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ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界―1780年パリに始まるエスプリ 【三菱一号館美術館】

3週間ほど前の金曜日の会社帰りに丸の内の三菱一号館美術館で「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界―1780年パリに始まるエスプリ」を観てきました。この展示は一部で撮影可能となっていましたので、その部分については写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界―1780年パリに始まるエスプリ 

【公式サイト】
 https://mimt.jp/chaumet/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
夜だったこともあってか空いていて快適に鑑賞することができました。撮影可能のケースの辺りがちょっと順番待ちになったくらいかな。

さて、この展示はショーメというフランスのジュエラーの古今の品が並ぶ内容となっています。1780年にパリでジュエリーメゾンとして創業したショーメは、1812年に宝石商として初めてヴァンドーム広場に店を出し、1907年に現在も居を構える地に落ち着いたようです。黎明期はナポレオン一家の御用ジュエラーだったようで、その辺の歴史も含めて紹介されています。 展覧会は8つの章に分かれていましたので、各章ごとに簡単に振り返ってみようと思います。(今回の展示には作品リストが無いようでした)


<1 歴史の中のショーメ>
まずはショーメと歴史に関するコーナーです。ここにはまず「皇帝ナポレオン1世より贈呈された教皇ピウス7世のティアラ」という縦長の宝冠がありました。(★こちらで観られます) シルクのヴェルヴェットを地に色とりどりの大きな宝石が3段になって規則正しく付けられていて、トップの部分には44カラットものエメラルドが付いている豪華な宝冠です。これはナポレオンが教皇ピウス7世に送ったもので、戴冠式に出席したことへの感謝を込めたもののようです。分かりやすい豪華さなので、初っ端から驚かされました。近くにデザイン画もあったけど、見比べるとちょっと違って見えたかなw

その先にはナポレオンとジョゼフィーヌの等身大くらいの肖像があります。(★こちらで観られます)  月桂樹をかぶった公式な姿で描かれているのですが、何とその宝剣はショーメの創業者ニトによるものなのだとか。宝剣は絵の中でもかなり目を引く存在なので、いかにナポレオンから信頼されていたジュエラーなのかも伝わってくるようでした。ショーメは権力、自然、愛の3つのテーマが得意だったようで、この後もそうしたテーマの作品が並びます。

この章にはカロリュス・デュランやローランサンによる女性像と共にジュエリーが並んでいました。時計、ネックレス、ティアラ、ブローチ、香水瓶、タイピンなど様々なものが時代ごとに展示されています。時代の流行を捉えていた様子も伺えました。


<2 黎明期のミューズ (1)皇妃ジョゼフィーヌ (2)王妃オルタンスと皇妃マリー=ルイーズ>
続いては3人の女性とショーメに関するコーナーです。ナポレオンの妻ジョゼフィーヌに御用ジュエラーのニトはインスピレーションを得ていたようで、麦の穂をイメージした宝飾品などが展示されています。風になびくような麦の穂は軽やかで、これはローマ神話の農耕の女神ケレスの持ち物であるらしく、同時にこれはジョゼフィーヌのシンボル的なモチーフになったようです。このモチーフを使って現代に作った作品もあり、ショーメにとってもメゾンの原点のようです。近くにはジョゼフィーヌの肖像があり、部屋自体の麦の壁紙となっていました。

その先は娘のオルタンスに関するコーナーで、花びらが全て宝石で出来た紫陽花のブローチなど紫陽花がモチーフとなった作品がありました。紫陽花はフランス語でオルタンシアと言うそうで、オルタンスを表すモチーフになったようです(ジョゼフィーヌは紫陽花も好きだったらしい)こちらは可憐な印象だったので、オルタンスの優しく控えめな性格も表れているようでした。

そしてもう1人はナポレオンの2人目の妻のマリー=ルイーズで、ルビーの嵌められた豪華な宝冠や首飾りなどが並んでいました(レプリカ?) ショーメから式典用のジュエリーを受け取るのには権力や権威を伝える政治的な役割もあったようです。豪華な品はいつの時代もそういう側面がありますね。


