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「仏像の姿(かたち)」 ~微笑(ほほえ)む・飾る・踊る~【三井記念美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に三越前の三井記念美術館で「仏像の姿(かたち)」 ~微笑(ほほえ)む・飾る・踊る~を観てきました。

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【展覧名】
 「仏像の姿(かたち)」 ~微笑(ほほえ)む・飾る・踊る~

【公式サイト】
 http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

【会場】三井記念美術館
【最寄】三越前駅

【会期】2018年09月15日(土)~11月25日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構多くのお客さんで賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は古来から伝わる仏像の中から、仏師の豊かな独創性と高度な技術が観られる作品を集めた内容となっています。特に「顔」「装飾」「動きとポーズ」の3つに焦点を当てていて、作例の少ない珍しい作品も並んでいました。詳しくは展覧会の構成に沿って気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<展示室 1>
まず展示室1ではガラスケースに入った小さめの仏像が並び、360度から観られるようになっていました。今回のテーマの3つのポイントについてですが、以下のような見所が紹介されていました。
 顔:仏であることを表す最も重要な所。仏師の信仰と感性と技術によってどう表現しているか
 装飾:仏像を美しく荘厳する重要な要素。精緻な文様や装身具、技術などが観られる
 動きとポーズ:一見動きがない菩薩なども合理的な微妙な体の動きが像全体に影響している。激しい動きの明王や天部は顕著で、動きを誇張するために人の実像と異なることもある
と、何やら難しそうですが、実際にこの先の仏像を観ていけば多分 納得できると思いますw

1-1 「迦陵頻伽立像」 室町時代・15 世紀 個人蔵
こちらは鳥の足でスカートのように翻る衣の身につけた迦陵頻伽(かりょうびんが)の像です。笑顔で手を挙げて踊っているようで、軽やかな印象を受けます。元は薬師三尊像の光背の一部だったそうで、極楽の喜びに溢れる世界を雰囲気を全身で表しているかのようでした。

1-3 康円 「四天王眷属立像(東方天眷属・南方天眷属)」 鎌倉時代・文永 4 年(1267) 東京国立博物館
こちらは四天王のうち東方の持国天と南方の増長天で、槍のようなものを持ったポーズをしています。持国天は赤く増長天は青黒っぽい色が付けられていて、顔は身近な人物をモデルにしたのではないか?という推測がされるほど その辺にいそうな人間っぽさがありました。しかめ面した表情も面白く顔に注目の作品です。

1-6 「観音・勢至菩薩立像」 鎌倉時代・13 世紀 神奈川・称名寺(神奈川県立金沢文庫保管)
こちらは合掌して前かがみになった勢至菩薩の立像で、極楽から来訪した姿を表現しているそうです。表面には金泥、体には装身具を身に着けていて緻密な技術が目に付きます。また、裾が後ろになびいていく感じなどは来迎している感じがあって細部の表現まで凝っています。この隣の観音菩薩も同様の姿となっていて、両方とも横から観るとその姿勢がよく分かって面白かったです。来迎中の仏像なんて中々珍しいんじゃないかな。

この近くには片足を踏み出すような十一面観音像もありました。こちらも動きのついた姿勢が目を引きました。


<展示室 2>
こちらの部屋は1点だけですが、今回の見所と言えそうです。

2-1 「不動明王立像」 鎌倉時代・13 世紀 個人蔵 ★こちらで観られます
今回のポスターになっている不動明王像で、左足を伸ばし 右足は木の上に乗せて曲げています。また、右手は腰のあたりで剣を構え、左手は羂索を持つなど不動明王らしいアトリビュート(持ち物)となっています。この像で面白いのは何と言ってもそのポーズで、後ろから観ても横から観てもサマになる緊張感ある姿です。威嚇する顔も含めて歌舞伎の見栄を切るシーンみたいに思えるかな。衣の翻る様子など、動的な要素もあって今回の展示の趣旨を特に感じさせる逸品でした。


<展示室 3 截金紹介コーナー>
こちらは截金(きりかね)の技法を紹介するコーナーです。金箔を貼り付ける手順などがパネルと共に実際の截金の材料が並んでいるのですが、めちゃくちゃ細かい!w かなり細く切って、それを2本の面相筆で貼り付けるそうで、相当に手先が器用でないと難しそうです。この先に截金の技術を使った装飾の仏像がありますが、ここで技法を知ることで恐ろしく手間がかかるのを目の当たりにできると思います。


