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ピエール・ボナール展 (感想前編)【国立新美術館】

先週の金曜日の会社帰りに六本木の国立新美術館で「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」を観てきました。非常に充実した内容となっていましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

20180928 191659

【展覧名】
 オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展

【公式サイト】
 http://bonnard2018.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/bonnard2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2018年9月26日(水)~ 12月17日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
開催されてすぐの金曜夜ということもあって、それほど混むこともなく概ね自分のペースで鑑賞することができました。

さて、今回の展示は「日本かぶれのナビ」と呼ばれたナビ派のピエール・ボナールの大規模な展示で、オルセー美術館の名品が中心となっています。油彩72点、素描17点、版画・挿絵本17点、写真30点という非常に充実した内容で、初期から晩年まで幅広く展示されています。7章構成で時系列と主題を組み合わせたような章分けとなっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1.日本かぶれのナビ>
まずは「日本かぶれのナビ」とあだ名されたことについてのコーナーです。ピエール・ボナールは19歳の時にパリの画塾アカデミー・ジュリアンで学び、次いで国立美術学校(エコール・デ・ボザール)に登録し画家としての道を志します。アカデミー・ジュリアンではポール・セリュジエやモーリス・ドニらと親交を結び、1888年にポール・セリュジエがポール・ゴーギャンに教えを受けて描いた小品(タリスマン)を仲間に見せたのをきっかけに「ナビ派」を結成します。ナビ派というのはヘブライ語で預言者という意味で、色斑や色面で構成された平坦な画風が特徴となります。ナビ派が結成されてまもなく、パリの国立美術学校でジークフリート・ビング(サミュエル・ビング)によって「日本の版画展」が開催されるとナビ派の画家たちも衝撃を受けたようで、ボナールも安価だった歌川国芳や国貞、広重などの浮世絵を購入し手元に置いたようです。ボナールは日本の浮世絵から積極的に明確な輪郭線や遠近法などを取り入れ、批評家のフェリックス・フェオネンによって「日本かぶれのナビ」と名付けられました。ここにはそうした日本美術からの影響が観られる作品が並んでいました。
 参考記事:
  オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)
  没後150年 歌川国芳展 -幕末の奇才浮世絵師- 前期 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち~ (静嘉堂文庫美術館)
  殿様も犬も旅した 広重・東海道五拾三次-保永堂版・隷書版を中心に- (サントリー美術館)

3 ピエール・ボナール 「黄昏(クロッケーの試合)」 ★こちらで観られます
こちらは大型の絵でボナール家の別荘の庭を描いた作品です。手前にクロッケーをしている妹と父、犬や従姉妹などが描かれ、奥には白いドレスの女性たちが輪になって踊っている様子が描かれています。既に平面的で装飾的な画風となっていて、葉っぱなどは単純化されているように思います。手前は日常の光景のように見えるのに背景の女性たちは神話の世界から抜け出てきたような雰囲気なのが不思議な光景でした。人物の服もチェック柄を混ぜていたり、色彩と形のバランスも感じられました。

この近くには以前、この国立新美術館で行われたオルセー美術館展に来ていた「白い猫」(やたら足の長い白猫の絵)や「格子柄のブラウス(20歳のクロード・テラス夫人)」、愛知県立美術館の「アンドレ・ボナール嬢の肖像、画家の妹」などもありました。
↓これが「アンドレ・ボナール嬢の肖像、画家の妹」
1148507930_254.jpg
結構大きくて縦長な画面が特徴です。
 参考記事:
  オルセー美術館展2010 ポスト印象派 感想後編(国立新美術館)
  日本の美術館名品展 感想前編(東京都美術館)

2 ピエール・ボナール 「庭の女性たち(白い水玉模様の服を着た女性、猫と座る女性、ショルダー・ケープを着た女性、格子柄の服を着た女性)」
こちらは23~24歳頃の作品で、縦長の4枚セットとなっていて屏風や掛け軸のような構成となっています。いずれも女性が描かれていて、そのうち3人は立ち姿となっていて、振り返る仕草などは浮世絵からの影響も感じられます。平面的でデザイン化された草花や服の模様が面白く、4枚通した人物や色彩の配置などがリズミカルに思えました。なお、ボナールの日本美術からの影響は3つの段階があるようで、1つ目が縦長の画面や屏風などの形式への傾倒のようです。この作品は正にその典型と言えるんじゃないかな。隣にも正に屏風の形をした作品もありました。日本美術からの影響の2つ目は明確な輪郭線へと通じる大胆なアラベスク、3つ目は色面やモティーフを重ね合わせによる奥行きや空間の暗示ということで、先程の「黄昏」は3つ目に該当するのかも

