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生誕110年 東山魁夷展 (感想前編)【国立新美術館】

2週間ほど前の土曜日に六本木の国立新美術館で「生誕110年 東山魁夷展」を観てきました。見どころの多い展示でしたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。なお、この展示は前期・後期に分かれていて、私が観たのは前期の内容でした。

DSC06330.jpg

【展覧名】
 生誕110年 東山魁夷展

【公式サイト】
 http://kaii2018.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/kaii2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】六本木駅・乃木坂駅

【会期】2018年10月24日(水)~12月3日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
予想以上に混んでいて場所によっては人だかりが出来るような感じで、やや混雑感がありました。

さて、この展示は戦後の国民的画家として知られる東山魁夷の大規模な回顧展で、大型作品を含め本画68点、習作・スケッチ45点という充実した内容となっています。特に後半にはアッと驚くような部屋があり、今回の見どころは5章と言えそうです。今回も簡単にメモを取ってきましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:没後10年記念 東山魁夷と昭和の日本画 (山種美術館)


<冒頭>
まず最初に東山魁夷のざっくりした経歴がありました。東山魁夷は1908年に横浜で生まれ、東京美術学校で日本画を学びました。2年間のドイツ留学の後に戦争へ招集され、その頃には肉親も亡くすなど苦難の時期だったようです。戦後になると日展を舞台に活躍し、1956年には日本芸術院賞を受賞、1969年には文化勲章受賞など、まさに国民的画家と言える地位を築いていきました。冒頭には3点ほど1941年の作品が並び、苦しい時期ながら美しい風景を題材としていた様子が伺えます。

東山魁夷 「自然と形象 雪の谷間」「自然と形象 秋の山」「自然と形象 早春の麦畑」
こちらは29歳の頃の3点セットの作品で、それぞれ雪の合間の川、赤や黄色に染まる紅葉の山、上空から観たような構図の早春の畑が描かれています。単純化された画風で、曲線が滑らかかつリズムを感じさせて面白い造形となっています。色は控えめで淡い印象を受けるかな。冷たい川でも柔らかく感じるほどです。まだ晩年の画風とは異なりますが、これはこれで素晴らしい作品だと思います。


<1章 国民的風景画家>
1章は東山魁夷と言えばこの画風と言った感じの作品が並ぶコーナーです。戦前から官展に出品していた東山魁夷ですが、ようやく特選を受けたのは戦後の1947年だったようです。終戦前後に父・母・弟を亡くし、さらに空襲で自宅も無くすなど この頃はどん底にいたようです。しかし死を覚悟した時に平凡な風景が生命に満ち溢れて輝き 何よりも美しく感じたそうで、それ以降 素直な眼と心で自然を見つめ、自分の心を重ねた風景画を描くようになったそうです。ここにはそうした東山魁夷の得意とした風景画が多く並んでいました。

4 東山魁夷 「残照」 ★こちらで観られます
こちらは人生のどん底の時期に写生のために訪れた千葉県鹿野山の山頂からの風景を描いた作品です。遠くの山が赤く染まる開けた視界で、広々とした雰囲気となっていて、割と単純化された平坦な印象を受けます。東山魁夷はこの山頂からの光景を見つめていた時、自然が作り出す光景と自分の心の動きが重なる充実感を味わったそうで、この頃から風景画家となる決意をしたようです。まだ画風や色彩はそれほど印象的ではないですが、東山魁夷のターニングポイントとなった風景なのかもしれません。

この辺には大型作品が立て続けに並んでいました。「郷愁」という作品あたりから、独特の緑色が使われていました。

8 東山魁夷 「道」 ★こちらで観られます
※この写真は以前に東京国立近代美術館の常設展で撮影可能な時に撮ったものです。(今回の展示では撮影不可です)
P1200054.jpg
こちらの作品は今回のポスターにもなっているもので、青森のスケッチを元に心象風景として描いたもののようです。1950年という終戦5年後に描かれ、当時の日本の状況を考えると、これからどう生きていくのかを表すような象徴としての道、これから歩む道と言えそうです。ざらついたマチエールでややぼんやりとしてしんみりした雰囲気が漂っていますが、潔くまっすぐ伸びているのが気持ちの良い作品です(よーく観ると、途中で右に曲がって行くんですけどねw)

この近くにあった「たにま」は冒頭の「自然と形象 雪の谷間」に似た雰囲気がありましたが、単純化が進んでいるように思えました。

16 東山魁夷 「青響」
※この写真は以前に東京国立近代美術館の常設展で撮影可能な時に撮ったものです。(今回の展示では撮影不可です)
P1200032.jpg
こちらも非常に単純化された光景で、緑が印象的な作品です。この落ち着いて心に染み入るような色彩が東山魁夷の特徴だと思います。静けさの中に滝の音だけが聞こえてくるような情感漂う作品となっていました。