<3 戴冠!ティアラの芸術>
続いてはティアラのコーナーです。ティアラは古代ギリシャで王権を示すヘアバンドという意味の「ディアデマ」という言葉を受けているそうで、ショーメは様々な権力者などに3500点ものティアラを作ってきたそうです。ここにはズラリとその歴史の一部とも言える作品があり、マイヨショールという銅・亜鉛・ニッケル・による模型なども展示されていました。ここは撮影可能でしたので、写真を使ってご紹介。

「アポロンの蒼穹」 2016年
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ローリエをイメージしたティアラ。この葉っぱの粒粒が全て宝石だったりします。大きな青いサファイアが特に目を引きました。

ジョゼフ・ショーメ 「カールのティアラ」 1907年頃
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連続したアーチが可憐なティアラ。宙に浮かぶような繊細さも見事です。

ニト・エ・フィスに帰属 「カロリーヌ・ミュラ(ナポレオンの妹)のインタリオ・ティアラ」 1810年頃
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無数の横顔が表されたインタリオをティアラにしたもの。ナポレオンの妹らしいので、これも黎明期の品でしょうね。

ジャン=バティスト・フォサン 「アメシストのティアラ」 1830年頃
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巨大なアメジストが並ぶティアラ。周りの装飾もアメジストの大きさを際立たせるように思えました。

ジャン=バティスト・フォサン 「野バラとジャスミンのティアラ」 1830年頃
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こちらは細やかにダイヤで表された野バラとジャスミン。これも繊細で被って大丈夫なのかなという不安が先に立つw それにしても緻密で凄い技術です。

ジョゼフ・ショーメ 「ペイン・ホイットニー夫人(カートルード・ヴァンダービルト)の翼のティアラ」 1910年
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今回の展示で一番好みだったのはこれかな。翼の形自体も洗練されているし、色や細かい装飾もセンス抜群です。

ジョゼフ・ショーメ 「オークの葉のバンドーティアラ」 1913年
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こちらも輪っかが絡み合う複雑なデザインのティアラ。アール・ヌーヴォーの頃(少し後くらい)の為か、自然モチーフの作品が結構多かったのかも。

ジョゼフ・ショーメ 「ラブリフのバンドー」 1914年
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こちらも葉っぱを使ったティアラ。既にアール・デコっぽさが出ているので時代の先端だったのかも

マルセル・ショーメ 「ベスボローのティアラ」 1931年
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こちらもデコっぽさを感じるティアラ。こちらも洗練されていますがちょっと威圧感があるかもw RPGのボスが付けてそうw

ジョゼフ・ショーメ 「ローリエのティアラ」
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軽やかで曲線の美しいティアラ。左右対称になってるのも美しく感じられる要素かも。

スコット・アームストロングによるショーメ 「ヴェルティージュのティアラ」 2017年
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今回の展示で最も斬新なデザインはこちらでした。昨年作ったものみたいなので、まだまだデザインは進化し続けているようです。

「ティアラ 鮮紅色の情熱」 2016年
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こちらも最近の作品。滑らかさすら感じるフォルムで、花も輝いて見えました。

この部屋にはマイヨショールという模型もずらっと並んでいます。
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数えるのも大変なくらいあります。長い歴史を持つジュエラーだけありますね。

一部のアップ。
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たまにちょっと変わったデザインのもあるので、好みのを探してみると楽しいと思います。


<4 旅するショーメ (1)時間旅行 (2)水平線の彼方の新たな世界へ>
続いては歴史主義に関するコーナーです。ここで驚いたのはペルセウスがアンドロメダを救う場面を宝飾にしたホープカップという大型作品で、メデューサの首を切り落として持つペルセウスや、ペガサスに乗って槍を刺す様子、海獣との戦いの様子などが表されています。アンドロメダは鎖で繋がれている姿で表されている等 物語を上手く展開していて、卓越した構成力とダイナミックな造形となっていました。1855年のパリ万国博覧会で褒賞を授与されたとのことですが、それも納得の出来栄えです。

他にもゴシックスタイルのベルトなどデザインセンスが感じられる品もありました。

そしてその先には世界(特に東洋)の文化から着想を得た作品が並び、中国やインド風のデザインが並んでいました。中国の戦を描いた扇子なんかは当時のシノワズリ(中国趣味)の影響を受けているようですが、割と中国っぽいw 他にも1920年代のタバコケースなどもあります。
インド風の品ではヒンドゥー教の踊り子が付けていた房つきの衣装をモチーフにしたネックレスがあり、細かい真珠を大量に連ねていました。腰布を連想するような感じですw ショーメにはマハラジャの顧客もいたようで、宝石を彼らから手に入れることも出来たのだとか。


