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フィリップス・コレクション (感想後編)【三菱一号館美術館】

前回に引き続き三菱一号館美術館の「フィリップス・コレクション」についてです。前編は上階の4章までご紹介しましたが、今日は残りの5~7章についてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

20181028 150457 20181028 150339

【展覧名】
 フィリップス・コレクション

【公式サイト】
 https://mimt.jp/pc/

【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅など

【会期】2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
上階に比べると下階の方が空いてたような気がします。閉館が近かったからかな。

今回も各章ごとに気に入った作品を挙げて行こうと思います。


<休憩室>
休憩室には撮影可能な複製がありましたので、簡単にご紹介。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「海からあがる馬」
20181028 161135
確かこれは上階に展示されていました。モロッコに行った際のスケッチと馬を組み合わせて描いているのだとか。躍動感ある姿勢がドラクロワならではのドラマチックな感じです。

カミーユ・コロー 「ジェンツァーノの眺め」
20181028 161141
コローはイタリアに行った際に制作した作品や、イタリアでの想い出をよく絵にしています。夏の強い日差しを感じる風景で、手前のヤギが長閑な雰囲気ですね。

ピエール・ボナール 「開かれた窓」
20181028 161155
こちらはボナールの室内画。マティスにも通じる装飾的な部屋という題材が面白い。右下に描かれてるのは寝てる人でしょうか。黒猫らしき姿もあります。

この後に出てくる作品もいくつかあったので、それは各章で使っていこうと思います。


<5章 第二次世界大戦後>
5章は第二次世界大戦後に集められた作品のコーナーです。1950年代にニコラ・ド・スタールを初めて入手し、今では北米で最も優れたニコラ・ド・スタールのコレクションで知られるようです。ここにもそのコレクションが展示されていました。

3 ドミニク・アングル 「水浴の女(小)」 ★こちらで観られます
こちらは浴場のような所で腰掛ける裸婦の後ろ姿を描いた作品です。滑らかな筆致で艶めかしい肌が描かれていると同時に体の輪郭線の流れも美しく、この展示の中のマイベスト3のうちの1つと言えるくらい気に入りました。そもそもアングルを日本で観られる機会は少ないので、これだけでも観に行った甲斐があったくらいです。解説によると、この裸体は解剖学的な正確さよりも線の美しさを追求したプロポーションとなっているそうで、引き伸ばされた姿となっているようです。非常に美しい作品です。

この近くにはモディリアーニやゴッホ、ド・スタール、ヘンリー・ムーアの彫像なんかもありました。後半も古今の巨匠が勢揃いですが、時代はめちゃくちゃに並んでいるので画風も様々ですw

57 ジョルジュ・ルオー 「ヴェルレーヌ」 ★こちらで観られます
こちらはルオーが心酔した詩人を描いた肖像画です。横向きで座るスーツ姿で描かれていて、背景には聖母子像らしきものが見えます。色彩が落ち着いているので、静かな精神性を感じるかな。全体的にルオー独特のかなりの厚塗りで、黒く太い輪郭が重厚な画面となっていました。ざらざらした画面など、ルオーは間近で観ないと分からない魅力が詰まった画家と言えると思います。
 参考記事:ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ (パナソニック 汐留ミュージアム)

近くに先程のブラックの作品やクレーなどもありました。いずれもフィリップスコレクションでは特に充実した画家のようです。

22 ポール・ゴーガン 「ハム」 ★こちらで観られます
テーブルの上に大きなハムの塊が置かれ、その隣には小さな玉ねぎが転がっていて 近くにはグラスも描かれています。背景はオレンジ色で全体的に平坦な印象を受ける色彩となっています。結構くっきりした画面で、セザンヌに通じる画風にも思えるかな。装飾的な雰囲気もあり面白い静物でした。
 参考記事:
  ゴーギャン展2009 (東京国立近代美術館)
  映画「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」(ややネタバレあり)

この近くにはシャイム・スーティンやアドルフ・モンティセリなどの個性派もありました。モンティセリはゴッホに影響を与えている様子が分かると思います。グニャグニャした絵肌に注目ですw

68 ニコラ・ド・スタール 「北」 ★こちらで観られます
こちらはかなり厚塗りされた画面に四角や台形のようなものが描かれた抽象画です。ざらついたマチエールが面白くてむしろ左官屋さんの仕事みたいなw ちょっと意味は分かりませんが、爽やかで落ち着いた色彩と流れを感じる筆跡が静と動の両面を感じさせました。なお、この作品がアメリカで初めて美術館に入ったド・スタールの絵なのだとか。
 参考記事:アンフォルメルとは何か?-20世紀フランス絵画の挑戦 (ブリヂストン美術館)