<展示室 4>
こちらはコの字状の展示室に、等身大くらいのやや大きめの仏像が並んでいました。

[仏像を飾る]
4-1 「毘沙門天立像」 平安時代・応保 2 年(1162)頃 東京国立博物館
こちらは左手で宝塔を持ち、右手で槍を持つ毘沙門天の立像です。邪鬼を踏みつけているなどモチーフ自体は典型的ですが、右足はやや踏み出す感じで、体は緩いS字の姿勢となっています。それが優美に感じられ、顔も穏やかに思えました。この毘沙門天の鎧にも唐草など かなり細かい截金の跡があるので、それも含めて目を引きました。

この辺には截金の技術が高い仏像が並んでいました。ミリ以下の精度で模様を作っていて驚きます。

4-5 「弥勒菩薩立像」 鎌倉時代・13 世紀 個人蔵 ★こちらで観られます
こちらは茎の長い蓮の花を持つ弥勒菩薩の立像です。頭には宝冠を被っていて、これは王族だった釈迦の修行中の姿を踏襲しているようです。この像は光背も見事で、放射状に光が放たれるような表現となっていました。いずれも緻密で雅やかな印象を受けます。体つきも柔らかく、流れるような衣も含めて女性的な雰囲気も感じました。なお、この像の光背を裏から観ると蓮の花のようになるのだとか。


[踊る仏像の造形美]
4-6 「阿弥陀如来及び両脇侍像」 平安時代・ 9 世紀 大阪・四天王寺 ★こちらで観られます
こちらは阿弥陀如来とその脇の観音菩薩・勢至菩薩の像で、左は合掌し 右は蓮の台座を持っています。いずれも片足を後ろで組むような独特の立ち姿で、さらに腰を捻って踊るような感じに観えます。解説によると両脇侍像の肩から下は後の世に作られたそうで、元の姿は不明のようです。また、そもそもこの2体は対として作られたものではなく、似たポーズなので対とされたのだとか。色々と後付されているようではありますが、踊るようなコンビっぷりが珍しく、中々お目にかけないポーズとなっていました。楽しげな雰囲気です。


[天部の姿]
4-9 「毘沙門天立像」 鎌倉時代・13 世紀 個人蔵
こちらは宝塔と槍を持った毘沙門天像で、珍しく兜を被った姿で表されています。しかしそれ以上に玉眼の目がギロッとこちらを観ているのがインパクト大で、非常に険しい表情となっています。一方、鎧の装飾なども力が入っているようで、腹帯を噛むような獅子の顔をしたベルト「獅噛(しがみ)」も力強く険しい顔となっていました。緊張感が漲っていて天部らしい勇ましさがある像です。

この近くは四天王像がズラッと並んでいます。毘沙門天が特に多めでした。


[不動明王の姿]
4-16 「不動明王立像」 鎌倉時代・13 世紀 埼玉・地蔵院
こちらは右手で肩に担ぐように剣を持ち、左手には羂索を持った不動明王の立像です。剣を持つ手はかなり後ろに引いているなど独特のポーズとなっています。何故か髪がまくれ上がるような表現になっているのも変わっているかな。解説によるとこうしたポーズは注文主のアイディアを反映しているそうで、独創性がありました。割と頭が小さめなのでスラッとした体つきになっているのも面白い作品でした。

[如来・菩薩の姿]
4-22 「十一面観音立像」 鎌倉時代・13 世紀 大阪・四天王寺
恐らくこの展覧会で一番大きな十一面観音の立像で、左手はかつて水瓶を持っていたんじゃないかな? 頭の上には10の化仏を乗せていて、頭頂部のみ如来の顔で他は菩薩の顔となっています。澄ましたり、怒ったり、笑っていたり…。それぞれ色々な表情を浮かべています。一方、体はややS字状になっていて、右足を少しだけあげているようで 緩やかな動きが出ていました。細かい動きが全体に波及する構成が素晴らしく、一層に優美な印象を受けました。


<展示室 5>
続いての5室は一木造と寄木造りの違いを取り上げ、それぞれの作品が数点ずつ並んでいました。


[「一木造」の彫技と量感]
一木造はその名の通り頭から体まで1つの木から彫り出す技法で、木の大きさ等から動きや表現に限界があります。しかし生命力や存在感が醸し出す雰囲気が見所となっているようです。

5-3 「十一面観音立像」 平安時代・ 9 世紀 大阪・長圓寺
こちらはずんぐりとした体型で水瓶を持つ十一面観音の立像です。衣文に特徴があるようで、素朴なように見えてかなり細かく彫られています。穏やかな顔つきとその量感から女性的な雰囲気もありました。

