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仙厓礼讃 【出光美術館】

先日ご紹介した丸の内の展示を観た際、出光美術館で「仙厓礼讃」も観てきました。

DSC04529.jpg

【展覧名】
 仙厓礼讃

【公式サイト】
 http://idemitsu-museum.or.jp/exhibition/present/

【会場】出光美術館
【最寄】有楽町駅

【会期】2018年9月15日(土)~10月28日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
割とお客さんが多くて所によっては人だかりが出来るくらいでした。

さて、この展示は禅画で知られる仙厓義梵に関する展示です。礼賛というタイトルなのでフォロワー達の展示かと思いましたが全て本人の作品となっています。仙厓は2~3年くらい前にも出光美術館で展示をやっていました(当時はブログ休止中でした)が、その時と一部は被っているものの 今回は禅画以外もあり幅広い内容となっていたように思います。仙厓の作品の多くは住持職を引退して寺の境内の一隅にあった虚白院とい隠居所で過ごした四半世紀の間に制作されました。しかも隠居したのは還暦を過ぎてからで、悠々自適な第二の人生を過ごし名所・旧跡・寺社・仏閣への旅行や参拝、地元博多の祭などの見物、珍奇石や古器の収集、茶、書画、詩作、詠歌、句作などに親しみ、友人・知人・地元の人々との交流を大事にしていたそうです。この展示ではそうした様々な趣味にも触れていて、5章構成で紹介されていました。構成は時系列ではなくテーマごととなっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 長寿は天からの授かりもの ―「老人六歌仙画賛」を中心に>
まずは長寿に関するコーナーです。仙厓は人間50年と言われていた時代に88歳まで生きたそうで、老後も充実していたと言えそうです。ここでは如何に生き、楽しく実りあるものにするのかをテーマにした作品が並んでいました。

1~3 仙厓義梵 「老人六歌仙画賛」 ★こちらで観られます
こちらは同じ題名の3点の掛け軸で、腰が曲がった6人の老人たちが杖をついている様子が描かれています。いずれも仙厓の作風の特徴であるゆる~い略画のような雰囲気で、いずれの老人たちも笑顔のように見えます。一方、賛に書かれた歌には「皺が寄ってホクロが出来て腰が曲がる。でしゃばって世話を焼きたがり、くどくどして気が短くなって愚痴を言い、欲深くなる。何度も自分の子供を褒めて達者自慢をするので人は嫌がる」と老人に手厳しく、皮肉と訓戒が込められている感じです。この歌自体は先人が詠んだものですが、仙厓の絵は反対に楽しそうで、老いていくことを肯定的に捉えているようにも見えました。

4 仙厓義梵 「百寿老画賛」
こちらは寿老人が100人くらい集まって長寿の祝いをしている様子を描いた作品です。踊ったり、壺の蓋を開けて覗いたりしていてみんな楽しそうな表情です。賛では百人の百歳が集まっても一万年にしかならず、有限である。そこで天南星(寿星)の化身で「寿老」の主を招いたを書いてあるようで、絵の上の方に輿に乗った一際目立つ神様の姿もありました。実際には100人以上集まっているそうで、賑わいが感じられました。


<第2章 力を尽くせば、必ず報われる ―仙厓画傑作選>
続いての2章は傑作選のコーナーです。仙厓は隠居してからも禅の行く末を気にしていたようで、禅の理解を深めて欲しいと禅画を描きました。ここにはそうした意味深な作品なども並んでいました。

12 仙厓義梵 「指月布袋画賛」 ★こちらで観られます
こちらは袋を持った上半身裸の布袋が左上を指さしていて、傍らの子供が両手を挙げて喜んでいるような作品です。指の先には何も無いのですが、画面外に月があるようです。子供は人と言うよりはヒヨコみたいに見えるくらい簡略化されているのが可愛いw と、そんな緩い雰囲気の作品であるものの、これは指月布袋の禅の教えを描いているようで、指(経典)に暗示された月(禅の真髄)は見えるが、中々手は届かない。厳しい修行を積んだ者のみに訪れるという意味が込められているようです。流石は禅の住持職だけあって深いですね…。

13 仙厓義梵 「坐禅蛙画賛」
こちらはふにゃっとした線で描かれたカエルで、じっとしている様子となっています。何故かニヤリと笑っているような表情をしていて、やや不敵な印象を受けます。賛には「座禅して人が仏になるならハ」とあり、全ての存在に仏性があるのならば、カエルも悟りを拓けるはずだが、カエルは悟りを求める求道の精神が備わっていないので、到達できないという意味のようです。激ゆるのカエルの絵にそこまでの意味が込められているとはw 賛の意味が分かると非常に興味深い内容となるようでした。

