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ルーベンス展―バロックの誕生 (感想後編)【国立西洋美術館】

前回に引き続き国立西洋美術館の「ルーベンス展―バロックの誕生」についてです。前編は1~3章についてでしたが、今日は後半の4~7章についてです。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC06310.jpg

【展覧名】
 ルーベンス展―バロックの誕生

【公式サイト】
 http://www.tbs.co.jp/rubens2018/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018rubens.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2018年10月16日(火)~2019年1月20日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
前回は、肖像、古代やルネサンスからの影響、宗教画と観てきましたが、後半は神話や寓意を取り扱った作品が中心となっていました。詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<4章 神話の力 1 ―ヘラクレスと男性ヌード>
<5章 神話の力 2 ―ヴィーナスと女性ヌード>
4章と5章は男女の違いで部屋を二分するような感じで展示されていました。いずれも神話を描いていて、ルーベンスが宗教画以上に想像力を発揮したジャンルです。まず男性像については、ローマのファルネーゼ家にあった「ファルネーゼのヘラクレス」に魅了され、造形を学び取って自分の作品に応用したそうです。何度も造形の秘密を解き明かそうとして描いていたようで、その点は前編のローマの品々と同じ感じかな。一方の女性像の理想はヴィーナス像に見出されたようで、ヴィーナスを描く際にも古代彫刻に範を撮ったようです。しかし晩年になると古代の理想美から離れて現実的かつ豊穣さを象徴するようなふくよかさを強調した女性を描くようになったのだとか。ここにはそうした男性・女性のヌードを描いた作品が並んでいました。

43 ペーテル・パウル・ルーベンスとフランス・スネイデルス 「ヘスペリデスの園で龍と闘うヘラクレス」
こちらはヘラクレスの12の功業のうちの1つを描いたもので、黄金の林檎を持ち帰る為にヘスペリデスの園を守る竜「ラドン」と戦っている様子となっています。竜は羽の生えた鱗のある姿で、これは動物・静物画を得意としたフランス・スネイデルスが描いたものです。ヘラクレスはその口に棍棒を押し込む感じで防いでいて、膝で首を踏みつけて戦っています。しかめた顔や姿勢などから力強さが感じられますが、めちゃめちゃマッチョという訳でもなく 割と人間っぽい筋肉の付き方で少し優美さも感じました。
ちなみに今回の展示ではあまり触れていませんでしたが、ルーベンスは自身が優れているだけでなく、他の画家との共同制作や工房の運営でも様々な成果を残しています。この作品でも得意ジャンルを活かした分担となっていました。
 参考記事:ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)

4章はルーベンス以外の絵もいくつかありました。

45 ペーテル・パウル・ルーベンス 「ヘスペリデスの園のヘラクレス」 ★こちらで観られます
こちらも先程と同じく林檎を持ち帰る話を題材にしたもので、先述のファルネーゼのヘラクレスを流用して描いた作品です。裸体で左手に棍棒を持ち、右手で枝から金の林檎をもぎ取ろうと視線を向けています。足元には竜が目を剥いて踏まれているので、戦いに勝利した後のようです。体に強い光が当たり逞しい体が浮き上がるようですが、割とずんぐりした感じに見えるかなw むしろ野性味があるように思えました。

47 ペーテル・パウル・ルーベンス 「スザンナと長老たち」 ★こちらで観られます
こちらは台に座って後ろを振り返る裸婦と、その背後に立って口の前に指を立てて覗き込んでいる老人(とその脇のもう1人の老人)を描いたものです。この話はダニエル書に出てくる話をモチーフにしたもので、美しいスザンナの水浴を覗いていた長老たちがスザンナに関係を迫り、従わないと男と密会していたと告発するぞと脅すシーンです。この作品では裸婦に強い光が当たっていて、これはカラヴァッジョに影響したのかも知れません。また、振り返るポーズについてはすぐ近くに展示されていた「棘を抜く少年」という古代彫刻とよく似ていて、参考にしているようでした。学んだものを自在に組み合わせてオリジナルの作品としている点はまさに温故知新ですね。艷やかな裸婦の裸体表現もさることながら めっちゃ嫌そうで怯えた顔も臨場感を高めていました。
ちなみに、この長老たちは裁判でスザンナを無実の罪に追い込んだのですが、ダニエルが長老2人を別々に尋問することを提案した結果、話の辻褄が合わずにバレて あえなく処刑されましたw ダニエルの知恵を象徴する話として西洋絵画によく出てきます。裸婦を描く口実にもなりますんでw

46 ペーテル・パウル・ルーベンス 「「噂」に耳を傾けるデイアネイラ」
これは45番のヘラクレスと対になるような感じで展示されていました。噂の擬人化である老婆の話を聴いているヘラクレスの妻のデイアネイラが描かれていて、噂によって浮気を疑うことを示しているようです。白い肌の裸体で耳に手を当て驚くような表情をしています。ふくよかさもありつつ理想的で優美な体つきとなっていて、ルーベンスらしさも感じました。 なお、この妻の嫉妬によって後にヘラクレスは命を落とすことになります。そのせいか やや不吉な雰囲気も漂う作品でした。


