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芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師 (感想前編)【練馬区立美術館】

つい一昨日の土曜日に練馬区立美術館で「芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」を観てきました。非常に点数が多く見応えたっぷりでしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示には前期・後期の会期があり、私が観たのは後期の内容でした。

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【展覧名】
 芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師

【公式サイト】
 https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201805131526201032

【会場】練馬区立美術館
【最寄】中村橋駅

【会期】2018年08月05日(日)~ 09月24日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんがいて、場所によっては人だかりができるくらいでしたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は歌川国芳の弟子で幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師 月岡芳年を取り上げたもので、西井正氣 氏のコレクションの中から前記・後期合わせて263点という非常に充実した内容となっています。デビュー作から晩年の作まで代表作・有名作が勢揃いと言った感じで、時系列に展示されていて分かりやすい構成となっています。4章+別章の構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、以前ご紹介した太田記念美術館での月岡芳年展と結構似た内容ですので、そちらも参考にして頂ければと思います。
 参考記事:
  没後120年記念 月岡芳年 感想前編(太田記念美術館)
  没後120年記念 月岡芳年 感想後編(太田記念美術館)
  月岡芳年「月百姿」展(後期) (礫川浮世絵美術館)

  歌川国芳-奇と笑いの木版画 (府中市美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 前期:豪傑なる武者と妖怪 (太田記念美術館))
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想前編(太田記念美術館)
  破天荒の浮世絵師 歌川国芳 後期:遊び心と西洋の風 感想後編(太田記念美術館)
  奇想の絵師歌川国芳の門下展 (礫川浮世絵美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 後期 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 前期 感想後編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想前編(太田記念美術館)
  浮世絵猫百景-国芳一門ネコづくし- 後期 感想後編(太田記念美術館)


<第一章 国芳譲りのスペクタクル、江戸のケレン 嘉永6年~慶応元年(1853~65)>
まずはデビュー作から江戸の終わり頃までのコーナーです。月岡芳年は1839年に江戸で生まれ、12歳で歌川国芳に入門しました。若い頃は師匠譲りのドラマチックな作品が多いそうで、武者絵を中心に美人画、戯画などを発表していたようです。ここにはそうした歌川国芳からの影響を感じる作品が並んでいました。

1 月岡芳年 「文治元年平家の一門亡海中落入る図」
こちらは15歳の頃のデビュー作で、壇ノ浦の戦いを描いた3枚続きの大画面となっています。画面中央には碇縄を体に巻き付けて海へと飛び込む平知盛、その下には平家蟹らしき蟹が無数にひしめいています。背景には青と黒の縞模様の渦のようなものがあり、暗く冷たい印象を受けます。右には二位尼公や安徳天皇の姿もあり、この戦いで亡くなった平家たちとなっています。まだ全体的に硬い描写のようにも思えますが、これが15歳とは思えないほどです。デビュー作で3枚続きというのは異例のことなので、スポンサーがいたのではないかとのことでした。いずれにせよデビュー作から大物感溢れるルーキーだったのは間違い無さそうです。

9 月岡芳年 「和漢百物語 頓欲ノ婆々」
和漢百物語は1865年に出版された揃物で、現在26図が確認されているようです。日本・中国の奇譚を集めたもので、この作品では舌切雀のラストシーンが描かれています。大きなつづらの中から3つ目の怪物やお多福のような怪物が飛び出してきていて、それを見て強欲な婆さんが恐れおののいています。のけぞって顔を抑えている仕草が劇的で、感情溢れる表現です。ダイナミックな一方でちょっとユーモラスな雰囲気もあるように思えました。この辺も歌川国芳に通じる感じがします。

14 月岡芳年 「美勇水滸伝 高木午之助」
このシリーズは芝居や物語に登場するヒーロー・ヒロインを善悪を交えて描いた50枚揃いで、師匠が成し遂げた水滸伝シリーズを継ぐものとして挑戦したようです。ここでは文台のようなものに肘をついて座る大きな太刀を持った侍が描かれ、背景には口が裂けるほど大きな怨念のような怪物がニタっと笑っています。この侍は「森の三勇士」の1人らしく 古寺に肝試しに行く話となっているそうで、凛々しい姿でまったく動じていない様子となっています。一方の怪物の顔は怖さと共にちょっと可笑しくもあり、この辺にも個性を感じました。

