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没後20年 工業デザイナー黒岩保美 【旧新橋停車場 鉄道歴史展示室】

前回ご紹介した展示を観る前に旧新橋停車場 鉄道歴史展示室で「没後20年 工業デザイナー黒岩保美」を観てきました。

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【展覧名】
 没後20年 工業デザイナー黒岩保美 

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/shinbashi/

【会場】旧新橋停車場 鉄道歴史展示室
【最寄】新橋駅

【会期】2018年7月10日(火)~10月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_③_4_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は国鉄時代に特急のヘッドマークやグリーン車のシンボルマークといった様々なデザインを手がけた黒岩保美(くろいわ やすよし)という工業デザイナーの展示です。名前は知らなくても誰もが観たことがあるだろうデザインを多く手がけただけに、展示の内容も見覚えのある品々が紹介されていました。小規模ながらも章分けされていましたので、各章ごとにその様子を振り返ってみようと思います。


<冒頭>
まず簡単に概要があって、それによると黒岩保美は1921年に生まれ1998年に亡くなっています。幼い頃から鉄道知識と絵画能力を培い、優れた絵画能力が評価されて やがて日本国有鉄道(国鉄)で働くようになりました。カラー写真の無かった時代に日本画の手法を取り入れた色付きの車両の絵は当時は珍しく、評判となったようです。その後、車両設計事務所に在籍するようになり、そこでトレインマークのデザイン、各種標記文字の図案化、色彩試案の作成、車内設備の取扱解説図、新車完成予想図などを手がけました。

最初に「あさかぜ」のテールマークがあり、緑の風がなびくシンプルなデザインとなっていました。…って確か あざかぜの風の色は緑じゃないような?? この展示ではたまにボツ案なんかも展示しているのでレアなものが観られたりします。他にも、風景画の道具なども展示されていて、外国の駅や車両の絵、カメラ、フィルム、パレットなども並んでいました。


<1章 鉄道とアートへの道-黒岩さんの生い立ち->
こちらは改めて生い立ちからのコーナーです。黒岩保美は1921年に悉皆屋(デザイン・洗い張り・シミ抜きまで着物に関する全てを引き受ける店)の次男として生まれ、幼い頃から鉄道が好きで小学生から鉄道博物館に行くようになり、中学では1人で博物館で機関車をスケッチしたり雑誌で知識を深めていたようです。さらに1939年には「つばめクラブ」という鉄道好きのクラブに入会し鉄道趣味人たちと接するようになりました。また、家業の悉皆屋や体力を考えて日本画を学び始め、矢沢弦月に師事し第2回日本画院展では「機関車」という作品を出し入選しています。戦時中は海軍として横須賀に勤務して航空兵の教育資料の絵などを描いていたようです。戦後の1946年になると交通文化博物館の職員が起案した連合軍専用客車の特殊改造車の内部スケッチに、高松吉太郎(つばめクラブのメンバー)から推薦を受けて見取り図を制作したそうで、これによって優れた絵画能力が「荻窪会」の星晃の目に止まり1947年からは国鉄の嘱託職員となりました。そこで連合軍客車の社内見取り図を制作したのが高く評価され、1949年に正式に国鉄に入社しました。

ここにはまず国鉄時代の特急「はと」のデザイン案が決定稿と共にボツ案4つも展示されていました。基本的にはよく似ていますが、鳥の絵に文字が乗っかっているのは決定稿だけとなっています。被らない方が読みやすいような気がしますが、これが採用されるというのは何か意味があったのかもしれません。 当時の「はと」の写真なんかもありました。
その先には富士、出雲、日本海、彗星、あけぼの といった寝台特急のトレインマークが並びます。この辺は子供時代に憧れたマークなので、知らないうちに黒岩保美のデザインが刷り込まれていたことに驚きました。シンプルで旅情を誘うようなデザインばかりです…。

