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生誕110年 東山魁夷展 (感想後編)【国立新美術館】

前回に引き続き国立新美術館の「生誕110年 東山魁夷展」についてです。前編は3章までご紹介しましたが、今日は残りの4~6章についてです。まずは概要のおさらいです。

 前編はこちら

20181103 160037

【展覧名】
 生誕110年 東山魁夷展

【公式サイト】
 http://kaii2018.exhn.jp/
 http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/kaii2018/

【会場】国立新美術館
【最寄】六本木駅・乃木坂駅

【会期】2018年10月24日(水)~12月3日(月)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前半に比べると後半の方がやや空いていたようにも思いますが、5章は見どころだけあって多くの人がいました。後編も引き続き各章ごとに気に入った作品のをご紹介していこうと思います。


<4章 古都を描く・ドイツ、オーストリア>
前回ご紹介した京都シリーズを公表した翌年に、東山魁夷はドイツ・オーストリアへと旅立ちました。ドイツは東京美術学校卒業後に2年間留学していたこともあって、懐かしい街だったようです。ドイツ・オーストリアでもやはり古都を描いたようですが、京都の連作と比べると建物を描いた作品が中心とのことで、このコーナーにはそうしたドイツ・オーストリアの建物の絵が並んでいました。

42 東山魁夷 「石の窓」
こちらは石造りの建物の壁と、赤いドアを描いた作品です。柱や階段、装飾窓のようなものが描かれていますが、石の質感のある画面となっていて平坦な印象を受けます。幾何学模様が抽象画のようでもあり、トリミングしたような構図は京都シリーズに通じるものがありました。

37 東山魁夷 「窓」 ★こちらで観られます
こちらも建物の窓や戸を描いた作品です。アーチ型や四角の窓、ベンチなどといった幾何学的な模様が横に連続する構図となっていて、リズムがあります。また、壁のシミや劣化までしっかり表現していて、歴史の重みまでも感じさせるかな。解説によるとこれはドイツのローテンブルクの街で、第二次世界大戦では壊滅的な被害を受けたようですが、復興したようです。この作品もトリミングしたような構図が楽しめて、建物好きの視点になっているように思えました。

41 東山魁夷 「晩鐘」
こちらは中央に細長い尖塔の教会が描かれ、背景には雲間から夕日が降り注ぐ町並みが描かれています。こちらはあまり単純化せずに緻密に描いている感じで、尖塔が存在感強めとなっています。神々しい光と共に静かで荘厳な光景となっていました。


<5章 唐招提寺御影堂障壁画>
続いては今回の目玉である唐招提寺御影堂の障壁画のコーナーです。1971年に奈良の唐招提寺から受けた開山の鑑真和上の像を安置する御影堂の障壁画制作の依頼を受託し、10年の歳月をかけて1期、2期、残り と段階的に奉納していったようです。この制作の為には日本中を取材して回った他、日中平和友好条約締結前に中国に3回訪問して取材してきたようです。一方、この頃には「白馬のいる風景」という森の中に白い馬を描くシリーズも描いていたようです。このコーナーでは最初に「白馬のいる風景」のシリーズがあり、その後に唐招提寺御影堂障壁画の実物再現のような空間構成となっていました。

46 東山魁夷 「白馬の森」
こちらは青の闇と白の木々が並ぶ暗い森の中に、ぽつんと1頭の青白い馬が立っている様子を描いた作品です。ぼんやり浮かんでくるような感じで、これが人間だったら幽霊みたいに思えるかもしれませんw しかしこの馬はすらりとした細身で、森の精のような気品も感じられます。解説によると、この頃 急に白い馬を描くようになったそうで、画家本人にとってもそれは突然の事だったようです。この年(1972年)に描いた18点全てに白い馬が描かれたということで、これまでの静かで誰もいない画面から 少し超現実的な雰囲気が加味されたように感じられました。

60 東山魁夷 「緑響く」 ★こちらで観られます
こちらは水面に写った緑の山と、その畔を歩く白い馬を描いた作品です。この反射で画面を二分する構図はこれまでもいくつかありましたが、白い馬がいると色彩にアクセントがついて、視線がそこに集まるように感じます。この景色は蓼科高原を描いたもののようですが、もちろん実際に白い馬がいたわけではなく、この馬は平安を願う祈りの象徴として描かれているようでした。白い馬がいるだけで神話的な雰囲気が漂います。

この辺には白い馬を描いた作品が並んでいました。近くの休憩室には映像があったのですが、人で溢れていたので諦めましたw そしていよいよ今回の見所である唐招提寺御影堂障壁画のコーナーです。

51 東山魁夷 「唐招提寺御影堂障壁画 濤声」 ★こちらで観られます
こちらは 「 の字のような配置で ずら~~~っと並ぶ襖絵で、青緑色の浜辺の様子が描かれ全てが繋がって大画面のパノラマのようになっています。押し寄せる波濤がやや荒れた感じに見え、落ち着いた色なのに鮮やかに感じられます。この展示方法は実際の唐招提寺御影堂の配置をそのまま再現しているようで、包み込まれるような臨場感がありました。この章までは割とよくある東山魁夷の展示だなと思っていましたが、この作品には本当に驚かされました。(と、思ってたら序の口だったわけですがw) まるで波の音が聞こえてきそうなくらい迫りくる作品です。