この近くには子犬を描いた作品もありました。

15 仙厓義梵 「○△□」 ★こちらで観られます
左から順に□△○の記号のようなものが描かれた作品です。この記号の意味ははっきりとは分からないようですが、禅画ではよく○(円相)が描かれて悟りを意味したりします。1つの解釈としては□から順に○の悟りへと段階となっているのではないかとの説があるようです。一方、これは3つの宗教(もしくは3つの宗派)を表しているいるのではないかという説もあります。いずれにしても何らかの意図が込められていると思われますが、出光佐三はこれを観て英題を「Univers」としたそうです。色々考えさせられる禅問答みたいな作品でしょうかw

この辺にはネギ、葦、柳、菊などの植物を描いた作品などもありました。


<第3章 楽しき思い出よ、いつまでも ―「書画巻」をめぐって>
仙厓は禅画のイメージが強いように思いますが、作品の過半は風俗や風景、動植物を描いた作品のようです。旅先での情景や着想をまとめ、漢詩や詩句・和歌などを記しておいて、虚白院に戻ってから画賛に仕上げていったそうです。ここにはそうしたスケッチとも言えるものをまとめた「書画巻」と、それを元にしたと思われる完成作などが並んでいました。

22 仙厓義梵 「書画巻(草稿)」
こちらはスケッチをまとめたもので、絵と賛が半々くらい描かれています。スケッチも素朴な感じですが、祭りの様子など訪れた先の光景をつぶさに素早く描いているように思えます。勿論、ゆるい雰囲気なので、まるで絵日記みたいな楽しさがありましたw
と、ここまで仙厓の絵はゆるい!と言いまくっていますが、実は仙厓は狩野派風の絵を描いていた時期もあります。そちらの作風は緻密でしっかりした描写となっているのですが、そういう絵では絵の上手さにばかり注目が集まるので、人々が親しみやすい無法の絵を描くようになったそうです。あくまでも禅の精神を広めることを考えて、こういう画風にしているんですね。

26 仙厓義梵 「天馬献上画賛」
こちらは馬が立ち上がって両脇の2人がそれを制御しようとしている様子を描いています。この馬は将軍家から朝廷に献上される習わしのことではないかとのことで、先程の書画巻の中によく似た馬が描かれています。しかし両者を比較すると馬の足の部分や人物の向きを変えているなど、構図の変化もあるようで、ゆるい絵のようで推敲を重ねてたのが伺えました。

29 仙厓義梵 「猿猴捉月画賛」
こちらは木の上から水面の月に伸ばす猿を描いた作品です。同様の主題は割とよく観ますが、この後この猿は溺死してしまいます。その意味は分不相応な欲望への教訓なのですが、この猿は目がくりっとして中々可愛い奴ですw こちらも書画巻に似た構図の作品があるのですが、非常に手が長くなっているのも特徴に思えました。

33 仙厓義梵 「芥屋大門画賛」
こちらは芥屋大門という高さ60mの岩山を描いた作品です。玄武岩の柱状節理が特徴の岩となっていて、岩肌には無数に縦の線が入っています。仙厓はこの造形に興味を持ったそうで、この絵でも薄めの線で柱状節理の模様を丹念に描いています。その結果、力強い雰囲気が出ていてその場の情景が見事に表現されていました。仙厓は岩マニアで石マニアなので、その趣味や知識が活かされているようにも思えました。


<第4章 悠々自適な隠居暮らし ―旅行三昧・趣味三昧の日々>
続いては隠居暮らしでの多才な趣味のコーナーです。様々な趣味に没頭し、日々を愉しんでいた様子が伺えます。

46 仙厓義梵 「曲芸画賛」
こちらは曲芸師がジャグリングしている様子が描かれた作品です。手を広げて5つの道具が宙を舞っていて、周りの人はそれを見上げて指さしている人もいます。一瞬の様子や周りの人の表情など、その場の雰囲気がよく伝わってくるように思えました。中々面白い題材で、仙厓がこうした絵も残しているのに驚きました。

この辺には祭りを題材にした作品もありました。

51 仙厓義梵 「不動滝画賛」
こちらは堅牢な石組みの下から流れ落ちる滝を描いた作品です。実際にこういう滝があるそうで、隣に展示されていた写真と見比べると石組みの様子などは正確で、実景に忠実に描いているようです。滝の流れの表現も丁寧に描かれていて、風情がありました。