この他にも和漢百物語や美勇水滸伝のシリーズが並んでいました。 その後は3枚続・2枚続の作品が並んでいました。題材も様々です。

26 月岡芳年 「正札附俳優手遊」
こちらは3枚続きの作品で、おもちゃ屋に並んだダルマや福助、張り子の虎、お面、猫の玩具、人形などが所狭しと描かれています。手前には母子がいて、子供が何かねだっている感じかなw 解説によると、この玩具たちの顔はみんな役者の似顔となっているようで、歌川国芳が得意とした手法を継承している感じがします。各役者の横には名前と共に吉々上とか六百両とか書かれていて、これは役者の評価と一年の給金となっているようでした。番付的な要素とカラフルな色彩が面白い作品です。


<第二章 葛藤するリアリズム 慶応2年~明治5年(1866~72)>
続いては幕末から明治初期の頃のコーナーです。月岡芳年は「血みどろ絵」の猟奇な作風にフォーカスされがちなのですが、これはこの時期に空想の武者絵ではなく上野戦争で目の当たりにした戦闘のリアリズムを追求したのが要因のようです。しかし血みどろ絵の時期はほんの一時期で、それだけで月岡芳年を評価するのは妥当ではないと思われます。月岡芳年は幕末の動乱など劇的な変化の環境にストレスを感じていたようで、明治5年(1872年)には神経の病を発症し、それ以降生活は困窮していったようです。この章はそうした時代の凄惨な画風の作品などが並んでいました。

40 月岡芳年 「英名二十八衆句 古手屋八郎兵衛」
このシリーズは兄弟子の落合芳幾と14点ずつ手がけた全28点の揃いで、歌舞伎や講談でよく知らえた刃傷沙汰を主題とした作品です。残酷な描写が多く、血みどろ絵・無残絵と称されたようで、各図には戯作者による人物の伝記や説明、芭蕉や去来の俳句などが添えられています。この古手屋八郎兵衛では墓石の上で女性の首に刀を刺す様子が描かれ、女は絶命して目を剥いています。着物が舞い上がるような勢いがあり、髪を振り乱し刀は血だらけになっているなど凄惨な殺人現場そのものといった感じです。墓石のヒビに沿って血が流れ出している様子などもリアルで、血は膠を使って赤々とした表現となっていました。これは確かにカルト的に人気になりそうな雰囲気ですね…。

この近くには英名二十八衆句が並び、全部揃っている貴重な機会となっています。作品の中には結構綺麗な字で説明が書いてあるので、古文が得意なら何となく事件の内容が分かるように思えます。斬りつけるシーンが多いので、中々凄惨な光景です。

42 月岡芳年 「英名二十八衆句 稲田九蔵新助」
こちらは上半身裸の女性が縄で逆さ吊りになっていて、それを刀で斬りつけるという猟奇かつ変質的なシーンが描かれています。アンコウを捌く様子と掛けたような詩句も添えられていて、ひたすら外道といった感じで、血滴って非常に残虐な作品です。このモデルは稲葉小僧という義賊の話のようですが、このようなことをしているという話の出典は不明のようです(えらい濡れ衣ですw) どうしてこんな絵になったのかわかりませんが、時代背景としてもこういうものが求められてたという解説を以前に読んだのを思い出しました。恐ろしい時代ですね。

近くには死体の顔の皮を剥ぐ作品とか見覚えがあるのも多々ありました。 また、落合芳幾による14点もあって 作風は月岡芳年と似ていますが、芳年のほうが動きのある犯行の瞬間と言った場面が多かったように思います。

73 月岡芳年 「魁題百撰相 駒木根八兵衛」
このシリーズは現在65点が確認されている揃物で、南北朝時代から江戸初期までの戦乱に関わった人物が詞書と共に描かれ、軍記物などに沿って歴史上の人物を紹介する体裁をとりつつ 芳年たちが目の当たりにした幕末の旧幕府軍と新政府軍の戦いの見立てになっているそうです。この駒木根八兵衛は島原の乱で総大将を撃った人物らしく、鉄砲をライフルのように構えた様子を真正面から描いています。その構図が何とも劇的で、ゴルゴ13のワンシーンのような感じすらしますw さらに目が真剣で緊張感が漲り、若いイケメンなのに歴戦の勇士といった風格がありました。なお、この絵は上野戦争で新政府軍に敗れた彰義隊になぞらえて描いているのだとか。

