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民家の画家 向井潤吉 人物交流記 【世田谷美術館】

前回ご紹介した世田谷美術館の常設を観る前に、特別展の「民家の画家 向井潤吉 人物交流記」を観てきました。

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【展覧名】
 民家の画家 向井潤吉 人物交流記

【公式サイト】
 https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00190

【会場】世田谷美術館
【最寄】用賀駅

【会期】2018年9月8日(土)~11月4日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は向井潤吉という日本の草屋根の民家を40年に渡って描き続けた画家と、その交友関係に関する内容となっています。世田谷美術館は向井潤吉アトリエ館という分館もあるくらい推している地元ゆかりの画家ですが、一般的にはそれほど知られていないのではないかと思います。今回の展示では初期の作品から代表的なモチーフである草屋根に至るまで幅広い品があり、向井潤吉について多面的に紹介していました。展示構成は4つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考リンク:世田谷美術館分館 向井潤吉アトリエ館

<冒頭>
まずは冒頭に代表的なモチーフである民家の作品がハイライト的に展示されていました。

82 向井潤吉 「六月の田園(岩手県岩手郡滝沢村)」
DSC05261.jpg
こちらは記念撮影場所で撮ったコピーです。実物は濃密な色彩としっかりした描写で岩手の農家を描いています。繊細な濃淡や素早い筆致も観られ、写実的なだけでなく叙情性を高めるような表現になっているように思います。明るく澄んだ雰囲気が初夏の爽やかさを感じさせました。


<I.1901-1936「出生から渡欧まで」>
1章は出生からヨーロッパへ留学した頃までのコーナーです。向井潤吉は1901年に宮大工の家に生まれ、15歳で浅井忠が設立した関西美術院に入学しました。そこで徹底したデッサンを学び、1919年には初の二科展で入選しています。その後、一時上京して川端画学校で学び、大阪の高島屋呉服店で図案制作の仕事に就きつつ絵画の勉強を続けて渡欧を目指してたようです。そして1927年にシベリア鉄道でパリへ向かい、午前中はルーヴル美術館で模写、午後は画塾で裸婦のクロッキーに励むという日々を送っていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

10 向井潤吉 「自画像」 ★こちらで観られます
こちらは二科展で初入選した頃の自画像で、18歳くらいの若い姿でこちらに視線を向けています。重厚な厚塗りでざらついたマチエールでぼこぼこして観えるかな。背景のムラとか既に素人ではなくプロの仕上がりに観えます。結構素朴な青年といった感じの自画像でした。

この辺は初期の人物像が並んでいました。

1 浅井忠 「藁屋根」
こちらは関西美術院の創設者で日本洋画の先駆者でもある浅井忠の作品で、藁葺き屋根の家を描いています。家から出てくる親子らしき農婦の姿もあり、牧歌的な光景です。写実的でありながら素早い線で描かれている所もあって、向井潤吉は浅井忠に強く影響を受けていたのが感じられました。題材も含めて向井潤吉のルーツが分かるような作品です。

この辺には安井曾太郎の裸婦や、恩師格の黒田重太郎、須田国太郎などの作品もありました。当時の二科展に入選した作品もあります。特に都鳥英喜の「諸寄村」という作品が色彩豊かで素晴らしかったです。

34 向井潤吉 「模写/老人の頭(デューラーの模写)」 ★こちらで観られます
こちらは細密で写真のような写実性のある赤い頭巾のようなものを被った老人の肖像です。観た瞬間にデューラーの模写だと分かるような完コピぶりで、質感まで似ています。微妙な反射による顔のテカリや、丹念に描かれた髭などに確かなデッサン力と観察眼が伺えました。

22 向井潤吉 「模写/泉(アングルの模写)」
こちらはアングルの有名作の模写で、本物に比べるとやや影が強いようにも思えますが見事な出来栄えです。等身大の大きさで見栄えもするので、会場でも特に目を引く作品でした。なお、向井潤吉は帰国後も生活はギリギリだったようで、こうした模写を売って生計を立てていた時期もあるようです。