他には第2回日本画院展の図録から「機関車」の写真が展示されていました。写真のように精密な素描を元にしていて、汽車のもつ力強い雰囲気もよく表れています。また、連合軍客車の車内の見取り図も設計図と共に展示されていました。側面から輪切りにしたような正確な見取り図で、展望車やラウンジ、食堂車など豪華列車であったことが伺えます。(列車名はALGOM、SAGINAW、RED BIRDとなっていました)

この章の最後には鉄道技師の星晃と高松吉太郎といった黒岩保美を引き立ててくれた人の紹介もありました。


<2章 国鉄のデザイン-黒岩さんの仕事>
ここには国鉄時代に残した仕事の数々が並んでいました。トレインマークやカラーデザインなどは長きに渡って広範囲に影響を与えていると言えそうです。
まず、今でも東海道線・東北線などで使われる緑とオレンジの「湘南色」の選考に黒岩保美も携わっていたようです。当時の湘南電車の編成予想図なども並んでいて、多くの人に愛された色の取り合わせを試していた様子が伺えます。
また、ここには特急つばめのボツ案もあって、決定稿に比べると軽やかな印象を受けるかな。ボツに見覚えがあると思ったら、ボツ案の1つは国鉄バスのスワローマークに転用されたようです。
さらに特急ゆうづる のヘッドマークも決定案とボツ案がありました。ボツ案はゆうづるが2羽飛んでいるデザインとなっています。他にもヘッドマークの実物大の設計図もありました。特急つばめ、特急あさかぜ 辺りのトレインマークなんかもあります。

他にここで目を引いたのが特急こだま や新幹線のカラーデザイン案です。クリーム地に赤の国鉄色もまだ定まっていなかったようで、青だったり真っ赤にクリーム色の線だったりと、決定案を見慣れているだけに違和感がありますw 新幹線も真っ白だったり赤だったり、互い違いの斬新な模様だったりして面白いです。これだけ根本的なデザインを手がけているとなると、日本の鉄道風景は黒岩保美によって大きく塗り替えられたと言っても過言ではなさそうです。

さらに黒岩保美はグリーン車の葉っぱのマークなども手がけていたようで、実物大の設計図と共に並んでいます。こんな身近なマークも手がけていたとは…。 それどころかマニアックな所では車体番号のフォントまで手がけていたようで、鉄道好きには驚きが多いのではないかと思います。(ガチ勢は普通に知ってそうですがw)


<3章 鉄道文化を紡ぐ 多才な黒岩さん>
最後はデザイン以外の仕事についてのコーナーです。黒岩保美は本の編集や装丁なども手がけ、鉄道友の会の『鉄道ファン』の編集長も務めていました。この雑誌、子供の頃に定期購読していたのに知らなかった…w(1963~1969年の間に三代目として務めていたらしいので無理はないですが) さらに国鉄退職後には月刊誌『レイル』を刊行し、『汽車・電車』の編集なども手がけているようです。
画業においては1981年には蒸気機関車を描いた初の画集『蒸気機関車時代』を刊行し、その後も多くの鉄道の絵を描いたようです。イギリス国立鉄道博物館には10点の水彩画が収蔵されているほどなのだとか。

ここには雑誌『レイル』数冊の他に「ウイスキーがお好きでしょ」のサントリーウイスキーのポスターもありました。何か関係しているのかと思ったら機関車が載っていますw 
そして最後の辺りに鉄道の絵が並んでいました。イギリスの旧LNER No.4772が描かれたものや、「古い機関車」というやや印象派的な画風の作品があります。フランスの旧ETAT鉄道2-4-1形class2-4-1 No.241001を描いた作品では、重厚な車体で12くらいの大小の車輪が見事な汽車となっていました。また、日本鉄道S2/4形 No.558という洋風の小さな機関車も緻密に丹念に描かれ、機関車への愛が感じられました。


ということで、鉄道好きとしてはこれもこの人のデザインだったのか!?を連呼するような内容でした。特にヘッドマークは大好きで真似して描いたりしていた子供時代を思い出したりして感慨に浸ることができました。ちょっと万人向けとは言えないかもしれませんが、鉄道好きの方には面白い展示だと思います。ここは無料で観られるのも良いので、新橋附近に行く予定がある方はチェックしてみてください。
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