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マルセル・デュシャンと日本美術 【東京国立博物館 平成館】

今日は写真多めです。2週間ほど前の金曜日の会社帰りに、上野の東京国立博物館でフィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 フィラデルフィア美術館交流企画特別展
「マルセル・デュシャンと日本美術」

【公式サイト】
 http://www.duchamp2018.jp/
 https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1915

【会場】東京国立博物館 平成館
【最寄】上野駅

【会期】2018年10月2日(火) ~ 2018年12月9日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
お客さんは多かったですが、混んでいるというほどでもなく概ね自分のペースで鑑賞することができました。

さて、この展示は大報恩寺展と同時開催で平成館の展示室を2分して行われているもので、20世紀の美術に大きな衝撃を与え現代アートの世界を切り開いたとも言えるマルセル・デュシャンについてと、日本の伝統的な美術を比較するという一風変わった企画となっています。そもそも東博でマルセル・デュシャンというのも意外な感じなのでかなり攻めています。 とは言え、私はデュシャンこそが意味のよく分からん美術品が氾濫する元凶を作ったと思っているので、好きか?と聞かれたら好きではありませんw (私が好きではないだけで、世間的には現代アートへに非常に大きな影響を与えた人物として高い評価を受けています) 今回の記事はあまりモチベーションが上がらないので、詳細は省いてざっくりとご紹介していこうと思います。
 参考記事:
  京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ (東京国立博物館 平成館)
  フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線 (森美術館)


<第1部 マルセル・デュシャン没後50年記念 「デュシャン 人と作品」>
冒頭にデュシャンを一目で理解する作品がありました。

マルセル・デュシャン 「自転車の車輪」
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自転車の車輪を椅子にくっつけただけじゃん!と思うのが普通の反応だと思いますw いわゆる「レディメイド」という既成品を組み合わせて作る手法で、これを考え出したのがデュシャンです。しかもこれはオリジナル作品のレプリカです。芸術品の唯一性も否定したデュシャンらしい作品と言えるのではないかと思います。


[第1章 画家としてのデュシャン]
後にレディメイドなど自分で作品を作らないアーティストとなったデュシャンですが、25歳までは画家として活躍していました。ここには初期からキュビスム的な画風になるまでの作品が並んでいました。

マルセル・デュシャン 「ブランヴィルの庭と礼拝堂」
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まるで印象派のような作品ですが、実際にモネなどを学んでいたようです。明るく爽やかな雰囲気で後の時代が想像できないw

マルセル・デュシャン 「チェスゲーム」
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先程の作品から8年後の作品。結構、画風が変わってセザンヌなどに通じる画風に思えます。この頃既にチェスを題材している点に注目です。

マルセル・デュシャン 「ギュスターヴ・カンデルの母親の肖像」
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シュルレアリスム運動が始まるより前の時代の作品ですが、何だかシュールな雰囲気に思えます。画風がよく変わりますね。

マルセル・デュシャン 「ソナタ」
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キュビスムにのめり込んできた感じ。結構面白い絵なので、この方向で行けば良かったんじゃないかと思いますが…。

マルセル・デュシャン 「急速な裸体たちに囲まれるキングとクイーン」
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キュビスム要素強めでこれはこれで1つの到達点に思えます。タイトルがチェスっぽいのもデュシャンのチェスへの熱い想いが込められていそうw
こうしたキュビスムの時代(1912~13年頃)ですっかり絵への道を放棄してしまいました。しかし、この後がデュシャンの名を残した時期となります。


[第2章「芸術」でないような作品をつくることができようか]
こちらの章がデュシャンの代名詞的な作品の並ぶコーナーで、1912年から1917年までの作品が並びます。

マルセル・デュシャン 「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)東京版」
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オリジナルは1915年から23年の間取り組み未完のまま放置されたそうですが、これは複製版です。よく意味は分からないけど、エロティックな雰囲気があり実験的な作品と言えそう。この頃はまだオリジナルを造る気があったみたいw

マルセル・デュシャン 「チョコレート研磨器No.1 」
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こちらは1913年の油彩画。キュビスムぽさも残っているけど、だいぶスッキリした画風になっています。もうこの先には油彩は無いので、絵としては最後の辺りなのかも。

マルセル・デュシャン 「瓶乾燥機」
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これもレプリカですが、オリジナルもデパートで買ったレディメイドですw 本来の用途と違う使い方をすると別物と解釈できるというのは、頭では理解できるけど…w

マルセル・デュシャン 「1916年2月6日 日曜日のランデヴー」
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文法的には正しいけど不合理な文章となっているという手紙。詩人や暗号学者に影響を与えたってことですが、第一次世界大戦の最中だったのでスパイと思われるんじゃないだろうかw シュルレアリスムの先駆けみたいな感じですね。

マルセル・デュシャン 「泉」
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これもレプリカですが、これぞデュシャンの代表作!w R.MUTT(マット)というのはデュシャンの偽名です。 モダンアートのフォーラムの多様性を試す為にこれを出したのですが、展示禁止の評決をされました。まあ当然ですが、その結果 芸術とは何か?という論争を巻き起こしました。名前をつけて再解釈したから芸術 という理屈ですが、これを認めたら何でもありやん!って思うのは保守的なんでしょうか…。


