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ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ 【パナソニック 汐留ミュージアム】

前回ご紹介した展示を観る前に汐留にあるパナソニック 汐留ミュージアムで「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」を観てきました。

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【展覧名】
 開館15周年特別展 ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/18/180929/

【会場】パナソニック 汐留ミュージアム
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2018年9月29日(土)~12月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間20分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんがいて賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は非常に厚い画面が個性的なジョルジュ・ルオーに関する展示で、特にキリスト教の主題を集めた内容となっています。このパナソニック 汐留ミュージアムはルオーのコレクションを持っていることもあって、ちょくちょくルオーの展示が開催されますが、今回は聖なる芸術の意味とその現代性(モデルニテ)を問うということで、ヴァチカン美術館を始めとした国内外90点もの宗教画が集まっていました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、ルオーの画業全体については今回の展示では特に紹介されていませんでしたので、以前の記事などを参照して頂ければと思います。

 参考記事:
  パリ・ルオー財団特別企画展 I LOVE CIRCUS (パナソニック 汐留ミュージアム)
  ジョルジュ・ルオー 名画の謎 展 (パナソニック 汐留ミュージアム)
  ルオーと風景 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)
  ユビュ 知られざるルオーの素顔 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)


<冒頭>
まず冒頭に白黒映画のダイジェストを流していました。これはルオーの友人で画家でもあった。モーリス・モレル神父が監修した映画で、ルオーの「ミセレーレ」について紹介するものでした。ミセレーレについては1章で取り上げています。


<第1章 ミセレーレ-甦ったイコン>
1章は41歳の1912年から15年を費やして作った版画集「ミセレーレ」についてのコーナーです。こちらは父の死がきっかけとなり第一次世界大戦の際に構想が深まった銅版画のシリーズで、慈悲と戦争をテーマにしています。1927年には58点がほぼ完成していたようですが1948年になって出版されたようで、ルオーのライフワーク的な作品と言えそうです。ここにはその中の作品や制作にまつわる関連作品などが並んでいました。

9 ジョルジュ・ルオー 「『ミセレーレ』33 そして柔らかな麻布を持ったヴェロニカは、今なお道を行く…」
こちらは目を閉じたキリストの顔が麻布に写った聖顔布(ゴルゴダの丘に向かうキリストの汗を聖女ヴェロニカが拭ったところ、顔が布に写ったという奇跡)を表した作品です。頭の茨の冠まで写っていて痛々しいですが、太くて濃い輪郭が力強い印象となっています。ルオー独特の荘厳さも感じるかな。この版画集にはルオーらしさが詰まっています。

16 ジョルジュ・ルオー 「『ミセレーレ』の本扉のための構想画(両面)」
こちらは水彩のようなミセレーレの構想の為の作品で、両面に絵があって両方とも観られるように展示されていました。表面は十字架の立ち並ぶ丘と、その上に浮かぶ骸骨のような人の顔が描かれています。裏面はそれを白黒にして丘ではなく十字の立ち並ぶ墓のような感じかな。構図自体はよく似ていて、構想の推敲が伺えるようでした。

この辺には銅版も3点ありました。

19 ジョルジュ・ルオー 「青い鳥は目を潰せばもっとよく歌うだろう」、通称「青い鳥」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは目を閉じて首を傾けて歌っているいる女性を描いた作品です。穏やかな顔で笑顔に見えるかな。油彩で顔や体は白っぽい色合いになっていて可憐な印象を受けます。解説によると、苦難の中でも愛溢れる存在でいられる人間の姿だそうで、清らかな雰囲気もありました。そう言われてみればタイトルがちょっと怖いですね…。 なお、この作品はミセレーレに組み込まれる予定だったようですが、未採用となったのだとか。

この辺には未採用になった作品や 試し摺りに着色した作品などもありました。

25 ジョルジュ・ルオー 「磔刑」
こちらはミセレーレを元に描いた磔刑のキリスト像です。磔刑の場面なのに真正面を向いていて顔は力強く感じられ、背景の太陽を始めオレンジ色が多く占める画面には生命力が感じられます。周りにはマグダラなマリアや聖母マリア、弟子の聖ヨハネなどの姿もありますが、キリストが特に目を引きました。ステンドグラスの為に描いたらしく、輝くような印象を受ける作品でした。