5-4 「五大明王像」 平安時代・10 ~ 11 世紀 奈良国立博物館 ★こちらで観られます
こちらは五大明王が揃った作品で、牛に乗る大威徳明王、片足を上げる軍荼利明王、あぐらを組む不動明王、胸の前で印を組む降三世明王、5つの目を持つ金剛夜叉明王となっています。不動明王以外は多面・多臂なので造形自体も力強いですが、特に軍荼利明王はそのポーズに躍動感がありました。いずれも非常にどっしりと構えていて、威厳溢れる雰囲気です。レプリカのフィギュアとかあったら欲しいw


[「寄木造」の妙技]
寄木造はいくつもの木を組み合わせるので、木材の制限を超えた大きさで作るのが可能な技法です。その為、ポーズも自由に作れます。 また、干割れを防ぐための内刳を容易にしてくれるようです(一木造はよく乾かさないとヒビが入りやすい)

5-5 「十二神将立像(子神~巳神)」 鎌倉時代・13 世紀 奈良国立博物館 ★こちらで観られます
こちらは十二支のうちネズミ(子)から蛇(巳)までの6種を司る十二神将が並んでいました。頭の上にそれぞれの干支を乗せているので、割とすぐ何の神か分かります。いずれも誇張されたポーズをしていて、厳しい表情を浮かべているかな。特に卯神が遠くを観るように額のあたりに手をかざすポーズが面白く、仏師のセンスが感じられました。

5-6 「伽藍神立像」 鎌倉時代・13 世紀 奈良国立博物館 ★こちらで観られます
こちらは猛烈にダッシュしているようなポーズの像で、衣が風でまくれあがり、スピード感満載ですw ただ、右手と右足が同時に出るようなフォームなので、ナンバ走りのような走法に見えます。 また、頭巾をかぶっているので一見すると七福神の大黒様のように見えるので、以前は「走り大黒」と呼ばれていたようですが、現在は伽藍神と推定されるようです。色々と謎の多い像ですが、 スピード感はこの展覧会でも随一といった作品でした。

この隣の雷神立像も動きが強く感じられました。また、近くには十一面観音像の化仏などが並んでいました。


<展示室 6 東京藝術大学文化財保存学(彫刻) 模刻作品・修復作品>
こちらは狭い部屋に1点のみです。前の部屋までで今回の展覧会の趣旨は終わりで、この後は東京藝術大学文化財保存学の修復や模刻の活動についてのコーナーとなっていました。

6-1 中村恒克 「模刻(復元) 宝菩提院 菩薩半跏像」 原本 平安時代 神奈川・光明院
こちらは片足を垂らして腰掛ける菩薩像で、平安時代の作品を元にして現代で模刻したものらしく体は赤く色付けされています。かなり衣のヒダが複雑で目を引くのですが、これが原作では一木造というのが驚きです。現代ではこれだけの大きさの木を手に入れることはできないので、2材を1木に見立てて模刻しているとのことでした。こうして模刻をすることで当時の制作状況なども分かるらしいので、非常に意義深い仕事ですね。


<展示室 7>
最後の部屋は模刻や修復された仏像が並んでいました。模刻には2種類あるようで、古く傷んだ感じまで再現するものと、制作当時を想定して模刻するものです。ここにはその両方が展示されていました。

7-3 小沼祥子 「模刻(現状) 興福寺 八部衆立像のうち乾闥婆立像」 個人蔵
こちらは興福寺の八部衆の乾闥婆を模刻したもので、木像ではなく 脱活乾漆造となります。見た目はかなり本物そっくりで、表面が古びた感じまで再現されています。まさに完コピといった感じで、これを本物と言って出されても気づけないと思えましたw
 参考記事:阿修羅 天平乾漆群像展 (興福寺仮講堂) 奈良編

この先には天燈鬼立像なんかもありました。完コピの像と、当時の彩色を想定した真っ赤な像があって模刻ならでは面白さがあります。鮮やか過ぎるとちょっとチープに感じてしまいますがw
 参考記事:運慶 (東京国立博物館 平成館)

部屋の真ん中にはパネルで研究や制作の様子などを紹介していました。わざわざ干割れを似せる様子などは執念を感じますw まさに仏師の追体験を求める様子が伺えました。


ということで、変わったポーズや様々な表情をしたレアな仏像たちに出会えることができる展覧会となっていました。既に人気ですがこの面白さならまだまだ人気が出そうな感じです。解説も緻密なので、詳しくない方もこれを機に仏像好きになれるんじゃないかな? ぐるっとパスなら提示するだけで観ることが出来ますので、オススメの展示です。

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