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カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家 【東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館】

前回ご紹介した展示を観る前に、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で「カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」を観てきました。

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【展覧名】
 日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
 カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家 

【公式サイト】
 https://www.sjnk-museum.org/program/current/5469.html

【会場】東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
【最寄】新宿駅

【会期】2018年9月22日(土)~12月24日(月・休)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構お客さんはいましたが自分のペースで鑑賞することができました。

さて、この展示はカール・ラーションというスウェーデンの国民的人気画家と、その妻のカーリン・ラーションを取り上げたもので、カールの絵と共に室内装飾の数々が並ぶ内容となっています。夫妻は画業もさることながら「リッラ・ヒュットネース」と呼ばれる家を入手して理想の家へ改装していき、その暮らしぶりを描いた画集が高く評価されているようです。展覧会はジャンルや年代で章分けされていましたので、気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第Ⅰ部カール・ラーション( 1953-1919)の画業>
まずはカール・ラーションの画業についてのコーナーです。カール・ラーションは首都ストックホルムの貧しい地区から王立美術学校に進み、留学先のフランスで明るい色彩を獲得したようです。結婚すると家族が重要なテーマとなったようで、油彩・水彩・版画で親密(アンティーム)な世界を作り上げていきました。やがてパリやブリュッセルなど各都市で認められ、スウェーデンでは公共建築の壁画に祖国の歴史や伝説を数多く描いていったようです。そして35歳の時に小さな家「リッラ・ヒュットネース」を譲り受け、理想の家へと改築・増築を行い、その成果を描いた水彩画を46歳から18年で4冊の画集にまとめました。この画集はドイツで翻訳されて「太陽の中の家」としてベストセラーとなったようです。ここにはまずは今回の展示のハイライト的な品と絵画が数点並んでいました。

5 カール・ラーション 「《 冬至の生贄》 のための男性モデル」
こちらはスウェーデン国立美術館の装飾壁画の為の習作で、未完の作品です。飢饉に苦しむ国民を救うため、スウェーデン王自ら生贄になるという古い英雄譚のようで、帽子をかぶった裸体の男性が緑の中を俯きながら歩いている様子が描かれています。全身に蔦のような入れ墨があり、足元のひょろ長い草花が足に巻き付くような感じにも見えるかな。筋骨逞しいものの、曲線が柔らかく明るい緑が爽やかな印象となっていました。

この近くにはアトリエの写真や椅子、イーゼルなども並んでました。また、服やクッションなどもあって、この辺は後でまた出てきます。


<第1章 絵画・前期>
続いては絵画のコーナーです。カール・ラーションは王立美術学校でアカデミックな教育を受けると共に、貧しい家族を支える為に新聞の挿絵を描く仕事をしていたようで、それが独自の絵画表現の基盤となっていきました。パリに留学していた時は印象派の画家たちが活動していたものの まだ古典が主流で、カール・ラーションも重い色調の油彩で歴史や神話を描いていたようですが、サロンの評価は得られず落胆と貧困に苦しんでいたようです。しかし29歳(1882年)に芸術家の集まるグレー=シュル=ロワンを訪れたのを契機に 明るい色彩と軽やかな水彩を獲得し始めたようで、印象派から戸外の光を表す色調を取り入れてパリのサロンでも高く評価されるようになったようです。ここにはそうした初期の作品などが並んでいました。

12 カール・ラーション 「水差しのある静物」
こちらは初期の静物画で、水差しの他に植木鉢や瓶などが描かれています。重厚な色彩でやや暗めに見え、明暗や反射などはきっちり描かれているなど絵は上手いけど面白さとしては普通といった感じでした。まだ苦しんでいた時期の作品でしょうね…。

17 カール・ラーション 「野イバラの花」
こちらは奥さんの誕生日にプレゼントした花を描いたもので、ピンク色の花で室内の花瓶に入っている様子となっています。かなり筆致が素早く一部は厚塗されているなど印象派的な作風となっていて、一気に色彩も軽やかになっていました。1892年の作品なので、グレー=シュル=ロワンに行ってから10年くらい後の画風のようでした。

この辺には色々な画風がありました。家族を題材にした作品などもあります。

21 カール・ラーション 「カーリンの命名日のお祝い」
こちらは奥さんのカーリンと同じ名前の守護聖人の祝日を祝っている様子が描かれた水彩画です。白い壁の広い部屋に白いローブに蓮のような葉っぱを巻き付けた衣装の娘が2人と、白いひげの男性が1人立っています。右の方には小さい子と母親らしき人物もいてベッドからそれを観ている感じです。この作品も水彩ということもあって軽やかで明るい色調となっていて、輪郭線も繊細で優美な印象を受けました。神話の女神ような格好と現実の部屋の取り合わせも面白い作品です。


