並び、細かい陰影まで表されています、1体だけでなく複数体あって、厳かさというよりは強烈に訴えて来るような表情が確かに衝撃的です。写真家が感じたものが伝わってくるような力強い説得力がありました。
<東北の民間信仰>ここからは主に東北の民間信仰をテーマにした作風となっていました。この章は3点のみで、「竈神 岩手県東和町」(
★こちらで観られます)という作品は かまどの神様の顔らしきギョロっとした面のアップ写真となっています。ざらついた表面をしていて、岩のような質感です。シャーマニックな雰囲気もありプリミティブな力強さが印象的でした。題材自体がパワフルだけど表現方法がそれを倍増させているのがよく分かります。
<婆バクハツ!>こちらは恐山のイタコ信仰をテーマにした写真シリーズです。イタコの婆さん達が顔を連ねた「お籠もりする老婆 高山稲荷」(
★こちらで観られます)を筆頭に、生き生きとして まさに爆発するようなエネルギッシュなイタコたちの写真が並びます。入れ歯だらけで盲目で異形にも見える表情は山姥でも出たんじゃないかってくらいインパクトがありますw イタコで降霊しているシーンや、輪になっている様子など 独特の儀式も撮られていて民俗的な観点からも面白い作品じゃないかな。かなり高齢の婆さん達たちからこんなに力強い作品が撮れるというのには驚かされっぱなしでした。
<東京 都市の闇を幻視する>こちらは1970~85年にかけて東京のアンダーグラウンドと言えるような場所を撮ったシリーズです。東京を歩いていると所々に江戸に通じているように感じたそうで、異界への入口の魅力として 狂ったような東京や帰る故郷の無い吹き溜まりなどを撮っています。ここには誰もいない街角をちょっと不気味な雰囲気で撮った作品や、はしゃいでいる若者、怪我して保護される人、街中で呑んだり寝ている浮浪者などを撮った作品が並びます。撮られた人は大概貧しそうに見えて駄目人間っぽさも漂っていますが、浮浪者の中には心底楽しそうな表情をしている人もいました。良くも悪くも、ありのままをさらけ出した人たちばかりなのかも。これも人の奥底まで捉えたような作品でした。
<遠野物語>こちらは柳田国男の『遠野物語』を辿って訪れた岩手県の遠野を撮ったシリーズです。祭り、カッパ淵、墓、曲がり屋、神社、町の人々、面をかぶる人、遺影など、妖怪や風俗・宗教に纏わるモチーフが写し出されています。遠野物語の世界観に寄せているのか分かりませんが、ここでも信仰と人々が密接に関わっている様子が伺え、それが大切にされているのも伝わってきました。現実世界でありながら神秘的な雰囲気もあるシリーズです。
参考記事:
遠野の写真 (番外編 岩手)<出羽三山>こちらは修験道で名高い羽黒山、月山、湯殿山の出羽三山をテーマにしたシリーズです。(この辺からカラーもあったかな) ここでは仮面や仏像の顔をどアップで撮った作品などがあり、それらは剥落していたり やたらとリアルな面だったりします。私もこうした仏像等はよく観る方ですが、実物でもこれだけエネルギーが詰まった感じを受けることは それほど無いので、写真によって面の持つ力を引き出しているのだと思います。目をカッと見開いている顔が多いのも理由の1つかな。ここにも即身仏の写真があって、内藤正敏 氏の作風が凝縮されたような濃いシリーズでした。
<出羽三山の宇宙>こちらは先程の出羽三山の写真と他の写真をコラージュしたようなコーナーです。炎を背景にした仏像や、地球を背景に仏像の目から上だけ撮った「びんずる尊と羽黒鏡、海向寺、出羽三山神社」(
★こちらで観られます)など、一種異様でシュールさもありつつ、一層力を増すような表現となっていました。
<神々の異界>こちらは信仰の対象となっている地を撮ったシリーズで、自然を撮った作品が多いかな。富士山から観た光景を星の軌跡と共に撮った写真(
★こちらで観られます)や富士山頂の神秘的な光景を撮った作品が並びます。中には珍しいブロッケン現象(人に後光が差しているような山の現象)を撮ったものなどもあり、自然の神秘や不思議さ、畏敬の念などが込められているようでした。
<戦慄-東北芸術工科大学「内藤正敏の軌跡」展より 2004年>こちらは2004年に開催された回顧展で使った大型プリントの写真が並んでいました。ここまで観てきた作品が順不同で並んでいる感じです。(いくつかここまでには無かった作品もあったかな) 大判で独特の世界観が迫ってくるように感じられて、ここだけで1つの展覧会が開催できるくらいの個性的な作品ばかりでした。
<聖地>このコーナーはちょっとどの作品だか失念。リスト上では1点のみです。
ということで、民間信仰や都市のアンダーグラウンドなどまさに異界と言えるような世界観の作品が並んでいました。民俗的でエトスが凝縮されているので、強烈な印象と共に日本らしさも感じられると思います。もうすぐ終わってしまう展示ですが満足度高めだったので写真好きの方におすすめです。
- 関連記事
-