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横山華山 (感想後編)【東京ステーションギャラリー】

前回に引き続き東京ステーションギャラリーの「横山華山」についてです。前編は初期作品や人物・花鳥についてでしたが、今日は真骨頂の風俗画などについてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

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【展覧名】
 横山華山

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201809_kazan.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2018年9月22日(土)~11月11日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
上階に比べると下階のほうが空いていたかな。とは言え、祇園祭礼図巻などは結構人だかりが出来ていました。


<風俗 -人々の共感->
この章は横山華山の真価とも言える風俗画のコーナーです。特に祭礼図ではやすらい祭や賀茂競馬など数多くの大作を残しているそうで、その才能は弟子の小澤華嶽や河辺華挙といった絵師にも引き継がれたようです。ここには弟子の作品も含めて当時の様子が伝わる作品が並んでいました。
 
92 横山華山 「夕顔棚納涼図」 ★こちらで観られます
こちらは外にゴザを敷いてうつ伏せで寝転び、上にある夕顔の花を見上げている ふんどし姿の男と、その隣の上半身裸で団扇を持つ女性を描いた作品です。いずれも楽しそうな顔で夕顔を眺めていて、涼しげな様子です。傍らにはクワが立て掛けてあって農作業の後の夕涼みではないかと思われます。解説によると夕顔の花や実は輪郭線を用いず付立と呼ばれる筆で濃淡をつけているそうで、柔らかな表現は私淑した呉春からの影響が観られるようです。軽やかでささやかな幸せを感じる作品でした。

この隣には「天明火災絵巻」という火事を描いた作品があり、打って変わって迫力を感じるリアリティがありました。また、同様に弟子の小澤華嶽による「本願寺火災図」も展示されています。
この辺で下階に移動です。

93 横山華山 「百鬼夜行図」
こちらは ろくろ首、牛の顔の妖怪、車輪の化物、幽霊 などなど沢山の妖怪が酒盛りしている様子を描いた作品です。戯画的なゆるさがあってユーモアたっぷりに描かれていて、またこれまでと違った画風に思えます。横山華山の風俗画は妖怪であっても感情豊かに見えるのが魅力じゃないかな。この辺から一気に面白い作品が増えてきた感じがしますw

88 横山華山 「紅花屏風」 ★こちらで観られます
こちらは先日の「美の巨人たち」で紹介された作品ですが、既に展示は終了しています。六曲一双の屏風で、右隻には紅花の種まき~収穫~紅餅を作る一連の作業の様子が描かれています。一方の左隻には紅餅を作る様子から桶に詰めて輸送する様子などが描かれているのですが、よく観ると右隻と左隻で紅餅の大きさが違ったりします。先日の美の巨人たちで観た内容によると、右隻の紅餅が人の頭くらいあるのは現在の埼玉の辺りの光景で、左隻の紅餅が小さいのは乾くのが遅い東北の光景のようで、実際に丹念な取材をして描いているのでこうした細かい違いも絵に表しているようです。 みんな総出で多くの人がいるのですが、全部で220人くらい描かれているそうで、楽しそうに和気あいあいとした雰囲気が漂います。遠くに霞む海があって船に荷物を乗せる様子など、紅花の生産から出荷まで明るく伸びやかな雰囲気で描かれていました。非常に面白い作品です。

118 小澤華嶽 「ちょうちょう踊図屏風」
こちらは弟子による作品で、赤い頬かむりをして踊る群像を描いています。唐傘や大根などに化けた人がいたり、釜やカタツムリなんかの格好をしていたりと、仮装のダンスパーティーの様相で、今で言えばハロウィンかコスプレ大会みたいなものでしょうかw 群像の動きには流れがあって、人のうねりとエネルギーを感じられました。これもダイナミックで楽しげな作品です。しかしこの踊りは徳川の時代が傾いていた頃に昼夜を問わず踊り狂っていたとのことで、ちょっと世紀末的なムーブメントなのかもw