<5 自然を披露する (1)自然史 (2)「この輝く金と宝石の世界」(ボードレール)>
続いては自然をモチーフにしたコーナーです。ここにはアニメーションでデザインが動くような演出もありました。

ゆり、葉っぱ、バラ、蝶、蛾、ミツバチ、コガネムシなどの形を宝石で作ったブローチが並び、特に気に入ったのはヘーゼルナッツかなw 何でこんなモチーフを宝石で作ろうと思ったんだろう…。 キメラとか自然を超越したような生き物をモチーフにしたものなんかもあります。また、ここには「タコのネックレス」(★こちらで観られます)というタコが宝石を掴んでいるような作品もあり、面白い曲線美を見せていました。これは情熱と独占欲を示しているようで、ダリなどのシュルレアリスムを参考にして作ったのだとか。ショーメはアートの流れにも敏感なジュエラーなんですね。

その先は幾何学的な模様の時計やピン、ネックレスなどもありました。この辺はアールデコっぽさを感じるかな。イルカや貝殻のモチーフの作品もあり、青や緑の宝石が多く使われ、透き通る爽やかさがありました


<6 身につける芸術=ジュエリー>
続いてはちょっと変わった変形するジュエリー等が並ぶコーナーです。ショーメにはトランスフォーム(変化)する宝飾があるようで、これはショーメの創造性の核心とも言えるようです。ネックレスがティアラに、バンドーがチョーカーにといった感じで、合体したり分解して別の部位に装着できるようになる仕掛けです。ここにはその変形の様子を映像として流していて、どのように変わるのかがよく分かるようになっていました。私はこういうギミックが大好きですw そのまま使ったり広げて使ったり分解して使ったり… 1台○役!みたいなことがジュエリーにもあるんですねw 

この部屋の隅にはドンゲンの女性像が掛けられていました。今回は脇役的な存在かもしれませんが、良い絵なので見入ってしまったw


<7 キネクティック・アートとしてのジュエリー>
続いては光の変化を楽しむキネクティック・アートとしての役割をテーマにしたコーナーです。ここにはハチドリの形のブローチや燕が6羽連なる「6羽のツバメの連作」(★こちらで観られます)という作品があり、壁には燕が舞うような映像が映されていました。この燕はラリックのデザインそっくりだなと思ったらラリックも関わっているそうで、大きさが異なる様子が遠近感や時系列などを感じさせます。すい~っと舞う流麗な舞姿は非常に洗練されていました。
 参考記事:ラリックの花鳥風月  ジュエリーと、そのデザイン画 (箱根ラリック美術館)

他にもハットピンなど変わった品もありました。


<8 遥けき国へ ショーメと日本>
最後はショーメと日本との関係についてのコーナーです。まずここにはマリー・アントワネットの日本漆器のコレクションがあり、フランス革命の際に売却されそうになったのを創業者のニトが鑑定した所、その価値を見出して保存すべきと勧告したエピソードが紹介されています。細やかで可愛らしい品で、マリー・アントワネットが好きになったのも頷けるかな。

他にもジャポニスム風のスケッチなどもあって、確かに日本の風景や人物・花鳥を思わせます。また、ここでの見所は雷神と着物の女性が向き合っているブローチ「雷神、日本風ブローチ」(★こちらで観られます)で、女性の持つ提灯がオパールとなっています。雷神は騎士みたいだったりしますが、女性は日本髪っぽい感じだし雲のデフォルメなんかも日本を意識しているようでした。

この部屋の壁には雨や花が舞う映像が流れ、その中の窪み(傘の内部みたいな)の所に今回の展示のために作った花や木をモチーフにした指輪やネックレスなどもありました。アール・ヌーヴォー時代もそうでしたが、自然を工芸品にも応用するのは日本が得意とした分野ですね。


ということで、ショーメの様々な宝飾品を楽しむことができました。時代順がバラバラだったので作風も千差万別といった感じではありましたが、時代の最先端で活躍し続けている様子が伝わってくると思います。ティアラのコーナーは写真も撮れるので、宝飾好きの方には特に楽しい展示ではないかと思います。

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