8 ピエール・ボナール 「ヴュイヤールの肖像」
こちらはナビ派の仲間のヴュイヤールを描いた小さな肖像画です。何故か左下の部分が欠けて木が埋め込まれているのが気になりますが、詳細は不明。ヴュイヤールはシルクハットをかぶり口ひげを蓄え、ややうつむき加減となっていて表情ははっきり見えません。身内の日常の何気ないシーンをモチーフにするのもボナールらしい作風ではないかと思います。

13 ピエール・ボナール 「ランプ下の昼食」 ★こちらで観られます
こちらはテーブルの上のランプとその周りの人々を描いた作品で、周りが真っ暗なので夕食かと思いましたw 手前に逆光になった子供と母親、母親に抱かれた子供の姿があり、テーブルの奥には赤ちゃんにスプーンで食事を与える女性がランプに見切れています。明暗の対比が強めとなっていますが、柔らかく温かみのある雰囲気となっていて、安らいだ感じとなっています。解説によると、ナビ派は象徴主義演劇にも携わっていたらしく、この絵はそれに通じるものがあるようです。日常と幻想が同居するような作品でした。

この辺にはランプの下を描いた作品が並んでいました。象徴主義的な感じですね。

18 ピエール・ボナール 「ブルジョワ家庭の午後 あるいは テラス一家」
こちらはボナールの別荘の前庭を描いた作品で、庭にテーブルやソファを並べて家族・友人・犬・猫などがのんびり寛いでいる様子が描かれています。何人かは向かい合ってたりしますが、お互いに視線を合わさずに各自の世界に浸っているような雰囲気すらあってちょっとシュール。横向き・正面向き・うつむき・斜め向き・後ろ姿といった感じで様々な角度から描かれている点も面白く感じました。


<2.ナビ派時代のグラフィック・アート>
続いての2章はボナールによるポスターや挿絵などのコーナーです。ボナールは元々、父親に法律の道に進むよう期待されて法学を学んでいたのですが、芸術に目覚めて大学に通う傍らで絵画を学んでいました。そして1889年に「フランス=シャンパーニュ」の広告のコンクールで受賞し賞金を得ると、父は息子が画家になることを認めます(結構喜んでいたようです) このポスターは一躍人気となり、芸術家のキャリアのスタートとなりました。また、ボナールは本の挿絵や版画集の制作にも取り組んでいて、雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』で多くのナビ派と共に活躍したようです。この雑誌の事務所の近くには画商アンブロワーズ・ヴォラールが画廊をオープンしたようで、ヴォラールは芸術家たちの絵画を扱う一方で芸術家たちの挿絵の入った本の出版にも力を入れていました。ボナールにも依頼をしていて、いくつかの作品を残しています。このコーナーではそうした作品が紹介されていました。

19 ピエール・ボナール 「フランス=シャンパーニュ」 ★こちらで観られます
こちらがボナールが画家となるきっかけとなったポスターのリトグラフで、22歳の時にこの作品で賞金を得ました。ウェイトレスが持つシャンパンが勢いよく溢れる様子が描かれ、驚き喜ぶような笑顔を見せています。泡は画面の下半分を覆うほどに広がり、躍動感があります。黒の太めの輪郭線で描かれた女性は、滑らかで デフォルメの仕方も優美に思えました。割と初期からデザイン的な絵だったのがよく分かる作品です。

この近くには「ラ・ルヴュ・ブランシュ」(★こちらで観られます)の作品もありました。

25 ピエール・ボナール 「『ピアノ曲、家族の情景』(クロード・テラス作曲)」
こちらは妹の夫で作曲家のクロード・テラスの楽譜に描いた挿絵です。赤ちゃんを抱く父母が描かれているモノクロの挿絵で、赤ちゃんは笑っていて母親は慈愛に満ちた雰囲気があります。家族の情景という曲らしいのでタイトル的にはピッタリです。動画とかで曲も聞いてみたいですが、検索しても見つからず残念w この絵ならきっと幸せな雰囲気の曲じゃないかと思うんですが。

この近くには戯曲「ユビュ王」の書籍もありました。荒唐無稽な話として当時大流行した戯曲で、ボナールも滑稽な雰囲気で描いています。ボナールは自分の犬にユビュと名付けてたという話もあったので、話自体も気に入っていたのかも。


<3.スナップショット>
続いてはボナール自身が撮っていた写真のコーナーです。1888年に柔軟性のあるフィルムが発明され1889年にコダック社によって販売されると、重い金属板などから解放され写真はより身近なものとなったようです。1898年には折り畳める蛇腹式のポケットカメラが発売され、ボナールは発売と同時にこれを手に入れています。そして1890年代初頭から写真を撮り始め、20世紀初頭にかけて250枚ほど残されているようです。写真は生の移ろいを捉えるために使い、日常生活などを嬉々として撮っていたようで、版画や挿絵と主題・構図において類似する点も観られるようです。しかしどういうわけか1905年頃から写真を撮らなくなり、1916年以降の作品は見つかっていないのだとか。(理由は不明) ここにはそうしたボナールによる写真が並んでいました。

