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ルーベンス展―バロックの誕生 (感想前編)【国立西洋美術館】

10日ほど前の日曜日に上野の国立西洋美術館で「ルーベンス展―バロックの誕生」を観てきました。非常に充実した内容でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

DSC06225.jpg

【展覧名】
 ルーベンス展―バロックの誕生

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/rubens2018/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018rubens.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
お客さんは多かったですが、思ったより混んでいる感じはなく概ね自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は現在のベルギーのアントウェルペン(アントワープ)を中心に活躍した17世紀の巨匠ルーベンスの大規模な個展となっています。ルーベンスは画家のみならず外交官や人文学者で活躍した人物で、当時から各所に大きな影響を与えました。今回は大型作品も多数来ていて、ルーベンスのルーツから晩年まで様々な作品を観ることができます。展覧会は時期やテーマによって7つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとにご紹介していこうと思います。なお、実際の章の順番と図録などの順序が異なっているようですが、この記事では観た順に書いていこうと思います。


<1章 ルーベンスの世界>
まずは肖像などのコーナーです。ペーテル・パウル・ルーベンスは1577年にドイツのシーゲンで生まれ、ケルンで幼少期を過ごしました。両親はアントウェルペン出身ですが、当時の宗教戦争でドイツに亡命していたようです。(カトリックとプロテスタントの宗教戦争という時代背景はルーベンスの画風にも大きく影響しています) やがて父が亡くなるとその2年後(ルーベンス11歳)の時にアントウェルペンの街に戻り、ラテン語の学校に通い貴族の小姓となっています。しかし画家を志すようになり、修行をして1598年には親方に登録されたようです。1600~1608年には中断を挟みながらイタリアに滞在し、現地の芸術を学んできたようで、その影響を受けた作品もこの展示で観ることができます。 イタリアから戻るとネーデルラント総督の宮廷画家を務めるようになり、宮廷から離れたアントウェルペンに住む特権を与えられるなど厚遇されていたようです。私生活においては2度の結婚によって8人の子供をもうけていて、家族の肖像を多く残しています。しかしこうした肖像は注文などではなく、自分の為に描いていたようです。 また、ルーベンスはインテリだったようで、幼い頃から人文主義的な教養を身に着けていて、ローマやパリの一流の学者と交流し議論を交わす程だったようです。後にその学識や人当たりの良さ、弁舌を買われて外交官の仕事も行うようになりました。ここにはそうした背景を持つ肖像画が並んでいました。

1 「自画像(ペーテル・パウル・ルーベンスの模写)」
こちらはルーベンスの自画像を模写した作者不明の作品です。黒い帽子を被ってこちらを観る姿で描かれ、知的で柔和な印象を受けるかな。ラファエロもそうですが、ルーベンスも人柄が絵に表れているように思えますw

2 ペーテル・パウル・ルーベンス 「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」 ★こちらで観られます
こちらは小さな肖像で自分のために描いた長女5歳の時の様子です。やや横向きですがほぼ正面を向いていて、顔は丹念に描かれていますが それ以外の部分は簡略化されたような筆致です。頬が赤く目が輝くようで、髪は1本1本まで丹念に描かれていました。生気と愛情を感じる名品だと思います。
 参考記事:リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 感想後編(国立新美術館)

この隣には仲の良かった兄の子ども達の絵などもありました。

5 ペーテル・パウル・ルーベンス 「カスパー・ショッペの肖像」
こちらは腰に手を当ててこちらを観る黒い髭の男性を描いた肖像で、これはドイツ人の学者でイタリアで交流した人物のようです。17世紀前半のイタリアでは語りかけるような効果を持つ 表情に富んだ肖像画が発展したらしく、この絵でもじっと視線を向けて話しかけて来るような顔をしています。また、恐らくサテンのような光沢のある服などを意外と大胆な筆で描いているのが驚きでした。やたら細かく描く訳でなく生き生きと描いているのがルーベンスの魅力なのかも

