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芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師 (感想後編)【練馬区立美術館】

前回に引き続き練馬区立美術館の「芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」についてです。前編は第一会場についてでしたが、今日は残りの第二・第三会場の展示についてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

DSC_4257.jpg DSC_4262.jpg

【展覧名】
 芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師

【公式サイト】
 https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=201805131526201032

【会場】練馬区立美術館
【最寄】中村橋駅

【会期】2018年08月05日(日)~ 09月24日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前編は困窮し病になってしまった所までご紹介しましたが、今日はそこから復活して売れっ子となる晩年についてご紹介していきます。

 参考記事:
  没後120年記念 月岡芳年 感想前編(太田記念美術館)
  没後120年記念 月岡芳年 感想後編(太田記念美術館)


<第三章 転生・降臨-”大蘇” 蘇りの時代 明治6年~明治14年(1873~81)>
月岡芳年は明治6年にそれまで使っていた「一魁斎」の号に代わって新しく「大蘇」の号を用いるようになり、病から脱して意欲的に制作に携わるようになりました。明治8年には郵便報知新聞で新聞錦絵の連載を開いて好評を博し、新聞小説の挿絵も手がけるなど新聞でも活躍しました。西南戦争に取材するなど 風俗・時事的な要素が濃くなると共に歴史画・神話画・徳川の時代を振り返るような作品も手がけています。この頃の画風は衣服の衣紋線や皺を強調して描いたり、人物の劇的な動きを与える芳年ならではの画風の確立が観られるようです。また、この時期は多くの美人画も手がけているようで、ここには様々な題材の作品が並んでいました。

104 月岡芳年 「大日本名将鑑 源三位頼政 猪早太」
このシリーズは1877~1888年にかけて制作された天照大神から徳川家光までの人物が描かれた51図の揃いもので、西洋画の技法を取り入れて煙・炎・光線などを効果的に用いたり明暗の対比を強調した画風となっているようです。この絵では鵺退治の逸話が描かれ、黒雲を目がけて矢を構えている源頼政が描かれています。脇では従者が空を見上げ、空には黒地に黄色・赤で稲光が描かれ、明るくなった部分には内裏などが浮かんでいます。雷光の一瞬を切り取ったような劇的な構図で、ちょっと漫画のような雰囲気すらありました。確かに光線を上手く用いています。

114 月岡芳年 「義経紀五條橋之図」
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、弁慶と牛若丸が五條大橋で戦っている様子が描かれています。ひらひらと跳ぶ義経に対し長刀で踏ん張るようなポーズの弁慶が対照的で 力強い印象を受けます。また、橋の欄干と長刀がV字を描くようになっていて、画面に広がりが生まれているような効果がありました。空には満月が浮かぶなど、モチーフの配置も含めて面白い作品です。

110 月岡芳年 「大日本史略図会 第一代神武天皇」
こちらは神代から中世にかけれの歴代天皇に関する逸話を集めたシリーズで、この絵では第1代の神武天皇が描かれています。真っ赤な太陽を背にして、手には大きな鳥の止まった杖を持ち、太陽からは放射線状に赤い光線が放たれて、周りにいる男たちはそれに打たれて苦しんでいます。物語の一場面を視覚化した感じですが、これも劇的かつ漫画チックな感じがするかなw 光線での攻撃は現代の漫画で出てきてもおかしくないw 中々斬新な表現方法で面白い作品です。

この近くには徳川時代の事件を描いたシリーズなどもありました。徳川慶喜が大坂から敵前逃亡する様子なんかもあります。

116 月岡芳年 「新容六怪撰 平相国清盛入道浄海」
こちらは平清盛の逸話を描いた作品で、雪の降り積もった築山のある庭が あたかも無数の髑髏が現れたように見える光景となっています。清盛は刀を手に持ちじっとそれを睨み、周りの女官たちは恐怖で震えています。明暗が強めで、ダブルイメージを違和感なく表しているのが面白いかな。オカルト的なエピソードが現実っぽく思えてきましたw