34 ピエール・ボナール 「ピエール・ボナール、自画像」
こちらは自分を撮った写真です。パイプを持ってにこやかに笑い、柔和な雰囲気です。この近くにもパイプを吸うボナール(★こちらで観られます)やロバに乗るボナールの写真があったのですが、裕福なこともあって立派な身なりです。ポーズを取って当時最新のデバイスで自撮りしていると考えれば、現代人も共感するものがあるのではw

46-51 ピエール・ボナール 「陽光を浴びて立つマルト」など ★こちらで観られます
こちらは戸外でヌードになる当時 恋人(後の奥さん)のマルトを撮った写真です。この写真をヌード作品の参考にしたようですが、ややシュールで神話的な雰囲気すら感じます。この近くには同様のヌードの写真が並び、ボナール自身も撮影しながら裸になって構図を考えていたのだとか。中々ぶっ飛んだエピソードが面白いですw

この他にも友人や家族を写した作品が並んでいました。結構、絵画作品に通じるものを感じます。


<4.近代の水の精(ナーイアス)たち>
続いては裸婦をテーマにした作品が並ぶコーナーです。初期はエロティックな裸体だったようですが、やがて浴室などが背景に身支度をする姿を描くようになったようです。ここには身近な女性たちの裸体を描いた作品が並んでいました。

68 ピエール・ボナール 「浴盤にしゃがむ裸婦」 ★こちらで観られます
こちらはタライに水を注ぎ込みながら片膝をついている妻マルトの裸婦像です。下を向いていて自然な姿で日常生活を覗き込んだような感じです。解説によると俯瞰するような構図はドガを連想するとのことですが、そもそも主題自体もドガとよく似ているように思います。また、ボナールは静止するよりも自由に動くことを求めたそうで、それが生き生きとして自然な光景に見える理由かもしれません。しかし意外なことに これは観たまま描いたのではなく 10年ほど前の写真や記憶から再構成しているそうで、背景の黄色い床などに下絵からの改変が観られるとのことでした。構図も安定しているし、推敲して描いたんですね。

この隣には足を拭く裸婦などもありました。妻のマルトは神経の病気で1日に何度も風呂に入っていたらしいので、こうした作品もその影響なのかも。ちなみにマルトはちょっと性格がヤバかったようで、ボナールが26歳で出会った時に16歳と言っていたのですが、結婚の時に2歳下と判明したのだとか(8歳もサバ読んでる!w) ついでに名前もマルトではなく実はマリアとだった分かったそうで、よく結婚したなと…w

69 ピエール・ボナール 「バラ色の裸婦、陰になった頭部」
こちらは全体的に輝くような明るい画面で、ほっそりした裸婦が立ち姿で描かれています。こちらは妻のマルトの友人でボナールの愛人となるルネ・モンシャティという女性(図録ではかかりつけの医師の妻であった リュシエンヌがモデルと推定しています。どっちだろ??)らしいですが、顔は影になっていて暗くて表情がよく分かりません。首をちょっとかしげるようにこちらを観ているのは伺えるかな。明暗が強く感じられる作品です。ちなみにルネに嫉妬したマルトがボナールに迫って2人は結婚したのですが、結婚式を挙げた数週間後にルネは自殺したそうです。何だかサスペンスみたいな話です。

この近くにはスケッチなどもありました。簡素ですが動きを感じる姿勢の作品が多かったです。

66 ピエール・ボナール 「化粧室 あるいは バラ色の化粧室」 ★こちらで観られます
こちらは鏡の前に立つ裸婦の後ろ姿を描いた作品で、画面右半分の壁にはバラの模様が描かれています。鏡には顔も写っていてちらっと表情も見えています。 全体的に明るめで明暗は薄めですが、縦の直線の分割が多く 特に中心に白い柱が立っているのが斬新で 色のブロックが分かれているような感覚を受けました。ボナールは物の配置や釣り合いにこだわっていたらしいので、その成果かもしれません。明るく爽やかな作品です。


ということで、長くなってきたので今日はこの辺までにしておこうと思います。ボナールはナビ派の中でも日本に傾倒していた画家なので、日本人にとっても親しみが持てるのではないかと思います。これだけ多くの質が高い作品が集まるのは非常に貴重なので、洋画家ファン必見の展示と言えそうです。後半には驚きの大画面の作品がずらりと並んでいましたので、次回はそれらについてご紹介していこうと思います。


 → 後編はこちら

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