この辺には実景に基づく名所を描いた作品などが並んでいました。仙厓は好奇心旺盛で、様々な所に出向いていたようです。

69 仙厓義梵 「書画入煎茶碗箱」
こちらは遺愛の茶碗箱で、縦長の長方形にU字の切り込みが入っています。そしてそこには人の顔が描かれていて、ニヤッと笑う表情となっていました。何故笑っているのか分かりませんが、ユーモアを感じさせ、ちょっと脱力感ある悪戯みたいな作品でした。

この辺には遺愛の品が並んでいました。茶道具が多かったかな。

71 仙厓義梵 「亀石之銘巻」
こちらは亀のような形をした石で、仙厓は珍奇石のコレクションが趣味でそれを目当てに旅をしたこともあるようです。石なのに亀のような造形の神秘に心ひかれたようで、賛まで付けています。解説によると悉有仏性(あらゆるものが仏になる仏性を持っている)の教えを想起させるのが刺さったようで、この石の他にも硯のような石などもありました。(どうしても欲しくて旅に出て譲り受けた石なんかもあるそうです。それを貰った時の喜びは相当なものだったのだとか。そんなに物事に執着したら駄目なんじゃないか?という気がしますが…w)

他にも貝殻の観音という絵などもありました。これも悉有仏性を感じそうです。

80 仙厓義梵 「トド画賛」
こちらは日本には珍しいトド(もしくはアザラシ)を描いた作品で、実際に北九州の海で網に掛かった時の様子を描いているようです。賛には「本名トド 北國の海に多い」とあり、「薬功本草」という書物で調べた旨も書いてあるようです。もじゃもじゃして尻尾が三叉状になっているなどあまり上手く描いてる訳ではないですが愛嬌があるかなw ちょっと珍しい画題で博物学的な興味も伺えました。

81 仙厓義梵 「芭蕉蛙画賛」 ★こちらで観られます
こちらは二幅対の作品で、いずれも芭蕉の木の下にいるカエルが描かれています。賛には「池阿らは(池あらば)飛て芭蕉にきかせたい」「古池や芭蕉飛こむ水の音」と添えられていて、松尾芭蕉の俳句をパロディにしたようなユーモアを感じる作品となっています。芭蕉の飛び込む音はヤバそうですねw カエルはまるまるとして、芭蕉は刷毛目のような濃淡で質感豊かにかかれていました。


<第5章 愉快なり、友との日々 ―仙厓流ユーモアを育んだ面々>
最後は多くの文化人や友人との交流のコーナーです。ここには合作なども並んでいました。

87 深慧源芳(画)仙厓義梵(賛) 「貧乏神葬式図」
こちらは合作で、絵を描いたのは深慧源芳という仙厓の身近な友人です。家の前で何人かで貧乏神の葬式の様子を描いているのですが、割と仙厓のゆるい画風に似ているかも。仙厓による賛では、貧乏神が死んで喜ばしいが残った借金は誰が払うのか?と添えているようです。この変わった主題はどちらのアイディアかは不明ですが、お互いウィットに富んだ感じが面白い作品でした。

この他にも深慧源芳との合作がいくつかありました。仙厓の虚白院は文化サークルの様相だったそうです。

95 斎藤秋圃(画) 仙厓義梵・斎藤愚連堂[凹](賛) 「涅槃図」 ★こちらで観られます
こちらは3人の合作で、釈迦の代わりに仙厓が横たわっている涅槃図のような作品です。周りには近隣の顔見知りや友人たち、その下には生活用品や植木鉢などの仙厓の愛用の品が並んでいて、上の方からは掛け軸の中から出てくる来迎の様子なども描かれています。仙厓らによる賛には、これを入滅ではなく昼寝に読み替えているようです。そのせいか、参列者たちも嘆くというよりはのほほんとした雰囲気に思えました。


ということで、仙厓の深い禅の教えの一端と、老後の悠々自適ぶりが伺えるような展示となっていました。あえて分かりやすい画風にしている為、多くの人に愛されるゆるキャラみたいな親しみが持てる画風だと思います。単純なようで奥深い面白い展示です。


おまけ;
今日、家に帰ったら金曜ロードショーで「海賊とよばれた男」をやっていましたが、劇中の社長室らしき所で一瞬、仙厓の「円相図」らしきものが映りました。(もしかしたら白隠かもしれませんが) この映画は観たことなかったですが、見覚えのある絵だったので出光佐三がモデルの話なんだなと分かりましたw
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