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エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し 【東京都庭園美術館】

10日ほど前の土曜日に東京都庭園美術館で「エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」を観てきました。

20181013 170524

【展覧名】
 エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し

【公式サイト】
 https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/181006-190114_exotic.html

【会場】東京都庭園美術館
【最寄】白金台駅・目黒駅

【会期】2018年10月6日(土)~ 2019年1月14日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、特に混んでいるわけではなく快適に鑑賞することができました。

さて、この展示はアール・デコの全盛期にデザインに大きな影響を与えた非ヨーロッパ圏の文化・美術についてで、それがどのようにフランスで再解釈されたかまでを観ることが出来る展示となっています。旧朝香宮邸としてアール・デコ様式で建てられた東京都庭園美術館が会場ということもあって その相性は抜群で、建物と一体化するような親和性となっています。私はデザインの中でもアール・デコが最も好きなので、詳しく展覧会の様子も書いて行きたい所ですが、今回は残念ながら作品リストが無かった為、あまりメモを取りませんでした。(作者と作品名までメモに書くのはしんどくて…w) 今回は各章ごとに簡単に雰囲気だけ書いて行こうと思います。


<SS1 モードのエキゾティシズム>
まずはファッションなどに関するコーナーです(それ以外のものもあります) ファッションデザイナーのポール・ポワレは東洋や中近東、北アフリカなどの服を着想源にしたドレスを作成したようで、単に模倣するだけではなく現代的に再構成することを試みていたようです。また、1922年に見つかったツタンカーメンの王墓はすぐにジュエリーのデザインに反映されたそうで、そうした作品もこの章に展示されていました。

最初に中国風の時計(ヴァン クリーフ&アーペル)やピエール=エミール・ルグランの大理石を使った「アフリカの椅子」(★こちらで観られます) などがあり、やや異国風ですがしっかりとアール・デコ風に仕上がっていました。特にアフリカの椅子は素朴さと先進性の両面が同居するようなデザインとなっていて好みでした。

その先の大客間にはポール・ポワレが自分の為に作った中国風のガウンやイスラム風のコート、当時のファッションの様子などが展示されています。また、この辺ではシガレットケースも面白く、東洋とアール・デコの融合ぶりが洗練された雰囲気となっていました。(★こちらで観られます

その先の大食堂ではポール・ポワレによるイスラム風のドレスがあったのですが、そのドレスの花柄のデザインはポール・ポワレの友人でもあったラウル・デュフィが手がけているようでした。この辺はデュフィの絵画とはまた違った魅力があるので注目です。他にもヴァン クリーフ&アーペルのエジプト風のジュエリーなども目を引きました。当時のエジプトへの関心がそのまま表れたようで、元々アール・デコと相性が良さそうなデザインに思えました。


<特集展示1 アール・デコ博覧会と旧朝香宮邸>
ここは1925年のアール・デコ博覧会がきっかけとなって朝香宮邸が建てられた経緯などを紹介していました。何度もこの辺は観ているので軽く流し見程度です。
 参考記事:
  建物公開 旧朝香宮邸物語 & 鹿島茂コレクション フランス絵本の世界 (東京都庭園美術館)
  アールデコの館 旧朝香宮邸編(東京都庭園美術館)


<SS2 装飾のエキゾティシズム>
続いては装飾のコーナーです。アール・デコの装飾美術には様々な輸入素材が使われたそうですが、特に漆の人気が高かったようです。スイス出身の工芸家ジャン・デュナンは元々は真鍮の工芸家でしたが、日本から来た菅原精造に出会って漆を学び、同時代の好みを反映した漆作品を作っていったようです。(菅原精造はアイリーン・グレイにも漆を教えながら彼女のスタジオで働いていたそうです)
 参考記事:映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(ネタバレあり)

まず2階に上がるとジャン・デュナンによる栗の木の装飾画が展示されています。これは色漆によって栗の木と風景が表されたもので、金地に単純化された画風が琳派的な雰囲気を出していました。金属感もあって非常に見栄えがして、素晴らしい作品です。日本美術もしっかりと再解釈されている様子が伺えました。

その次の部屋には東近美が所蔵するジャン・デュナンの黒漆に金の線と朱色の三角を配した壺がありました。この作品は日本的な色彩と素材でありながら近未来的なデザインのように見えます。これも卓越したセンスで見どころだと思います。
 参考記事:アール・デコ 光のエレガンス (パナソニック 汐留ミュージアム)

その後は横浜でフランス人の父と日本人の母の間で生まれたウジェニー・オキンの象牙作品が並んでいました。蓮の花を思わせる杯は薄手で可憐な雰囲気となっていて、造形だけでなく日本のモチーフにも通じていることが伺えました。
また、この辺りには菅原精造のコーナーもあり、女性の頭部の彫刻は縦長で滑らかなデフォルメとなっていて、黒漆を塗ってツヤを出すなど日本の伝統を使いながら新しい芸術に取り組んでいるのがよく分かります。これもかなりの傑作だと思いました。

その先の書斎は遠くから眺める感じですが、3羽のペンギンが描かれたロイヤルコペンハーゲンの皿と、ルネ・ラリックの金魚のガラス皿が展示されていました。ペンギンが列を組んでいるような絵柄は可愛らしいので必見ですw 