<第1章 絵画・後期>
続いても絵画のコーナーです。1892年に自邸を背景に描いた油彩で明確な輪郭線と平坦な彩色による独特の様式を生み出したそうで、アール・ヌーヴォーやジャポニスムの影響、挿絵の経験などを活かした画風となったようです。当時のスウェーデンではナビ派的な絵画が注目されたそうですが、カール・ラーションは別の道を行ったとのことで、ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

28 カール・ラーション 「ポントゥスとエッチングプレス機」
こちらはプレス機の回転するバーに触って立っている少年を描いたテンペラ作品で、全体的に平坦で陰影が浅めの表現になっているように思えます。顔などには明確な輪郭があり、確かに浮世絵などを思わせる要素もあるかな。しかしどちらかと言うとナビ派の方が近いような…w 別の道を行ってるというけどナビ派に影響受けてたんじゃないかと思わせました。

25 カール・ラーション 「絵葉書を書くモデル」
こちらは赤いテーブルと椅子のセットに座って手紙を描く裸婦を描いた水彩作品です。輪郭がきっちりしていて色調は淡く明るい雰囲気となっています。それでもテーブルの赤とカーテンの緑が補色となっているので強く色を感じるかな。裸婦は笑顔を見せていて瑞々しい作品となっていました。


<第2章 挿絵の仕事>
続いては挿絵のコーナーです。前述の通りカール・ラーションは学生の頃から新聞の報道画や風刺画を制作する仕事に携わっていました。当時は挿絵は絵画より劣ると考えられていましたが、カール・ラーションは多くの人の目に触れられる挿絵に重要性を見出していたようです。ここではそうした挿絵の仕事が紹介されていました。

38 カール・ラーション 「『森のなかの城』 エコーの城」
こちらはシンゴアッラ物語という中世スウェーデンの騎士とジプシーの悲恋の物語の挿絵で、湖畔の城が描かれたモノクロの画面となっています。結構細かく描かれていて陰影や装飾性が見事です。中世の舞台らしい詩情豊かな雰囲気でファンタジックな画風となっていました。

この辺には実際の本も並んでいました。

40 カール・ラーション 「小川のほとりのエーランドとシンゴアッラ」
こちらは先程と同じシンゴアッラ物語の一場面で、騎士のシンゴアッラとジプシーの娘が池の近くで寄り添っている様子が描かれています。騎士は凛々しいイケメンな一方、女は黒髪で装身具をつけてミステリアスかつ妖艶な姿となっています。緻密な表現でラファエル前派の作品を観ているような雰囲気がありました。

この他にもこの物語の作品が何点かありました。それ以外の作品もいくつかあります。


<第3章 版画~家族の肖像>
続いては版画のコーナーです。カール・ラーションは1870年代半ば以降エッチングなど112点の銅版画と4点のカラーリトグラフを制作していたそうで、家族や友人など身近な人物をテーマにしたようです。1890年代半ばにはスウェーデンの主導的な版画家アクセル・タールベリに学び共同制作も行っていたようです。自画像や裸婦像など新しい方向も模索していたようで、ここにはそうした版画が並んでいました。

49 カール・ラーション 「ゆがんだ顔」
こちらは大きく目を開いて恐れ慄くような感じの顔を描いたエッチングです。全体的に煙のようなものが湧き上がってくるように見える細い線があり、それが一層に恐怖感を煽っているように思えます。カール・ラーションは不幸な幼少期を心の暗部に持っていたようで、人生への恐れを抱いていたのだとか。これまで観た爽やかな作風とはまた違った雰囲気の作品でした。

53 カール・ラーション 「聖ゲオルギウスとお姫様」
こちらは竜退治で有名な騎士 聖ゲオルギウスと お姫様の格好をした子供を描いたリトグラフです。背景は室内で、民芸品や壁画も描かれています。平坦で明るい色調となっていて、アール・ヌーヴォー的な印象を受けるかな。服装も装飾的で洒落た雰囲気がありました。