この近くにはブラックの珍しい風景画「驟雨」(★こちらで観られます)や、ユトリロの最も評価の高い白の時代の作品などもありました。

70 ジョルジョ・モランディ 「静物」 ★こちらで観られます
こちらは白っぽい背景に中央に寄せられた壺や容器などが描かれた静物画です。のっぺりしていて平面的ですが、すっきりとした調和と瞑想的とも言える静けさが漂っています。モランディの魅力は何と言っても構成力じゃないかな。ブログ休止中に東京ステーションギャラリーで観たモランディ展が非常に良い展示だったのを思い出しました…。モランディらしさを感じる美品です。


<6章 ドライヤー・コレクションの受け入れと晩年の蒐集>
続いては晩年に集めた品と、ドライヤー・コレクションが加わったコーナーです。1914年にキャサリン・ドライヤーと面識を持ったそうで、キャサリン・ドライヤーはデュシャンやマン・レイと共に新しい表現を発信する前衛芸術家を支援した著名な蒐集家だったようです。その死後、デュシャンが遺産管理人となってコレクションがフィリップス・コレクションに寄贈されたようですが、そのまま受け入れる訳ではなく、審査して17点を受け入れたのだとか。全部貰わないところに質を保とうとする姿勢を感じますね。貧乏性の私ならきっと全部貰いますw
 参考記事:
  マルセル・デュシャンと日本美術 (東京国立博物館 平成館)
  マン・レイ展 知られざる創作の秘密 (国立新美術館)

54 ハインリヒ・カンペンドンク 「村の大通り」 ★こちらで観られます
こちらは先程の休憩室で撮った複製品です。
20181028 161223
こちらは青騎士のメンバーによる作品で、まるでタピストリーのような平面的かつ装飾的な雰囲気で、特に豊かな色彩が目を引きます。解説によると、この色彩は表現主義的で長閑な田舎への郷愁が感じられるとのことです。独特の素朴さも相まって親しみを持てる作品でした。
 参考記事:カンディンスキーと青騎士展 (三菱一号館美術館)

53 フランツ・マルク「森の中の鹿  Ⅰ」 ★こちらで観られます
こちらも青騎士のメンバーの作品です。先程のハインリヒ・カンペンドンクはこのフランツ・マルクから影響を受けていて、これを観るとよく分かると思います。
20181028 161212
幻想的かつ温かみを感じる画面で、こちらの作品も好みでした。

青騎士は他にもカンディンスキーがいくつか良いのがありました(上階だったかな)


<7章 ダンカン・フィリップスの遺志>
最後はダンカン・フィリップスの死後のコレクションのコーナーです。作品は大型化し増え続けるコレクションに対応するために1960年に新館を完成させたそうで、蒐集だけでなくモダンアートの普及にも努めているようです。ダンカン・フィリップスの死後もコレクションが増強されているようで、ここにはそうした作品が並んでいました。

ジョルジュ・ブラック 「鳥」 ★こちらで観られます
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こちらはブラック晩年の作風で、デフォルメが進んで一種の記号のような形態となっています。平面的な色面で構成されていて、装飾性も豊かです。線の柔らかみも優美な印象でした。
 参考記事:ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス (パナソニック 汐留ミュージアム)

この近くにはジャコメッティの作品もありました。(★こちらで観られます

63 パブロ・ピカソ 「横たわる人」
こちらはキュビスム的な静物とも人物とも分からない作品です。愛人だったマリー=テレーズ・ウォルターをモデルにしているとのことですが、何となく人の形をしているのは分かるけど、足とか胸は植物や果実のようにも見えます。色彩がド派手で、黒い輪郭と相まって強烈な印象を受けました。
この隣には新古典様式のドラ・マールを描いた作品もありました。ピカソの画風の違いをダイジェストで観られる感じ。

32 エドガー・ドガ 「リハーサル室での踊りの稽古」 ★こちらで観られます
広い部屋の中で稽古を受けるたくさんの踊り子たちを描いた作品です。振り付けのお絵本を見せるような人物や 休んでいる人もいて、現場を見学しに来たような光景です。外から差し込む光が柔らかく表現されているのも面白い効果となっていました。題材がとてもドガらしく素晴らしいコレクションです。
 参考記事:
  ドガ展 (横浜美術館)
  ドガ展 2回目(横浜美術館)


ということで、後半も見どころが多かったと思います。本当に巨匠だらけで後半は特にアングルが観られてよかったです。方向性はバラバラですが、よく絵の面白さを知っている人が集めたのだろうなというのが伝わってくる内容でした。今期はムンク展やフェルメール展など伝説級の展示が開催されていますが、西洋画好きはこの展示も必見だと思います。こちらも負けず劣らず神ってますw
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