[第3章 ローズ・セラヴィ]
1920年代あたりから芸術家ではなくチェスのプロとして活動していたそうで、20年ほどチェスをしていた時期があるようです。しかし一方でローズ・セラヴィという女性の名前の別人格を使って活動していたようで、ここにはそうした作品が並びます。ここは撮影禁止の作品が多かったかな。

マルセル・デュシャン 「『391』第12号」
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モナリザの複製に髭をはやして、「彼女は欲情している」という表題をつけたもの。これも挑戦的というか…w 芸術作品のもつ輝きに対する攻撃が、既成概念を破壊するダダの運動に示す好例となったようです。ショッキングなことをやってのけるデュシャンの影響力は半端じゃないです。

マルセル・デュシャン 「第3回フランス・チェス選手権(ニース、1925年9月2日~11日)」
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チェスへの熱い想いと幾何学的な構成を感じさせるポスター。やはりキュビスム的なものも好きだったんでしょうね。

マルセル・デュシャン 「ザ・リトル・レビュー 第11巻1号」「ロトレリーフ(光学円盤)」
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こちらの作品の半球の周りにはローズ・セラヴィの名前も使われたフレーズが刻まれているようです。これは作品だけ見ても何だか分かりませんが、映像で使い方?を観ることができます。

ぐるぐる回転させると、中心に吸い込まれそうな感じに観えます。
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光学的な視覚効果を生む作品まで造るとは驚きです。こういう路線で行けば好きになれたんだけどw

マルセル・デュシャン 「マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの中の箱)」
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自分の作品のミニチュアをトランクにまとめたもの。ここまで見てきた作品も中に詰まっています。これはコレクター的な好奇心が刺激されるかもw

こちらは作品名を忘れましたが、チェスをポケットにしまえる品。
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モバイルガジェットみたいで、これは凄い発想。普通に売れそうな感じですw


[第4章 《遺作》 欲望の女]
1部のラストはフィラデルフィア美術館にある「遺作」という秘密裏に作っていた最後の作品に関するコーナーです。

マルセル・デュシャン 「排水栓」
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家の浴槽の栓が無くなったので石膏で型を取って鉛で鋳造した品。レディメイドのようなオリジナルなような…w

この辺にはデュシャンを撮った写真も沢山並んでいました。
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再作成なんかもしていたようですが、晩年は実質的に引退しているとばかり考えられていたようです。

不明 「泉のレプリカの横に座るデュシャン」
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泉の公式レプリカと共にポーズを取るデュシャン。色々と既成概念をぶっ壊した作品だけに、この先もずっと残っていく便器でしょうねw


この近くには「遺作」の映像もありました。穴を覗いて観るという作品で、裸の少女が倒れているような感じの場面が観えるようです。フィラデルフィア美術館に行かないとこれは観られません…w


<第2部 「デュシャンの向こうに日本がみえる。」>
続いての2部は、日本美術とデュシャンを比較するという大胆な試みのコーナーです。

[第1章 400年前のレディメイド]
レディメイドという言葉はなかったけど、日本にもありふれたものに美を見出す視線はあったんだぞというコーナー。

伝千利休 「竹一重切花入 銘 園城寺」
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小田原攻めの時に竹を切って作ったとされる品で、名前まで付いています。でも自分で作ってますよね?と思ってしまうけど、ほぼ素材のままなのは共通してるのかも。

[第2章 日本のリアリズム]
続いてはリアリズムの追求のコーナー

東洲斎写楽 「三代目大谷鬼治の江戸兵衛」
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写楽の有名作。誇張して描いていますが、観たままを描こうとするのは当時は斬新だったそうです。写楽も時代の先駆者ですね。

[第3章 日本の時間の進み方]
こちらは1つの絵巻で複数の時間や物語を示す「異時同図」を紹介するコーナー

「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」
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これがどうデュシャンとつながるのかよく分かりませんでしたが、確かに「異時同図」は日本独特でアニメーションの元祖みたいなものなのかも


[第4章 オリジナルとコピー]
こちらはオリジナルとコピーについてのコーナー。日本でも盛んに模倣は行われてきました(でも、ちゃんと描いてますよね?と思ってしまうw)

左:伝雪舟等楊 「梅下寿老図」  右:橋本雅邦 「寿老」
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雪舟をよく学んでいた様子が伺える作品。少なくともデュシャンと違ってオリジナルへのリスペクトが感じられますw 髭を描いたりディスったりとは違うように思えるんですが…。

[第5章 書という「芸術」]
最後は書に関するコーナー。デュシャンの作品は書ではないと思いますがw

俵屋宗達・伝 本阿弥光悦 「桜山吹図屏風」
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何気なく凄い名品が並んでいて驚きます。こちらは俵屋宗達と本阿弥光悦(と伝わる)のコラボ屏風。優美な雰囲気が漂っています。

こちらは書の部分のアップ
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料紙も含めて雅で流麗な印象を受けます。これぞ書の芸術ですね。

このコーナーには本阿弥光悦の舟橋蒔絵硯箱もありました。デュシャン関係無しにしても名品なので見応えあります。


ということで、今回の趣旨は理解出来たような出来ないような…w デュシャンがいかに現代アートに大きな影響を与えているかはよく分かったようには思えます。ちょっと難解なところもあるので万人向けという訳ではないですが、現代アートの起源を知りたい方は是非どうぞ。
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