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ピエール・ボナール展 (感想後編)【国立新美術館】

前回に引き続き国立新美術館の「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」についてです。前編1~4章についてでしたが、今日は後半の5~7章の展示についてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

20180928 191130

【展覧名】
 オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展

【公式サイト】
 http://bonnard2018.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/bonnard2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2018年9月26日(水)~ 12月17日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半もそれほど混雑した感じはありませんでした。金曜日の夜に行くといつもこんな感じかも。ただ閉館時間に追われて最後は少しペースを上げざるを得なかったかなw

今日も各章ごとに気に入った作品をご紹介していこうと思います。

<5.室内と静物 「芸術作品―時間の静止」>
5章は室内を描いた作品と静物画のコーナーです。ボナールは1900年代になると窓から光が差し込む室内画をよく描くようになったらしく、特にテーブルを手前に置いてその奥に人物を配する構図が多いようです。また、静物画で名高いシャルダンを崇拝していたようで、テーブルの隅に静物を置くことにも歓びを覚えていたのだとか。ここにはそうした作品が並んでいました。
 参考記事:シャルダン展-静寂の巨匠 (三菱一号館美術館)
  
84 ピエール・ボナール 「食卓の母と二人の子ども」
こちらはテーブルに向かって食事を摂る2人の子供と母親と、もう1人右端に半分だけ見切れている女性も描かれています。しかし真っ先に目につくのは画面中央でテーブルの上に前足を置いて食べ物を狙っている白猫かなw 白猫も母親と子供に挟まれて一緒に食卓を囲んでいるようで微笑ましい光景です。みんなボーッとして前を向いているのがちょっと不思議な感じもしますが、静物も色とりどりで見応えのある作品です。

86 ピエール・ボナール 「猫と女性 あるいは 餌をねだる猫」
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、赤い壁を背景に薄い黄色のテーブルに向かっている緑の服の女性(妻のマルト)と、その隣にテーブルに乗り出している白猫の姿が描かれています。皿やテーブルの円、椅子や暖炉の縦の直線など幾何学的なモチーフが多く、赤・緑・黄色・城の色彩が響き合うような取り合わせです。また、色彩の関係でマルトの顔よりも猫や静物の方が目立っているようにも感じられ、人物画のようで主役はテーブルや猫のようにも思えました。

85 ピエール・ボナール 「桟敷席」 ★こちらで観られます
こちらは赤い垂れ幕に囲まれている桟敷席に集まった4人の人物を描いた室内画です。この4人は画商のジョスとガストンのベルネーム=ジュヌ兄弟とその妻達らしく、3人は座っているのですが 真ん中の弟ガスだけは立っていて何故か顔の上半分が画面からはみ出て見切れているのが大胆に思えます。みんなこちらを観ているのですが、何とも退屈そうというかダレた倦怠感のような雰囲気があります。解説によるとこれは上流階級への風刺ではないかとのことですが、ボナールも上流階級ですよね?w こちらも明暗が強めで、手前と奥とではだいぶ異なる色彩に思えました。

このコーナーは結構制作時期の幅があって、南仏のル・カネで活動した時期の作品などもあります。時期によって画風もちょっとずつ違うので、それを見比べるのも面白いです。また、この章の最後辺りに当時の白黒映像なんかもありました。家族と寛いでいる様子で、恐らく南仏のル・カネとかの映像ではないかと思いますが、詳細は分かりませんでした。


<6.ノルマンディーやその他の風景>
続いてはノルマンディー地方などフランス各地の風景画についてのコーナーです。ボナールは画家になった頃、ノルマンディー地方の自然に魅了されたようで、ノルマンディーで制作を行っています。また、モネの睡蓮の展示を観たことをきっかけに1909年にジヴェルニーのモネの家を訪ね、そこから5kmほど離れたヴェルノンに小さな家を借りました。1912年にはその家を購入して「マ・ルロット(私の家馬車)」と名付け1938年まで定期的に滞在していたようです。さらに1910年頃から南フランスにも魅せられてフランス各地を転々としながら制作していたようです。ここにはそうした風景画が並んでいました。
 参考記事:【番外編 フランス旅行】 ジヴェルニー モネの家

106 ピエール・ボナール 「セーヌ川に面して開いた窓、ヴェルノンにて」
こちらはヴェルノンの自宅の2階の窓から眺めた光景を描いたもので、セーヌ川を見下ろし、水平線まで見える広々とした景色となっています。一方、窓の手前は室内が描かれていて、こちらは赤茶けた壁紙な上に逆光でやや暗めに見えるかな。画面右のテラスには少年らしき人物の後ろ姿も見えています。解説によると、ボナールはこの風景を度々描いていたそうで、友人のアンリ・マティスの構図や装飾的モティーフに影響を受けているようです。確かにマティスの構図に共通するものを感じるので、これは顕著な特徴だと思います。また、屋内と窓の景色の色の対比が強く思えるのですが、これは窓で区切って寒色と暖色を対比させてメリハリをつける効果を狙っているようでした。

105 ピエール・ボナール 「ボート遊び」 ★こちらで観られます
こちらは犬と2人の子供と女性が乗ったボートを描いた作品で、背景には家々・木々・草原などが広がっています。ボートは画面中央下あたりに描かれた変わった構図で、画家自身がボートの向かいに座って観ているような光景です。しかもボート遊びというタイトルの割にはそれほど楽しく無さそうw 解説によると、ボート遊びはモネも描いたモティーフでボナールはそのオマージュとしてこのテーマが重要なものとなったようです。20世紀に入って印象派を再発見したとのことですが、画面は印象派のような感じには見えず、どちらかと言うと象徴主義的な意味ありげな作風に見えました。ちなみにこの絵は2.7×3mくらいあるので、その大きさにも圧倒されると思います。