この辺には家族や子供の遊びを描いた版画がいくつかありました。

56 カール・ラーション 「朝食のプレートを持つマルティーナ」
こちらはメイドを描いた作品で、食器や料理が沢山載ったお盆を持ちながら こちらを観て微笑んでいる様子が描かれています。同じタイトルの油彩画の上半身部分が ベストセラーとなった「家庭料理の本」の表紙となっていたらしいので、人気作を版画にした感じでしょうか。明るく楽しそうな雰囲気で、洒落た生活の一端も観られるような作品でした。


<第4章 ラーションとジャポニスム>
続いては日本趣味との関連のコーナーです。ジャポニスムが流行するパリに留学して以来、カール・ラーションは日本的モチーフ、大胆な構図、広い余白、ぼかし、にじみ などの表現を取り入れていったようです。また、モチーフの一部を大胆に切り取り、手前を大きく描いて臨場感を出し、日常のありふれたものの中から意外性や面白さを発見するのも浮世絵から学んだようです。ここにはそうしたジャポニスムからの影響が観られる作品が並んでいました。

71 カール・ラーション 「アザレアの花」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの作品で、手前に花が大きく描かれ その後ろに振り返っている奥さんのカーリンが描かれています。輪郭が明確で大胆な構図は浮世絵からの影響と思われます。背景には機織り機や室内の庭木なども描かれていて、一家の理想的な家の様子も伺えるかな。軽やかで明るい色彩と相まって幸せそうな気配が漂う作品でした。

この近くにはカール・ラーションがコレクションしていた歌川広重が2点ありました。また、カール・ラーションと日本の繋がりについてのエピソードがあり、白樺派が当時カール・ラーションを日本に紹介していたようで、カール・ラーション自身もそれを知っていたという話を紹介していました。


<第Ⅱ章ラーション家の暮らしとリッラ・ヒュットネース>
最後は自宅である「リッラ・ヒュットネース」の装飾についてのコーナーです。この家は奥さんのカーリンの両親から譲り受けたそうで、当初は休暇ごとに増築・改築していたのが1901年になって移り住んだそうです。イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動が起こったのもこの頃で、ラーションも自分の家造りをスウェーデンのアーツ・アンド・クラフツと考えていたようです。

ここからは個別の作品でなくざっくりとご紹介していきますが、まずは絵付けした皿やカーリンが作ったテキスタイルなどのテーブルセットなどがありました。シンプルながらもセンスあふれる品ばかりで、この辺は今日の北欧デザイン全般に通じるものを感じます。ランプシェードが花びらの形をしているなど、絵だけでなく造形の面でも面白い品がありました。

その先には「私の家」の本がありました。これを観ると日本とイギリスのアーツ・アンド・クラフツから影響を受けているのが伺えます。部屋ごとに時代のスタイルが異なり、ロココ風の部屋など可愛らしい雰囲気なども紹介されていました。 この家造り・装飾品の数々はカーリンが大きな役割を果たしていたようで、自分で自分のウェディング・ドレスを作ってしまうなど かなり器用な人です(ストックホルムの工芸学校出身だったようです) さらにカーリンも王立美術学校で油彩を学んでいたそうで、ラーションにプロポーズのはグレー=シュル=ロワンだったのだとか。カーリンのスケッチや油彩なども展示していて、精緻な画風な一方で 花鳥を象ったデザインではデフォルメしているなど柔軟な画才を持っていたようです。

その先はカーリンのテキスタイルのコーナーで「テーブルク ロス、 家紋風の模様」という作品は日本の家紋をモチーフにしたようなデザインとなっていました。スウェーデンの伝統的な作品や色彩が大胆な作品もあってバラエティ豊かです。テキスタイルは10年くらい作っていたようで、かなりのセンスが伺えます。他にもクッション、カーテン、肘掛け椅子の布部分など様々なデザインがありました。帽子だって作っちゃいますw

展示のラストに「現代版リッラ・ヒュットネースの居間」という撮影コーナーがありました。
20181007153549.jpg
リッラ・ヒュットネースの居間をイメージしたイケアの家具ですw イケアはカール・ラーションの暮らしをルーツにしているのだとか。意外と身近なところに影響してたんですね。


ということで、カール・ラーションの絵画はコロコロ画風が変わるような感じがしましたが、室内装飾も含めて面白い展示となっていました。むしろ奥さんのカーリンのほうが才能あるんじゃないか?と思ってみたり。 スウェーデンの魅力的な室内装飾のルーツとも言えるアーティスト夫妻なので、北欧デザインに興味ある方はチェックしてみてください。
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