118 月岡芳年 「郵便報知新聞社 第五百卅二号」
こちらは警官に川から助けられた上半身裸の女性が描かれた新聞の挿絵で、この女性は盗み癖があって義兄弟にしばって川に投げ込まれたという事件のようです。警官が抱きかかえる様子は妖艶な雰囲気があり、単なるニュースの挿絵を超えたクオリティとなっていました。これは確かに人気が出そうです。

127 月岡芳年 「見立多以尽 手があらひたい」
こちらは美人画で、屋形船の小窓から手を出して洗っている芸者が描かれています。髪が風になびいて色っぽさがあります。ハンカチを咥えているのが江戸ではなく明治の文明開化の流れを感じさせるかな。時事的な要素が含まれているのも芳年の魅力かもしれません。

この辺は芸者を描いた美人画が並んでいました。 

136 月岡芳年 「芳年略画 応挙之幽霊/雪舟活画」
こちらは1枚で上下2つの絵が描かれていて、上段には自ら描いた絵から幽霊が出てきて驚いている円山応挙が描かれ、下段には木に縛られた子供時代の雪舟が足の指でネズミを描いたら実体化した様子が描かれています。両方とも卓越した技術によって絵が現実になったというエピソードですが、略画らしい ちょっと緩い雰囲気となっていました。特に一休さんみたいな雪舟が可愛らしいですw


<第四章 ”静”と”動”のドラマ 明治15年~明治25年(1882~92)>
月岡芳年は明治15年に絵入自由新聞社に挿絵絵師として月給100円の破格の待遇で迎えられ、人気の絶頂期となりました。画業においても40代半ばから亡くなるまでの10年の間に代表作・ヒット作を連発していったよう、いずれも明と暗、静と動を巧みに操ったドラマチックな画面構成だったようです。こうした作品には浄瑠璃・歌舞伎・講談・落語・戯作・小説などが大きく関わったとのことで、このコーナーにはそうした晩年の人気作が並んでいました。

139 月岡芳年 「皇国二十四功 贈正一位菅原道真公」
こちらは日本の古今における忠孝に優れた24人を取り上げたシリーズで、この絵では菅原道真が描かれています。竹のようなものを持ち、風の中で髪が逆立っている姿で描かれ、背景には稲光が駆け抜けているので、むしろ怨霊としての菅原道真のイメージに見えるような…w 強い風と光で神格化された菅原道真への畏怖のようなものも感じられました。

146 月岡芳年 「芳年武者旡類 源牛若丸 熊坂長範」 ★こちらで観られます
こちらは神話から戦国時代までの武者を描くシリーズで、武者震いと旡類(無類)を掛けたタイトルとなっています。この作品では切り込む牛若と仰け反って長刀で受ける熊坂長範が描かれ、お互いに視線がぶつかり合っています。戦闘の迫力が伝わるポーズが見事で、一瞬の緊張感が漲っていました。摺りの色彩も鮮やかで、かなり出来の良い品だと思います。

163 月岡芳年 「奥州安達がはらひとつ家の図」
こちらは縦長の2枚続で、古家の梁から吊るされた妊婦と、その下で包丁を研ぎながら妊婦を見つめる老婆が描かれています。これは安達太良山の麓の鬼婆伝説に取材したもので、リアルすぎて明治政府に発禁になったという逸話まであるようです。血みどろ絵ではないものの、間もなく惨劇が起こるであろうと想像させられ却って不気味な雰囲気となっていました。

この辺は縦2枚続きの縦長の作品が並んでいました。

166 月岡芳年 「松竹梅湯嶋掛額」
こちらも縦2枚続で、恋する人を探すために放火した八百屋お七の逸話を描いています。画面いっぱいに梯子が掛かり、そこに着物姿で登って うっとりした表情を浮かべて男を探すお七が描かれ、狂気に満ちています。下半分は盛大に燃えていて、華麗な着物姿とのギャップが恐ろしさを増幅させていました。