114 ピエール・ボナール 「ヨット遊び」
こちらは手前に船のデッキらしきところでくつろぐ人々と、近くのヨットを描いた作品です。女性がぽつんと立ってヨットを眺めていて、画面左下のあたりでは犬と戯れる帽子の紳士の姿もあります。この紳士は肩から下が見切れる大胆な構図が面白くて、写真に写り込んじゃったみたいな感じに見えますw また、手前が暗く奥が明るく感じるのは先程の室内画と共通しているかも。のんびりとした雰囲気が漂う作品でした。

この辺にはボナールが頻繁に訪れたトルーヴィルなどを描いた作品もありました。


<7.終わりなき夏>
最後は南仏や装飾画のコーナーで、大型作品が並んでいます。ボナールはノルマンディー地方での制作と前後して南フランスにも訪れ、1909年にはコート・ダジュールの港町サン=トロペで長期滞在しています。そこで色彩に満ちた光と影が織りなす「千夜一夜」の体験を母の手紙に記しているそうで、南仏の光を発見したようです。1910年~30年代はパリ・北仏・南仏を渡り歩いて制作したようで、それらの異なる気候や風土を描く一方でどこの風景とも判別のつかない牧歌的風景も生み出したようです。そしてそうした風景は装飾画の制作において開花したようで、ちょうど注文を受けていた大型の装飾画に表されたようです。また、1926年にはル・カネの丘に家を購入し、亡くなるまでこの地に留まって輝く色彩に満ちた終わることのない「夏」を描き続けたそうです。ここにはそうした理想郷的な光景の作品が並んでいました。

123 ピエール・ボナール 「ル・カネの眺望」
海と手前の家々を一望するル・カネの丘の上から観た風景画です。縦長の画面で水平線が下の方に描かれていて、空を大きく取っているので開放感が感じられます。オレンジ屋根の家々が南仏らしさを感じさせ、爽やかな光景となっていました。ちなみにル・カネは映画祭で有名なカンヌと隣接していてニースやアンティーブ、カーニュからもすぐ近くです。この辺の海沿いの景色は本当に綺麗です…
 参考記事:ニースの写真と案内 【南仏編 ニース】

117 ピエール・ボナール 「水の戯れ あるいは 旅」 ★こちらで観られます
118 ピエール・ボナール 「歓び」
正方形の大型の壁画のような2点セットで、「歓び」は噴水を中心に子供や女性が舞うように遊ぶ様子、「水の戯れ あるいは 旅」ではセイレーンや船のいる海の様子が描かれています。いずれも友人でパトロンのミシア夫妻の食堂を飾る4枚のパネルとして作られたもので、千夜一夜物語を思わせるものを描いたそうです。両方ともオレンジ地の縁に猿と鳥が飛び回るような装飾的な枠があり、夢の中のような幻想性を強めているように思えました。どこか神話の世界のようでもあって、神秘的です。

122 ピエール・ボナール 「夏」
こちらも大型作品で、スイスの富豪の依頼で制作されました。手前には寝転んでいる男性と犬と遊ぶ3人の子供、少し奥には2人の裸婦が草原に寝転び、奥からは女性が犬と共に茂みから出てくる様子となっています。全体的に木々に囲まれた鬱蒼とした感じで、中央あたりのオレンジ色の草原が鮮やかに見えます。解説によると、これを描いたのは第一次世界大戦の戦時中だったそうで、世相のせいか何処と無く陰りもあるように観えますが、一方で神話や理想郷の光景のようでもあります。(これも象徴主義的な要素があるように思えます) また、この作品はサイズを間違って作ったそうで、最終的には1回り小さいサイズの作品を手渡したのだとか。こんなに大きな作品を頑張ったのにw ちょっと可笑しいエピソードでした。

132 ピエール・ボナール 「花咲くアーモンドの木」 ★こちらで観られます
こちらは遺作で、白い花を咲かせたアーモンドの木を描いた作品です。背景には深い青空が広がっていて、地面は黄色く染まっています。しかし、この黄色の部分は自ら筆を取ることが出来なくなっていたので、老いのシャルル・テラスに黄色で覆って貰ったのだとか。その御蔭で全体的に色が響きあって明るく感じられました。亡くなるまで色彩に温かみを感じる画家ですね…。


<Art Immersion Technology>
最後にオマケで、デジタル技術を使ってボナールの6点の絵と実際の風景を融合させる映像コーナーです。絵に描かれなかった部分も含めて360度見渡せるというプロジェクションマッピングで、1点1分くらいで画家の視点を追体験することができました。ここだけ撮影可能となっていました。

まずはこんな感じでボナールの作品の映像が映されます。
20180928 205616
そのうちの1枚にフォーカスされていくローテーションとなっています。

こちらは現実の風景。
20180928 205637
部屋中に映像が広がっていきます。

段々とボナールの絵のようになっていきます。
20180928 205700
これは中々凄い技術で驚き。

こちらも同様に実写の光景
20180928 205834
ボナールはこういう風景を観ていたんですね。

こちらも絵画へと変わっていきました。
20180928 205904
もっと観ていたかったですが閉館時間となってしまいました。


ということで、ボナールの作品を心ゆくまで堪能することができました。かなり満足したので図録も買ってきました。この秋は展覧会のラインナップが非常に充実していますが、この展示も最高峰の1つではないかと思います。特に西洋画がお好きな方にオススメの展示です。

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