この他にもルーベンス、ルノワール、コロー、ミレー、ドーミエなどの模写もありました。ちょっと向井潤吉のテイストが出ているのもありますが、概ね精巧な模写となっていました。一方で、物凄く荒いタッチで描いたオリジナル作品の「街の力士」などは、モンティセリのようなちょっとやり過ぎな位の描写となっていて驚きました。

1章の最後の辺りにはシベリア鉄道の下関~モスコー(モスクワ)の切符などもありました。(しかも一番切符w)  


<II.1937-1959「戦争の時代、そして民家との出会い」>
続けて戦中・戦後の時代のコーナーです。パリから帰国した頃には日本は戦争に向かいつつあり、1937年に日中戦争が勃発すると向井潤吉は従軍を志願して中国東北部へと赴きました。その後、軍の嘱託で中国・フィリピン・ビルマで作戦記録画の制作に従事し、何と悪名高いインパール作戦にも従軍して極限的な状況も体験したようです。
終戦間際になると、自邸の防空壕に持ち込んだ蔵書の中から『民家図集』を手に取り、戦災で失われる家々を描き残したいと考えたようで、終戦直後の1945年には長女の疎開先だった新潟県北魚沼郡川口村で「雨」を描き、それ以降 全国各地の民家を描き始めるようになったようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

56 古家新 「日の出」
こちらは一時解散していた二科展に代わって向井潤吉らが終戦後に結成した行動美術協会の創立メンバーの作品です。海から観る山越しに昇る日の出を描いていて、非常に厚塗りで強い色彩となっています。特に海面の光の反射は3mmくらい盛り上がってるんじゃないかなw シンプルな構図ですが、ダイナミックな筆使いと対比的な色彩で力強さを感じました。

この辺は終戦当時の仲間の作品もありました。

39 向井潤吉 「影(中国・蘇州上空にて)」
こちらは運河が流れ、沢山の家が密集している中国の街を空から見下ろす構図で描いた作品です。街には巨大な飛行機の機影が落ちていて、構図の大胆さと影の異常なまでの大きさに圧倒されます。ちょっと時代の不穏さも感じますが、絵としては面白い作品でした。

この辺には炭鉱で働く人の作品などもあって時代を感じます。

43 向井潤吉 「ロクタク湖白雨」
こちらは山と湖の周辺を見渡すような構図の作品で、左半分に雲から凄い勢いで雨が降っている様子、右半分は無数の戦闘機が戦い 黒煙を上げて落ちてくる飛行機の姿もあり、手前には兵士の進軍も描かれています。美しい風景であるのに、激しい戦闘が行われていて対比的な恐ろしさを感じます。この戦いはインパール作戦の一部みたいなので、実際は地獄だったでしょうね…。

この辺にはインパール作戦の資料もありました。無能の極みとも言える牟田口廉也の根性論で補給を疎かにし無駄に犠牲を強いた最悪の作戦です。

44 向井潤吉 「雨(新潟県北魚沼郡川口村)」
こちらが民家を描くきっかけとなった作品のようで、雨降る民家の間の道を描いています。傘をさしていたり箕を被っている人の姿などもあり、雨の情景が漂います。民家は普通の屋根ですが、洗濯物を干していたり生活感があって当時の様子が伝わってきました。さらっと描いているけど情感豊かな作品です。

47 向井潤吉 「漂人」 ★こちらで観られます
こちらはチューリップ帽みたいなのを被った浮浪者風の男性を描いたもので、復員してきた人かな?? 怪訝そうにこちらを伺っていて、全体的に茶色く薄汚れてかなり貧しそうです。不安な世の中の情勢も表れているように思えました。

この近くには たいめいけんのシェフを描いた作品などもありました。また、寂しく貧しい村を描いた作品などもありました。


<III.1960-1989「民家遍旅」>
続いては高度成長期の頃のコーナーです。向井潤吉は1961年に不審火でアトリエと応接間を消失したようで、多くの資料や作品を失っているようです。それでも9日後には活動を再開し、精力的に取材を続けました(この辺のガッツは戦争帰りだけあります) この時代の日本は高度成長によって各地の風景が失われて行った頃で、向井潤吉は失われる前に描こうと焦燥感を持って全国各地に赴いていたようです。ここには代名詞的な民家の作品が並んでいました。