<6章 絵筆の熱狂>
続いてはルーベンスの表現についてのコーナーです。ルーベンスの芸術は同時代の美術理論書にしばしば「普遍的」という言葉と共に説明されているそうで、これは統一的で総合的という意味合いらしく、その秘訣は色彩と素早く熱狂的な筆使いにあったと考えられるようです。ルーベンスの筆使いは細部を省略して 逆に誇張を用いて画面に統一感のある激烈なビジョンを生み出すようで、それが想像を掻き立てるようです。これはティントレットやジュリオ・ロマーノらイタリアの画家から得たもので、やはりイタリアからの影響が出ていると言えそうです。さらにこうしたルーベンスの個性は次世代のイタリア画家に影響を与えたそうで、この章ではルーベンスの特徴がよく表れた戦いをテーマにした作品と共に 追随者の作品と比較しながら観られるようになっていました。

57 ペーテル・パウル・ルーベンスと工房 「ヘラクレスとネメアの獅子」
こちらはヘラクレス12の功業のうち最初のライオン退治を描いた作品で、左腕と左足でライオンの頭をガッチリ抑え込んでいる姿で描かれています。レスリングというかパンクラチオンみたいな感じの姿勢に見えるかな。ライオンも抵抗しつつ苦しげな顔をしていて、両者の力のぶつかり合いを目の当たりに出来ます。誇張されたヘラクレスの筋肉に光があたり、非常に逞しい雰囲気となっていました。なお、ヘラクレスはこの獅子を3日間締め上げて殺したそうです。って、こんな戦いが3日も持つのか?ってくらい緊迫感がありますがw

この近くにはジャン・ロレンツォ・ベルニーニの「獅子を引き裂くサムソン」というルーベンスを学んで描いた作品もありました。やはり迫力はルーベンスに軍配が上がると言えそうです。また、ルーベンスの初期作品ではないか?という「聖ゲオルギウスと龍」という作品もありました。若干画風が違って観えますが、初期ということなら分かりませんね…。

54 ペーテル・パウル・ルーベンス 「パエトンの墜落」 ★こちらで観られます
こちらはアポロンの息子のパエトンが、父に馬車を借りたものの 馬を制御できずに暴れまくる話が描かれています。足元には馬車によって焼かれる地上が描かれ、それを見かねたユピテルの雷槌が馬車を打ち、パエトンは馬車から落ちて地上に投げ出される瞬間が描かれています。黒い雲間から降り注ぐ強い光、仰向けで馬車から転落するパエトン、付き従う季節と時間の女神や馬などの混乱 といった1つの場面に色々詰め込んだ感じのダイナミックな画面です。この作品でも場所によっては大胆なタッチですが、それが動きを感じる表現となっていて全体的に劇的な印象を与えているように思えます。また、群像の並び方も光の差す方向に並んでいるのが流れのようなものを生んで、動きの効果を強めているように感じました。


<7章 寓意と寓意的説話>
最後は寓意についてのコーナーです。絵の中に様々な意味を込めた寓意画は、私のような素人には観ただけでは何のこっちゃ?といった感じですが、当時の画家や注文主は教養を共有していたので 描き込まれた象徴の意味を理解することができたそうです。こちらも追随者や工房外の助手の作品も含めてそうした寓意画が並んでいました。

61 ペーテル・パウル・ルーベンス 「マルスとレア・シルウィア」 ★こちらで観られます
DSC06228.jpg
こちらはタペストリーの下絵ですが大型の作品で以前に観た覚えがありました。↑は今回のポスターですが、この絵の一部分を切り出してる感じで、本来は横長です。この男性はマルスで、女性は火の巫女のシルウィアとなっていて、この女性に恋して手を差し出している様子となっています。シルウィアの驚くような表情が生き生きしていて、映画のワンシーンのような光景です。 また、翻るマントや 光が反射する甲冑、光沢のある女性の服などが一層に劇的な雰囲気を強めています。女性の背後に火が燃えていたり、足元にキューピットがいるのが前後の物語も表しているようでした。ちなみにこの2人は後に結ばれて、その双子の子がローマを建国したとされています。
 参考記事:リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 感想後編(国立新美術館)

この隣にはそっくり小さくしたような作品もありました。弟子への見本のようです。他に授乳をテーマにした「ヴィーナス、マルスとキューピッド」や「ローマの慈愛(キモンとペロ)」という作品もあり、特に後者は見事でした。

66 ペーテル・パウル・ルーベンス 「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターにもなっている作品で、アッティカの初代王ケクロプスの娘たちが、大地の女神ガイアの子のエリクトニオスを発見するシーンが描かれています。ミネルヴァが決して開けてはいけないと言って渡してきた籠を開けたらこの赤ちゃんがいたわけですが、蛇の尾が生えていて明らかに人間ではありませんねw 赤ちゃんの周りには3人の裸婦(娘たち)とプットー(キューピッド)と1人の老人の姿があり、裸婦達はいずれも血色の良い滑らかな肌で 強い光が当たっていました。また、3人のポーズ・向き・表情はそれぞれ異なっていて、それぞれ魅力的です。なお、この作品でも背後にパンの像があったりガイアを示す像があったり、プットーは別の話のメリクリウスの恋をほのめかしているそうで、様々な寓意がてんこ盛りになった作品のようでした。とは言え、詳しいことが分からなくても十分にルーベンスの凄さが伝わってくる傑作です。


ということで、後半はルーベンスの得意なヌードや戦いを描いた作品などがあって見応えがありました。ルーベンス展はちょくちょく開催されている気もしますが、これだけ充実しているのは滅多にないと思います。今期の上野はフェルメールとムンクが話題となっていますが、このルーベンス展も負けずに凄い展示ですので、西洋画が好きな方は3展制覇を狙ってみてください。
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