書斎の隣の殿下居間にはルネ・ラリックのスカラベや魚をモチーフにしたガラス器やカーマスコットなどがありました。この辺は結構見慣れていますが、ジャポニスムを始めとした異国趣味が漂うセレクションとなっているように思います。

少し先の北側ベランダには壺や杯などが並んでいて、日本のものとしか観えないような作品がありました。一方でジョルジュ・セレの壺は色が明るくエメラルドやオレンジといった日本にはない色彩感覚が面白く、モダンな作風となっていました。


<特集展示2 ジョセフィン・ベイカーとナンシー・キュナード>
こちらは1925年のアール・デコ博覧会の頃にパリで「黒いヴィーナス」と呼ばれ一世を風靡したジョセフィン・ベイカーと、黒人ジャズピアニストと結婚して差別と向き合ったナンシー・キュナードに関してのコーナーです。ベイカーはちょくちょくこの時代の展示で目にするので覚えておきたい人物です。

ここはそれほど点数は無かったのですが、ポール・コランによる黒人をモチーフにした大型ポスターや、ベイカーのダンスを誇張して描いた作品などもありました。特にベイカーのダンスは軽やかな雰囲気が出ていて絵としても面白いです。


<SS3 パリ国際植民地博覧会と植民地主義の表象>
続いては新館です。ここには1931年に行われたパリ国際植民地博覧会に関する作品が並んでいました。フランスはアール・デコ様式のパヴィリオンで、他は地域固有の様式を再現した建物となっていたようで、6ヶ月あまりで国内700万人、国外から100万人集まる盛況ぶりだったようです。この博覧会はフランスが未発達な植民地に平和・秩序・教育・産業をもたらしたとする啓蒙する目的があったようですが、アンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちは植民地支配に批判的で反対運動を起こしたようです。

ここにはパリ国際植民地博覧会のポスターがあり、インドシナ風・アラブ風・黒人・インディアンの4人が描かれ1日で世界1周というキャッチフレーズも付けられていました。ちょっと時代が違うとは言え、フランスの植民地支配は褒められたものではないので、今となっては黒歴史みたいな感じかな。しかし文化には着実に影響を与え合っていたのが伺えます。この近くにはルイ・ブーケの「ブラック・アフリカ」という今回の展示のポスターにもなっている作品があり、フランスの知的芸術の貢献を表すアポロンと現地の人々を描いていました。下絵ですが躍動感のある作品です。


<SS4 異境の再発見>
続いてはフランス国外に実際に赴いた人たちの作品のコーナーです。 この時代にはサハラ砂漠横断や、アフリカ大陸を縦断しインド洋のマダガスカルまで行った「黒いクルージング」レバノンと北京から2隊が出発してウルムチで合流した「黄色いクルージング」なども行われ、国外へ足を運ぶことができる時代となっていました。 また、アカデミーの美術家たちは植民地各地での滞在研修の機会が与えられるコンクールがあったそうで、西アフリカ・インドシナ、マダガスカル、モロッコ、チュニジア、赤道アフリカ、アルジェリアなどに派遣させたようです。ここにはそうした機会で現地で取材したコロニアルアートが並んでいました。

ここにはアフリカの生活や中東の墓地、サハラ砂漠の遊牧民、アンコールワットなど様々な地を描いた絵画が並んでいました。(★こちらで観られます) 作風も様々ですが、実際に見て描いているだけあってリアリティがあり、当時現地の様子がよく伝わってくる作品が多いかな。割と誇張しないで描いているように思えます。また、彫刻もあって、オウムやバイソン、現地の人など異国を強く感じさせる作品が並んでいました。

そしてここにはジャン・デュナンによる「森」という巨大な衝立があり、鹿や鳥、南方の植物などがデフォルメされて描かれていました。リズミカルな印象を受けると共に所々に金属的な光沢があるのが面白く、幻想的な光景となっています。この作品もかなりの見どころです。

<特集展示3 フランソワ・ポンポンと動物彫刻の流行>
最後は日本の工芸や古代エジプトのレリーフからインスピレーションを得ていたフランソワ・ポンポンの動物彫刻のコーナーです。フランソワ・ポンポンの代表作と言えるシロクマは大理石がキラキラ光っているのが雪のように見えて素材が活かされています。細めの体と顔で手足が大きく見えるのも優美な雰囲気で、まさに歴史的な傑作と言えると思います。他にもライオンやカバなどの石膏像、キジバト、大黒豹、フクロウなどのブロンズ像などもあり、特に歩いている黒豹はしなやかで美しいフォルムとなっていました。この黒豹はセネガル出身の議員のペットをモデルにしたそうですが、特徴をよく捉えていてかなり良かったです。


ということで、建物と共に当時の異国趣味のファッションや工芸を楽しむことが出来ました。それぞれの文化がどのようにアール・デコに反映されたかも分かると共に、作品自体が素晴らしいものが多かったように思います。デザイン好きの方にオススメの展示です。

おまけ:
今回の展示のミュージアムショップでフランソワ・ポンポンのシロクマの模型3600円を購入しました。
DpXrBjzVAAEHS0I.jpg
8200円の2周りくらい大きな模型のほうが造形のクオリティが高かったのですが、ちょっと手が出ませんでしたw それでも十分に満足です。

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