<第2章 聖顔と聖なる人物-物言わぬサバルタン>
続いては聖顔をテーマにしたコーナーです。聖顔の主題は1904年頃に登場し、1930年代に確固とした図像を確立して最晩年まで描かれたようで、モチーフは聖女ヴェロニカの聖顔布やトリノの聖骸布の顔写真に影響を受けたようです。また、章のサブタイトルの「サバルタン」とは従属的地位にある被抑圧者のことだそうで、鞭打たれ辱めを受けたキリストはサバルタンと重なるとのことで、キリスト以外の受難の聖人たちを主題にした作品もありました。

28 ジョルジュ・ルオー 「聖顔」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは大きな目を開いたキリストの顔で、顔全体は縦長で茨はほぼ無く、頭から黄色い光が出ています。こうした特徴は1930年代の聖顔の典型的作風だそうで、輪郭の黒の強さで一際キリストの顔に目が行き、特に眼に力を感じました。また、キリストの周りには幾重にも枠が囲うような構図となっていて、荘厳な雰囲気もあるように思えました。

32 ジョルジュ・ルオー 「聖顔」
こちらは1940年代の典型的な聖顔の様式だそうで、縦長の卵型の頭に目は大きなアーモンド型、鼻筋は非常に長くなっています。画面に占める顔の割合が大きくなっているのも先程の作品との違いに見えるかな。顔の周りは緑色の落ち着いた雰囲気となっていて、キリストは話しかけてくるようにじっと見つめる目が印象的でした。

この辺にはトリノの聖骸布に関する本もありました。ルオーはトリノの聖骸布の論文を描いた生物学者と知り合いだったそうで、大きな関心を持っていたようです。ここにあった聖骸布の写真を観ると、確かにルオーの聖顔の顔に似た輪郭となっていました。

37 ジョルジュ・ルオー 「キリスト」
こちらはミセレーレの「イエスは辱められ」を油彩にした作品で、横向きで俯いて祈っている様子が描かれています。青と緑の混ざった空には四角い朱色の雲が浮かんでいて不思議な光景です。この雲はキリストの受難を象徴しているのだとか。静かで深い精神性をたたえた雰囲気となっていました。
↓以前のポスターのこれです。
P1020054.jpg
余談ですが、この雲を観ると萬鉄五郎がルオーから影響を受けているのを思い出しますw
 参考記事:岩手県立美術館の案内 (番外編 岩手)

40 ジョルジュ・ルオー 「我らがジャンヌ」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは馬に乗ったジャンヌ・ダルクを描いたもので、点を見上げて旗を掲げる姿となっています。背後の空には月のようなものが浮かび、明るく光っています。馬の足元の背景には赤く燃える屋敷のようなものがあり、これはジャンヌ・ダルクの火刑かキリストの受難を暗示しているそうです。ルオーは1940年頃にこうしたジャンヌ・ダルクを描くようになったそうで、背景にはナチスの暗い影があったようです。抑圧者から国を救うジャンヌ・ダルクに世相を重ねたのかな? 色彩豊かで絵としても面白い作品でした。

39 ジョルジュ・ルオー 「ヴェロニカ」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは今回のポスターの作品で、先述の聖顔の奇跡の際に汗を拭った聖女です。面長の顔に大きな目で歯を出して微笑むような表情をしています。キリストに比べると色白となっていて、可憐な雰囲気かな。マチエールも比較的スッキリしていて、美しい顔で描かれていました。

この近くには1950年代の彫刻のように厚塗りされた作品もありました。


<第3章 パッション[受難]-受肉するマチエール>
続いての3章は版画集「受難」のコーナーで、「受難」は全24章からなる散文詩に色摺り銅版17点と木工版画82点を添えて画商のアンブロワーズ・ヴォラールによって1939年に出版されたシリーズです。この頃のルオーは版画と油彩を往復しながら新しいマチエールの追求に熱中し、乾いた絵の具を何度も削りとる方法から厚塗りへと変化していったそうで、晩年には分厚いマチエールになっていきます。ここには「受難」に関する作品などが並んでいました。

50 ジョルジュ・ルオー 「三本の十字架 (『受難』の木版画のための下絵)」
こちらは下絵で、ゴルゴダの丘に立つ3本の十字架と、その下に立つ2人の人物が描かれています。月光の中に立っているらしく、静かな雰囲気が漂っています。かなり小さくて細部はわかりづらいですが、ひと目でルオーと分かる筆致となっていました。