この近くにあった「雪降る」という作品も雪の表現が大胆かつ静かで面白い作品でした。他にも東近美の「秋翳」(★こちらで観られます)などもありました。


<2章 北欧を描く>
続いての2章は北欧を題材とした作品のコーナーです。前章で観た「残照」や「道」を発表以降、日本芸術院賞を受賞し皇室の依頼を受けるなど一躍人気画家となった東山魁夷ですが、1962年にドイツ時代からの憧れでもあった北欧へと旅立ちました。北欧での風景は東山魁夷の想像通りの光景だったようで、帰国後に連作を発表すると高い評価を得て、青が多用されたことから「青の画家」のイメージも生まれたようです。ここにはそうした北欧に取材した作品が並んでいました。

20 東山魁夷 「映象」 ★こちらで観られます
こちらは絵の中央付近に湖の水面が広がり、上下が鏡写しのようになった森の光景を描いた作品です。木々は白く枯れているような感じで、真っ暗な背景に浮かび上がるようで、神秘的な光景となっています。波1つ立たず、動物もいない静寂の世界でどこか内省的な心象風景のような雰囲気すらありました。

26 東山魁夷 「冬華」 ★こちらで観られます
こちらは雪が付いて真っ白になったサンゴのような形の木を描いた作品です。真昼の光景のはずですが、木の上に浮かんでいる太陽はむしろ月のように見えます。解説によると、これは実際には雪のない日に写生して帰国してから描いたらしいので、想像で描いている部分もあるようです。とにかく白が印象的で、微妙なムラがあって輝くような白さに見えるかな。色数は少ないのが却って叙情的な作品となっていました。

この辺には東近美の「白夜光」などもありました。


<3章 古都を描く・京都>
続いては京都をテーマにした作品が並ぶコーナーです。東山魁夷は北欧に旅立つ前から作家の川端康成から急速に失われつつあった京都を描くように勧められたようです。また、帰国後に皇室に依頼された新宮殿の大壁画制作は日本的なものを前面に押し出す必要性があったので、日本古来の文化が集まる京都は避けて通れず、京都をテーマとした作品に取り掛かったようです。大壁画の完成した年には「京洛四季」展で連作が発表され、北欧シリーズとは全く異なる大和絵的な表現となったようで、ここにはそうした時期の作品が並んでいました。

30 東山魁夷 「花明り」 ★こちらで観られます
こちらの作品は先程の「冬華」とよく似た構図で、木の上に浮かぶのが太陽から月に、木は桜に代わった感じです。月の周りには光輪も出来ていて、春の夜の穏やかな光景に思えます。こちらは京都の円山公園の枝垂れ桜だそうで、見事な枝ぶりで長年この地で培ってきた人々と木の関係も伺えるようでした。

この辺には山を描いた作品が何点かありました。稜線が平行に並ぶ構図がお気に入りだったのかも。紅葉した山などは対比的なのに静かに感じる色彩感覚が流石でした

36 東山魁夷 「京洛四季スケッチ」
こちらは京都の様々な光景を描いたスケッチで、いずれもトリミングしたような構図や、普通の人が思いつかないような独特の視点が面白い作品となっています。小品ながらも日本の美しさを凝縮したような絵ばかりで、水平・垂直・直線を使った建物なんかが特に好みです。30点ほどあるので、いくつか手持ちの写真でご紹介

※この写真は以前に成川美術館の展示で撮影可能な時に撮ったものです。(今回の展示では撮影不可です)
DSC09170.jpg
色も構図も好みで、この展示の中でも特にお気に入りはこの作品です。京都下京区の一力亭という場所のようです。

※この写真は以前に成川美術館の展示で撮影可能な時に撮ったものです。(今回の展示では撮影不可です)
DSC09190.jpg
こちらは桂離宮の書院。シンプルかつ機能的な日本の美の粋が表れていると思います。
 参考記事;戦後日本画の山脈 第一回 (成川美術館)箱根編

この他にも魅力的な作品ばかりなので、ここはスケッチでもかなり見応えがあると思います。

35 東山魁夷 「京洛四季習作」
こちらも習作のシリーズで14枚ほど展示されていました。タイトル通り季節を感じさせる作品が多く、特に山を描いた物が多いかな。群青や深い緑、オレンジに染まった山などが出てきます。ここで一番好きなのは「年暮る」で、山種美術館の作品と同じ構図の習作となっていました。本当に素晴らしい作品です。


ということで、前半から東山魁夷の代表作品をいくつも観ることができました。絵自体は単純な構図が多いのですが、色彩感覚がしんみりした雰囲気で分かりやすい美しさがあると思います。後半には今回の目玉となる作品もありましたので、次回はそれについてご紹介していこうと思います。

  → 後編はこちら

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