このシリーズも血みどろが多く、首を持っている絵が何点かありました。滴る血を舐めるようなのもあって猟奇ですw 月岡芳年は上野戦争の際には傷ついた兵士や死体を写生していたらしいので、そりゃ神経も病みますね…。

74 月岡芳年 「魁題百撰相 冷泉判官隆豊」
こちらは戦国大名の大内義隆の家臣で、謀反が起きた際に主君と共に戦死した人物です。この絵では寺の天井に自らで斬った臓物を投げつけ、謀反人を呪ったという場面が描かれていて、内臓が飛び出していて手と腹を中心に血だらけとなっています。天井を見据えて怒りの形相となっていて、恐ろしく凄惨なシーンとなっていました。内臓とかリアルさがあり一層怖い作品です。

シリーズ物のコーナーの後は3枚続の作品が並んでいました。この先は血みどろ絵はほぼありません。

63 月岡芳年 「武勇雪月花之内 五條の月」
こちらは3枚続き3点セットで、雪月花のうちの月となっています。五條の橋で弁慶と牛若丸が闘う様子が描かれ、弁慶は大きな長刀を振り回し、先端には弁慶の衣が絡みついています。さらに長刀の先には満月が浮かび、視線を誘われます。一方、牛若丸は逆のほうに鞍馬天狗などと共にひらりと交わしていて、烏天狗なども加勢に来ている様子となっていました。ダイナミックで構図が面白い作品です。

85 月岡芳年 「一魁随筆 燕人張飛」
こちらは1872年頃に出された和漢の故事や物語に出てくる人物を描いた13図から成るシリーズ物で、相当に意気込んで描いたようですが世間の評判は良くなく、生活が困窮する要因となったようです。この後に病で休養することもあって「一魁斎」の落款を用いた最後の作品となります。ここでは三国志で有名な張飛(燕の国出身)が描かれ、赤い橋の上で黒い馬に乗り、槍を持って吠えるように叫んでいる姿となっています。解説によると、これは曹操軍との戦いで「我は燕人張飛 誰か来たり勝負を決さん」と大喝しただけで百万の兵を追い返したという話を描いているそうです。その話も興味深いですが、非常に色彩が濃くなっていて、描写もより緻密になってやや西洋画的な印象を受けました。時代の流れに応じたのかもしれませんが、これがヒットしなかった要因なのかも。

91 月岡芳年 「東海道名所図会 鞠子 名物とろろ汁」
こちらはタイトルから歌川広重の東海道五十三次の牧歌的な鞠子の絵を思い出しますが、描かれているものは全く違います。とろろ汁屋さんのある通りを錦の御旗を持って行進する新政府軍が中央に大きく描かれ、威圧的な雰囲気です。庶民はそれを大名行列のように沿道で正座して見上げていて、いたたまれない気持ちになります。これは恐らく実際に見た光景なんだろうと思いますが、月岡芳年の明治政府への思いが何となく伝わってくるように思いました。

この近くには鉄道開業の様子を描いた作品などもありました。

121 月岡芳年 「隆盛龍城攻之図」
この作品は時代的には次の3章ですが、2章の最後にありました。1877年に起きた西南戦争を題材としたもので、月岡芳年はこの戦乱について多くの作品を残しています。スペクタクルやファンタジー的な要素の作品もあるようで、この作品はまさにファンタジーですw というのも、ここではかつての盟友で心中した仲である月照(西郷だけ助かった)と「身の置き所がなくなった時は共に龍宮に攻め入って龍王になろう」と語ったという噂を元にしていて、まさに龍宮を攻めに行く様子となっています。激しい波の中に軍服を着た西郷がいて、魚にまたがっています。一方の月照も黄色い袈裟をきて何やら檄を飛ばしているように見えます。奥の方からは龍宮から押し寄せる兵士の姿もあって、想像力逞しい作品となっていました。(割と勢いのある作品で以前観たのを思い出しました。)


ということで、この辺までが第一会場となっていました。この後、病に倒れてしまうので ちょうど画業としても転換期とも言えそうです。前半は歌川国芳風の作品から激動の幕末に揉まれた血みどろ絵などが多かったように思います。ある意味、後世に名を馳せたのはこの頃のイメージが強いのかもしれません。(私としては月岡芳年の魅力はこの頃ではなく晩年ではないかと思います。) 後半は華麗に復活を遂げ、さらに円熟を増した作品が並んでいましたので、次回はそれについてご紹介の予定です。


 → 後編はこちら


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