50 東山魁夷 「唐招提寺御影堂障壁画 山雲」 ★こちらで観られます
こちらは壁画・違棚・襖などに描かれた作品で、山間を漂うモヤや滝などが描かかれ緑と白が主体の画面となっています。仙境のような幽玄さとなっていて、神秘と自然の雄大さを感じさせ、ここまで観てきた東山魁夷の持ち味が活かされているように思います。特に巨大な壁画部分は高さ3~4mくらい、横も6mくらいある大画面で、目の前にこの光景が広がっているかのような錯覚すら感じます。書院の小襖などにまで描かれている徹底ぶりも含め、この展示でも特に驚きの作品でした。(この辺、驚いてばかりですw)

なお、この「山雲」と先ほどの「濤声」は鑑真和上が観たかったであろう日本の風景(鑑真は日本に来た時には失明していた)を第一期の仕事として1975年に描き上げたそうです。これだけでも4年かかっている訳ですが、そりゃ時間かかるわな…と、誰もが納得するであろうスケールです。

54 東山魁夷 「唐招提寺御影堂障壁画 黄山暁雲」 ★こちらで観られます
こちらは中国の縦長の山々が立ち並ぶ黄山の光景を描いた水墨の襖絵です。東山魁夷の水墨画という珍しい作品(純粋な水墨はこの障壁画の2期のみ)ですが、墨の濃淡だけでも東山魁夷と分かる特徴がよく出ているように思います。モヤが立ち込める光景なんかは日本の山と共通するモチーフかな。こちらも幻想的な光景となっていました。

56 東山魁夷 「唐招提寺御影堂障壁画 揚州薫風」 ★こちらで観られます
こちらもずらりと並ぶ水墨による襖絵で、水面に点々と小島のようなものがありそこに木々が立ち並ぶ様子が描かれています。タイトルの通り風が吹き渡るように葉や枝が右から左へと流れていて、墨のかすれ具合が良い味を出していました。解説によると、こちらは鑑真和上の出身地の光景のようで、鑑真和上への敬意といたわりも感じられる作品です。

58 東山魁夷 「唐招提寺御影堂障壁画 桂林月宵」 ★こちらで観られます
こちらも水墨画に見える作品ですが、焼き群青などを使った厚塗りの画面なので正確には水墨ではないようです。とは言えほぼモノトーンで縦長の楕円形のような山が並び、空に満月が浮かぶ光景を描いていて、静けさが漂っています。解説によると、この地は鑑真和上が第5回渡航に失敗した際に1年間滞在した所のようです。鑑真の話は歴史でも習いますが、本当に苦労して日本に来てくれたのを思い出しました。
なお、「黄山暁雲」「揚州薫風」「桂林月宵」は第二期の仕事として1980年に奉納したそうです。そしてもう1点、鑑真和上が初めて日本にたどり着いた地をテーマにした「瑞光」を御厨子内に描き1981年に奉納したそうです。構想から10年という偉業とも言える大プロジェクトなのがよく分かりました。


<6章 心を写す風景画>
最後は唐招提寺御影堂障壁画を描き終わって以降、晩年までのコーナーです。この頃、東山魁夷は前章の白馬のように描くことは祈りであり、心が籠められていれば上手い下手はどうでもいいことだと考えるようになったようです。70歳を越えてからは写生に出ることも難しくなってきたようですが、それまでに観てきた風景やスケッチを元に日本でも外国でもない心の中の風景を描くようになっていったようです。ここにはそうした心を写す風景画が並んでいました。

59 東山魁夷 「静唱」
こちらは背の高い木々が整列して並ぶ湖畔の光景を描いた作品です。画面の上下で鏡写しになる構図はここまでも観てきた通りですが、ここでは青さよりも白味が強く、一層に静かで時間が止まったかのようです。この作品には白い馬だけでなく動物は全くいなくなり、日本か外国かも分からないような感じとなっていました。まさにタイトル通りの雰囲気の作品です。

67 東山魁夷 「行く秋」 ★こちらで観られます
こちらは黄色く染まる落ち葉と、木の根の部分をクローズアップして描いた作品です。1枚1枚の葉っぱを輪郭を使って描いていて、金砂子が使われているようで、鮮やかな色合いとなっています。解説によると、東山魁夷がドイツに行った際にハンブルグの婦人が「ドイツの落ち葉は木の形に落ちる」というのを聴いて、落ち葉で木の形を表現できると考えてこうした構図にしたようです。放射状に広がるような葉っぱの配置がその意図を感じさせるように思いました。

70 東山魁夷 「夕星」
こちらは湖畔に立つ4本の木と、その背後の森や星を描いた作品です。これも画面の上下で鏡写しになっているお得意の構図ですが、現実ではなく夢の中の光景のようです。1つの星が明るくて目を引き、4本の木はまるで墓標のように見えると思ったら、家族を示すのではないかと考えられるようです。その為か、夜の光景でも希望や温かみを感じさせる作品のように思えました。なお、この作品は一度完成したようですが直し続けたそうで、再び完成することはなく絶筆となったとのことです。奇しくも東山魁夷の眠る墓所から見える風景にも似ているのだとか。


ということで、特に唐招提寺御影堂障壁画に驚かされる展示で、記憶に留めたかったので図録も買いました。本来ならもっとこの空間に没入して堪能したかったのですが、ちょっと混んでいてそうもいかなかったのが残念かな。(周りを見ずにアタックしてくるおばちゃんとかいたので…w) 会期が短めで混雑しているのが難点ですが、東山魁夷が好きな方は是非どうぞ。障壁画に囲まれる体験が圧倒的な展示です。

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