<描かれた祇園祭 -《祇園祭礼図巻》の世界->
こちらは30mにも及ぶ「祇園祭礼図巻」のコーナーです。長いのに細やかに描かれていて、これを観るだけでも今回の展示を観た甲斐があったと思います。このコーナーには横山華山が以前はよく知られていたことを示すエピソードが紹介されていて、かつては富裕層に人気があったそうです(先程の紅花の絵なんかも大手の問屋からの依頼で描いたものです。) 明治期にはフェノロサやビゲローといった日本の美術にいち早く注目した外国人のコレクションに加わり、前回ご紹介した「桃錦雉・蕣花猫図」は明治天皇が所有するなど著名な人物が所有していたようです。さらに夏目漱石は『坊っちゃん』や『永日小品』に名前を出すほどだったらしいので、知識層には割と知られていたのだろうと思われます。それでも狩野派などの主流派に属さず、幅広い画域を持つ巧みな面や自由さが美術史の中で分類しづらかったことや、優品が海外に渡ったことで忘れられていったようです。しかし「見れば分かる」のキャッチコピーの通り、このコーナーを観ればその凄さがよく分かるようになっていました。

124 横山華山 「祇園祭礼図巻」 ★こちらで観られます
こちらは上下巻合わせて祇園祭の全貌を描いた作品で、横山華山の代表作です。稚児社参から始まり、八坂神社宵山の提灯などのシーンはモノクロで描かれ、その後に続く山鉾は色付きとなっていて、朱色が目に鮮やかな派手な山鉾が連なります。山鉾は全体ではなく上部だけトリミングしたような構図となっているのが大胆で、実際に目の前で観ている時の光景のような感じを受けます。また、人々の表情までしっかり描きこまれていて、それぞれに個性があるのが驚きです。数える気力も起きないほど沢山いるのに…w これだけ見事な観察ぶりなだけに、今や資料的な価値もあるというのも頷けます(幕末に多くの山鉾が焼失したのもこの図巻で観ることが出来るようです) 下巻は後祭や四条河原の納涼の様子や川床をしている様子、現在は無くなった「祇園ねりもの」という祇園の芸妓の仮装コンテストの様子まで描かれていました。この辺の祭りに付随する様々なイベントまでつぶさに描いているのには単に絵の巧さだけでなく取材や観察の凄さが伺えました。この作品だけでも横山華山の凄さが分かります

この先にあった「祇園祭礼図巻(祇園祭礼図巻下絵)」(★こちらで観られます)もかなり細かく文字を交えて状況を描いていました


<山水 -華山と旅する名所->
最後は山水画のコーナーです。題材は日本だけでなく中国の景色もあるようですが、富士山や天橋立などは現地を訪れて描いているようでそうした作品には現実感に富んだ表現が観られるようです。また、京都の町並みを俯瞰的に描いた「花洛一覧図」によって横山華山の名が世の中に知られたようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

84 横山華山 「雪景山水人物図」
こちらは雪の降り積もった湖畔の様子を描いたもので、湖の上に建った茶席のようなところで3人の人物が寛いでいます。一見すると雪は白く塗っているかのように観えますが、解説によるとこれは素地の白を活かして周りに墨で濃淡をつける「外隈」の技法のようで、円山応挙が得意としたこの技法を効果的に使っているようです。雪のモコモコした質感と相まって詩情豊かな光景となっていました。

69 横山華山 「花洛一覧図」
こちらが横山華山の名を知らしめた摺物で、京都を俯瞰した一覧図となっています。似たような作品が4枚ほど展示されていたのですが、これは人気になって版を重ねたためのようで、ちょっとずつ違って見えるかな。カラーで街の細かいところまで描いていて、東寺や二条城、京都御所(昔の)などの名所があり、今はなき方広寺の大仏殿なんかも描かれているようです。所々に地名の書き込みもあって、地図的な面白さもありました。

79 横山華山 「蘭亭曲水図屏風」
こちらは前期のみの展示で、王羲之が主催した蘭亭の曲水の宴の様子が描かれています。川遊びしている人や川辺で敷物を敷いてのんびり酒を飲む人、寝てたり詩を詠んでいたりと人それぞれです。蘭亭では机に向かって2人と談笑する人の姿もあって、実に伸び伸びとした光景です。 背景には金砂子みたいなものがあり、四条派風の画面にも観えるかな。こちらは実際に観た光景ではないですが、風俗画と同様の人の営みを感じられるリアリティがありました。


ということで、前半はそれほど驚かなかったのですが、後半に面白い作品が沢山あって楽しむことができました。画風がよく変わるので、この展示を観ただけでは横山華山の作品を観て判じることは出来ない気はしますが、今後も気になる存在にはなりそうです。忘れられた巨匠の実力が垣間見られる展示でした。

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