64 向井潤吉 「山間草炎」
こちらは山の斜面に藁葺き屋根の家が連なる様子が描かれた作品です。曲がりくねった坂道沿いの家の配置がリズムカルに思え、強い色彩で精密なデッサンとなっています。山形の雪に耐えるための独特の家の形も面白く、風土を感じさせました。向井潤吉の民家の絵はそれぞれの地方の特性もつぶさに描かれているのが素晴らしい点ではないかと思います。屋根の形などに特徴がよく表れているように思いました。
 参考記事:
  川崎市立日本民家園の写真 (2017年05月)
  二川幸夫・建築写真の原点 日本の民家一九五五年 (パナソニック 汐留ミュージアム)

76 向井潤吉 「岳麓好日」
こちらは手前に枯れた木が並び、奥に3軒の民家が並ぶ様子が描かれています。背景には雪の積もった山が連なり、青空とのコントラストが爽やかな雰囲気となっています。雲が間近で低い位置で早く動いている様子もしっかり描かれていて、山の天気もしっかりと観察しているのが伺えました。家だけでなく自然もじっくり観察しているようで、家と自然が1つの光景として一体化したような感じで描かれているのも魅力です。

この辺は風情ある民家の絵ばかりでかなりテンションがあがりましたw 元々私は民家好きなのでここで一気に満足度が上がった感じですw

61 向井潤吉 「トレド新春」
こちらはスペインのトレドの街角を描いた縦長の作品で、坂道に立つ石造りの建物を見上げるような感じとなっています。中央には木があり、その下で3人の女性が集まって何か話しているのかな? ざらついた質感で厚塗りされていて、空の色は日本より濃くなっています。日本との風土の違いも見事に表現している一方、どこか郷愁を誘うような雰囲気は変わらず、温かみも感じられました。

続いては向井潤吉の本と雑誌の仕事のコーナーでした。

153 向井潤吉 「『悪名』挿絵原画 第63回/東京新聞連載小説」
こちらは『悪名』という連載の挿絵で、居酒屋が並ぶ繁華街の真ん中で店前に立つ着物の女性が描かれています。簡素ながら細かいタッチで写実的に描かれていて、墨で陰影も付けられて明暗を感じました。やはりデッサン力の高さがこうした仕事で活きているのではないかと思います。

挿絵は結構な数があったのですが、火事を出してからはあまりこうした仕事は行わなくなったのだとか。本なども展示されています。また、他にも木版なんかもあるのですが、何を作っても一流ですw 優れた描写力と色彩感覚に裏打ちされているのを感じます。


<IV.世田谷の地で巡り合った人々>
最後は世田谷の地で巡り合った芸術家との交流のコーナーです。ここには様々な芸術家の作品が並んでいました。

103 白と黒の会 「白と黒の会(寄せ書き)」
こちらは総勢20数名と言われる世田谷の白と黒の会という交流会の寄せ書きです。洋画家、彫刻家、日本画家、文学家などが集まっていたそうで、寄せ絵や寄せ書きをみんな好き放題描いていてちょっとカオスw 難波田龍起の名前とかあったりして、結構ビッグネームも名を連ねていたようです。 芸術作品という感じではないですが、和気あいあいとした会合だったのが伺えるような寄せ書きでした。

この辺りには牛島憲之、舟越保武などの作品もあって、思った以上に有名作家との交流があったようでした。

98 向井潤吉 「遅れる春の丘より」
こちらは3章の内容ですが、最後の部屋にありました。大型作品で藁葺き屋根の家を描いていて、手前には枯れ木とススキが生え、薄っすらとピンク色の紅梅らしき木も見えるかな。奥には山々があり、遠くの山は白く雪が積もっていてまだ早春といった所でしょうか。家には赤い洗濯物が干してあって、一際目を引くアクセントとなっていました。日本の原風景を思わせる美しい光景です。


ということで、建物好きの私には非常に刺さる内容だったので図録も買いました。向井潤吉について興味が深まったので、いずれ世田谷美術館分館向井潤吉アトリエ館にも足を運んでみたくなりました。画風自体も写実的かつ叙情的なので幅広い層が楽しめるのではないかと思います。今期は豪華な展示が多いですが、この展示も負けないくらいの満足度でした。
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