この近くにはティントレットによる肖像画もありました。この時代の典型的な肖像で、ルーベンスは影響を強く受けています。また、ヴェネツィアのティツィアーノやカラヴァッジョの影響も観られるのだとか。


<2章 過去の伝統>
続いては過去の芸術から学んでいたことに関するコーナーです。前述の通りルーベンスは1600年にイタリアへ旅立ち、中断を挟みながら1608年まで滞在しています。その際、古代・盛期ルネサンス・最先端の美術などを目の当たりにし、それを吸収していたようです。最初にヴェネツィアで宮廷画家となりヴェネツィア派など北イタリアの美術を身に着け、色彩や構図に決定的な影響を受けました。しかし2度のローマ滞在が最も重要だったようで、古代彫刻や素描によって人体像や感情表現を学び、ルネサンスのラファエロやミケランジェロ、同時代のカラヴァッジョやカラッチの絵も学んでいたようです。さらにイタリアから帰郷してからもイタリア美術を学び続けたようで、ローマの彫刻を引用した「セネカの死」や1622年にパリで古代のカメオを素描した作品なども残しています。さらに外交官として訪れたマドリードやロンドンでも宮廷コレクションのティツィアーノの模写を描くなど、熱心に学び続けたようです。ここにはそうしたルーツを感じさせる品々が並んでいました。
 参考記事:
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

10 ペーテル・パウル・ルーベンス 「ティベリウスのカメオ」
こちらはパリにいた時に古代ローマのカメオを写した素描で、これを描いた当時に発見され、世紀の大発見を広めようと考えて描いたようです。アウグストゥスなど沢山の人が描かれていて 女性や子供らしき姿もあるようです。恐ろしく細密な素描で、陰影も自然な感じで見事にあらわしていました。

この近くには古代カメオを元にした肖像などもありました。また、実際の古代ローマやヘレニズムのカメオなんかも展示されています。指先くらいの小ささです。

8 ペーテル・パウル・ルーベンス 「《ラオコーン群像》の模写素描」
こちらはルネサンス期に発見された「ラオコーン像」のスケッチです。蛇に締め付けられて苦悶の表情を浮かべる様子が描かれ、ポーズや筋肉が劇的な効果となっています。表情は硬いですが立体感があって、動きが感じられます。ちょっと横から観たような構図なので、何度も角度を変えて描いたのかな。ラオコーン像への並々ならぬ関心が伺えます。

この近くにはジャン・ロレンツォ・ベルニーニによる「ラオコーンの胸像」もありました。ルーベンスはヴァチカン宮に通ってラオコーンを素描したらしく、芸術の優れた点を全て有すると考えていたようです。

ちなみに、こちらの写真は同じ国立西洋美術館で行われたミケランジェロ展にあったヴィンチェンツォ・デ・ロッシによるラオコーン像の模作の写真です。
20180623 155125
ミケランジェロも絶賛してたし、この像の影響力は計り知れないですね。
 参考記事:ミケランジェロと理想の身体 感想後編(国立西洋美術館)

少し先には他の画家が描いたラファエロの模写にルーベンスが加筆した作品なんかもありました。ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチの素描や手稿などからも影響を受けているのだとか。本当に研究熱心です。

19 ペーテル・パウル・ルーベンス 「毛皮を着た若い女性像(ティツィアーノに基づく)」
こちらはティツィアーノの模写で、こちらを観て上半身裸で片方の乳房を顕にする女性が描かれています。それでも気品が溢れていて、肉付きが強調されて腕はやや太めに描かれているようです。こちらの作品でも語りかけてくるような目は健在かな。それにしてもティツィアーノの作品にしか見えない完コピぶりで驚きましたw 