第2会場はここまでとなっています。廊下にはこちらのパネルがあって、これだけ撮影可能でした。
DSC_4265.jpg


続いては第3会場です。ここは月百姿がズラッと並んでいるのが特に圧巻でした。
 参考記事:月岡芳年「月百姿」展(後期) (礫川浮世絵美術館)

202 月岡芳年 「月百姿 玉兎 孫悟空」
こちらは月をテーマにした100枚揃いのシリーズで、この絵では猿の姿の孫悟空と白兎が描かれ、背景には大きな月が描かれています。シンプルながらも3者の配置や大きさ、ポーズの妙が面白く 特に記憶に残っていました。兎が特に可愛いですw

200 月岡芳年 「つきの百姿 月宮迎 竹とり」
こちらはかぐや姫が月に帰っていく様子を描いた作品で、手前では跪いて嘆く翁の姿もあります。別れのシーンをドラマチックなポーズで分かりやすく伝えていました。

208 月岡芳年 「新形三十六怪撰 老婆鬼腕を持去る図」
こちらは最晩年のシリーズで、幽霊・妖怪・怪異などを取り上げています。この絵では茨木童子が変装した老婆が自らの腕を奪い返しにくるシーンが描かれ、横顔の老婆は鬼婆そのものと言った感じです。ちらっと振り返って笑みをこぼす様子が不敵かつ不気味でした。

214 月岡芳年 「新形三十六怪撰 清姫日高川に蛇体と成る図」
こちらは道成寺(安珍・清姫伝説)を題材にしたもので、川岸で清姫が非常に色彩豊かな着物を来て立っています。しかしその模様はどことなく蛇のようで、空には暗雲が立ち込めるなど不吉な気配が漂い蛇体へと変身しそうな感じとなっていました。美しくも恐ろしい清姫をよく表しているように思います。

この近くには「新形三十六怪撰 地獄太夫悟道の図」なんかもあって、こちらも好みでした。

220 月岡芳年 「風俗三十二相 うるささう 寛政年間 処女之風俗」
こちらはこの記事の冒頭のポスターの絵で、猫に顔を寄せて話しかけている女性が描かれています。覆いかぶさって愛しそうにしているように観えますが、猫はうるさそうに思っているのでしょうかw 現代でもこういう光景はあるので、観ていて可笑しくて娘も可愛く感じられました。

225 月岡芳年 「風俗三十二相 めがさめさう 弘化年間 むすめの風俗」
こちらは朝顔を背景に歯を磨いている女性を描いた作品です。着物が はだけて片胸があらわになっているなど しどけない姿で、目も虚ろです。綺麗な女性でも寝起きはこんな感じですよねw 私も朝が弱いので観ていて親近感が湧きました。月岡芳年の観察眼は中々容赦がないw

この他にも風俗三十二相は面白い作品ばかりです。私はこのシリーズが観たくて足を運んだとも言えるくらい好きですw
こうして晩年までまで活躍した月岡芳年ですが、明治24年(1891年)に神経の病が再発し、54歳で亡くなってしまいました。もうちょっと晩年の作風で頑張って欲しかったですね…。


<別章 肉筆画・下図類など>
最後は少しだけ画稿や肉筆作品がありました。

239 月岡芳年 「富士山」
こちらは富士山を描いた水墨です。月岡芳年の水墨は珍しいのですが、こちらは濃淡のみで遠近感や霞を表現していて、明暗も見事でした。水墨でもこれだけの表現力があることに驚きです。


ということで、網羅的かつ代表作を楽しめる月岡芳年の決定版のような展示となっていました。前半は血みどろ絵なんかが多かったですが、後半はほっこりする絵もあって多才な魅力を楽しむことができました。もう会期が残りわずかとなってしまいましたが、浮世絵好きだけでなく多くの絵画ファンにお勧めできる展示です。
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