この辺には「受難」の本や油彩の下絵などもありました。

60 ジョルジュ・ルオー 「受難(エッケ・ホモ)」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらは俯いている半裸のキリストの上半身を描いたもので、アーチ状の窓から外を見ているような感じの構図になっています。目を閉じて瞑想しているようで、やや悲しそうな表情に見えます。かなり凹凸がある画面で、凹んでいる場所もありました。ルオーの画風の変遷も観られる作品です。


<特別セクション 聖なる空間の装飾>
こちらのコーナーだけ撮影可能となっていました。4点だけ展示されています。

4点はこんな感じです。
DSC04778.jpg
油彩2点、ステンドグラス1点、十字架1点となります。

この十字架は17世紀バロック様式だそうで、この像を気に入ってルオーが入手して像に着色して毎日祈りを捧げていたそうです。
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ルオーの死後に娘のイザベルによって清春芸術村のルオーに捧げた礼拝堂に寄贈されたのだとか。そう言えばこの十字架もステンドグラスも見覚えがありました。
 参考記事:清春芸術村の写真 後編 (山梨 北杜編)

ステンドグラスと、その原画と思われる油彩画
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2つを比べるとよく似ています。元々ルオーはステンドグラス職人の元で働いていたので、絵画もステンドグラスのような太い輪郭があるのはそのせいなのかも。

もう1点も花束でした。
DSC04775.jpg
こちらも生命力と力強さを感じる筆致です。


<第4章 聖書の風景-未完のユートピア>
最後はユートピア的な風景のコーナーです。1930年代(60歳頃)以降、ルオーの風景画は実在する風景と関連性が希薄になったそうで、宗教的な風景に変わっていったようです。そうした聖書から選んだ場面は「降誕」「エジプトへの逃避」「子供たちを我もとに来させよ」「マルタとマリアの家のキリスト」の4つが多いようで、ここにはそれを思わせるユートピア的作品が並んでいました。

71 ジョルジュ・ルオー 「古びた町外れにて または 台所」
こちらは台所に座るキリストと、その隣でキリストの話を聞くマリアを描いた作品です。これはマルタとマリアの家の話をテーマにしていて、マルタがちっとも働かないとマリアを咎めるも、キリストはマリアは良い方を選んだと言う話です(キリストの話が最も大切というエピソードです) しかしここでは何故か2人は顔を合わせず、画面の左端の方にいて台所が主役のように見えました。また、輪郭線は細めでキリストもスラッとした印象を受けるなど、ちょっと不思議な作品でした。

73 ジョルジュ・ルオー 「ステラ・ウェスぺルティーナ(夕の星)」
こちらは夜空と大きなアーチ状の窓を背景に揺りかごで寝ている赤ちゃんと、それにそっと手を近づけるキリストを描いた作品です。これは「子供たちを我もとに来させよ」をテーマにしているようで、第二次世界大戦以降に子供たちを見守るキリストを描くようになったようです。表情は細かく描いていませんが、落ち着いた雰囲気で慈愛に満ちた作品となっていました。

81 ジョルジュ・ルオー 「秋 または ナザレット」 ★こちらで観られます(PDF)
こちらはキリストが幼少期を過ごしたナザレの地を描いたそうで、木々が立ち並び奥へと続く道や、ドーム状の屋根の建物が並ぶ様子が描かれています。空にはオレンジ色の太陽があり、全体的に暖色系の温かみのある画面となっていて、安らぎを感じます。木々の下では2組の母子らしき姿やキリストらしい姿もあり、まさにユートピア的な平和な光景となっていました。

77 ジョルジュ・ルオー 「エジプトへの逃避」
こちらは馬に乗る白い服の人と、後ろに立つ赤い服の人が描かれた作品です。その2人は何となく分かるのですが、めちゃくちゃ厚塗りで細部などはよく分からない程です。太陽の周りは彫ってあるような凹凸で、全体的に黄色~赤の色調となっているのと共に生命力が感じられました。

この近くの「キリスト教的夜景」もポンピドゥー所蔵の見応えのある作品でした。また、ルオーコレクションの部屋では聖書以外のテーマの作品も並んでいて新所蔵品などもありました。


ということで、ルオーの信心深さを感じさせる作品が並んでいました。重厚な作風が宗教画によく合っていて、慈愛から哀しみまで様々なテーマを見事に描いています。解説などは少なめで聖書の話を理解していないと分からない部分もあると思いますが、西洋画好きの方には面白い内容だと思います。

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