近くには老人の頭を描いた作品などもありました。ルーベンスは当時流行っていた観相学にも親しんでいたようです。

25 ペーテル・パウル・ルーベンスと工房 「セネカの死」 ★こちらで観られます
こちらは皇帝ネロの家庭教師だった学者を描いた作品で、陰謀に加担したと疑われて自殺に追い込まれるシーンのようです。この絵ではタライのようなものの上で腕から血を流していて、腰布一枚で上を仰ぐような姿となっています。厳格そうな顔をした老人ですが、かなり筋肉質に見えるかな。何かを訴えるような眼差しで 英雄然とした雰囲気が感じられます。周りには4人の人物が囲んでいましたが、劇的な光によって中央のセネカに自然と目が行きました。見事な傑作です。


<3章 英雄としての聖人たち―宗教画とバロック>
続いては宗教画のコーナーです。ルーベンスの生きた時代は宗教改革の時代で、宗教画も様々な決まりや方針を設けて 分かりやすくリアルで信者の感情に訴えるものが求められるようになりました。(対抗宗教改革の一環です) ルーベンスもイタリア滞在中に注文を受けて宗教画を描いていて、最も重要なのは帰郷直前に描いたサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ聖堂の祭壇画だそうです。(流石にこの作品は持ってこれませんが、入口脇の映像ホールで現地の映像を観ることができます) 宗教画では前の2章で観たような理想的な身体像を男性の聖人に、気品溢れる婦人像を聖女に当てはめたそうで、ここにはそうして作られた大画面の宗教画が並んでいました。

33 ペーテル・パウル・ルーベンス 「キリスト哀悼」 ★こちらで観られます
こちらは十字架から降ろされて棺の上でぐったりしているキリストを描いた作品です。血の気がなく青白い体となっていますが、キリストに光が当たっているように見えます。周りには多くの弟子たちが囲み、天からは光が差し込んできていて、マリアが見上げています。このキリストが だらりとした姿は「ベルヴェデーレのトルソ」を参考にしているそうで、これもヴァチカンの広場に置いてあった古代の彫刻です。素描も残していたようで、古代研究の成果が表れているようでした。

36 ペーテル・パウル・ルーベンス 「死と罪に勝利するキリスト」
こちらは赤い衣をまとった上半身裸のキリストを描いた作品で、棺に腰掛けて骸骨と蛇を踏みつけています。月桂樹の冠と棕櫚の葉を持ち、生命力溢れる肉体で復活していて、天使がラッパで祝福しているなど 死を乗り越えたことを強く印象づけます。右下には地獄の業火が描かれているのですが、キリストには届かないなど、色々と意味ありげなモチーフも散りばめられていました。解説によると、この作品は後世の加筆が結構あるようで、オリジナルはどうだったのかは不明のようです。それでも信者に分かりやすく訴える力はあったのではないかと思わせる堂々たる作品でした。

40 ペーテル・パウル・ルーベンス 「聖アンデレの殉教」
こちらは冒頭の写真の今回のポスターにもなっている作品で、殉教した十二使徒の1人を描いた4mくらいある大画面となっています。ちょうど見上げるような等身大で、足元には処刑を命じたものの民衆の怒りによって中止させようとするローマ総督が馬に乗った姿で描かれていて、周りにいる2人の女性のうちの1人はキリスト教に改宗した総督の夫人だそうです。こちらも劇的でダイナミックな雰囲気で、近くで見ると結構大胆なタッチとなっているのが分かります。特に十字架に光がスポットライトのように差し込むのが目を引きました。

この部屋には他にも「法悦のマグダラのマリア」などの大型作品もありました。また、この先に上階に戻ると4章の前にルーベンスが後世に与えた影響を伝えるコーナーがあり、ルノワールが模写した作品(西洋美術館所蔵のやつ)なども展示されていました。


ということで、前半からかなり見どころの多い内容となっています。特に3章は作品の大きさにも圧倒されるので、是非実物を観ておきたい内容だと思います。後編もルーベンスの多彩な魅力を伝える内容となっていましたので、次回は残りの章についてご紹介していこうと思います。


 → 後編はこちら

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